第7話 変わりゆく日常Ⅶ

 PM 13:42 / 発表会場内



 突然の爆発音と衝撃で発表会場内にいる人達がパニックに陥る。

 パニックに陥った人達は我さきと言わんばかりに出口に向かって走る。

 彰吾は激流に流されるように、出口に向かう人たちに流されて行く。

「天月さん!! こちらに!!」

 沙由莉が人ごみに流されている彰吾に手を伸ばす。

 彰吾も手を伸ばす。

 だが、その手は届かずに彰吾は人ごみに流されて行った。

 しかし、出口辺りで扉が開かなかったのか流れが止まった。

「開けろ!!」「早く開けろよ!!」「開かねぇんだよ!!」

 大機械祭に着ていたお客が騒ぎ出し、乱闘が起きようとしていた。

『皆さん、冷静に!!』

 会場内に真の声が響き渡る。

 突然の真の声に驚き、発表台の方を振り返る人達。

 発表台の上に、一宮真がマイクを持ちながら立っている。

『皆さん、落ち着いて下さい。今はここで争っている場合ではございません。そこの正面入り口のドアが開かなかったのは、防犯システムが作動したからです。安心してください』

 真の言葉にホッと胸を下す人達。

『この会場内に地下シェルターへ続く道があります。皆さん、係員など自警団の指示に従って地下シェルターに避難して下さい』

 真が言うと自警団、係員が「こちらです! 皆さん、慌てずゆっくりと進んで下さい!」と誘導を始める。

 会場内の人達が落ち着き、彰吾は沙由莉の所へ行く。

 そこには沙由莉、凛花と俊が集まっていた。

「すみません、流されてしまいました」

 彰吾はすぐに、沙由莉に謝る。

 沙由莉は「良かった……、心配したんですよ」と彰吾に言う。

「とりあえず、彰吾戻ってきし。現状どうなってんの?」

 俊が三人に言う。確かに、今は知ることが大切だ。

 今の現状を把握しなければ、これからどのように行動すれば危険から身を守る事が出来るかだ。

「どうやら、敵はこの大機械祭のテロ行為と横浜各地でのテロ行為らしいよ」

 彰吾たちに現状報告をする真。

 それを聞いた沙由莉は、

「目的は何です?」

「すまない、今持っている情報はここまで何だ」

「そうですか……仕方な――」

 話していると五つある出口のドアが物凄い音を立てて爆発した。

 そこに複数人のグループが五つのドア前に銃を客と彰吾達向ける。

「手を挙げておとなしくしろ!! お前らは――」

 銃を向けていた複数人のグループ全員が突然壁に貼り付けられている。

 何が起きたんだ? と思う彰吾。

「自警団と係員の手の空いている方は犯人の確保をお願いします。私の能力の間は彼は何もできません」

 犯人達が壁に貼り付けられていたのは一宮の能力のおかげ。

 何の能力だ?と彰吾が思っていると、俊が真に近づく。

「一宮さんの能力はどういう能力なんです? 噂では、攻撃が全く通らないとしか知らないので」

「私の能力は、空間に壁を作る能力です。この壁は動かす事も可能で、目視も出来ますが……」

 すると、出口の方を見る真。出口に向かって手を向けると。

「うおあああ!!」

 出口近くで声が聞こえた。自警団と係員が向かう。

 そこにいたのはこの会場を襲った犯人の仲間がいた。

「目視出来たとしても、対処はできないと思います」

 と、俊に笑いながら答える真だった。

 その態度に驚く俊は「お、おぉう……」と少し引く部分あった。

