第9話 変わりゆく日常Ⅸ

 PM 15:42 / 地下シェルター行き通路



「んじゃ……後で助けに来てね?」

「え?」

 彰吾が意味の分からない発言をした瞬間、彰吾は緊急防護壁外側に引きずり込まれ、緊急防護壁の重低音の閉まる音だけが辺りを響かせた。

「――!! 天月さん!! 天月さん!!」

 耐えられず、沙由莉は緊急防護壁の壁を叩く。

 凛花は立ち上がり、沙由莉に近づく。

「沙由莉」

「聞こえますか!! 天月さん!! 天月さんッ!!」

 凛花が沙由莉に声を掛けるが、沙由莉には全く届いていない。

 今もずっと壁をドンドンと何回も叩いて、叫んでいる。

「沙由莉、聞いて」

「今行きますから!! 今助けに行きますから!!」

「――ッ!」

 耐えられず、凛花は沙由莉の肩を掴んで凛花の方に向かせると、そのまま沙由莉にビンタをした。

 ビンタされた沙由莉は、数歩後ろに下がって壁に背中を預ける。

「いい加減にしなさい!! 東堂沙由莉!! あなたの今する事はここで時間を取る事では無いでしょう!!」

「…………」

「それに彰吾さんの発言を聞いてなかったのですか!! 俺は死なないって、そう言っていたでしょう!!」

「私たちが、太刀打ちできない相手に天月さんが、勝てる訳無いでしょう!!」

 沙由莉の言っている事は間違いではない、そもそもSランクが太刀打ち出来ない相手にも関わらず、Bランクの彰吾がその相手を出来る筈が無い。

 沙由莉の発言に、図星を突かれて黙る凛花を睨む沙由莉。

「あいつは死にませんよ。東堂さん、久能さん」

 今まで黙っていた俊が口を開く。

「宮下さん、私たちが勝てないと言うのに、どうして天月さんが死なないと言えるのですか?」

 少し怒りながら、沙由莉は訳の分からない発言をした俊に言う。

「アイツがああやって、何か言うときは絶対にアイツはやるんです。そういう男ですから」

 俊は真っ直ぐ沙由莉を見る。沙由莉は俊の目を見るが、その目は真っ直ぐで嘘をついている様に見えなかった。

「……本当ですか……?」

 俊の発言と目を見て、沙由莉は不安げに俊に聞く。

「今までがそうでしたから。今回も多分、大丈夫です」

 真剣に、真っ直ぐ沙由莉の目を見ながら言う。

「……行きましょう。地下シェルターにいる一宮君の所に」

 俊の発言を聞いて沙由莉自身もどこか、彰吾なら大丈夫だと思えた。

 出口に向かって走る三人。

「凛花、ごめんなさい。次から気を付けます」

「ううん、私も何もできなかったから……でも、今は彰吾さんを信じましょう」

「はい」

 沙由莉は小さく、力強く答える。

 大丈夫、天月さんなら何とかする筈。と思う沙由莉であった。



PM 15:42 / 地下シェルター行き通路緊急防護壁内側



 鎧の存在から逃げようと緊急防護壁を抜けようとした彰吾の足を掴み、そのまま引きずり込まれた。

 勢い良く引きずり込まれ、鎧の存在に足を掴まれたまま壁に背中を打ち付けられる。

「うぐッ――――」

 壁に勢いよく打ち付けられた瞬間に鎧の存在は彰吾の足を離し、そのまま地面に落とす。

 背中を強く打ち付けた彰吾は息が出来ないで、その場で悶えていた。

「ンフフフフ! アハハハハ!!」

 悶えている彰吾を見下しながら笑う鎧の存在。それを睨む彰吾。

「俺が憎いか? 悔しいか?」

「フッ……やっぱだせぇ鎧だな」

「――――!!」

 彰吾は鎧の存在を煽り、それに反応したのか彰吾に近づく。

 壁際にいる彰吾に近づいた鎧の存在は、

「口の減らねぇガキだなぁ!!」

 思いっきり彰吾の腹部を蹴る。

「ヴッ――――」

 蹴られた彰吾は腹部を両手で押さえて、悶える。

「ぁ……、カッ……、ッあ……」

 彰吾は歯を食いしばり、胃からの異流物を来させないようにした。

 悶えている彰吾の首を片手で掴み、そのまま壁に付けながら上げる鎧の存在。

「本気では蹴ってないからな? 本気で蹴ったら、即死だったぜ?」

「グッ……! ぁあ……」

「何ー? 聞こえないけどぉ?」

「……れ……」

「あ?」

 首を掴んで壁に押し上げられている彰吾は、鎧の存在に言う。

 それが聞き取れず、鎧の存在は顔を彰吾の横に寄せて何を言ったか確認する。

「くそったれ……」

