第10話 変わりゆく日常Ⅹ

 PM 15:43 / 地下シェルター行き通路



 三人は彰吾と別れてから、地下シェルターに向かって走っていた。

 地下シェルターに行くためには、発表会会場に行かねばならないが、緊急防護壁が下ろされた為、戻ることは出来ない。

 その為、遠回りで外に出てしまうが違うルートで地下シェルターに向かって走っている沙由莉達であった。

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 息を荒くしながら通路を走る沙由莉、その後ろに凛花、俊と続いて走っている。

 ふと、沙由莉は後ろを見る。彰吾と別れた緊急防護壁が遠くに見えていた。

 彰吾さん、必ず助けに行きますから……!! 待っていて下さい!! と思う沙由莉。

「沙由莉……! 出口よ!!」

 後ろにいる凛花が声を上げて沙由莉に伝える。三人はそのまま出口に向かって走った。

 出口を抜けて外に出ると、そこは今日の朝見た光景と全く別の物になっていた。

 ここが実は異世界でしたと言われたら信じてしまう物の光景で驚く三人。

 どこからか爆発音やら銃声が聞こえる。

「まるで戦場ね……」

「……行きましょう」

 思わず呟いてしまった凛花、それを聞いて辺りの光景を軽く見てから、真のいる地下シェルターに向かう。

 地下シェルターに向かう三人。しかし、近くにいたゴーストの戦闘員は三人を見つけて銃を構える。

 辺を見ていた俊それに気づき、俊は止まって戦闘員に向かって拳を放つ。

 拳を放った瞬間に俊は自身の能力の衝撃波バーストを使い、戦闘員に衝撃波を飛ばした。

 衝撃波は物陰に上半身だけ出して、銃を構えていた戦闘員の体を貫く。

 対ショック素材で出来ていない物なら貫通する事が出来る衝撃波バースト

 戦闘員の身体を衝撃波が貫いたが、貫かれた瞬間に戦闘員はその衝撃で引き金を引き、発砲された。

 銃弾が沙由莉目掛けて飛ぶ。沙由莉は銃声が聴こえてその方向に振り返っている。

 だが、逆三角形の何かが沙由莉の近くまで飛んで行き、三角をつくるように逆三角形が角に着く。

 すると、逆三角形が広がってその真ん中にオレンジ色の不透明な何かが展開された。

 不透明なオレンジ色の何かに当たった銃弾は一瞬で消えた。

 不透明なオレンジ色を見た沙由莉はフッと鼻で笑い、後ろにいる凛花を見る。

「ありがとう、凛花」

 何が起きたのか分からない俊は後ろにいる凛花を見る。

「いえいえ、宮下さんが敵を早くに察知してくれたおかげですから」

 言いながら、片手を沙由莉に向けながら言う凛花。

 逆三角形、つまり電磁障壁エレクトリック・バリアを扱っていたのは凛花であった。

 電磁障壁エレクトリック・バリアを凛花の周りに浮遊させて凛花は俊を見る。

「それにしても、宮下さんはランクCと聞いていたのですが……。あれはランクB以上はあると思うのですが」

「あ、一応俺はランクBに上がりました。最近ですけどね、だからどこまでしっかりと出来るのか把握してないのですよ」

 なるほど、と言いながら凛花と沙由莉はおのおの々の専用武器を取り出して、廃車となっている車の影と物陰に隠れている戦闘員に攻撃する。

 凛花は電磁障壁エレクトリック・バリアを展開させてレールガンを構える。

 沙由莉は物陰に隠れた戦闘員をロックして追尾爆弾チェイサー・ボムを手袋に付いている白線に擦らせた。

 隠れた戦闘員は見つかった事に気付き、相手よりも早く攻撃するために銃を構えて発砲する。

 凛花は飛んでくる銃弾を電磁障壁エレクトリック・バリアで防ぐ。

 沙由莉は自身の能力を使い、自分の領域テリトリー内に入った物全て爆破させるという能力を使って飛んでくる銃弾を全て爆破させた。

 そして凛花は引き金を引き、レールガンを撃つ。沙由莉は追尾爆弾チェイサー・ボムを投げる。

 レールガンの弾は廃車の車を貫通して戦闘員を撃ち抜き、追尾爆弾チェイサー・ボムは物陰に隠れた戦闘員に向かって飛んで行き爆発した。

 敵の排除を確認した二人。それを見て驚く俊であった。

 倒し終わると、少し不機嫌そうな顔をしながら沙由莉を見る凛花。

「沙由莉、その爆破領域を使うなら最初から使えば良かったじゃん」

 頬をプクーと膨らませながら言う凛花にため息を付く沙由莉。

「これは、発動したらその領域テリトリー内にある物体は爆破してしまうのですよ? そんなホイホイ使っていいものでは無いのです。私一人で囲まれた時には使いますけどね」

 正直俊は本当にSランクは強いのか?と思っていたが、ここでやはり強いと思った。

 沙由莉の様に領域を作り、その中に入ったら爆破など、何も無い空間に爆炎など爆風を起こす事の出来るなど射程はあるがそれが出来るのはSランクだからこそだ。

 Bランクの俊は衝撃波を飛ばす事と衝撃波を作る事しかできない。

 例えそれがSランクになったとしても領域まではいかないと思っている。

 領域を発生させる場合はその面積の大きさ、能力をどれほどの威力で使うのか、その空間の把握、イメージ力が無ければ領域を完成させることは出来ない。

 それをごく普通にやる沙由莉が凄いと思った俊。当然、凛花の事も凄いと思っている俊だ。

「……」

 この光景を見た俊は少し不安になる。

「どうしたんですか? 宮下さん」

 どこか不安そうにしている俊に気づいた沙由莉は俊に声を掛けた。

「いや……なんでも無いです」

 すぐに元の表情に戻り、沙由莉に迷惑をかけないようにする俊。

「ならいいのですが……後、もう少しで着きます。行きましょう」

 そういうと真のいる地下シェルターに走って向かう三人。

 走っている最中に考える俊。

『大丈夫だよな、彰吾……! お前なら何とかするだろ? Sランクが太刀打ち出来ない相手でもどうにか頭を使って切り抜けるだろ?』

 不安と信頼を胸に秘めながら彰吾の事を心配する俊であった。

「後もう少しで地下シェルターに着きます!」

 前にいる沙由莉が後ろにいる俊と凛花に言う。すると、三人の目の前に何者かが、現れる。

「動くな! 手をあげ――って、東堂さんに久能さんではないですか! 避難したのでは!?」

 表れたのは涼子の部下、向井むかい辰御たつみであった、辰御は沙由莉と凛花がここにいることに驚いている。

「東堂さん、久能さんここは危険です。地下シェルターに避難しましょう」

「私達は大丈夫です。でも、地下シェルターには用事がありますので行きます」

「分かりました。では、そこの少年は地下シェルターに避難して下さい」

 辰御は俊を見ながら言う。しかし、俊は、

「ごめんなさい、避難は出来ません」

「君は今の状況を理解しているのかい? 死ぬかもしれないんだよ? 今は自分自身を優先して守ら――」

「――それじゃ彰吾が死ぬんだ!! 俺達がこうしている間にも彰吾は戦っている!! 勝てるかどうかも分からない相手と戦っているんだ……!!」

 突然俊が声を上げて言い出す、それを聞いた沙由莉と凛花は目を合せ首を縦に振る。

「実は今、私達の友人が敵に追われていて、私達二人がかりでも倒せない奴がその方を追っているのです」

「事情は分かった。なら、地下シェルターまで私も護衛しよう、君名前は?」

 辰御が俊に聞く、突然聞かれた俊は一瞬きょとんとしたが直ぐに理解した。

「宮下俊です」

「では、宮下君行こう。そして、自分も大事にするんだ、友達も大切なのは分かる。だが、自分も守れなかったら友人は救えないよ?」

「はいッ!!」

 そして、地下シェルターに向かって走る四人。

 しかし、向かう最中に戦闘員ぶ見つかり戦闘になる。四人は直ぐに車のかげに隠れるなど、壁の後ろに隠れて銃弾から身を守る。

 車のかげに隠れた凛花と俊、壁の後ろに隠れる沙由莉と辰御。

「銃弾は私が何とかします!」

 凛花が声を上げて三人に知らせる。それを聞いた三人、辰御は凛花に俺が先攻すると言うハンドサインを送り、そのハンドサインに気づいた凛花は首を縦に振り頷く。

 銃弾が車に当たり火花が飛ぶ、沙由莉達のいる壁は銃弾が当たった場所がへこんでいる。

 タイミングを見計らい、辰御が壁から出て敵に突っ込む。およそ、その距離30m。

 戦闘員は単身特攻を仕掛けている辰御に銃口を向けて発砲する。

 銃弾が発射され辰御に届く瞬間、銃弾は辰御に届く事は無かった。

 凛花の電磁障壁エレクトリック・バリアが辰御に展開されていて、銃弾から辰御を守ったからだ。

 そのまま戦闘員に近づきながら手を戦闘員の一人に向ける。

 指を弾き、指パッチンをした。向けられていた戦闘員の一人がヘッドショットをされた様に顔を上に上げて倒れる。

 戦闘員は全員で4人。だが、今倒れた戦闘員を除くと残り三人。

 戦闘員の一人が銃弾が効かないと判断して、一人だけ手榴弾を投げようと胸に付いている手榴弾取ってピンを外して投げようとした。

 だが、投げることが出来ずにそのまま手榴弾を地面に落とす。何故なら、戦闘員の頭に穴が空いているから。

 味方の手榴弾を回避するためにその場を離れる戦闘員。身を出してその場から去る戦闘員を逃さないため、辰御は逃げた三人に指パッチンを行う。

 一人は背中から一人は後ろの首に当たったが、最後の一人だけ射程外に逃げられ当たる事はなかった。

「クソ!! 逃げられる!!」