「東堂さん、久能さんここは私に任せて゛あれを取りに行った方が良いと思いますよ?〝 今回私は持ってきてませんので」

 真の発言に沙由莉と凛花は目を合わせて、沙由莉が近づく。

「一宮君、ここよろしくね」

「はい、お任せを……。後、私達のお役目を忘れないことですよ?」

 真が沙由莉と凛花の間を通る時に言う。

 そして、彰吾と俊の間を通るときに「失礼します」と笑顔で言う真。

 真が自警団と係員の所に向かうのを見ると、沙由莉と凛花が振り返る。

「ちょっと取りに行かないといけない物があるので、ここの会場の控室に行きましょう。天月さんと宮下さんもついてきてください」

「わ、分かりました……」

 彰吾と俊は沙由莉と凛花の後ろにつき、目的地の控室に向かう。



PM 13:54 / 大機械祭会場



 突然の爆発の後、トラックが大機械祭会場に突っ込み、その荷台からゴーストの戦闘員が出てきた。

 現在、ゴーストと警察、ガーディアンとの全面交戦が起きている。

「涼子さん! どうやら、ゴーストの奴らはドローンと二足歩行型装甲兵器も出しているらしいです!!」

 銃弾の飛びあう中、車の陰に隠れていた涼子と真弓。

 真弓は手に入れた情報を涼子に報告する。

「ドローンと二足歩行型装甲兵器って!! ここ等一帯で戦争を起こすつもり!?」

「ゴーストの他、横浜の各地でテロ行為、潜伏していた別のテロ組織がこの流れに乗ってきたと思います」

「面倒ね……。真弓、隊全員に連絡、スキルロック解除命令を出します」

「了解!」

 真弓は防弾チョッキの胸の辺りに付けていたトランシーバーを取り、隊に繋ぐ。

『こちら、真弓。隊全員に伝えます。スキルロック解除命令が出ました』

 真弓の言葉に『待ってましたぜ、隊長』『さすが』『いつでも行けます!!』と各隊員がおのおのに答える。

 それを聞いた涼子はフッ……と鼻で笑う。

「良い? みんな、死なない。これが絶対の条件でスキルロック解除したんだからね。死ななかったら、好きなだけ暴れてきなさい!!」

『了解!!』

 全隊員が答えそして、各隊員はスキルロックを外してゴースト戦闘員たちと戦う。

「さて、この現状どーしよ……」

 涼子と真弓の現状は拳銃を持った警官二人と涼子と真弓の四人。

 しかし、相手は11~14人いる。その中には能力者も存在している。

 能力者はさほど問題では無いランクと能力。だが、厄介なのは、

「二足歩行型装甲兵器よね~……」

 二足歩行型装甲兵器は装甲車と堂々の装甲を持ち、武装を豊富に装備可能としていて、人が乗り操縦する事が出来る兵器。

 全長4mあるため、よじ登るのは不可能。

 一機あるだけで、完全武装した人間10人分ぐらいの戦力を持っている。

 これを倒すのに装甲を貫ける様な武器はいまここに存在していない。

 はっきり言ってしまえば涼子たちは今、絶体絶命の状態であった。

 二足歩行型装甲兵器の右アームにガトリングガンが涼子と真弓が盾にしている車に銃身を向ける。

「まず!! 逃げるよ!!」

 叫んだとたん、1分間に4千発の弾をバラ撒くガトリングガンの銃弾が襲う。

 涼子と真弓は隣にあった車の陰に寝る事で態勢を低くして弾を避ける。

 反応に遅れた警官二人がガトリングガンに撃たれ、二人の目の前で体が分裂した。

 分裂した時に血が二人の顔に掛かる。二人はすぐに顔に掛かった血を腕の裾で拭く。

 カラカラカラ……と音を立てて、ガトリングガンを撃つのをやめる二足歩行型装甲兵器。