 横に寄せたが彰吾の発言を聞いて元の位置に戻り、彰吾の首を少し強く絞める。

「うぐッ……!!」

 そしてそのまま、壁を背にさせるのではなく、通路側に彰吾を吊り下げる。

「が……あ、あ……」

 彰吾が苦しそうにしながら、鎧の存在の手を強く握って離せと抵抗を見せた。

 吊り下げた状態で無言の鎧の存在。

 だが、突然腹部に激痛が走る。

「――――!?」

 激痛が走った瞬間、鎧の存在の手から逃れられ、地面に落とされる。

 落とされた彰吾は片手で口を押えるが胃からの異流物の流れに逆らえず。

「おヴぇ……」

 吐き出してしまった。吐瀉物としゃぶつを通路床にぶちまける。

「惨めだな、天月彰吾」

「……!!」

 吐き気が収まり、何をされたか大体分かっていた彰吾は鎧の存在の発言を聞いて睨む。

「速すぎて見えなかったか? お前なら避けられると思ったんだがなぁ……ナイフとククリ避けてたしぃ……」

 ハァ……ハァ……と息を荒くしながら聞く彰吾。

 四つん這いになっている彰吾にゆっくりと近づく鎧の存在。

「そういやぁ、俺の名前を言って無かったな」

 彰吾の目の前に立ってから、目線を彰吾と同じぐらいに腰を下ろす鎧の存在。

「俺の名前はルドガー。ゴースト研究戦闘員だ」

 ルドガーは彰吾に軽い自己紹介をした。彰吾はヘッ……、と言うと、

「誰もお前の名前なんて聞いてねぇよ……」

 彰吾が言った瞬間、ルドガーは大きな拳を彰吾に振り下ろす。

 彰吾は能力を使って自分自身を後ろに下げて、距離を取りながら振り下ろされた拳を避ける。

 振り下ろされた拳は床に当たると、当たった床周辺が凹んだ。

 振り下ろした拳を上げるルドガーは上体を起こす。

「俺はなぁ……テメェみてぇな格下に文句とか言われんのが一番嫌いなんだよ!!」

 ルドガーは彰吾に怒りを露わにする。彰吾はそれを聞きながら腹部を押えて咳き込む。

 そして、ルドガーは彰吾に向かって走る。

 拳を振り上げているのを見た彰吾は手で地面を強く押して、その慣性を使い上体を起こす。

 起こして、自分の後ろに重力を掛けて自分自身を後ろに下げる。

 ルドガーは彰吾のいた場所に拳を振り下ろし、また通路の床が凹む。

 そのまま彰吾はバク転をして華麗に避ける。バク転をした際に彰吾はルドガーを見ていた。

 ルドガーはすぐに拳を振り上げなおして、バク転をしている彰吾に向かう。

「死ねこのクソガキイイイイイイイイイイ!!」

 バク転している最中も可能な限り、ルドガーを見ていた彰吾は近づいて来るのも確認していた。

 ルドガーは彰吾に向け拳を放つ、態勢を整えた彰吾はその拳を捉える。

 ルドガーの視野から彰吾が一瞬消える。

「なッ!?」

 だが、彰吾がルドガーの腕を掴んでいるのを見た。

 彰吾は殴られる瞬間に態勢を低くして、ルドガーの腕を取り背負い投げをしようとする。

 この時、ルドガーは思った。

 馬鹿が、この俺を投げようとしてんのか? 例え、相手の勢いを使ったとしても相手と自分の重量と力が見合って無ければ投げられるはずが無いだろうが。

 この鎧のおかげで強靭足腰を手に入れたんだぜ? お前なんかに投げられる筈が無い。

 思った瞬間、ルドガーは浮遊感覚を覚えた。よく見ると、ルドガーが浮いている。

「お前の真正面から殴る瞬間を俺はずっと待っていた」

 驚きを隠せないルドガーに彰吾が言う。

 ルドガーはそのまま、体を浮かせさせられ背負い投げをされ、通路床に叩き付けられる。

 ルドガーが殴った床よりも、周りが凹み、ヒビが入った。

 背負い投げをした彰吾は上向けで倒れているルドガーを見る。

「こんなんで死なないだろう? お前は、だが脳震盪と強く体を打ち付けたからな。当分は動けないはずだ」

 彰吾がルドガーを見下ろしながら言う。

「俺の能力は重力グラヴィトンってのは知ってんだろ? この前Bランクになってな、俺は反重力と重力のベクトル操作が出来る様になったんだ。そして、もう一つ」

 指を一本だして言いながら、彰吾は自分自身を触れると、彰吾が浮いた。

「無重力を使えるようになった。だが、無重力は俺自身が触れてないと発動しないからな。それと、重量制限も今の俺には存在する。まぁ、ランクが高くなればその重量制限もほとんど無くなるだろうな。それと能力を使っている最中は全く動けない訳ではない。多少なら動かせる」