 しかし、後ろから戦闘員の心臓の当たりを何かが貫通させた。

 その何かを確認するために後ろから飛んできた何かを見る辰御。

 そこには凛花がレールガンを片手に構えていた。

 着弾を確認した凛花は片手に持っているレールガンをそっと下ろす。

 人を殺したのにも関わらず、凛花の目はとても冷たくそこに光は無かった。

 いつもと違う凛花に俊は黙って凛花を凝視してしまっていた。

「行きましょう、向井さん、宮下さん」

 口を開き、いつもの凛花に戻る。それに我に帰る辰御と俊。

 そして四人は地下シェルターに向かう。向かう最中に辰御は涼子に連絡を取る。

「隊長、Sランクの東堂沙由莉ならびに、久能凛花と発見しました。今は地下シェルターに向かっています」

『了解、今私たちも今向かっているので、現地で合流しましょう』

「了解」

 涼子との通信を終え、トランシバーを腰に戻しながら地下シェルターに向かう四人。

 走り続けて数分すると、地下シェルターが見えてきた。

 四人は地下シェルターに向かって走り、地下シェルター入口にはいろうとする。

「動くな!!」

 突然入口近くのある柱の陰から二、三人の銃を持った警官が表れた。

「待て! 味方だ!」

 そう言いながら辰御は味方の証拠のガーディアン証明書を見せる。

 それを見た警官は銃を下ろし、警戒を緩める。

「何しにここにきた?」

「俺達は地下シェルターに会いたい人物がいる。その人に合わせてくれ」

「誰だ、そいつは」

一宮いちみやまことだ」

「分かった。入れ」

 警官に言われ、四人は地下シェルターに入る。階段を下っている最中、俊は気になった事があった。

「あの、向井さん」

「何ですか?」

「向井さんの能力は衝撃波バーストですか?」

 俊が気になっていたのは辰御の能力の事であった。

「いや、俺のは衝撃では無いよ。俺のは音波砲サウンド・ブラストっていう能力」

音波砲サウンド・ブラストって事は、音で攻撃すると言うことですね?」

 向井の能力を聞いた沙由莉は確認する。それを聞いた辰御は驚く。

「学者ならともかく、良く分かりましたね。私の様に似ている能力はたくさんあるのに、凄いですね」

「ある程度までは自分で把握しているだけですよ」

「いや、それでもこの世界に能力は何十万とありますからね。少しでも見ただけで分かれば対したものですよ」

「ありがとうございます」

「さて、と。そろそろ地下シェルターに着きます」

 辰御が階段を下りながら言う、それを聞いた三人は無言で頷く。

 長い階段を下り、やっと地下シェルターに着く。下り終えると、平地で目の前に自動ドアがあった。

 辰御は自動ドアの近くにあるパネルを触る。

 パネルに触れると、サウンドオンリーと英語で書かれた文字がパネルに表示される。

「向井辰御だ、一宮真に用事がある」

 パネルに向かって話を掛けるが、返事が無い。すると、

「どうしましたか? 向井さん」

 突然横から声を掛けられ、四人は戦闘体勢を取るが、すぐに警戒を解く。

「一宮君、君は地下シェルターにいると聞いたからこうやって、外から呼ぼうとしたんだけどな」

 横から話を掛けてきたのは真であった為、辰御は真に近づき話した。

「そういうことでしたか、すみません。こうやって私は外で扉を守っている方が良いと思いまして」

「なるほど、確かにそれでも良いですね。しかし、中は?」

「中にはガーディアンの隊長さんが守ってくれるそうなので、任せました」

「隊長が中に入れば一安心出来ますね」

「はい。で、何の要件でしょうか? 向井さんはともかく、三人を見ると何やら、ただならぬ気配が感じますが……」

 真が三人を見ながら言うと、沙由莉が前に出る。

「一宮君の力を貸して欲しいの! お願い!」

「良いですが、一つ聞いても良いですか?」

「何ですか……?」

「もう一人、男の人がいたはずなのと、お二人は専用武器を持っている様ですが……それでもですか?」

「はい、実は私達二人で掛かっても倒せない相手と遭遇してしまい。そこで天月さん、もう一人の男の人がそいつに捕まって分断されてしまったのです。でも、一宮君の能力ならアイツと戦えるはずなの! だから、お願いします! 力を貸してください!!」

「私からもお願い一宮君!!」

「頼む! 力を貸してくれ!!」

 三人は一宮に頭を下げてお願いをする。頭を下げた三人に、一宮は少し驚く。

「あ、頭を上げて下さい三人共! いや、むしろ協力させて下さい。人命が掛かってるなら、なお力をお貸ししましょう」

「ありがとうございます!」

「さて、向井さん」

「分かってますよ、ここを守っておきます。行ってきて下さい」

「ありがとうございます。決して無茶はしないように、です」

「了解」

 辰御が真に敬礼をして、真はニコッと笑ってから三人の方に振り返る。

「さて、行きましょう!」

 四人は急いで彰吾の元へ向かった。




PM  16:25 / 展示発表物保管室




 彰吾とルドガーの拳と拳がぶつかる。ぶつかった瞬間、物凄い音が辺りを響かせた。

 つばぜり合いの様に拳をぶつけたまま、どちらも引かない。

 だが、彰吾が腕を引いてルドガーの拳から離れる。

 離れるとルドガーはそのまま前に移動するが、前に移動している最中に回転して回し蹴りを彰吾にする。

 それを見ていた彰吾は回し蹴りを片手で受け止めて、そのままルドガーのわき腹の辺りに拳を入れようとした。

 ルドガーは肘を勢いよく下して彰吾の腕を叩き落とし、軌道をずらして攻撃を外させる。

 腕を叩き落とされ、態勢を崩して前に移動している彰吾は前宙をしてからその勢いを使ってルドガーの頭にかかと落としを与えた。

 踵落としを与えたはずなのにも関わらず、ルドガーは彰吾の胴に一撃拳を放った。

 彰吾は空中で攻撃を受けた為、防御がうまくいかず一撃貰い、攻撃を受けた時の勢いを使って空中で態勢を立て直し綺麗に着地した。

 ルドガーは彰吾に踵落としを受けたため、数歩彰吾を攻撃した後に下がった。

「やるな……」

『手練れてますね』

 彰吾が呟くと、アリスは彰吾の脳に直接話を掛けてきた。

 しかし話す余裕もなく、ルドガーは彰吾に突っ込んだ。彰吾は迎撃態勢を取ってルドガーを迎え撃つ。

 鋭い一撃が彰吾を襲う、一撃貰えばアーマーを着ていようがそんなの関係無しの威力をルドガーは放っている。

 それを彰吾はうまくさばき、攻撃を受け流している。

 ルドガーが少し腕を後ろに下げて威力を上げた攻撃をしようとした。

 だが、彰吾はそれを見過ごさずに腕を引いた瞬間に片腕に引っ付き、そのまま捻って相手の態勢を強制的に崩してから自身の体重と勢いでルドガーを倒す。

 そのまま腕十字固めをして腕の関節を外した。

 すぐにその場を離れてルドガーから距離を取り、様子を伺う。

 しかしルドガーは何事も無かったかの様に立ち上がり、彰吾の方を向く。

「いや、面白い技を決めるな。後」

 完全に関節を外した筈なのに、腕を動かした。

「――な!?」

「残念だが、俺には効かない……」

 そしてルドガーは彰吾に突っ込む。彰吾も突っ込み、ルドガーに近づく。

 ルドガーが先制で右ストレートを放つ、彰吾はそれをさばいて空いた胴に一撃入れようとする。

 しかし、ルドガーは後ろに飛んで彰吾の攻撃から逃れる。

 攻撃が外れたがすぐに彰吾は強く踏み込んで、ルドガーに一気に近づく。

「良い脚力だ。だが……」

 彰吾が左拳を振り上げて放った瞬間、彰吾の腹部に突然痛みが走った。

「――グッ!」

 何が起きたのか、確認するとルドガーの膝が彰吾の腹部を捉えていた。

 だが、彰吾は攻撃を受けながらも左拳をルドガーの顔に当てる。

 当てるとお互いに後ろに吹っ飛ぶ。彰吾は壁に強く当たり、少し動けないでいた。

「グッ……! く、くそ……」

『彰吾さん、残り時間1分半です』

「アイツが何で腕動かせるんだ……」

 関節を外した筈何のに動かすルドガーに彰吾は分からなかった。

 なぜ、動かせるのか。

「クソ……それにアイツの装甲かなり固いな……」

『その分、重量も凄いですよ』

「だよな……待てよ……?」

 もしだ、もし〝アレ〟が奴の能力で使える奴なら、可能ではないか?と思う彰吾。

『多分、正解だと思います。彰吾さん』

「……アリス。奴の関節部を見てくれないか?」

『分かりましたっていうよりも、出来てますよ』

「さすが」

『彰吾さんが思った瞬間にやっておきましたので、彰吾さんが凄いんですよ』

「どうも、でもありがとう」

『どういたしまして』

 彰吾が立ち上がると、ルドガーも彰吾と同時に立ち上がった。

 すると、ルドガーがンフフフと笑い始める。

「何が可笑しい?」

「いやぁ……案外楽しめるもんだな。なぶり殺しだとずぅううううっと思ってたからよ」

「ああ、そうかよ。でも、もう終わりだ」

「あ?」

 彰吾はナイフと思うと左腕からナイフが手首辺りに出てそれを右手で掴み、引き抜く。

 ナイフをルドガーに向ける。それをみたルドガーは笑う。

「ンフフフ。馬鹿なのか? 俺には効かないとわかっているのにナイフか? とうとう頭が可笑しくなったかぁ……まぁかなり打ち付けてたからなぁ……。安心しろ? 痛みは一瞬だ、すぐ楽になる」