 ガトリングガンに撃たれ所々穴だらけになっている車の隙間から敵を覗く涼子。

 人が13人、二足歩行型装甲兵器が一機。

「これは……。完全に積みかな……」

「涼子さんが死んでしまったら、みんなとの死ぬなって約束が破れてしまいますよ」

「でも、この戦力差はどうしようもない」

 と、絶望していると、

「なんだ貴様はッ!!」

 戦闘員が声を上げて誰に言う。涼子は何が起きたのか分からず、涼子と真弓は車の隙間から覗く。

 そこには、体全体がマリンブルー色で所々ナイトパープル色の強化アーマーらしき物を着ている謎の人物がそこにいた。

 謎の人物はももの辺りに付けていたホルスターから見た事が無い銃らしき物を取り出して、二足歩行型装甲兵器に向ける。

 そして、引き金を引いた。

 だが、何も起きなかった。

 耐えられず、戦闘員の一人が笑いだす。それにつられて他の戦闘員も笑い始めた。

「おいおい! マジかよ! お前頭大丈夫?? そんなんでこの兵器を壊せると思ってんの!?」

 ギャハハハ! と笑う戦闘員、一人がトランシーバーを取り出す。

「おい、楽に死なせてやれ」

 戦闘員が二足歩行型装甲兵器内にいる仲間に通信するが、返事が無い。

 二足歩行型装甲兵器内には誰もいなく、コックピット内に設置してあるトランシーバーから声だけがコックピット内を響かせていた。

「おい! どうした!」

 トランシーバーで騒いでいる戦闘員に謎の人物は銃を向けて引き金を引いた。

「がッ!」

 一瞬苦しそうに首を抑えた瞬間、その戦闘員が消滅する。

 そして、一人の戦闘員が謎の人物の正体に気づく。

「ま、まさか……お前は……」

 気づいた戦闘員に謎の人物は銃を向ける。

「ペイルライダー!!」

 戦闘員がぺイルライダーと言った瞬間、消滅した。

「う、撃てぇ!!」

 一人の戦闘員が叫ぶと、他の戦闘員がぺイルライダーに向けて撃つ。

 ぺイルライダー撃たれる前にデヴァイドで二人ほど消す。

 二人の持っていた銃が地面に落ちる。そして、ペイルライダー真上に跳躍した。

 跳躍して、そのまま宙に浮いている。空を飛んでいた。

 そんなの構わずに戦闘員達が空を飛んでいるペイルライダーに向けて撃ち続ける。

 ペイルライダーは飛んでくる全ての銃弾を避けながら、一人ずつ確実にデヴァイドで消していく。

 それを見ている涼子と真弓。真弓は何が起きているのか分からなかった。

「涼子さん、あの飛んでいる人は誰ですか?」

「……彼はペイルライダー……軍の独立部隊ファントムのエース的存在。それに軍の中でもかなりの実力者」

「ど、どうしてそんな人がこの場所に?」

「独立部隊ファントムは、重犯罪やテロ組織が絡む事件には出動命令が出されるの、だから別にここにいても不思議ではないの」

「なるほど……、ちなみにペイルライダーのランクは?」

「A+だそうよ。ちなみに、能力は開示されてないの。そもそも、ペイルライダーと会った敵は逃げられた事がないらしい」

「ど、どうしてですか……?」

「彼が消すか、捕まえてるからよ。それに彼のあだ名のペイルライダーはヨハネの黙示録に出てくる騎士のから来てるの。蒼ざめた馬に乗った「死」で、側に黄泉(ハデス)を連れている。疫病や野獣をもちいて、地上の人間を死に至らしめる役目を担っているとされると記述されてるの。彼と会って敵対した存在は全て死ぬか、捕まるの選択ししか与えられないし、疫病とか野獣は無いけど、その代わりにあの銃」