 そして、彰吾は自分の体に触れている手を離して、地面に着地する。

「この様に対象から手を離すか、自分自身で能力を切り替えれば無重力を消せる。お前を投げ飛ばしたのは、お前の腕を掴んだ時にお前に無重力を発動させ、無重力状態で重さを感じないお前を勢いと腕を引く」

 地面に着地して、ルドガーを睨みながら見下ろす。

「俺の真上を通過した時にお前に重力を掛けてそのままお前を投げただけだ」

 その場を去ろうと、彰吾は行こうとした。

「いや、今のは効いたよ。天月彰吾」

「――!!」

 思わず彰吾は振り返りルドガーを見る。振り返ると、彰吾の右足をルドガーが右手で掴んだ。

「しま――!! くっ……化け物が……!」

 ルドガーに向かっていった瞬間、物凄い勢い壁に打ち付けられる。

 突然、足を引かれて壁に強く打ち付けられた彰吾はうまく受け身を取る事が出来ず、真横から体と頭を打ち付ける。

 打ち付けられた瞬間、脳震盪のうしんとうを起こし、彰吾の視界が一瞬暗くなり地面に落ちる。

 だが、すぐに意識を戻す彰吾であったが体をうまく動かせず、ルドガーが立ち上がろうとする。

 ルドガーは立ち上がると、彰吾の足を持ち上げてか左手で彰吾の左足を持ち直す。

 持ち直した際に沙由莉達の方に向いていた為、逆方向の通路側に向かう、

 そして持ち上げられた彰吾は、体が動かせず宙吊り状態であった。

「化け物か、なら能力者全員は化け物だなぁ……。さて、さっきのは効いたぞ? 少し息が出来なかったからな、このお返しはさせて貰う。10倍返しでな……」

 宙吊り状態の彰吾を見ながらンフフフフと笑うルドガー。

 彰吾は脳震盪のうしんとうで体がうまくうまく動かせずにいたが、話は聞いていた。

「じっ…………くりと! 苦しんで貰うぞ」

 ルドガーは右手を引き、無抵抗の彰吾に向かって正拳突き放つ。

 彰吾は防御する事が出来ないため、ルドガーの正拳突きを受ける。正拳突きを体と顔に当たると、そのまま吹っ飛ばされて通路床を二回バウンドする。

 そのままゴロゴロと転がり、ある程度転がると止まった。

 やっと体を動かす事が出来る様になった彰吾は起き上がるために床に手を付ける。

 脳震盪後にルドガーの攻撃を直撃で受け、更に体を強く床に叩き付けられた彰吾はうまく体に力が入らなかった。

 立ち上がろうと力を入れると、肋骨辺りに激痛が走る。

「――つぅ!」

 肋骨の辺りを抑える彰吾。彰吾は今気づいた。

 頭から血を流していて目の辺りが腫れ、頬が軽く切り傷があり、肋骨が折れている事に。

 だが、何とかルドガーから逃げて沙由莉達の増援まで生きねば殺される。

 それを分かっていた彰吾は血の味がする口の中で歯を食いしばり、手に力を入れる。

 激痛が走るが、それを堪え上体だけ起こす。

 息を吸うだけでも肋骨に激痛が走り、それを歯を食いしばって痛みに堪える。

 彰吾は立ち上がり後ろの通路に向かって能力を使って重力操作をしてそのまま、滑るように移動する。

 ルドガーはンフフフフと笑いながら逃げる彰吾を見る。

「殺さないで生かすってのも難しいんだぜ? まぁ、逃げてくれるんなら俺は嬉しいがな」

 彰吾はルドガーから逃げる時に緊急防護壁のボタンを押して緊急防護壁を下す。

 ボタンを押した時に警報が鳴り、押した時に激痛が走るが彰吾はそのまま下されていく通路に逃げる。

 ルドガーはゆっくりと歩きながら彰吾に近づく。

「別に緊急防護壁なんぞ、2分とちょっとあれば壊せる。さて、逃げろよ? 天月彰吾」

 そして、緊急防護壁が下され彰吾は真っ直ぐの通路を進む。通路を進むと、左右に二手に分かれる通路になっていた。

 しかし、正面の壁にディスプレイ地図がありどっちが地上に行けるか確認する。

「う……そだろ?」

 地図を見た彰吾は絶望する。

「なんだよ……」

 なぜなら、

「どっちも行き止まりじゃねぇか……!!」