 そういうとルドガーは彰吾に近づく。

「残念だが」

 彰吾は態勢を低くしてルドガーに突っ込む。

 突っ込んできた彰吾を迎撃する為に彰吾に向かって攻撃をする。

 だが、彰吾の態勢が低く、速いため攻撃が当たらない。

 そして、彰吾がルドガーを通り抜ける瞬間、

「〝お前〟にじゃないんだ」

 ルドガーの横で呟いた。

 通り抜けた彰吾にルドガーはすぐさま、振り返り攻撃を仕掛けようとした。が、

「――!?」

 ルドガーの右腕が上がらずにいた。

「な、なんだと!? なんで動かない!!」

 右腕を必死に上げようとするルドガーに彰吾は指をさす。

「やっぱりな、思った通りだ」

「何がだ……! クソ野郎ォオオオオ!!」

 叫びながら動かない右腕を引きずりながら彰吾に近づき、左手で彰吾に向かって拳を振り下ろす。

 地面に当たり、辺りが凹む。しかし、そこに彰吾がいない。

 どこだ! と思い辺りを探すルドガー。

「お前の〝それ〟は」

 突然ルドガーの背後に現れる彰吾。

 ルドガーは左拳で振り返りながら腕を彰吾にぶつけようとした。

 彰吾はナイフを持ち、切り抜けた。

「それ、いや……鎧は……」

 切り抜けると、ルドガーの左腕がガシャンと音を立てて地面に落ちる。

「人形なんだろ?」

「いつ気づいた……?」

 背後にいるルドガーが彰吾に呟く。立ち上がり、ルドガーの方へ向く彰吾。

「さっきだ。おかしいとはずっと思ってたんだ。爆破に耐えられる装甲だけじゃなく、レールガンも耐えるのは明らかにおかしい」

 彰吾はルドガーから距離を取る。

「どんな屈強な男でもその装甲を着て走るとか、ここまで長時間動けるのは無理だ。何より、腕の関節を外したはずなのに、動かす時点でおかしい人という概念を超えている」

 ルドガーは無言の状態で立ち上がり、彰吾の方を向く。

「そこでもしかしたら、お前の着ている鎧自体が人形なら関節を外しても動かせるからな」

 彰吾は初めてルドガー(人形)と出会った時の事を思い出していた。

 彰吾は誤って投げ飛ばして、ルドガーの人形を頭から落として首の骨を折ってしまったが、折れたのにも関わらず動いてた事を思い出した。

「そうか、一度お前と戦ったことがあるからな……。迂闊だった、外れたふりをして不意打ちして殺せば良かったのか」

「うるせぇよ。まぁ、お前の関節部に指示糸が張り巡らせてあったからな。だけど、普通じゃ見えないだろうよ。でも、俺にはこのアーマーがある」

「それで、見たのか」

「あぁ、お前の能力も思い出したしな」

「パージ……」

 ルドガーが呟くと、鎧がガシャンと音を立てて地面に落ちた。

 鎧の中から一人の男が現れた。

「この姿を見せるのは初めまして、天月彰吾。これが私の本当の姿だ」

 丁寧に彰吾に向かってお辞儀をするルドガー。

「そして、お前を殺す為に私は本気を出そう……」

 ルドガーの発言に更に気を引き締め、どんな状況にも対応するように心構える彰吾。

「さて、殺してやる……!!」

 そういうとルドガーがどこからともなく、注射器的な何かを取り出しており、自分の腕に刺した。

 刺して注射器の中に入っている青色の何かを自身に投入するルドガー。

 すると、ルドガーの手から注射器が地面に落ちて震えだす。

「あッ……! ぁア!! ああああああああ!!」

 声を上げて、苦しそうに悶えるルドガー。

 だが、すぐに静かになり立っているが上半身だけぐったり前屈みになる。

「……ンフフフ……」

 前屈みになっているルドガーから笑い声が聞こえた。

 そして上半身を起こし、ニヤリとルドガーが笑う。笑いながらルドガーは手の平を彰吾に向ける。

「――!?」

 突然体が動かなくなる。糸による拘束をまたされるが、今度はすぐに断ち切りながらルドガーを見て置く。

 だが、ルドガーの姿が消える事は無く手のひらをそのまま彰吾に向けている。

「何がしたい?」

 さすがに何がしたいのか分からない彰吾は、警戒しながらルドガーに近づく。

「そうだな。お前を殺す方法だ」

「さっきから同じことしか言って無いぞ、馬鹿が」

「まぁ、もういいか」

 すると、鎧も着ないで生身で彰吾に一気に近づくルドガー。

 その速度は鎧を着ている時と同じぐらい速く、それに驚いて少しだが反応が遅れた。

 だが、ルドガーの右ストレートを防御した彰吾。

「なんだ、そんな速くも無かったな、意外と」

「ンフフフ……! そうかい……? なら、これはどうだイ?」

 そういうと突然空中から先ほどまで着ていた鎧が、拳を振り上げて彰吾に攻撃しようとしていた。

 空中を見た隙を見過ごさずにルドガーは空いたボディに左拳を入れる。

 攻撃を受けた彰吾はくの字の状態になり、それに伴い腹部に激痛が走った。

「ぐぅ!?」

 彰吾はルドガーの表情を見るとその顔は歪みきっていて、歯を見せるほど笑っていた。

 そして、鎧の拳が攻撃を受けた彰吾を捉えた。

 土煙が舞い上がり、彰吾の姿が捉える事は出来ないがルドガーは手ごたえを感じた。

「おどロいタ? ドう? こノ力、スごいデショ?」

 左目が大きく見開き、右目は最初に見せた同じ状態。そして、歪み切った笑みを浮かべながら言うルドガー。

 しかし土煙から影が現れる。正体はルドガーの着ていた鎧であった。

 その数秒後、土煙から彰吾の姿が目視出来た。

「へェ……アれをボウギョしたんダ。凄イナ」

 左腕のアーマーが損害していて彰吾の手の一部が表れる。

「ハァ、ハァ……ハァ……」

 膝を曲げ、前屈みで左腕をだらんと垂らしながら土煙から現れた彰吾。

「さスが、シブとイね。デモ、つギでコロす」

「さっきから、なんか言葉おかしいぞ? 頭でも狂ったか?」

「クちだけハ、へらナいな。まァ、もうオわリだ」

 そういうとルドガーと鎧が左右に展開して彰吾を襲う。

 彰吾はルドガーの方に行き、ルドガーを迎え撃つ。

「お前から潰せばッ!! あの鎧も動かないだろうッ!!」

 右ストレートをルドガーの腹部に当たり、手ごたえを感じる彰吾。

 彰吾に向かった瞬間にルドガーの方に向かい、腹部を捉えられたルドガーは彰吾の攻撃を受ける。

 手応えを感じた彰吾は、決まった。と思った。

 だが、

「――!? い、いつの間に!?」

 ルドガーの腹部にいつの間にか、鎧の胴のパーツがルドガーを彰吾の攻撃から守った。

 ニヤッと笑うルドガー、彰吾の後ろから迫っていた鎧が背を向けている彰吾を襲う。

 すぐに彰吾は背後から迫る鎧に後ろ蹴りを当てて、攻撃が届く前に対処する。

 そのまま、ルドガーから離れ距離を取る。

「アリス、奴のランクはどれくらいだ?」

 ルドガーから離れ距離を取った彰吾は思いながらアリスに話を掛ける。

『すでに解析を終えています……大変申しづらいのですが……』

「なんだ?」

『今の奴のランクは――』

「――!?」

 アリスが言おうとした瞬間、彰吾の左腕が引っ張られルドガーの方にジリジリと近づく。

「オイおい、ニゲんなよ……」

「クッ……!」

 ルドガーが右手の平を彰吾に向けながら笑うルドガー。ジリジリと寄せられる彰吾。

『今言うのもあれだと思いますが、彼のランクはSランクです。後、腕に糸が付いています』

 アリスの発言に驚く暇もなく、彰吾は腕についていると思われる糸を断ち切る為に腕の辺りに手を振り下ろす。

 すると、彰吾の腕が引っ張れてたのが消えて、すぐに彰吾は距離を取る。

 糸を断ち切られたルドガーは驚きながら自分の手のひらを見ていた。

「スゴイな、イマのイトをたちキルナンて。イマのオレのランクハSランクだガな」

「だろうな、それ位じゃないと訳が分からない」

「モトはA+だっタんだ。ダガ、それをコエるのはヒトにギリのニンげンしかイナい。ダガ――」

 ルドガーは自分で捨てた注射器を取りあげて、彰吾に見せる。

「ダガ、こレハそれヲ超えル、クスリだッ!!」

 ンフフフと笑うルドガーに警戒をしながら話を聞いた彰吾。

「アリス、俺とアイツの戦闘力はどれくらい差が開いている?」

『はっきり言えば、今私を着ている状態の10倍は奴の方が強いです』

「勝てるか……?」

『……死ぬ可能性が高いです……』

「一応勝てるんだな?」

『奴の弱点を見つけました。そこを突けば勝てる可能性があります』

「よし、それで行こう!」

 そう思い、ルドガーとの決戦に心の中で思う彰吾であった。

 思った瞬間に片腕を宙に上げられ、彰吾が浮く。彰吾はすぐに腕の辺りに付いている糸を切ろうと腕を振ろうとした。

 だが、その腕も宙に上げられ、断ち切る事ができなくなった。そして足も引っ張られ完全に拘束される。

 ルドガーは手のひらを彰吾に向けながら笑う。

「サテ、アマツキショウゴ……イマカラコノヨロイヲキサセテヤル」

「ふん、そんな趣味の悪い鎧は嫌いなんだがな」

「フッ……コノヨロイハシヨウシャニアワセテ、サイズガジブンデヘンコウデキル」

 ルドガーが話していると彰吾の周りに鎧のパーツが浮いている。

「ソウ……ドンナサイズデモナ。そして、オマエニキサセル設定は」

 ニヤッと笑いながら片目の目の色が変わりながら言う。

「お前の骨だ……」

 言った瞬間、鎧が彰吾に取り付き装着しようと無理やり着ようとする。

 彰吾は強化アーマーの上から鎧が取り付き、強化アーマーが少しづつ壊れていく。

「クソッ!! 動けない!!」

『ま、まずいです彰吾さん。このままでは潰されてしまいます』

「いわれて……もッ!! う、うごけ……ないッ!!」

 つい口に出してしまう彰吾に笑うルドガー。

「クソォオオオオオ!!」

 どうする!? どうすんだ!! この状況!! クソ! クソ!! クソッ!! と思う彰吾。

『焦るな、まずは状況を把握して最前を尽くせ。それからお前の実力を出せ』

 突然、小さいころにあまり記憶の無い彰吾にとって唯一思い出せるある人物の言葉を思い出す。

 そう、今は焦る場合ではない。今の状況を打開する策を考えろ。

 思った瞬間、頭の中に口から血を出して笑っている少年の顔がぼやけながら思い出す彰吾。

 え? 俺は、こんな記憶知らないぞ……なんだこれ? いつの頃の記憶だ? 小さい頃か? 突然思い出した記憶に困惑する。

『彰吾さんッ!! まずいです!! そろそろアーマーの限界です!!』

 アリスの声に自分の世界に入っていた彰吾が現実に戻される。

 彰吾は何とか、拘束を解くために暴れるがびくともしない。アーマーが耐えきれなくなり、バキッと音を立てながら壊れていく。

 そして、彰吾は一呼吸入れてまずは焦る事はやめて冷静になる。

 冷静になった彰吾は、何故かはわからないがどこからか力が湧いてきている気がした。

 彰吾は腕と足に力を入れて内側に引く。何かに引っ張られながらも、ゆっくりと内側に引く彰吾。

「どういうことだ? なぜ、動く……!? それは、」

 ありえない光景に驚きを隠せないルドガー。彰吾はそんなの気にしないで内側に引く。

「それは今この世界にいる肉体強化のみ特化された能力者じゃなければ、ビクともしないんだぞ!!」

 彰吾はそのまま内側に思いっきり引くと、拘束が無くなり落ちる。

 落ちている最中に一回転して綺麗に着地して、立ち上がる彰吾。

「いちいちムカつくな、天月彰吾」

「……」

「まぁ、お前が抜け出したのもそのアーマーのおかげだろう。なら、何も怖くない」

「……」

「おい、何か言えよ」

「うるさいぞ」

「――!?」

 突然ルドガーの後ろから彰吾の声が聞こえて振り返りながら攻撃をするルドガー。

 しかし、そこには彰吾の姿が無かった。急いで彰吾のいた方に振り返るルドガー。

 振り返ると彰吾が拳を振り上げていた。

 ルドガーはそれを避けようとするが、間に合わず彰吾の攻撃を顔に貰う。

 だが、ルドガーは鎧を顔に装着していて彰吾の攻撃を防いだ。

 彰吾は隙を与えぬ為にもう一撃ルドガーの腹部に放つ。ルドガーはそれを急いで防ぐ。

 彰吾はそのまま、回し蹴りをするがルドガーがそれを防いだ。

 防がれると、すぐに足を引っ込めて後ろ回し蹴りをする彰吾。

 それをあえて受けながら後ろに下がり、彰吾から距離を取るルドガーだが、それを見越していた彰吾は既に近づいていた。

「化けもんかよ!! テメェは!!」

 言いながら手を振り、彰吾は何か光ったの確認するとそれを避ける。

 避けると後ろにあった作品が真っ二つに分かれた。

 そのままルドガーの肩の辺を掴んで引き寄せてから、腹部に膝を入れる。

 肩の辺を掴まれていたルドガーは逃げられずに彰吾の攻撃を受け、腹部を押さえながら後ろに数歩下がった。

 苦しそうな表情を浮かべながら彰吾を睨むルドガーは手を振り下ろす。

 降りおろされるとそれに合わせて彰吾は身体を横に逸らす。

 何か大きな剣で切られたかの様に地面にが裂ける。

 彰吾はルドガーに一気に近づく。

 ルドガーは彰吾を迎え撃つ為に鎧を彰吾ぶつけて、戦わせる。

 鎧は彰吾に攻撃するが、一切彰吾に当たらない。ただ鎧の攻撃が空を切るだけであった。

 この時彰吾は思っていた。

 コイツの動きが予測出来る! それに体が軽い! これなら勝てる!!