 涼子がペイルライダーの持っているデヴァイドに指をさす。

「あの銃が地上の人間に死に至らしめる役割を示してるの」

「何ですか……?」

「人を消すからよ……それも撃たれた人間は物凄く苦しいらしい、それは死に至らしめる疫病や野獣に襲われている様に」

「…………」

 さすがの真弓も黙り込んで宙に浮いているペイルライダーを見る。

 フルフェイスで覆われていて、相手の表情がわからない。

「あの人、どんな気持ちで人を撃ってるんでしょうか……涼子さん」

「……分からないわ。でも、今、彼は味方のはずよ! 援護しましょう」

 そう言うと涼子は自身の能力、影捕縛シャドウ・キャプチャーを使う。

 影捕縛シャドウ・キャプチャーは、自身の影から影を伸ばし相手の影と繋がった瞬間に相手の動きを止める事が出来る能力。

 だが、涼子はランクBの為直接涼子から伸ばせる有効範囲が30mしかない。

 しかし、伸ばしている最中に何かしらの影に入ればそこからまた30mと伸ばせる。

 幸い車などがあり、その影から影へと伸ばし戦闘員の一人を捕縛する。

「な、なんだ!? 体がう、動かない……!!」

「早くしろ、ペイルライダーに消され――うッ……ああああああ!!!!」

 仲間を助けようとした戦闘員がデヴァイドに撃たれ消滅する。

 ペイルライダーのデヴァイドに撃たれないように、戦闘員達は物陰に隠れていた。

 ぺイルライダーは動けない戦闘員にデヴァイドを向ける。

「ペイルライダー!! その人物は私たちが捕まえます!! 他の奴らを!!」

 涼子がしゃがみながら、ペイルライダーに叫ぶ。

 ぺイルライダーは上空から涼子達の方を見てから、デヴァイドを下して別の戦闘員の方を向く。

「クソ野郎!! まだ、生きてやがったのか!! あのクソ女共!!」

 戦闘員が涼子達にAT-4を放つ、高速で涼子達に向かうAT-4の弾をペイルライダーはデヴァイドで消す。

「う、うそだろ……――――ぁあッ!! うぐぅああああ!!」

 AT-4を放った戦闘員を消して、他の戦闘員達も消していくペイルライダー。

 ぺイルライダーが現れて数分で先ほどの中隊、14人と二足歩行型装甲兵器がほぼ全滅した。

 ほぼと言うのは、涼子達が三人ほど捕まえたからだ。

 死ぬのが怖くなり、涼子達に投降して涼子達に捕まったのだ。

 戦闘が終了して宙に浮き、敵がいないか調べるぺイルライダー敵がいないと分かり、その場を離れようとする。

「待って!! ペイルライダー!」

 涼子がぺイルライダーを引き留める。ペイルライダーは振り返り地面に降りる。

 ペイルライダーが涼子に近づく。

「今の状況を教えられる範囲で良いから、教えて欲しいの」

「…………」

 涼子が言うと、ペイルライダーは無言で腰に付けていた端末を取り出して起動させる。

 端末が起動すると、マップが表示された。

「ここまで、進行してるって……、ゴーストは何が狙いなの?」

「…………」

「ごめんなさい、答えられない質問をして。あと、ありがとうございます。助かりました」

 涼子がお礼の言葉を言うとペイルライダーは涼子に背中を向けて飛ぼうとする。

 飛ぼうとするペイルライダーに真弓が近づいた。

「ペイルライダー!! あ、あの、あなたはその銃で人を撃つとき辛くは無いのですか!!」

 ペイルライダーは後ろにいる真弓をみる。

「辛くはない、が」

 真弓の方に振り返るペイルライダー。

「楽しくもない……それに迷ったら死ぬだけだ……」

「あなたにはしっかりと心があるんですね。でなければ、楽しくもないなんて言えないです」

「……そうか。では、失礼する」

 ぺイルライダーは真弓と涼子に敬礼をしてから、飛んでその場を去った。

「よく聞いたわね、真弓……」

「どうしても聞いておきたかったんです」

「ハッー……なるほどねぇ……」

「話してみてあの方は、人一倍人には優しいと私は感じました」

「なんで?」

「人を消すのにかなりの決心が必要だと思うのです。でも、あの方は相手が悪人だからこそ、躊躇なく撃てると思うんです。でも、ただの軍人だったら私たちを見殺しにして他の人がもっと多い場所を優先して助けたと思うんです。それをあの方は見過ごさず、助けてくれた」