 だが、彰吾は逃げ道が無かった。この場に居れば、ルドガーに殺される。

 どっちかに行っても結局殺される。どうしようも無かった。彰吾はもう一度地図を見る、現在地を知るためだ。

「今いる位置が中間で……左が控室の多い通路と、右が展示発表物保管室……」

 現在位置を確認すると、後方から大きな音が響く。

 彰吾は後ろを振り返り、緊急防護壁を見る。すると、緊急防護壁の一部が盛り上がる。

「くそッ……!!」

 彰吾は緊急防護壁のボタンを押して、ディスプレイ地図を壊して……の方の通路に向かう。

 緊急防護壁が下されると、ルドガーはそれと同時に緊急防護壁に穴をあけて、そこにタックルを数回して破壊する。

「ふぅ……、さて、天月彰吾はどこだー?」

 通路を進み、正面の分かれ道に着く。そして、正面の壊されたディスプレイ地図を見る。

「良い行動だ。相手にこの通路を把握させないように破壊したか。だが……」

 ルドガーはここの施設の地図は全て頭に入っていたため、あまり意味は無かった。

「さて、天月彰吾は……、バカではない。それを考えると」

 ルドガーは彰吾が向かったであろう通路に行き、緊急防護壁の前に立つ。

 緊急防護壁の前に立ち、拳を振り上げて緊急防護壁を殴る。



 彰吾は通路を激痛が襲うが通路を走っていた所に、後方から先ほど聞いた大きな音が響く。



 ルドガーは緊急防護壁を壊すために、今度は力を入れてもう一度殴る。



 また、後方から大きな音が通路を響かせる。



 ルドガーは緊急防護壁を殴ると、次で壊れるぐらいの所まで凹んだ。



 彰吾は、急いで通路を走る。



 そして、ルドガーは少し下がって助走を付けて緊急防護壁に突進し、緊急防護壁を突破した。



 彰吾は部屋に入り、身を隠した。



 ルドガーは通路を進み、部屋に入り辺りを見渡す。



 部屋に隠れた彰吾は息を潜めて、気配を出来るだけ消す。



 部屋の隅にある、ロッカーに近づくルドガー。



 いつ来てもおかしくない状況で彰吾は気配を殺す。



 ロッカー前に着いたルドガーはロッカーを見ると、少しだけロッカーが動く、それを見たルドガーは口元を緩めて、拳を振り上げる。


 そして、


 拳がロッカーに放たれ、ロッカーが潰されてその反動で壁が凹んだ。

 ガシャンと音を立てて潰れたロッカーが倒れる。倒れたロッカーの隙間から血が流れた。

 ルドガーはロッカーを掴んで、表面を壊して中身を確認すると、

「――!? なに!?」

 そこにいたのは、

「しらねぇな、コイツ……って、事はこの控室のどれかにいるって事か」

 ここの従業員であった。従業員は怖くなり、ロッカーに隠れてやり過ごそうとしていた結果。

 ルドガーに殺されてしまった。ルドガーは部屋を出て、10以上ある部屋を虱潰しらみつぶしに探す事にした。



 一方彰吾の方は、ルドガーが全く予想もしていなかった右の展示発表物保管室の方へ着ていた。

 彰吾は相手の意表を突こうと思ってこっちに着た訳では無かった。

 直感でこっちに着ていたのだ。展示物保管室に入って息を潜めて気配を消していた彰吾だが、音が聞こえなくなりふぅ……と息を付き辺りを見渡す。

 かなり広い部屋であった。彰吾はその部屋を歩き、どこか隠れる場所か、逃げれる場所を探した。

 探していると、見覚えのある物を見つける。

「あれは……」

 見覚えのある物に近づく彰吾は驚く。

草壁くさかべさんが作った強化アーマー……」

 何を思ったのか彰吾は強化アーマーに近づき、起動できるか確認する。

 強化アーマーに触れると、強化アーマーが起動した。

 起動すると、胸部から腕、足の部分が開きいつでも装着でき様になったいた。

 彰吾が強化アーマーを装着する為に、後ろ向きに歩いて足を入れて、背中を預けると胸部から腕へと強化アーマーが装着され、最後に頭部の部分が下されて、強化アーマーが彰吾に装着される。