 鎧は彰吾に向かって大きく拳を振り上げてから、放つ。彰吾はそれを避けて鎧の腹部に一撃入れる。

 攻撃を受けた鎧はそのまま吹っ飛び、壁に激突する。彰吾はルドガーに近づく、攻撃をする。

「クソが!! テメェはランクBの雑魚だろうがぁ!!」

 右手を後ろに引いて振り上げると、そこに鎧の腕の部分が引っ付いて装着された。

 鎧の腕の部分が着いた腕で彰吾に向かって正拳突きをする。

 真正面から彰吾は左腕を引いてから身体を横に捻らせて、攻撃する瞬間に腕を捻り威力を上げ更に、体の捻りを本に戻し威力を増加させた状態で攻撃した。

 拳と拳がぶつかった瞬間に、ルドガーの装着していた腕のパーツが粉々に砕け散った。

 砕け散った後に彰吾の拳が生身のルドガーの拳も砕いた。

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 涙目になりながら手を抑え、後ろに数歩下がり息を荒くするルドガー。

 彰吾はゆっくりと歩きだしながらルドガーに近づく。

「ひッ――」

 ルドガーは彰吾に怯えながら後ろに下がる。

「ま、待て! 降参だ! もうしない、もう誰も殺さない!! 頼む、許してくれ!!」

 片腕の手の平を彰吾に向けて、待てと言うルドガーに足を止める彰吾。

「本当に誰も殺さないと誓うか?」

「誓う!! 誓うから、だから殺さないでくれ!!」

「……分かった。次に攻撃したら、ただでは済まさないからな」

 そういって彰吾はルドガーに背を向けて部屋から出る為に扉に向かう。

 背中を見せた彰吾にニヤァ……と笑い、鎧の残りのパーツを使い腕に装着し始める。

「あー、天月彰吾」

 背中を向けて歩いている彰吾に話を掛けるルドガー。

「なんだ?」

 それを彰吾はルドガーに背を向け、歩きながら話を聞く。

「さっき言った、もう誰も殺さないは……」

 装着が終わり、彰吾に一気に突っ込み全てのパーツが集まった腕で彰吾に襲い掛かるルドガー。

「お前を含めてない……!」

 大きくなった拳を放ち、彰吾に襲う。

「知っていたよ……てか、予測出来てたから安心しろ」

 小声で呟くように言い、振り返ってルドガーの拳に正面から対抗する。

 だが、先程と同じように腕を砕く事の出来ない彰吾。むしろ、押されていた。

 大きな拳でウェイトの問題と力で、彰吾が後ずさりをさせられる。

「グッ……!」

「ンフフフ!! アハハハ……、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェえええ!!」

 目を見開き、顔を歪ませながら笑うルドガーが叫ぶ。

 さすがの彰吾も砕けず、拳と拳のぶつかり合いの力比べをするしかなかった。

「お前は結局俺には勝てない……! 何故なら、今の俺はSランクだからだ!!」

「そういえばお前、さっきは大分言葉可笑しかったのに今は平気みたいだな?」

「ンフフフ、そりゃあお前馴染んだからな……」

「そうか……ならそろそろか……」

「あ?」

「薬が馴染んだって事は、薬の効き目がしっかりと来る筈だ。それもそこまでの強化するドーピングならもっての外な……」

「なら、その効き目が来る前にお前を――――」

 ルドガーの頭の中で何かが千切れる音が鳴った、そして、

「ああああああああああああああああああああ!!!!」

 突然大声を出し、砕けた手で頭を抑えるルドガー。

 力が抜け、能力が弱まった所に彰吾は一気に力を入れて腕を砕く。

 まずは、拳の部分を砕き、そのまま手首の部分を砕いていく。

「――グァッ!!」

 頭を押さえている手の指の間から彰吾を見るルドガー。

 片目から血を流し、鼻血を出して目を大きく見開くルドガーであった。

「お前ハ……コこで殺ス。殺ス、コロす、コロス、ころす、コロォオオオオス!!」

 だが、思うように体に力が入らないルドガーに彰吾は構わず力を入れて腕を砕いていく。



 そして、



 腕に装着していた鎧のパーツを砕き、



 ルドガーの拳を砕いて、



 数歩後ろに下がるルドガーに彰吾は、



「これで終わりだぁああああああああ!!」



 叫びながら、一気に近づいて右手を引いてルドガーの顔を殴り飛ばした。



 殴り飛ばされたルドガーはそのまま壁に激突して、ぐったりとしている。

 戦いが終わり、彰吾は気が抜けて膝から崩れ、地面に膝を付ける。

「ハァ……ハァ……ハァ、や、やったぞ……アリス」

『さすがです、マイマスター天月彰吾さん』

「けっこう疲れたけどな……」

『……彰吾さん』

「何だ?」

『実は既にアーマーの着て居られる時間を余裕で超えていたのですが……何故だかその活動時間がいつの間にか伸びていたのです』

「どういう事だ?」

『それは私にも分かりかねますが……これは人間あるあるの……」

「人間あるあるの?」

『火事場の馬鹿力と言うやつですかね? 傷も治ってますし、肋骨の方は完全にでは無いのですが……でもこの傷に限っては少々納得がいかないのですが』

「……なんでだ?」

『私には回復など傷を治すシステムは搭載されていないからです。なので、普通は治る事はありえないのですよ』

「あー、なるほど……そこはな、俺元々結構傷の治りとか怪我の治りが異常なまでに早いんだ。それにこのアーマーは身体能力の向上もさせてるんだろ?」

『はい、そうですが……』

「人間本来の治す力、自己治癒能力も向上されてる事だよな?」

『そうですね、その通りです』

「それで治りが早くなったんだと俺は思うな」

『なるほど、そういう事情であれば納得も行きます』

 傷の治りが早すぎる彰吾に疑問を思ったが、彰吾の回復力の高さに納得したアリスであった。

 ある程度話して休んだ事で、体力を少し回復させて立ち上がる彰吾。

「ンフフ……フ……」

 彰吾は笑い声のする方へ振り向く。

「……殺しまではしてないが気絶してても良いと思うぞ? ルドガー」

「残……念、俺は任務を完遂させなければなら……ない」

 そういうと、ズボンのポケットから何かを取り出し腕を彰吾に差し出す。

「何のつもりだ?」

「ンフ……フフ……ここの……大機械祭のありとあらゆる場所に爆弾を設置してある……そして、ここにもな……!!」

「――!? まさか! それが!!」

「そう……! これが起爆スイッチだ! そうだな、天月彰吾最後に言っておこう」

 差し出した腕を自分の胸の方まで引き寄せ、歪んだ笑みを浮かべるルドガー。

「死ね……」

 そして、ルドガーは起爆スイッチを押した。

 彰吾はその場から逃げる為に、急いで部屋を出ようと走った。

 現在の時刻、


 PM 16:54 / 展示発表物保管室




 PM 15:26 / 横浜


 リリンとの通信を終えたペイルライダーにゴヴィンが話を掛け、ペイルライダーは戦闘態勢を取る。

「通信があって来てみれば……」

 ゴヴィンが辺を見渡すと、そこには大破した装甲車、二足歩行型装甲兵器とドローンに戦闘の爪跡がくっきり残っていた。

「さすがはペイルライダーと言えるな……軍の中でも実力だけなら十分にトップクラスだ」

「……」

 ゴヴィンの話を聞きながらもペイルライダーは警戒を解かず、戦闘態勢を継続させる。

「だが……」

 ゴヴィンも戦闘態勢をとる。

「命令何でな、死んで貰うぞペイルライダー……!」

 そう言うと一気に強く踏み込み、一気にペイルライダーに近づく。

 ペイルライダーはブレードを二本取り出して、ゴヴィンに突っ込む。

 ゴヴィンが右ストレートをペイルライダーに放ち、ペイルライダーはブレードで右腕を切り落そうとした。

 腕に当たる瞬間、何かの見えない壁にぶつかり、ブレードの刃がゴヴィンの腕に届かなかった。

 切れないと分かった瞬間にペイルライダーは何とかゴヴィンの右ストレートを避ける。

 切り落そうとしていた為、回避をするのに遅れて少しだけ肩に拳がかすめた。

 かすめた所から突然肩の装甲の部分に鋭利なナイフなどで切られたかの様に、肩の装甲の部分が切られた。

 一撃お互い同地にぶつけると共に一度距離を取るために後ろに跳んだ。

「凄いなそのブレード。後少しで腕を切り落とされそうになった」

「……そうか」

「どうなってんだ? そのブレードは、見た目は普通の良く切れそうなブレードだが……マチェットでは無いのだろう?」

「そうだな……ブレード一本奪ったら教えてやる。後、マチェットでは無い」

「分かった……教えて貰うぞ……!!」

 先程よりも強く踏み込み、一気にペイルライダーに近づく。

 ペイルライダーは近づいて来るゴヴィンを迎え撃つ。

 攻撃範囲以内に入ったゴヴィンをペイルライダーは先程よりも力込めてゴヴィンを切り裂こうとした。

 だが、ペイルサイダーの攻撃がゴヴィンには当たらず、ブレードが空を切った。

 何が起きたのか分からなかったペイルライダー、ブレードが当たる瞬間にゴヴィンが消えた。

 ペイルライダーの攻撃を避けたゴヴィンは攻撃を外し、隙を見せたペイルライダーに一撃入れる。

 顔に一撃入れると、そのままペイルライダーの腕を取って背負投げをしてペイルライダーを飛ばす。

 投げられたペイルライダーは空中で態勢を整えて地面に上手く着地する。

 そして、投げられた際にブレードをゴヴィンに取られていたのに気付く。

 ゴヴィンは不思議そうにブレードを見ている。

「何だこれ? どっからどう見てもただ良く切れるブレードじゃないか」

「……ブレードの刃の表面の部分に高エネルギーの膜が張ってある。それで分厚い装甲も切れる。そういう武器だ」

「解説ありがとよ。これで、謎が解けた」

「だが、エネルギーが切れればただのブレードだ」

「あそ、んじゃこれ返すわ」

 ゴヴィンがブレードをペイルライダーの手前ぐらいに投げる。

 ペイルライダーはブレードを取ろうとはせずに、もう一つのブレードは手から離した。

 それに続き肩のシールド、足に着いている追加パックをパージする。

「何のつもりだ? ペイルライダー」

「……もう使えないからパージしただけだ」

「ブレードもか?」

「エネルギーがもう無い」

「普通にブレード自体の刃で戦っても良いと思うんだがな」

「確かにそれの方が普通なら良いだろう。だが、お前には効かない、何の能力かは知らないが、高エネルギーを纏わせて無いブレードじゃ、お前は切れないと思うからな」

「良い判断だ……」