「確かに……」

「とてもいい人だと思います」

 そして、真弓と涼子はペイルライダーが去った方角を見るのであった。



PM 14:10 / 大機械祭上空



ペイルライダーは先ほどの場所を離れて、独立部隊ファントムと合流をしようとしていた。

『聞いてたよ~、ペイルライダ~。カッコいい事いうねぇ~』

 と茶化してくる。ファントムの情報伝達係のリリン・アーキウィント。

「……さっさと合流ポイントしていしろ」

『はぁ~い、ちなみにぃ~さっきの言葉はファントム全員が聞いてたよぉ~?』

「お前が隊員全員に聞こえる様にいじったんだろ」

『面白そうだったからねぇ~つい』

「言ってろ……」

 すると、ペイルライダーの視界に合流ポイントの座標が表示される。

 すぐにファントムと合流するぺイルライダーであった。



PM 14:02 / 発表会場内通路



彰吾、俊、沙由莉、凛花の四人は会場内通路を走り、控室に向かう途中であった。

 沙由莉と凛花がある物が控室にあるため、それを取りに行っている最中。

 一体何を取りに向かって走っているのか分からない彰吾と俊。

「東堂さん……、何を取りに向かってるんですか?」

「実は私達Sランクに渡されている――」

「危ないッ!!」

 彰吾は突然沙由莉に抱きついて横の通路に入る。

 入った瞬間、彰吾達のいた場所に銃弾が飛んできた。

 ふぅ……と、息をつく彰吾。すると、

「あ、あの……天月さん……その……」

 沙由莉が小さな声で彰吾に言うと、今の状態に彰吾も気づく。

 彰吾は沙由莉に覆いかぶさるようにしていた。

「す、すまん!!」

 彰吾はすぐに沙由莉から離れる。沙由莉は顔を真っ赤にしながら彰吾を見る。

 や、やばい気まずい……と思う彰吾。すると、後ろから視線を感じて後ろを振り返ると。

「「…………」」

 銃弾から避ける為に俊と凛花は、彰吾達とは逆の横の通路に入り、そこから彰吾達を見ていた。

 俊と凛花が睨んでいる。凛花は沙由莉を睨み、俊は彰吾を睨む。

「と、とりあえず!! この状況をどうするかだ!」

 微妙な空気を無理やり断ち切る彰吾。

 それに正気に戻る沙由莉と凛花。俊だけは彰吾を睨む。

 彰吾は通路の角から、敵が待ち構えているであろう通路の正面を見ようとする。

 ちょっと顔を出そうとしただけで、彰吾のいる通路の角に銃弾が飛んでくる。

 彰吾はすぐに顔を通路に戻して銃弾を避ける。

「くそ……、こりゃあどうしようもないな」

 このまま時間が経てば経つほど今の状態が不利になるのだ。

 この状況で手榴弾や、ロケットランチャーを使わないという事は、相手は今その装備を持っていない事になる。

 しかし、時間が経てば仲間がここにやってきて手榴弾やら、ロケットランチャーを使う。

 それが一番最悪のパターン。だが、この状況をどう乗り切るか彰吾には思いもつかない。

「天月さん、敵は何人ですか?」

 沙由莉が彰吾に話をかけてくる。しかし、彰吾は、

「ごめん、確認しようとしたけど、その前に銃弾が飛んできて見えなかった」

「そうですか。凛花、分かる?」

「ごめんね、さすがに私その能力系じゃないから分かんない」

「さすがに、どうしようもないのでしょうか……。人数と位置が分かればどうにかなるのですが」

 このとき彰吾は考えていた。

 まてよ? 俺の能力でどうにかなるかも知れないな……。

 みんなに説明してから、行動に移そう。

「三人とも俺に考えがある。いいか?」

 彰吾の発言に三人は首を縦に振る。

「俺の能力でこの周辺に重力を掛ける。それで俺が重力に掛かった人数を数えるってのだろう?」

「なるほど、良い考えですね。天月さん。後は、天月さんが能力をかけている最中に動いて相手を倒せば突破できますね」

「ごめん、俺は能力を使っている最中動けないんだ。だから、人数を数えるくらいしか……」

「ご、ごめんなさい! 知りませんでした」

「いや、良いんだ。ランクに低い奴がいけないからな」

「そ、そんな! そんな事言わないで下さ――」

「あー、ハイハイ。そこまでにしてね? 沙由莉、今の状況考えてね」

 凛花が無理やり話を切る。彰吾的に少しうれしかったので、凛花に「スマン」とジェスチャーをする。

 ジェスチャーをすると、フン、と言わんばかりに彰吾から視線を逸らした。

 後で謝っておこうと思う彰吾だった。

「さて、みんな少し辛いけど我慢してくれ」

 そういうと彰吾はしゃがみ、目を閉じて能力を発動する。

 能力を発動した瞬間、隣にいた沙由莉が地面に膝を付ける。

 同じく、凛花も地面に膝を付けていた。

 徐々に徐々に重力を強くしていく彰吾。今度は凛花の近くにいた俊が地面に膝を付けた。

 そこから少し重力を強めると、沙由莉、凛花、俊が地面に伏せている。