 装着出来たのは良いが、腕を動かす事が出来ない。一体何が起きたのか彰吾には分からないでいた。

「おいおい……!! 嘘だろ、なんでここまで来て動かないんだよッ……!!」

 頭部のフルフェイス無いで言う彰吾の目の前に文字が表示される。

「シス……テム、エラー……だと……」

 歯を食いしばり、強化アーマーを脱ごうとする。だが、

「な、何で脱げねぇんだよ……!! 俺が思ったら脱げるように作られてるんだろ!!」

 彰吾は強化アーマーを着た時に脱ぐ時はどうしたらいいのか、草壁絵里に聞いていた。

 この強化アーマーは装着者の脳波を感じて反応するらしい。

 そんなことをしていると、展示物保管室の扉が突然吹っ飛ばされる。

 扉を壊した張本人も現れた。

「変に時間食っちまったな。だが、ここ以外どこにも逃げ場は無いぜ? 天月彰吾」

 とうとうこの展示物保管室までやってきてしまった。

 ルドガーは辺りを見渡し彰吾を探す。彰吾は強化アーマーを脱ぐ事が出来ずにいた。

「クソ! おい勘弁しろよ!! 俺は死ねねぇんだよ!!」

 小声で強く言う、すると、

『音声認識……不可、登録されている物と違います』

 突然彰吾の目の前に文字と音声が聞こえる。

「何言ってんだ……? コイツ……」

『該当なし。連続で間違える場合、強制排除システムを起動させます』

 などと、言ってくるシステム。

 クソ!! どうしろってんだよ!! パスワードとか俺わかんねぇぞ!! と思う彰吾。

「クソめんどくせぇ!!」

 悩んでいる彰吾にルドガーは切れて、辺りの作品を壊していく。

 ルドガーは大きな拳を作品に向けて放つ。その拳を受けた作品は粉々に壊される。

 そして次々に作品を壊して進むルドガー。

 その先に強化アーマーを装着して抜け出せない彰吾がいる。

「ふざけんなよ……! 俺はこんな所で死んでたまるか……!」

『該当なし』

「約束したんだ……! 死なないって……ッ!!」

『該当なし』

 どんどんルドガーが彰吾に近づく。

 今の現状をどうしようも出来ずにいる彰吾。

「……どうして欲しい……?」

『該当なし。後二回間違えると、強制排除を行います』

 生きる事に必死に考え言うが、該当なしを答えられた彰吾。

「人の脳波を感じるんだろ……? なら、分かるはずだ……! 俺の怒りが、生きようとして必死にもがいている事を……!!」

『該当な――』

「俺の脳波を感じているなら分かれよ!! 人が一生懸命作った作品が壊されて! それにたった一つしかない人の命をもてあそぶアイツへの怒りを!!」

 つい大きな声を出してしまったが、幸いルドガーは作品を壊す時の破壊音が凄まじく聞こえてはいなかった。

 だが、あと数cmまで近づいていた。もうだめだ……と思った彰吾。

『装着者として登録を行いますか?』

 と、彰吾の目の前に文字が現れる。

「は?」

 突然の出来事に分からなくなった彰吾だが、すぐに冷静になる。

「……登録を行う……」

『プロセス1クリア。あなたのお名前をフルネームでどうぞ』

「天月彰吾」

『確認しました。天月彰吾。プロセス2クリア。では最適化、システムを起動します』

 よくは分からないが、強化アーマーの起動に成功する彰吾。しかし、もうそこまでルドガーが近づいて来ていた。

 ルドガーは彰吾の着ている強化アーマーを見てにやりと笑う。

「固そうだなぁ……どれ、本気で殴ったら壊れるかどうか俺がテストしてやろう」

 強化アーマーの前に立ち、ルドガーは拳を振り上げる。

 速く! 速くしろ!! このままじゃ、このままじゃ!! と拳を振り上げるルドガーを目の前に焦る彰吾。