 話が終わると、パージした追加パックとブレードが転送されその場から消える。

 転送された瞬間にペイルライダーは一気にゴヴィンに近づく。

「体術か……それだったらブレードあった方が良いと思うがな」

 ペイルライダーはゴヴィンに右ストレートを放ち、それをゴヴィンは左手で捌き、右フックをペイルライダーに放った。

 それをペイルライダーは身体を横にずらして避け、上半身を使ってゴヴィンに体当たりをする。

 だが、攻撃はゴヴィンに届かずに手前で何かに当たり止まった。

「良い判断と言ったが、前言撤回だ……こんな馬鹿な奴だとは思わなかったぞ、ペイルライダー」

「そうか? 俺はこっちの方が得意だ」

 いつの間にかペイルライダーは腰からデヴァイドを取っており、脇の下からデヴァイドの銃口がゴヴィンに撃つ。

 ゴヴィンはペイルライダーの脇腹を蹴って吹き飛ばす。

 しかし、ゴヴィンはデヴァイドに撃たれ、ペイルライダーは脇腹を強く蹴られて地面を一回バウンドして直ぐに態勢を立て直して膝を着いて止まる。

 ペイルライダーは脇腹を抑えながらゴヴィンを見る。デヴァイドに撃たれたゴヴィン自体は消滅しておらず、腕など部分的にも消滅している事は無かった。

「何かの膜、一宮真の様な防御をはっていたな?」

「フフ……ご名答。まさか、体当たりをして体でデヴァイドを隠して攻撃してくるなんてな、驚いた。それのわびだ、俺の能力は空気操作エア・アプリション、ランクはA+だ」

 お互いに距離を取りながら警戒を怠らずにゴヴィンは自身の能力を明かした。

「聞いたかリリン」

『聞いてた、能力データバンクで検索に掛けた所。えーと、能力は――』

「空気を操る事が出来る能力だ。今の俺のランクだと酸素濃度を減らす、酸素の純度を高密度に高めて酸素自体を毒素に変える事は出来ない。俺が出来るのは、」

 リリンの説明が入る前にゴヴィンが先にペイルライダーに説明する。

 ある程度説明すると、手を出して手の平に風を集めて小さな竜巻を起こした。

「この様に空気を操る事が出来る、空気と言いながらも風を操っていると言った方が早いな」

『――と言うことよ! 貴ヶ谷!』

「誇らしげに言うな、バカが……」

『何よもう! 先に言われちゃったんだもん!! 仕方ないでしょ!!』

 話しているとゴヴィンが一気に距離を詰めてきた。

 ペイルライダーはゴヴィンを迎え撃つ為、デヴァイドをゴヴィンに向ける。

 だが、ゴヴィンはジグザグに動き尚且つ速い為、狙いが定まらずに接近を許してしまう。

 近付いたゴヴィンはペイルライダーに掌打(しょうだ)を打ち込み、ペイルライダーは少し後ろに飛ばされた。

 何とか防御したが、掌打に纏わせた風がペイルライダーの腕を切り裂く。

 腕の装甲が切り刻まれ、ペイルライダーの腕の一部が現れる。

 ペイルライダーは後ろに飛ばされながらもすぐにデヴァイドをゴヴィンに向けて撃つ。

 ゴヴィンは避けるが、目には見えない攻撃のため肩の一部に当たり、肩に付けていたプロテクターが消滅した。

 ゴヴィンはペイルライダーに撃つ隙を与えないために一気に近づく。

 ペイルライダーはデヴァイドを空中で撃ち、空中で後ろに一回転して着地する。

 すぐにペイルライダーはデヴァイドの設定を広範囲モードに切り替えるかつ、出力を上げて放とうする。

 だが、近づいているゴヴィンは親指を弾くとデヴァイドとペイルライダーの手に何かが当たり、ペイルライダーの手からデヴァイドが離れる。

 デヴァイドを失ったペイルライダーは真正面から突っ込んで来るゴヴィンを迎え撃つ。

 ゴヴィンが右手を振り上げ、攻撃しようとしているのを確認したペイルライダー。

 お互いに攻撃の届く範囲に入った瞬間にお互いに拳を放った。

 しかし、またしてもペイルライダーの攻撃が空を切り、ゴヴィンを確認すると。

 ゴヴィンは攻撃の届く範囲の直前で停止している。

 振りかぶり、戻すことも出来ずに、隙を晒しているペイルライダーにゴヴィンは力を込めてペイルライダーのフルフェイスの顔に強烈な一撃を放った。

 その一撃を受けたペイルライダーは吹き飛ばされ、地面を二階バウンドしてから転がる。

 転がっている最中に受け身を取って起き上がり、そのままバク転をしてゴヴィンから距離を取るペイルライダー。

 前屈みになりながらも立ち上がり、ペイルライダーは殴られたフルフェイスを抑える。

 ゴヴィンに殴られたフルフェイスが壊れ、今まで隠していた顔の一部が現れた。

 ペイルライダーはそれを隠すように手で隠す。

「お? 良い目をしてんじゃないか、ペイルライダー」

「……お前本当にA+か?」

「ああ、それは本当だ。能力だけならな」

「やはりか……」

 今の世界は能力の力によってランクが決めつけられているのが現状。

 しかし中には、能力が多少なり低くとも実力と能力の使い方によって、格上の能力者と互角に対峙する事が出来るのだ。

「残念だったな、ペイルライダー。同じランクなのにな。それにしてもひでぇよな、この世界」

「何がだ?」

「俺みたいな能力者はSランクでは無いんだぜ? アイツ等、科学者の奴らは数値しか見ない」

「……」

「しっかりと実力も含めてのSランクなら良いんだけどよ」

「そうか、良かったな」

「なぁ、ペイルライダー」

「なんだ?」

「お前、俺と来い。お前はこっちにいるべき存在だ」

「……断る」

「そうか……なら……死ねッ!!」

 ゴヴィンが地面を強く踏み込み、一気にペイルライダーに近づく。

 そして、ペイルライダーは近づいてくるゴヴィンに蹴りを入れようとする。

 だが、ゴヴィンはそれを避けようとはせずに突っ込んでくる。

 当たる寸前に、ゴヴィンがその場に急停止して完全に止まった。

「待っていたッ!!」

 ゴヴィンが急停止した瞬間に、ペイルライダーは蹴りを止め、そのまま足を下して一気に踏み込んでゴヴィンに掌打を打ち込んだ

「グフッ!」

 ペイルライダーはすぐに壊れた個所を手で押さえてゴヴィンから離れる。

「お前その急停止は体全体から空気を逆噴射して一気に急停止していたものだな?」

「フフ……よく分かったな」

「お前が自身の能力を明かしてくれたからな。まぁ、明かさなくともいずれ分かる事だ」

「そうだ、俺は自身の能力を使って空気を操った。空気の流れを今回は操り、それで急停止を使える。だが、これが難しくてな……一歩でも態勢制御を間違えると、間違えた個所に大きなダメージを受ける事となる」

「マスターしたのが、それか」

「さすがだ、ペイルライダー。もうお前には効かないだろうな……なら、真っ向勝負としようッ!!」

 今まで見てきた中でも一番速く一気にペイルライダーに近づくゴヴィン。

 いつの間にかペイルライダーの近くまで寄られ、ペイルライダーはその場から離れようとする。

「リリン。ここら辺に川沿いか砂地の場所、一番近いところを検索してくれ」

『……了解。そういう事なんでしょ?』

「そういう事だ」

『すぐに調べる』

「頼む」

 リリンに伝えると、すぐに調べ始める。

 その間にペイルライダーは必死にゴヴィンの攻撃を避け続けた。

『その南西200m先に川沿いがある』

「ありがとう」

 場所が分かり、ペイルライダーはその場から離れる様に目的地に向って跳ぶ。

 地面を強く蹴り、高く跳躍して信号機の上に着地してそこからまた跳躍する。

 ビルの壁を蹴って、ビルの屋上につくペイルライダー。

 それを追うゴヴィン、ゴヴィンがついて着ているのを確認してからまたビルの屋上に跳ぶ。

 ビルを三つほど跳ぶと、目的地の川沿いを見つけその川沿いに向かって跳躍した。

 跳躍すると、ペイルライダーより高く上がったゴヴィンは拳を振り下ろしてペイルライダーに攻撃した。

 攻撃されたペイルライダーはそのまま落下するが、地面にあたる直前にうまく空中で態勢を立て直し足から着地する。

 だが、高い所からの更に勢いを付けられ着地をしたペイルライダーは足の衝撃吸収する為の機械が耐えきれず壊れた。

 着地の衝撃が耐えきれず、ペイルライダーは地面に片膝を付ける。

 その数秒後にゴヴィンが何事も無かったかのように綺麗に着地した。

「なんだよ、こんな所で着地しやがったのか」

「ここで、お前を倒す……」

「やってみろよ」

「あぁ、やってやる……」

 右手のひらをゴヴィンに向け、左手で壊れた部分を隠す。

 ゴヴィンは相手の能力を発動させる前に潰そうと一気に近づき、拳を振り下ろす。

 だが、

「な、なんだこれは!」

 黒いモヤみたいなのがゴヴィンの攻撃からペイルライダー守った。

「砂鉄だ」

「なに?」

 ゴヴィンが言った瞬間、ペイルライダーは右手を上げる。

 上げると同時にペイルライダーとゴヴィンを包むように砂鉄がドーム状に二人を囲む。

「さて、高速で動く砂鉄はチェンソーと変わらぬ切れ味を持つ。それに耐えられるか?」

「馬鹿が、お前もこんなかに入ってんだろうが」

「俺はいつでも出れる。後、死ぬな……それだけは信じてる」

 上げた手を振り下ろすと、ペイルライダーを避ける様に砂鉄が移動する。

 ペイルライダーと共に出ようとしたが、動こうとするゴヴィンに砂鉄が襲い、ペイルライダーに近づく事が出来なかった。

 そしてペイルライダーは砂鉄のドームから出ると、手のひらを空に向けて握った。

 握られた瞬間、砂鉄のドームがどんどん小さくなっていった。

「俺はこんな所で死んでたまるかああああッ!!」

 ゴヴィンは自身の能力を全開で砂鉄の嵐から身を守ろうとした。

 だが、砂鉄の切れ味が鋭く、自分に貼ったバリア的な物が一瞬で消される。

「ぐぁあああああああああッ!!」

 ゆっくりと握りこぶし自分の方へ寄せるペイルライダー。

 胸の辺りまで持っていくと、そのまま腕を横に振り払う。

 すると、砂鉄が一瞬で消えて体中から血を流しているゴヴィンが表れ、倒れる。

 ゴヴィンは体動かすことが出来ないらしく、苦しそうにしている。

「お、お前の……能力は……電、気系統か……」

「……」

「その無言……図、星か……」

 そのままゴヴィンは気絶した。

 さすがのペイルライダーも疲れ、その場に地面に膝を付ける。

 くそ、大分強かったな……能力を使う程の相手とはな……。

 思うと突然大きな爆発音が聴こえた。

「何処からだ!?」

『大機械祭会場からよ!!』




 現在の時刻、16:54 




PM 17:02 / ?