「う……、お、重い……」

 と苦しそうに言う沙由莉。同様に凛花も苦しい。

 彰吾は今何人重力に掛かっているか、感覚で確認する。

 今、俺の能力で伏せているのは……俺の隣にいる東堂さん、隣の通路に久能さんと俊。

 正面入り口に伏せている数は、一、二……三、四、五人か……。把握した。

 そして、彰吾は能力を解除する。

「――――ッハァ!! ハァ……ハァ……、ハァ……」

 息を荒くしながら頭を押さえる彰吾。彰吾の能力が解除されて、動けるようになった沙由莉と凛花と俊。

 沙由莉は彰吾に近づき、ハンカチを彰吾に渡す。

「大丈夫ですか!? 天月さん! 鼻血出てますよ!」

 彰吾はハンカチを受け取り、鼻に押し当てて止血する。

「相手は五人。これで大丈夫ですか?」

 止血している最中に彰吾は敵の数を沙由莉に伝えた。

 沙由莉は少し驚いたが、すぐに笑う。

「ありがとうございます。人数が分かれば後はこちらで対処することが出来ます」

 沙由莉は立ち上がって、壁に手を当てて目を瞑る。

 すると、

「うわあああああああ!!」

 と戦闘員達の断末魔と共に爆発音が正面入り口から聞こえた。

 一体何が起きたのか、と思う彰吾。

 彰吾は頭痛と鼻血が収まり、立ち上がり沙由莉の方を向く。

「いったい何が起きたんですか?」

「私が爆破させました」

「それは、どういう?」

「壁を通して、相手のいると思われる場所、床、壁を爆破させて対処しました」

「これが私の能力ですから、私の触れた物に爆炎を付与させる能力です」

「え? じゃあ銀行の時、ボタンとナイフ、後、強盗犯の真上で爆破は一体……」

「あれはSランクにしかできないのですけど、私は触れるだけで爆炎付与ですが、射程はありますが無条件でその空間に爆炎を発生させる事もできるのです。ですので、ナイフとボタンはその射程圏内だったので、爆破できました。強盗犯にやったのもそれです」

「なるほど、そういう事でしたか」

「はい、さて天月さん行きましょう」

 そして、四人は通路から出て控室を目指し走る。

「そこの角を左に曲がった所に控室があります!!」

 沙由莉が走りながら後ろについて着ている彰吾達に言う。

 彰吾と俊は「分かりました!!」と言いながら走る。

 曲がり角を曲がると、近くに扉がありその上には控室1と書かれている。

「ここです!」

 沙由莉は扉を開けて、凛花、俊、彰吾の順に控室1に入った。

 中に入ると、右にメイクする為の壁に鏡が付いているテーブルが設置してあり、左にはソファとテーブルが置いてあって、正面に長い丸テーブルとロッカーと着替え用のカーテン付き個室があった。

 沙由莉と凛花はロッカーの前に立っている。その間に彰吾と俊は椅子に座らせて貰う。

 走ったため、息を荒くしながらロッカーの暗証番号を入力する沙由莉と凛花。

 ロッカーの暗証番号の入力が終わり、ピーと音を立てて鍵が開いた。

 二人はロッカーからアタッシュケースを取り出す。

 沙由莉のは30cm位の四角い小さなアタッシュケースを近くにあった鏡付きのテーブルに置く沙由莉。

 凛花のは沙由莉よりも少し横に長いアタッシュケースを長い丸テーブルに置く凛花であった。

 ふたりはまた、暗証番号に入力している。

 一体何が入っているのだろうか?と思う彰吾。

「そういえば、天月さん。話が途切れてしまいましたが、ここに向かう最中に話していた事です」

「ご、ごめん。どれだ?」

「通路に逃げ込んだ時です」

「ああ、あれか、どうしたんです?」

「ええ、Sランク、もしくは軍にいてその中でも、優秀な人にしか作ってもらえない専用武器が支給されるんです」

 そして、アタッシュケースが開き、その中に入っている物を沙由莉が彰吾達に見せる。

「これがその専用武器です」

「その手袋とベルトバッグとインカムマイク付きのス○ウターみたいのがですか?」

 アタッシュケースから取り出したのは黒い手袋の甲に鉄が付けられていて手の甲を守るように作られていた。

 手袋の手のひらには指一本一本に白い線が付けられている。

 何がすごいのか彰吾にはまったく理解出来なかった。ス○ウター的なのは凄そうと思う位なのであった。

「この手袋は叩いたり、擦ったりすると目には見えない粉末が空中を飛び交う事も出来ます。これは私の能力を粉末にした物です。それを吸えば爆破させる事もできますし、粉塵爆発も起こせます。何よりこの手袋のすごい所は」

 沙由莉は手を開いて彰吾達に手のひらを見せる。

「この、白い線がすごいんです」

「……それが凄いの?」

「はい、これは導火線の様な物なのです。一度ロックオンして、このバッグに入っている追尾爆弾チェイサー・ボムにここの白い線の部分を触れさせれば、自動で相手に飛んでいく爆弾です」