 拳が高い所まで上がる。彰吾の目の前に最適化とシステム起動中。と横スクロールで流れている。

 そして、拳が振り下ろされた。くそッ!! と思った瞬間、彰吾の目の前に完了の文字が表示された。

 表示された時にはルドガーの拳は目の前まで迫っている。

 だが、彰吾はルドガーの拳が迫ってくるのがとても遅く見えていた。

 彰吾はルドガーの拳を避け、そのまま拳を掴み投げる。ルドガーはそのまま投げられ、床に叩き付けられる。

「なんだ!? 何が起きた!?」

 投げられたルドガーが驚きながら強化アーマーを着ている彰吾を見る。

 彰吾はとっさの判断でルドガーを投げたが、彰吾は投げた事に驚いていた。

 先ほど強化アーマーを着る前に投げたが、かなり重かった。

 能力で無重力にしたとはいえ、重量制限がある。その重量制限を軽く超えていたのだ。

 今の彰吾は無重力で浮かせられる重量は100kgまで浮かすことが出来る。

 しかし、今彰吾は能力を使わずにルドガーを投げる事が出来た。

「すげぇ……」

『それはそうですよ。身体強化にパワーアシストも備わっているのですから』

 投げた事に驚いて呟くと突然、声が聞こえた。

「どこだ!? どっから!」

『驚かせてすみません。この強化アーマーに入れられた人工AI、アリスと申します。彰吾さん』

「アリ……ス? 人工AI?」

『はい。私が人工AIアリスです。製作者(マスター)は草壁絵里さんです。ちなみに、声に出さなくても思えばこれを着ている最中でしたら、私とは会話出来ます』

「あの人が、作ったのか……すげぇな、後入れられた?」

 アリスの言ったとおり、彰吾は心の中で思い話した。

『はい、素晴らしい方です。そして、私は多分このアーマーに入れられたのは私を起動させてこの強化アーマーを私に動かせようとしてたのでないかと思います』

「なるほどな……ん? アリスがこれに入っているなら何で起動しなかったんだ?」

『それは多分――』

「無視してんじゃねぇぞ!! クソ野郎!!」

 ルドガーが彰吾に向かって拳を振り下ろす。それを彰吾は後ろに跳躍して、ルドガーから距離を取る。

『話が途切れましたが、多分、電波の届かない所にいるのか、ジャミングされているかも知れないですね。辺りに妨害電波を感じます』

 彰吾が後ろに跳躍している最中にアリスが彰吾に説明した。

 着地をして彰吾はルドガーを見る。

「……思ったんだが。何で俺が着た時にしっかりと起動してくれなかったんだ?」

『それは、あなたを試してました』

「なぜ……?」

 ルドガーは彰吾に突進を仕掛ける。

『敵なら強制排除を行ってから起動して、倒そうと思ったからです。まぁ、それだけでは無いのですが』

 彰吾はルドガーの突進を横に避けるが、避けた時にルドガーは腕を出して彰吾を掴んだ。

 掴まれた彰吾だが、掴まれた手を掴み引き剥がそうとする。

 メギメギっと音を立ててルドガーの着ている鎧の手を無理やり剥がして抜け出す。

『理由はあなたがとても優しい方で生きようと強く思っていた方だったので、力を貸そうと思いました』

「俺が?」

 ルドガーの拘束から即抜け出して、距離を取る彰吾はアリスに聞く。

『はい。だって、人の作品を壊されるのを目の前にして普通は怒りません。あの状況なら尚更ですよ。普通は自分が生きる為に、他の作品が壊されていってこっちに来なければどうにでもなるみたいな事を考える者が非常に多いと思います』

「……」

『しかし、彰吾さんは作品を壊されるのを見て怒りを覚えてました。それにそれを止めるのと、自分が生きる為に倒すと言う覚悟も感じられたので、起動させて貰いました。ご迷惑をおかけしてすみません』