「ぐっ……! いってぇ……」

『大丈夫ですか? 彰吾さん』

「あぁ……で? ここどこだ?」

『ここは……地下シェルターの通路か地下シェルターでは無いでしょうか?』

「は!?」

 彰吾はルドガーの仕掛けた爆弾から逃げる事が出来ずに、地下シェルターかその通路にいた。

 しかし爆風から逃れた為、死傷を受けずに済んだ。

 辺りは薄暗く、爆発のせいか瓦礫が辺りに散らばっている。

 彰吾は立ち上がり、辺りを見た。

 だが、瓦礫と薄暗い場所にいる彰吾は自分がどこら辺にいるのかしっかりと把握出来ない。

 肉眼なら暗くて奥まで見えない筈だが、強化アーマーが暗い場所を彰吾の見る画面ではしっかりと見える様に映していた。

 奥まで確認するがやはり、人影すら見えないこの場所が本当にどこか分からなくなる。

「とりあえず、行けるところまで行こうか」

『ここで待っていても仕方ないですからね。落ちた所も瓦礫のせいで塞がれてますし』

 無理に瓦礫を退かせば自分に瓦礫が落ちて下敷きになる可能性があるため、彰吾は近づかないでおいた。

 それを分かっていても一応言っておくアリスであった。

『一応、言っておいて損はないですよね?』

「ああ、ないさ」

 そう言って彰吾は歩き始める。

 瓦礫のせいで歩きづらく、そして先が見えない。

 だが、歩いているとある物を発見する彰吾はそれに向かって走り出す。

「――! 言った通りだな……」

『その様ですね……それを考えると、これは非常にまずいですね……』

「クッ……! なんてことしやがるアイツ等……」

 彰吾達が見つけたのは、地下シェルターの地図を見つけた。

 現在地を確認すると、そこは地下シェルターの通路である。

 そして、彰吾達の通路は地下シェルターの隣の通路に居たためそれを考える彰吾。

「この瓦礫の量……地下シェルターを直撃させるように爆破されてるな。クソッ……!」

 地図を見ながら怒りを隠せず、壁を叩く彰吾であった。

「……とりあえず他のルート行って生存者がいるなら助けて行こう」

『それが無難だと思います』

 可能な限り行ける通路を歩き、多少動かしても大丈夫な瓦礫の量なら退かして通路を進む彰吾。

 歩く事数分、ここまでで一人も生存者に会っていない彰吾であった。

「ここまで歩いているのに、誰一人として会ってないぞ」

『どうしたのでしょうかね?』

「……他の場所に移動してそれでいないとかか?」

『可能性は低くは無いと思います』

「だよな」

『はい――! 近くに人の反応があります!!』

「どこだ!」

 アリスが生存者を発見し、彰吾はアリスの言われた通りのルートを通り生存者のいる場所へ向かう。

 通路に瓦礫が落ちており、彰吾はその瓦礫を退かして進む。

『近いです! この辺です!』

 瓦礫を退かしてある程度進むとアリスが教えてくれた。

 彰吾は辺りを見て、何処かに生存者がいるか目視で確認しょうとする。

 だが、目視で確認ができないため、

「誰かいますかー!! いたら返事して下さい!」

「こ、ここです……! 足が挟まって抜けないんです」

 彰吾は声の聴こえた方へ直ぐに向かう。

「確かこっちから聴こえた……」

『方角は間違いないです』

 一度止まり、辺を見渡し確認をする。すると、瓦礫の近くに誰かが倒れていた。

 彰吾はすぐその人の元へ向かう。

 ある程度近づくと、その人に見覚えがあった彰吾である。

 もしかして……と思い、

「東堂さん?」

 確認するように聞く。

「え……その声もしかして、天月さんですか?」

「はい! そうです! あ、ちょっと待ってくださいね」

 倒れている沙由莉に近づき、膝を地面に付けて言う。

 彰吾は右手でフルフェイスの耳の辺を触ると、顔の部分のマスクが頬の当たりに収納され、正面の部部分が上に上がって彰吾の顔が表れる。

「本当に天月さんだったのですね。驚きました……!」

「ハハ……まぁ驚きますよね」

「そういえばあの鎧は!!」

「奴は俺が倒しました。そして、ここを爆破させたのも奴です」

 彰吾の発言に沙由莉は驚きを隠せず、口を開いている。

「天月さんを馬鹿にするわけではありませんが、倒したんですか? アイツを、私達でも手に負えなかった奴を……」

「はい、何とか。まぁ、大半はこの強化アーマーのおかげなのですが」

 ボロボロになった強化アーマーを沙由莉に見せ、笑いながら言う彰吾。

「そのアーマーは、ここの出展される筈の作品ですよね?」

「はい、そうです。草壁(くさかべ)絵里(えり)さんの所で開発された作品です」

「……今回もし全作品が発表されているのであれば、間違いなくその強化アーマーが優勝だったと思います」

「東堂さんと久能さんには申し訳無いのですが、自分もこれが優勝するんじゃないかと思っていました。それよりも、何故ここに?」

「それは天月さんを助けに来たからですよ。でも、このざまですけど……」

「あ、そう言えばそうでしたね。でも、大丈夫です。この程度の瓦礫なら退かせます」

 そういうと彰吾は沙由莉の足に挟まっていると思われる物を退かす為に瓦礫を退かしていく。

 なるべく衝撃と抜いてはいけない部分を見極めながら瓦礫を退かしていった。

 そして、退かしている最中思っていた。

 俺何で助けに来てくれる事を忘れていたんだろう? でも、思い出したから良いか。と思う彰吾であった。

 ある程度瓦礫を退かすと、沙由莉の足が見えて来た。

 だが、沙由莉の足は瓦礫のせいで足から血をながしていて、沙由莉の言っていた通り挟まっている。

「東堂さん、足怪我してますよ。それも出血もしています、どれくらい前からここにいましたか?」

「10分ぐらい前に目を覚ましたんです。起きたらこの状態で……」

『それを想定すると、この出血量は止血しないと危ないですよ。彰吾さん』

 アリスが直接彰吾に話を掛け、今の沙由莉の状態が危ないと言うことが直ぐに分かった。

「東堂さん、足は動かせますか?」

「一応動きます……。どうしたんですか?」

「一気に持ち上げますので、引き抜いて下さい」

「瓦礫が倒れてきますよ……!」

「引き抜いたら直ぐに教えて下さい。何とかします」

「……分かりました」

 彰吾は沙由莉の足が引っ掛かっていると思われる鉄のパイプを掴み持ち上げた。

 だが、鉄パイプの上に岩などが乗っかっており、持ち上げても少ししか上がらない。

 しかし、もう後には戻れない。もし今ここで手を話したら間違いなく沙由莉の足は潰され、瓦礫が崩れて沙由莉と彰吾を巻き込む。

 それだけは絶対に避ける為に腕に力を入れてあげようとする。

「あ、上がれぇええええ!!」

『彰吾さん、これ以上はさすがに彰吾さんの身体が危ないです』

 確かに彰吾の身体は限界まで来ていた。先の戦いで負った怪我、疲労が蓄積している。

 何とか着て動く分なら問題ないが、一人が持てない量の重量はさすがにアーマーを着ていても無理であった。

『彰吾さん、これ以上はもう限界です。身体を壊してしまいます』

「そんな事言ったって、もう上げちまったんだぞ!」

『ゆっくりです! 私が指示しますからその通りにゆっくりと置けば瓦礫が崩れる心配も足を潰す事もありません! ですのでわた――」

「――目の前で死にそうになってる人を見捨てる程俺は出来てない!!」

『……それは』

「ん?」

『それは彰吾さんも含まれてますか? 嘘、思ってないことであれば直ぐにわかりますから』

「当たり前だ。人を助けるのに、自分自身を守れなかったら人を助ける事なんて出来ない」

 数秒黙り込み、

『分かりました。彰吾さん、どうなっても知りませんよ。関節部に私自らパワーアシストします』

「それはどういう?」

『アーマーを着た時点で強化されます。しかし、それは肉体が強化されているので、アーマーの操作はいつでも私が出来ますので、アーマーを多少動かしてアシストさせて頂きます』