「そのミサイルの様なのがね、なるほどな……。で、そのス○ウター的なのは何です?」

「これは望遠鏡の役目もあるし、壁の向こうとか物に隠れて視認できない時に使うものです。これを使えば、隠れていても丸見えなんですよ」

「へぇ……人とか表情までわかるんですか?」

「まぁ、ぼんやりとですが。でも、そこまでわかれば私は十分なので大丈夫です。ちなみに、これはスカ○ターではなく、透遠鏡視エネミーミラーと言います」

 ある意味すごい物を持っているな、と思う彰吾。

 沙由莉の専用武器の話が終わると凛花が、

「私のはこれです」

 タイミングを見計らって彰吾達に白い銃的な物を見せる。

「何ですか、それ?」

「電磁加速砲(レールガン)ですよ」

「え、その短いのがですか?」

「はい、そうですよ? これを腕に装着して引き金を引けば撃てます」

 40cm位の白いレールガンを腕に装着する凛花。

 装着と言っても、輪っかの部分に腕を通して、通した先にある持ち手を持つだけだ。

「あれ? 弾とか電気はどこから?」

「弾はこの貫通力の高いライフル弾を使用していますよ。でも、レールガン様に改良してコストを下げた物らしいのですけどね」

「でも、貫通力が高くても、抜けない物と抜けるものはあるでしょ?」

「私の能力で威力調整が可能としていますので、そこは問題無いので」

「そうなのか。じゃあ、この逆三角形のこれは何?」

 彰吾がアタッシュケースに入っている四つの黄色い逆三角形に指をさす。

「分かりました! 髪留めですね!!」

 今まで黙っていた俊が突然、閃いたのか言い出す。

「ごめんなさい、違います」

 謝る凛花に「そうですか、大丈夫です」と答える俊。

 突然言い出すかと思えばそれか……と思う彰吾だった。

「これは電磁障壁(エレクトリック・バリア)と言うものです。簡単に説明すると、バリアです」

「「あー、バリアね」」

 たまたま声を合わせて言う彰吾と俊。それを見ていた沙由莉ははぁ……、とため息をつく。

 ダッダッダッと走る音が聞こえる控室内。

 沙由莉と凛花は顔を合わせて首を縦に軽く振り、何かを取りだして彰吾達に近づく。

「天月さん、宮下さん念の為にこれを着て置いて下さい」

 沙由莉は防弾チョッキを彰吾と俊に渡した。

 彰吾と俊は急いで防弾チョッキを装着する。敵がもうすぐそこまで来ているかも知れないからだ。

 防弾チョッキを着るの見ると、沙由莉と凛花は何かを取り出して部屋を出ようとする。

「天月さん、彰吾さん私たちの後ろにいて下さい。お守りしますので」

 そして、部屋を出る沙由莉と凛花。

 だが、部屋を出た瞬間スモークを投げられる。煙が辺りを包み、視界を奪った所で敵が横から待ち構えていて二人に向かって発砲する。

 銃声と煙が辺りを包む。部屋に入っていた彰吾と俊は煙から逃れたが、扉の向こうが見えず二人の生存を確認できないでいた。

 銃声が止む。銃声が止み、そのグループのリーダーらしき人物が右手を挙げて「やめ」の合図を出している。

「フン……能力者と言っても、ほとんど人間なんだ。銃で撃たれれば死ぬ。例え、それがSランクでもな」

「そうだね。私たちはほとんど人間、だけど」

 突如、煙の中から声が聞こえた瞬間、銃を構えていた一人の戦闘員が何かに頭を撃ち抜かれて倒れる。

 今度は連続で二人撃ち抜かれ、リーダー含め五人いた小隊が既に壊滅状態に陥る。

「う、うえてぇ!!」

 リーダーが叫び、残りの戦闘員が煙に向かって撃つ。

 パン!と何か叩く音が聞こえて数秒後。

「う、あぁあッ!」

 パシャン!と音を立てて戦闘員二人が突然膨らみあがり爆散する。

 一瞬で辺りが血の池になり、煙が収まるとそこには無傷の状態の沙由莉と凛花が立っていた。

「これでもSランクなんです」

 手を戦闘員リーダーに向けながら言った。

「な、なぜ生きている……」

 なぜ、あれだけの銃弾を防ぎきって攻撃が出来たのか戦闘員リーダーには分からなかった。

 すると、凛花が宙に浮いている電磁障壁(エレクトリック・バリア)に指をさす。

「これよ。これが四方に展開されるとその間に通る実弾、レーザー、爆弾は全てこれで防げる。ただ、爆風はどうしようも無いけどね」

 凛花が言うと、電磁障壁(エレクトリック・バリア)が戦闘員リーダーの周りを囲む。

 囲むと、その間に電流をを流して拘束させる。