「フ……そうか、なら……」

 彰吾は鼻で笑うと、ルドガーに戦闘態勢を取る。

「俺に力を貸してくれ。アイツを倒したい。人の命を玩具の様に扱うアイツを倒さないといけないんだ」

『任せて下さい。しかし、彰吾さんの今のお身体では10分が活動限度ですので、その時間の間にどうにか倒しましょう』

「ああ!!」

 戦闘態勢を取る彰吾をみたルドガーは、

「その構え……ンフフフフ。そうか、天月彰吾か……なるほどな」

 ンフフフフと笑うルドガー、

「なにがおかしい?」

「いや……そんなの着て俺に勝てるとでも?」

「あぁ、勝てるさ。今回俺の中で一位に輝く作品だからな」

「そうか、なら……」

 ルドガーは戦闘態勢を取る。

「死ね」

 言った瞬間、地面を強く蹴り一気に彰吾に近づくルドガー。だが、彰吾はそれに反応して対処しようとする。

 ルドガーは拳を振り上げて彰吾に振り下ろす。

 彰吾は避けようとした瞬間、

『このまま、殴っても大丈夫です!!』

 アリスが彰吾に伝え、彰吾は拳を振り上げた。振り下ろしたルドガーの拳と、振り上げた彰吾の拳がぶつかる。

 拳と拳が当たった瞬間、大きな音が辺りを響かせる。

 彰吾とルドガーの拳はぶつかったまま動かない、力は互角でらいであった。

 彰吾は腕を引き、強く踏み込んでルドガーの胴に肘打ちを決める。

「ぐぉおお!?」

 肘打ちを受けたルドガーは衝撃に耐えられず、後ろに後ずさりさせられた。

 後ろに後ずさりさせられたルドガーは膝を地面に付けた。

「なんだと……、このアーマーからでこの衝撃……」

 今の攻撃をした彰吾も驚いていた。

「嘘だろ……、普通に攻撃しただけだぞ……それで踏み込んだ床が凹むって……」

『先ほど言った通り、身体強化にパワーアシストが付いていますので、人によっては凄い事になりますよ』

「そうか、俺は適正値的に低いからこれくらいなのか?」

『それもあるのですが、あくまであれは安全に着れる適正値なだけですからあまり、関係ないです。もちろん、適正値が高ければその分強く強化もされますけど』

「なるほどな」

 アリスとの話が終えるとのと同時にルドガーは立ち上がった。

「天月彰吾、まさかここまでやれるとはな。それにその強化アーマーも油断していた」

「そうか、良かったな」

「ふッ……、俺を本気にさせたのは初めてだ。それもこの状態でな」

「なにを言ってる?」

「巨大兵士(ゴライアス)……」

 ルドガーが呟くと、ガシャンと音を立てて倒れる。

『気を付けて下さい。何を仕掛けてくるか予測出来ません』

「これが罠かもしれない。様子を見よう」

 彰吾が様子を見る事にすると、倒れていたルドガーがゆっくりと立ち上がる。

 歯車が一つずつ動くように、ゆっくりと立ち上がるルドガー。

 立ち上がるとルドガーは彰吾に手のひらを向ける。

「――!?」

 突然彰吾の体が何かに拘束されてる様に動けなくなった。

「こんな拘束……!!」

 強化アーマーを着た彰吾は全身に力を入れて何かの拘束から逃れる。

 拘束から抜け出し、彰吾はルドガーの方を向く。だが、正面に居たはずのルドガーがそこには居なかった。

「どこに行った? アリス、どこに行ったか分かるか?」

『申し訳ございません彰吾さん。見ていたのですが、一瞬で姿が消えました』

「なに? そんな事が……」

 突然消えたルドガーがどこに行ったのかアリスに聞くが、アリスでさえ見失っていた。

「そんな事があるから俺はお前らの前から消えてるんだ」

 そんな中どこからともなくルドガーの声が聞こえた。

 彰吾は辺を警戒しながら周りを見るが、ルドガーの姿が見当たらない。

「俺が超高速で動きながら話しているからな、俺を捉える事はできん。例え、その強化アーマーを着ていてもな」

 ルドガーの声だけが聞こえるがやはり、姿が見えない。

 くそ! どこにいる! と思う彰吾。

『敵の声は全方向から反応しています」

「って事は、超高速で動きながら俺に話してるから全方向から聞こえるって事か?」

『不可能だと思います。私は音速で飛んでくるAPFSDS弾も捉える事が出来ますから、見えないは有り得ないのです』

「す、すげぇなアリス……」

 アリスの凄さについ褒めてしまった彰吾。

『恐縮です』

 褒められ嬉しそうに返答するアリス。アリスが返答した瞬間、彰吾の背後から物凄い衝撃が襲った。

「――!?」

 物凄い衝撃を受けた彰吾は衝撃で数歩前に歩き、何とか倒れない様に保つ。

 保つと彰吾はすぐに背後にいると思われるルドガーに後ろ回し蹴りをする。

 回し蹴りをしたが、当たった感触が無く、彰吾の回し蹴りは空を切った。

「いな、い――!!」

 後ろ回し蹴りをした時に振り返るがそこには誰も居らず、今度は右から先程と同じ物凄い衝撃が彰吾を襲った。

「うぐッ!!」

 次は正面から腹部当たりに物凄い衝撃が、

「ぁぐッ!」

 今度は左から、

「がぁッ……」

 そして、真上から物凄い衝撃が連続で彰吾を襲った。

 あまりの衝撃で彰吾は膝を付く。彰吾は何が起きているか分からなかった。

「どうだ……アリス、何処にいるか分かったか?」

『大変申し訳ございません彰吾さん。どこから攻撃がくるかすら予測も、敵がどこにいるのかも探知出来ませんでした。ただ一つ分かった事が」

「なんだ、それは……」