「ありが――」

『――ただし! これは強制的に彰吾さんの身体も動かす、強化するというのも含まれますので、後で辛いのは彰吾さんです。良いですね?』

「ああ、いいさ! あと、ありがと」

『……凄い人ですけど、とんでもない人を使用者にしてしまいました……では、行きます!』

 彰吾とアリスは脳内で会話し、アリスが折れて力を貸すことになった。

 アリスの力を借りて彰吾は腕に力を入れると、先程まで少ししか上がらなかった鉄パイプが軽いものを持ち上げるかの様に楽に上げる事が出来た。

 鉄パイプが上がり、沙由莉は直ぐに足を抜く。

「抜きました!」

 沙由莉が言うと彰吾は鉄パイプを上に上げてから手を離し、倒れている沙由莉を持ち上げてその場から直ぐに離れた。

 離れると、手を離した鉄パイプが落ちそのまま瓦礫と共に崩れ落ちた。

 崩れ落ちると、土煙が辺を覆う。

 土煙を吸った沙由莉は咳き込み、それを見た彰吾は土煙の届かない場所へ移動した。

 今彰吾は沙由莉をお姫様抱っこ状態で沙由莉を運んでいる。

 土煙の届かない場所に着き、彰吾はゆっくりと沙由莉を地面に下ろした。

 下ろすと直ぐに彰吾は止血の準備を行う。

「そういえば、どうして東堂さんはこんな場所に、しかも下敷きになるような事に?」

「それはですね」

 沙由莉と凛花、俊、真の四人は彰吾を助ける為に彰吾のいる発表会場に向かっていた。

 来た道を戻るように、地下シェルターに向かうまでのルートを少し通る。

 現実はそう甘くは無かった。来た道が最短であったが、そこは戦場となっていてそこを通る場合、さすがに死ぬ可能性が高い為、四人は遠回りをしてこっちに来たらしい。

 遠回りをしている最中も何度か敵と遭遇して戦闘も起きた。

 だが、Sランク三人に敵う訳も無くすぐにその場を収めた。

 やっとの思いで会場の裏手に着き、そのまま階段を下っている最中に爆破があり施設が揺れた。

 揺れと同時に階段が崩れ、沙由莉だけが落ちたらしい。

 そして、今この現状である。と沙由莉が説明した。

「ありがとう、東堂さん。後、少し痛むよ」

 話を聞きながら応急処置として止血を行っていた彰吾が言うと、沙由莉がコクンと首を立てに振る。

 彰吾は自分の着ていた服を破り、その布を使い傷口を強く縛った。

 縛られた瞬間、沙由莉は歯を食いしばり涙目になりながら彰吾の腕を強く握った。

「はい、これで止血は完了。ごめんな、痛かったろ?」

「痛かったですが、慣れているので大丈夫です」

「そうか……ごめん」

 そういうと彰吾は何事も無く沙由莉の頭を優しく撫でた。

「へ……?」

 あまりに突然の出来事で気の抜けた声を出して目を見開き、驚く沙由莉。

「あ……ご、ごめん!! いや、何か勝手に! あ、いや、本当ごめん!!」

 撫でた彰吾は直ぐに沙由莉に謝る。それを見た沙由莉は面白く笑う。

「フフフ、本当彰吾さんは面白いんですから……フフ」

「ごめん! 本当ごめ……ん? 今」

「え?」

「今俺のこと彰吾って……」

「――!! あ! いや! こ、これはですね……! そ、そう! 凛花のマネです!! どう! 驚きました!?」

 アハハハと明らかに作り笑いをする沙由莉に笑う彰吾。

「プッ……フフ」

「な、何ですか?」

「いや、別にマネとか良いから。普通に天月じゃなくて彰吾でも良いよ? 俺なんていつの間にか砕けて喋ってるし」

「あ、本当ですね」

「だろ? フフフ」

 お互いに面白くなり、二人は笑った。

 薄暗い通路の中、二人の笑い声がその通路を響かせた。

「それじゃ彰吾さん、これからは私の事は沙由莉って呼んで下さい」

「呼び捨てで良いのか?」

「ええ、どうぞ」

「それじゃあ、これからよろしく沙由莉」

「はい!」

「さてと、こっからどうするか」

 そう言うと彰吾が立ち上がり、沙由莉に言う。

「実は私のいたあの通路の奥に誰か通った様な気がするんです」

「本当か?」

「多分ですが……その時は落ちて頭を打ち付けたので意識が朦朧としてたので確信は無いのですが……」

「とりあえず、行こう」

「はい」

 彰吾は立てないであろう沙由莉に近づく。

「失礼するよ、沙由莉」

「え――キャッ!」

 沙由莉を抱きかかえ、先程同じお姫様抱っこをする。

「大丈夫か? 何かあったら直ぐに言ってくれ」

「は、はい……」

 彰吾は歩きだした。沙由莉が人影を見たと言う通路に向かう二人。

 先程の土煙がまだ舞っているのを見ると、沙由莉は息を大きく吸い。

 彰吾の胸を叩き、それを見ていた彰吾は土煙内を走り土煙を抜ける。

「アリス、周囲に人の反応があれば教えてくれ」

『分かったわ彰吾』

 アリスに伝える為に思うとそれに反応してアリスが答える。

 アリスに索敵を開始させた数秒後、

『反応あり、そのまま真っ直ぐ進む先にいるよ』

「はえーな、おい」

 早すぎる報告につい声を出してしまった彰吾。

 突然彰吾が言い出した為、ビクッとした沙由莉であった。

「ど、どうしたんですか? 彰吾」

「あ、いや何でも無いさ。それよりも、沙由莉の言ってたのは間違いでは無いそうだ」

 言いながら通路を進むと、彰吾は人影を見つけ少し早足で近づく。

 近づいて行くと、一筋の光が薄暗いこの場所を少しだが照らす。

「動くな! 手を挙げなさい、でなければ撃ちます!」

 誰かが彰吾と沙由莉に向けて銃らしき物を構える。

 だが、彰吾は沙由莉を抱えている為腕を上げる事が出来なかったが、

「この声、涼子さん?」

「え? まさか、東堂ちゃん!?」

 そういうと薄暗いこの場所から新垣あらがき涼子りょうこが姿を表した。

 抱えられている沙由莉に近づく涼子だが、警戒は解かない。

「その様子だと、助けて貰ったと思うのですが。もし、敵なら撃ちますよ」

「涼子さん、この人は天月彰吾さんです」

「え? 天月君?」

 信じられない様子なので彰吾は一旦沙由莉を下ろし、耳の当たりを触り、顔の部分のマスクが頬の当たりに収納され、正面の部分が上に上がって彰吾の顔が表れた。

「これで信じて貰えますか? 新垣さん」

 少し笑いながら彰吾は涼子に言うのであった。

 その後、涼子に状況説明を聞くと、かなりひどい状況であった。

 彰吾とアリスの予想通り、地下シェルターの真上で爆破されたらしくその爆破による崩壊で起きた瓦礫で地下シェルターにいた人達と分断されてしまったらしい。

 中には瓦礫の下敷きになり、重傷を負った人もいる。

 瓦礫から逃れた人達は今も、その瓦礫を退かす作業と何処か地上へ出るルートの探索を行なっているのだ。

「大分やられてね……真弓とも分断されてしまったの」

「そうですか……今は涼子さんは探索中だったんですか?」

「えぇ、まあね。それで見つけたのがこの光、人一人入れそう何だけど……高すぎるし登れたとしても落ちたらそれで終わりもあるし、また崩れたらそれこそ終わり」

「これ以上先は何も無いし……どうしようもないのよね」

 涼子がさすがにこの状況はお手上げだったらしく、落ち込んでいる。

 そんな涼子に彰吾は近づく。

「とりあえず、その分断された瓦礫のところに行きましょう。もしかしたら、そっちに何かあるかも知れません」

「そうね、これ以上の収穫が無さそうだし他の探索してくれた人たちも戻ってる時間だと思うし」

 涼子と合流した彰吾と沙由莉は涼子に案内され、その瓦礫の所まで向かった。

 瓦礫を退かして向こう側にいる人に会おうと今も必死にやっている人たちがそこにはいた。

 すると、一人の男性が涼子に近づく。

「新垣さん、どうでしたか?」

「ごめんなさい、地上に出れそうな所が見つからなかったの。そっちはどうでしたか?」

「すみません、こっちもダメでした。他の奴らもそうみたいです」

「そう……」

「今はそれがダメだったんで、あの瓦礫の壁を退かそうと協力している最中です」

 はぁ……と男はため息を付いて、地面に座り込んだ。

「ごめん、沙由莉下ろすよ?」

「あ、はい」

 彰吾は沙由莉を下ろすと、瓦礫の壁に近付き瓦礫を触る。

 強化アーマーを着た彰吾を物珍しそうに見る人達。

「アリス、何処からやれば良い?」

『右の瓦礫の部分が脆いので、大きな衝撃を与えればこの壁も直ぐに開通出来るぐらいには出来ます』

「分かった」

 そう思うと、彰吾は振り返り今いる人達を見て息を大きく吸う。

「皆さん離れて下さい! 今この瓦礫を退かし、向こうと開通させるので!」

 叫ぶと、それを聞いた人達が何も言わずに下がってくれる。

 全員下がるのを確認すると、彰吾は沙由莉に近付きしゃがんだ。

「沙由莉、手伝ってくれないか?」

「私でよければ……!」

 そして彰吾は沙由莉に説明して、状況を報告する。

「分かりました。では、ここに私の能力で爆破させればいいのですね?」

「あぁ、頼む」

 沙由莉が軽く首を縦に振り、返事をして小石を持って能力を発動させた。

 爆破付与された小石は彰吾に教えられた通りの場所に投げる。

 瓦礫の壁に当たった瞬間、小石が爆破し瓦礫の壁が崩れた。

 崩れると、そこは人が通れる大きさの穴が開き向こうと繋げる事が出来た。

 そして、人が一気にその開通した壁に向かって走るが、それを壁の向かい側にいた真弓が大声でそれを止めた。

 そして涼子が中に入り、今持っている情報をみんなに伝えた。

 それを知った人達は絶望に落ちる。

「くそッ! 地下シェルターは安全じゃなかったのかよ!」「お腹空いたよ、お母さん」「重傷患者もいるんだぞ!!」

 だが、それも直ぐに収まる。今ここで暴れても時間の無駄と言うことがここにいる人達全員が分かっていたからだ。

 そんな中、彰吾にある人物が近付く。

「その強化アーマー着てるのは誰?」

 後ろから声を掛けられた彰吾は声のする方へ振り返ると、そこには、

「草壁さん! 天月です!」

「あ、天月さん!? え、じゃあアリス……いや、何でも無いわ」

「アリスの事なら知ってますよ」

「そうなの?」

 涼子は言いながら自分のスマホを取り出すと、その画面に可愛らしい赤髪の女の子が表れる。

「天月さんの事、認めたんだアリス」

『はい、とっても優しい方ですよ』

「ってことは、登録もしたの?」

『はい、させて頂きました。勝手な判断してしまい申し訳ございませんマスター』

「良いの、いいーのって。アリスが認めたなら別に良いかな。それにこの人ならそのアーマーも嬉しいと思うし」

「えっ!? アリスってちゃんとヴィジュアルあったの!?」

 絵里とアリスの会話に驚く事が無い彰吾であったが、アリスに容姿が有ることに驚く彰吾であった。

『ありますよ。ただそのアーマーですと見せようとすると視界の邪魔になるので、音声だけにしてただけです』

「はー、なるほど。あ! 草壁さん、このアーマー壊してしまい申し訳ございません!」

「え? ああ! その件は良いの良いの! ここまで使ってくれた方がデータも取れるのもあるし、それに大事に使ってくれたんでしょ? じゃなかったら、謝らないと思うから」

「ありがとうございます。もう少しお借りしても良いですか?」

「うん、いいよー」

「ありがとうございます。では、失礼します」

「アリス行ってきな」

『はい、では失礼します』

 そういうと絵里の画面から姿を消し、アーマー内に入ったアリス。

 その背中を見送る絵里であった。

 絵里に見送られた彰吾は沙由莉と涼子の元へ行く。

『今考えを読み取りました。さすがです』

「これなら行けるんじゃないか?」

『可能だと思います』

「なら、話すか」

 沙由莉と涼子の元に着く前に話が纏まり、満足する彰吾。

「新垣さん、沙由莉少し話が……」

 涼子と沙由莉の元へ着くとすぐに、考えた案を話そうとする。

「なんでしょうか? 天月君」

「実は、この出展に永久機関を着けたブースターが出展されたんです。それを使って、さっき見つけた穴から俺が出て救援をしに行きます。」

「え? それは本当なの!?」

「はい、そうだよな。沙由莉」

「そうです、私のところで出したのがそうです。ただ……」

「物なら俺は見つけてあるんだ」

「いえ、そうではないんです……」

 沙由莉が何か物凄く言いづらそうにしている。何故、言いづらそうにしているのか分からない彰吾。

「実はあれは、一度使うと保存が効かないのです」

「え? それじゃあまるで」

「太陽炉……つまり、核融合炉と同じなのです。だから、こちらからのオフスイッチを搭載しているのです」

「なら、それをまた起動させれば良いんじゃないかな? 東堂ちゃん」

「それも欠点が……」

「何の欠点があるんだ? 沙由莉」

「一度起動する電力が7000kwh必要なんですよ……」

「その電力の消費って……」

「一般家庭一年分のちょっと上ぐらいの消費か……どうにかならないのか?」

「ごめんなさい、それはどうする事も出来ないの……」

 ここまできたが彰吾の案は崩れそうになる。

 しかし、今の彰吾に7000kwhとと言う電力を集める事は不可能であったのだ。

 諦めようとしたその時、

『ここの予備電源の電力が1万と少しです。それでまかなえるのでは無いでしょうか?』

 突然アリスが全員に聞こえる様に音声のみで三人に伝える。

「え? どこから?」

『彰吾さんのアーマーからです』

「このアーマーから?」

『はい、初めまして東堂沙由莉さん、新垣涼子さん。人口AIのアリスと申します。先程の案はどうでしょうか?』

「それならいけるけど、ケーブルが無いのでどうしようも」

『それは私が何とかします』

「ケーブル問題は解消したけど、残り電力の問題よ。どうするの?」

『ここの空調は安全ラインです。この通路に出ても安全ラインでしたのでそこは大丈夫かと思います。暗くなるので、その不安要素を取り除く様にしてくだされば問題は無いかと思います』