 拘束している戦闘員リーダーに近づく。

「Sランクと言う肩書を持っている化け物じゃねぇか……」

 そして、沙由莉は戦闘員リーダーの肩を触った。

 触れられた戦闘員リーダーは膨らみ始めて爆散した。

 爆散した時の血しぶきを電磁障壁(エレクトリック・バリア)が守る。

 敵がいないか透遠鏡視(エネミーミラー)で辺りを確認する。

 確認すると、曲がり角のに一人隠れている戦闘員を見つける。

 沙由莉は追跡爆弾(チェイサー・ボム)を一つ取り出して、手袋の導火線部分に触れさせて、投げる。

 投げた瞬間、追跡爆弾(チェイサー・ボム)は起動してジェット噴射してから、相手に突っ込む。

 曲がり角を曲がる追跡爆弾(チェイサー・ボム)はそのまま爆発した。

 爆破音を確認した沙由莉はもう一度辺りを確認する。

 誰もいない事が分かり、部屋に顔を出す沙由莉。

「終わりました。天月さん、宮下さん。地下シェルターに行きましょう」

 部屋に顔を出した沙由莉は笑顔で言う。その笑顔に何も言えない彰吾と俊。

 部屋を出ると、そこには頭を撃ち抜かれた死体と肉片、破けた衣類、血が辺りを覆っていた。

 そこだけ何か別の世界かと思う二人。

「べ、別に殺さなくても良かったんじゃないですか……?」

 我慢できず俊が言い出すと、沙由莉はどこか悲しげな表情を浮かべる。

「私達Sランクはこの様にテロ行為、重犯罪など起きて、その場に居合わせた場合と出動命令が出た場合のみ、敵の撃滅、排除を国から指示されているんです」

「じゃ、じゃあ、あの銀行強盗犯を直接爆破しなかったのは何故ですか?」

「分からないです……」

「……そう、ですか……」

「ごめんなさい、でも今は地下シェルターに行きましょう」

 と言って走り出す。

 俊は納得の行く返答をされないまま、話を切られる。

 凛花も表情を硬くしたままであった。

 沙由莉と凛花は人殺しなんかしたくはない。だが、国の指示であり、自分の身を守る為にやっている事である。

 それを彰吾は感じた。

 自分の命を守らなければ自分が死ぬ。ただそれだけである。

 曲がり角を曲がると、そこには人とかろうじて認識出来る何かが、壁に寄りかかって死んでいる。

「うッ……」

 俊がそれを見た瞬間にその場で吐き出してしまう、俊も我慢していたが耐えられなかった。

 吐き出した俊に近くに行く彰吾。だが、俊は「いい、すぐ行く」と言う。

 ポケットからハンカチを取り出して口元拭き、立ち上がる。

「俊、お前はは強いな……」

「吐き出さないお前より強くはねぇよ……」

 彰吾は吐き出さないでいた、なぜ吐き出さないのか彰吾自身も分からなかった。

 ただ、見慣れた光景な様な気がした彰吾だった。

 地下シェルターに向かう為に通路を走っていると、何かに気づく沙由莉。

「止まってください!! 何か来ます!!」

 言うと同時に、横の壁をぶち壊して長身で鎧の様な物を着た存在と、警官一人壁の向こうから現れた。

「フン、雑魚め……。ほう、生存者はっけ……ん?」

 鎧の様な物を着た存在は死んでいる警官に向かって言ってから、彰吾達四人を確認する。

「ンフフフフ……、見つけたぞ。天月彰吾と宮下俊。特に会いたかったのは……」

 鎧の様な物を着た存在は彰吾に指をさして、殺意をむき出しにする。

「テメェだ、天月彰吾……!! この前のツケを払って貰うぞ」

 鎧の様な物を着ている存在は殺意むき出しのまま、戦闘態勢に入り、

「テメェの命でなぁ!!」

 言いながら突進を彰吾達にした。

 現在の時刻。 PM 15:12 / 地下シェルター行き通路



PM 15:12 / 横浜


ファントムとの合流を終え、ペイルライダーは一番被害の大きい横浜で鎮圧をしていた。

『あ』

 突然、何かを思い出すようにいうリリン。

「どうした?」

 一応どうしたのかペイルライダーはリリンに聞く。

『いや、護衛ターゲットを念の為に、未来予知をしたら』

 何か言いづらそうにしているリリンになんだ?と思うペイルライダー。

『後、一時間半で――――』




『――――天月彰吾が死ぬ』




 もっとも最悪の未来が見えたリリンであった。




 つづく

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