『全方向から敵の反応がしました』

「くそ……、全方向はさすがに無理だぞ……」

 辺を警戒しながら見ていると、一つだけ景色が歪んでいる所があった。

 しかし、すぐに歪みが無くなったが、今度は隣りの部分が歪んだ。

 そこの部分をよく見ると、何かが写っていた。その写っている何かに気づいた彰吾。

 待てよ……、もしあれがこの景色だとしたら……。と思う彰吾。

『合ってると思いますよ彰吾さん』

 アリスは彰吾の考えを読んで答える。

「アリス、何か武器はあるか?」

 強化アーマーに何か固定武器が装備されているか聞く彰吾。

『ナイフが腰に装備されています』

「よし……なら、それを使わせてくれ」

『言わなくても思えば私が自動でやりますよ?』

「何か、人と喋ってる様な感じでな。ちょっと忘れてた、ごめん」

『謝らなくても良いですし、それにそういう所嫌いじゃないです。貴方みたいな人が装着者になってくれてワタシは心から感謝しています』

「フフ、そうか」

 彰吾はナイフと思うと腰に付いていたベルトのサイドバックからナイフが現れる。

「ナイフを取り出してどうするつもりだ? まさか、俺を捉える為にナイフを投げるつもりか? 止めた方が良い、無理だ」

 ナイフを取り出すと、ルドガーの声だけが聞こえた。ルドガーの声を聞いた彰吾はフッと鼻で笑う。

「お前を捉える為じゃねぇよ」

 そう言うと彰吾はナイフの刃の部分を掴む。

「なに?」

 疑問に思ったルドガーは口に出し、彰吾はナイフの刃の部分を掴んで振り上げる。

「この空間抜け出す為だ」

 彰吾は手を振り下ろし、掴んでいたナイフを投げた。

 投げられたナイフはそのまま軽く放物線を描いて歪んだ景色の部分に当たる。

 すると、歪んだ景色の当たった場所からピシピシと音を立ててヒビが入った。

 そのまま、周りの景色にもヒビが入り、

「さて、小細工(こざいく)無しで戦おうか」

 彰吾は歪んだ景色のする方へ指をさす。

 指をさした瞬間に周りの景色が崩れて本来の景色に戻った。

「ルドガー」

「なんだと!? どうやって抜け出した!!」

 何故抜け出せたのか分からないルドガーは彰吾に聞く。聞かれた彰吾はある物に指をさす。

「これだよ」

「それは……!」

 彰吾はあの状況下で抜け出す方法を見つけることが出来たある物に触れながらルドガーに言う。

 それを見たルドガーは歯をギリギリと言わんばかりに噛み締めながら彰吾を睨む。

「お前の壊した作品の一部だ。これの御陰で抜け出すことが出来た」

「何故それが、抜け出す鍵となった……!!」

「この作品だけ歪んで写っていたからだ」

 彰吾は抜け出せた理由をルドガーに教える。それをルドガーは黙って聞いている。

「多分周りの景色を写していたんだろ? 自分が攻撃する所、自分の立っている場所は自分が映らない様にしていた」

「それとその作品の関係性は?」

「壊れていた作品の景色が歪んでいたのが、すぐに歪みが無くなったからだ。他の場所、この作品が無かったら俺は抜け出せなかっただろうな。だが、こうやって抜け出せた。この作品のおかげだ」

 彰吾は壊された作品からはなれ、戦闘態勢を取る。

 だが、ルドガーは突然笑い出した。

「ンフフフフ。そうですか、そのクソ作品の御陰だったんだなぁ……。まぁいい、冥土の土産にさっきの景色の正体を教えてやるよ」

 そう言うとルドガーは手と手をある程度離した距離で向け合わせると、その手と手の間に強化アーマーを着た彰吾が写っていた。

「これは、周りの景色を写す糸だ。そして俺が消えた理由は、お前の周りにこの糸を張り巡らせ、周りの景色を写してお前の視界から消えたんだ」

「周りの景色を映すなら何故お前は写らなかった。それに、声も何故全方向から聴こえた?」

「俺のいる場所は他の景色を繋げて消してたからな、それで写らない。まぁ今回はそれが原因で破られたんだがな。後、声に関してはこの糸は反響もするから、お前の周りに張られた糸が俺の声を通して、全方向からの反響になっていた。最後に攻撃の事は、この糸は頑丈でとても硬いし、収縮性も凄い。これを引っ張ってお前を攻撃していた。まぁ、生身の人間だったら当たりどころによっては一撃、少なくとも二発で絶命寸前まで追い込む事は出来る優れ物だ」

 説明を終え、ルドガーは手と手の間に出来た糸を消して、戦闘態勢をとった。

「さて、もういいだろう? お祈りは済ませて置いたか?」

「誰が祈るんだよ」

「テメェだ……! クソガキ……!!」

「フッ……あぁ……そうかよ」

 彰吾はルドガーに言い、余裕を見せる。だが、

『彰吾さん、活動限界時間が後三分です。三分過ぎると、傷口が大きく開き、折れている肋骨の骨が内蔵に突き刺さります』



 彰吾の体の限界時間も迫っていた。



「分かった。後三分だな……やるぞ! アリス!!」

『任されました。可能な限り、戦闘予測で相手の行動より早めにお伝えできる様にしてみます』




 そして、彰吾とルドガーは地面を強く蹴り、




 二人の距離は一気に縮まる。




 彰吾とルドガーの拳と拳がぶつかった。




 天月彰吾の死亡時刻まで残り――時間――分。




 未来が変わる。




 つづく

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