「なるほど……それならいける……」

『では、実行に移りましょう。こうしていく内に、電力も消費します』

 そして、すぐに実行に移った彰吾、沙由莉、涼子に後から説明を受けた真弓の四人で実行した。

 真弓はまず、これから何が起こるか説明をして電力消費軽減の為、空調の電源を切った。

 涼子は人がパニック彰吾と共に永久機関プラズマエンジンを取り行き。

 沙由莉は怖がっている子供を安心させる様に動いた。

 彰吾はプラズマエンジンを発見し、すぐに戻ろうとする。

 プラズマエンジンを持って、彰吾は予備電源のある所に行きケーブルを出す。

 腕からケーブルを出し、彰吾はそのケーブルを取り予備電源にさしてからプラズマエンジンにさす。

『では、開始します』

 アリスが言うと電気の供給が始まった。

 電力を供給していると、その部屋が少しづつ暗くなっていく。

 だが、供給している最中にアリスは気付いた。

『まずいです。彰吾さん』

「なんだ?」

『電力が足りません……』

「なっ!? 嘘だろ!」

『嘘ではございません……あと少し足りないのです』

「な、なんで?」

『ここを使い始めた時から大分使っていた筈です……その為足りないかと思われます』

「どするんだ……!」

『一つ、方法があります』

「なんだ!? それは!」

『この強化アーマーで使っている電力、パワーアシストを使えばどうにかなります』

「それを使おう、アリス!」

『ただ、これを使うと彰吾さん。あなたの身体に掛けていた負荷が一気にきます。それは最悪死ぬかもしれません。それでもやりますか?』

「……、最悪なんだろ? なら、やるよ。傷何かは生きていれば治るから良いよ」

『分かりました。パワーアシストをカットします。良いですね?』

「こいッ!」

『パワーアシストカット。プラズマエンジンの供給完了しました』

 供給が終わり、彰吾はすぐにプラズマエンジンを起動させようとした瞬間、

「――!! グゥッ!?」

 突然彰吾の身体に激痛が走った。彰吾はその場から動けなかった。

 近くに居た沙由莉が心配になり、彰吾に近付く。

「彰吾さん? どうしたんですか?」

「い、いや……大丈夫」

 彰吾は身体に激痛が走りながらも、プラズマエンジンを付けたブースターを背負い穴の空いた天井に向かう。

 足が重い事に初めて分かる彰吾。一歩一歩歩くだけで、足に来る衝撃に負荷。

 アーマー自体の重量、パワーアシストが無いだけでここまで負荷が凄いとは思って居なかった彰吾。

 どこかで気を抜けば、気絶してしまうのは間違いないと思い、激痛が走る身体に自ら鞭を叩き、意識を飛ばさないように歯を食いしばる。

 瓦礫のせいもあり、床に岩などが落ちており、それを避けるのに足を上げる動作すら激痛が走る。

 着ているだけで強化されるアーマーをきて、その軽減させるアシストカット。

 本来ならやってはいけない行為だが、彰吾は今優先するべきはここにいる人の命。

 しかし、その希望である彰吾が倒れてしまっては本末転倒。

 アシストカットしている彰吾は死ぬ可能性もあり、更に何時でも気を抜けば気絶する勢いのある彰吾は更に気を引き締め地上に出れると思われる穴に向かう。

 向かっている最中、彰吾の手を誰かが握った。

 何だ? と思い、彰吾は握られた方を見る。

 そこには涙目になりながら、彰吾の手を強く握る小さな女の子がいた。

「お母さんが……お願い……お母さんを助けて……」

 彰吾は地面に膝を付け、女の子の目線に合わせるようにしゃがむ。

「大丈夫、お兄さんに任せて。だから、そんなに泣いてるとお母さんが逆に心配しちゃうよ?」

 彰吾は安心させる様に、優しく女の子に言う。

「ほんと……?」

「あぁ、お兄さんが絶対に助けを呼んでくるからそれまでお母さんを守ってあげて? 出来るよね?」

「うん! 私がお母さん守る!」

 それを聞いた女の子は涙を拭き、笑顔で答えた。彰吾はその女の子の頭を優しく撫でて、立ち上がる。

 女の子の頭を撫でるときも激痛が走ったが、今はもう激痛なんかどうでも良かった。

 そして彰吾は穴の空いた天井の場所に着き、涼子から一枚の紙を渡された。

「これを警察もしくは、ガーディアンの誰かに渡せば協力してくれます」

 彰吾は涼子から貰った紙をアーマー内にある収納部分に入れて、準備に掛かる。

 プラズマエンジンを起動させ、プラズマを発生させる。

 十分にプラズマが起動した所でブースターを起動させた。

『彰吾さん、私は何も出来ません。彰吾さんの腕に賭けます』

「あいよ、任せろ」

 ブースターが起動し、少しだけだが彰吾が地面から浮く。

 浮いた所に涼子に肩を貸されながらも彰吾に近付く沙由莉。

「彰吾さん、体制制御はかなり難しいと思います。が、アーマーを着ているのと、彰吾さんなら出来ます。なので、よろしくお願い致します」

「すぐ戻る。待っててくれ」

「はいッ……!」

 ブースターは羽に上下させる事で前進、後進出来るように設計されていて、その持ち手で操作する。

 持ち手にブースターの点火ボタンがあり、軽く押し込むとブースターの点火で少しだけ浮くか、ふかすのどちらかに出来る。

 これは、押し込み具合によって左右されるが、彰吾は少しだけ浮かしていた。

 しっかり押し込むと飛翔する事ができる。

 彰吾は予め説明を受けており、それを思い出しボタンをしっかり押し込み飛翔した。

 一気に昇る彰吾、どんどん光が消えて行きそうになる。

 それもそのはずだ、現在の時刻は18時を回ろうとしているのだ。

 日も落ちる頃である。アリスのアシストなしだとライトも付かない為、この光が無くなったら何かに激突して墜落は間違いなかった。

 彰吾はボタンを更に押し込み、速度を上げる。だが、速度を上げても間に合いそうに無い。

「くそッ!」

 彰吾は自分自身に能力、無重力を使う、これだけはしたく無かった。

 理由として、重量があるからこその今の速度。今彰吾は約90キロは出ている。

 だが、彰吾自身に能力を発動させる。つまり、無重力を使うと彰吾自身の重量がカットされ、ブースター自体の重量のみになる。

 ブースター自体の重量で飛べなければ、意味がない。それと対象の重量で飛べるか飛べないかの問題。

 しかし、その対象がいて操作はしているがその対象が軽ければその分速度はでる。

 そう今の彰吾は重量を完全カットした状態で、ボタンを押し込んでいた。

 彰吾の重量ありで90キロ、今の速度。

「ぐッ……!! ぉおおお!!」

 200キロである。

 一気に穴から抜け出す彰吾、抜け出した瞬間に能力を解除しボタンの戻しブースターの出力を落とす。

 抜け出したのはいいが、かなりの高さまで昇ってしまった。

 ゆっくり降下していると、

「そのままゆっくり降下しろ、変なマネをしたら撃つ」

 突然背後から何者かに話を掛けられた。

「俺は新垣涼子さんから大事な物を預かっている。敵では無い」

 彰吾はゆっくり降下しながら背後にいる何者かに返答する。

「新垣涼子からか、何を預かった?」

「紙だ。今俺は地下シェルターから出てきた」

「何を馬鹿なこと……地下シェルターは爆破により入口全てが瓦礫による封鎖されている」

「本当だ! 信じてくれ! 地上に降りたら紙を渡す! その後は地面に伏せるから信じてくれ!!」

「……まずは地上に降りろ。急降下は出来るか?」

「やってみます……」

 彰吾はボタンを押すのを止めてブースターを止め、急降下する。

 有る程度地上に近くなったら、ブースターを点火させて地上に降りた。

 彰吾が地上に降りると同時に、背後にいる何者かも着地する。

 彰吾はそのまま紙を取り出そうとする。

「こっちを向け」

 背後にいる何者かに言われ、彰吾振り返る。

 そこにいたのはペイルライダーであった。だが、彰吾はペイルライダーの存在を知らない。

 彰吾は俺の着ているアーマーと良く似ている。と思いながら、紙を取り出してペイルライダーに渡す。

 その後彰吾は手を前に出して伏せる。

 ペイルライダーは涼子が彰吾に渡した紙を読む。

「こちらペイルライダー。地下シェルターからの生存者発見、発見者と共に地下シェルターに残された人達の救援に向かう」

『了解、現在位置を特定次第隊員を向かわせる。それまで、救助を頼む』

「了解」

 ペイルライダーは本部に通信をして現状持っている情報を教え、通信を切った。

「立っていい。後、何処から出てきたのか教えてくれ」

 ペイルライダーは伏せている彰吾に言う。

 彰吾は言われたとおり、立ち上がりペイルライダーを見てから自分が来た所を案内する。

 案内すると、彰吾が出てきた所に指をさす。

 ペイルライダーはその近くに着くと、本部に連絡をして位置を特定させた。

 通信を終えると、ペイルライダーは彰吾を見る。

「……救助にあたる。お前が先に行け、俺はこの先を知らない」

「分かった」

 そして彰吾は自分で抜けた穴に入り、降下した。

 ペイルライダーは腕にフックショットがあり、それを入口当たりにさして彰吾と共にゆっくり降下していった。

「キャアアアアアアアアア!!」

 降下していると突然地下シェルターから叫び声が聞こえた。

「下で何か起きたのか!」

「一気に降ります!!」

 そういうと彰吾は先程と同じように急降下して急いで地下シェルターに向かう。

 彰吾は薄暗いが、床が見えるとブースターを点火して勢いを殺し、着地した。

 ブースターを背負いながら閉じ込められた人達の元へ行くと、そこにいたのは、

「何だ! あの人みたいな奴は!!」

『ドローンです!! 今は武装が無い様ですが……、自爆しようとしています!!』

「なッ!!」

 彰吾が救援を呼んでいると、その後に瓦礫の中からドローンが表れたのだ。

 ドローンは足を壊れており、上手く歩けていないが自爆しようと胸の辺が光っていて、それを知っていた涼子は皆を避難させた。

 しかし、避難出来る所が無く皆で開けた穴を塞ごうと色々な物で塞いだがドローンに壊され突破されていた。

 そしてドローンは人が避難した場所で自爆しようと光っていた胸の部分がより一層光を放つ。

『まずいです!! 後もう少しで爆発します!!』

「クッソ!!」

 彰吾はブースターを点火させ、自爆しそうなドローンに突撃する。

『後、5秒で爆破します!!』

 彰吾はドローンの元まで最速で辿り着き、ドローン掴み引きずる。

『後3秒です!!』

 ドローンの胸に彰吾は一撃いれる。だが、ドローンの強固な装甲を貫く事が出来なかった。

『後、1秒!!』

「貫けろおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 そして彰吾は、



 ドローンの胸を貫き、爆破を止めた。



 貫く時に、何か折れる音と切れる音、腕の部分が砕け散りドローンを貫いた腕は生身であった。

 彰吾はそのまま倒れる。

 倒れた彰吾に閉じ込められた人達は直ぐに救助にあたり、腕の出血の止血を行なった。

 足を引きずり、息を荒くしながら彰吾に近付く沙由莉。

「彰吾さん! 彰吾さん!!」

「……った……」

「え……?」

 彰吾はマスクを取り、笑顔で表れる。

「間に合った……」

 その言葉に沙由莉は泣く、人を助ける為にボロボロになった彰吾。

 ドローンを貫いた際に腕の骨は砕け、一部の関節が切れている。

 そんな中で発した言葉が「間に合った」思わず、沙由莉は人の為にここまで出来る彰吾に感動して泣いてしまった。

 その後、ペイルライダーが表れて重傷患者の手当を行い一命を取り留めた。

 彰吾は今までの疲労と怪我で意識が切れて気絶。

 19時に救助が行われ、地下シェルターに閉じ込められた人達が地上に出ることができた。

 しかし、この戦いの爪跡は酷く復旧までに時間がかかる。

 死傷者も出したこの事件は、これからも語り継がれるであろう。

 何より、この事件のきっかけとなったゴーストのリーダー、イリアスが捕まっていはいない。

 ペイルライダーはこの騒動を迅速に対処、被害も予想以上に抑えた事が軍に認められ、ファントム部隊はゴーストのリーダーイリアスの捕獲、排除命令を出した。

 彰吾は地下シェルターの人達の救助に大きな貢献をしたため、医療費が全国持ちで最新医療器具の備わっている病院に搬送。

 彰吾の来ていた強化アーマーもしっかりと評価され、草壁絵里とその仲間は軍の開発部へのスカウトされた。

 何故、ゴーストがこの様な事件を起こしたのか彰吾達は知らない。

 だが、人には人の正義がある。ゴーストにはゴーストの正義があり、軍には軍の正義がある様に。





PM 20:37 / 海上都市路地裏




 薄暗い路地裏に何人もの男たちが倒れていた。

「た、助けてくれぇ!! 俺達がわ、悪かった!!」

「……」

 フードを深く被り、顔の見えない男か女かも分からない奴が男の胸ぐらを掴んで壁押し上げている。

 そして、左手を男の顔に近づけようとする。

「いやだ……! やめてくれ……! やめてくれ!!」

 左手が男の顔に触れた瞬間、

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 路地裏で大きな声で叫び、断末魔を上げる。

 触れられた男は目から血を流して、体の穴という穴から血を流して死んだ。

 死んだのを確認すると、フードを深く被った存在は手を離して男を地面に下ろした。

 死んだ男を見たフードを深く被った存在はそれを見てニヤァ……と笑う。

「オイオイ、やめろよな。それ処理すんの俺なんだぜ?」

「……」

 突然背後から話を掛けられるが、それを無視するフードの存在。

 振り返り、声のする方へ向く。

 振り向くが影のせいで、顔は見えないが誰だか分かるフードの存在。

 無視したまま、その影で顔の見えない存在の横を通った。

「フゥ……後処理はまかせた。か……ハイハイ」

 嫌そうにするが、そのまま手のひらを路地裏の倒れている男達に向けると、一瞬でその場から消えた。

 消すとその場から去り、フードの被った存在を追う。

 追いついて、隣に立って歩く二人。

「ボスがお呼びだ、行くぞ」

「……了解」

「後、無駄に人を殺すな。変な奴らが動いたら面倒だからな、俺も面倒だ」

「……」

「無視かよ、まぁいい。行くぞ」

 そして二人はその場から一瞬で姿を消したのであった。





 つづく

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