第6話 変わりゆく日常Ⅵ
AM 9:30 / 大機械祭会場
大機械祭が始まり、彰吾と俊の二人はいろいろな出展品をみる。
中には、全身を覆う鎧の様な機械まである。
なんだこれは、と思っていると、
「これは、強化アーマーです。あ、私はこのアーマーの出展組の者です。よかったら試着してみます?」
突然、この強化アーマーの出展組の一人が言い出す。
少し困惑する二人、どう考えても高価な物に決まっている。そんなものを着ても良いのか?と思ってしまう。
それにしても見た目がカッコいいと思う二人。
顔の部分はフルフェイスで、不透明な緑色のプレートが目のあたりを保護して、角みたいなのがこめかみのあたりについている。
体の方はメタリックで要所要所のみに装甲が付けらてあり。胸、腹、わき腹に装甲がつけられている
背中は肩甲骨と羽の部分、背骨を守るように装甲が付けられていて、腕と脚を覆うように装甲が付けられている。
本当にカッコいいとしか言えない二人。だが、興味を示した人間は逆らうことができない。
「試着してもいいですか……?」
彰吾はこういう試着イベントはあまり好きではなかったが、今回は別であった。
「はい、良いですよ」
満面の笑みで出展組の一人が言う。
「では、その前に、これを」
出展組の人が腕輪を彰吾に渡す。彰吾は腕輪を受け取るが何が何だかわからなかった。
この腕輪は何だろう?と思い彰吾は聞こうとしたが、そのまま背中を押され聞くに聞けなかった。
彰吾はそのまま強化アーマーの出展組の裏に設置してあった更衣室的なところに連れられている。
「では、アーマーを着る前に上着を脱いで更衣室内にあるハンガーに掛けて置いてください。後、貴重品は更衣室内にある暗証番号付きのロッカーに入れておいてください」
丁寧に出展組の一人が説明した。彰吾は言われた通りに更衣室に入り、上着を脱いでハンガーに掛けて、貴重品をロッカーに入れる。
貴重品の暗証番号を設定して、更衣室から出る。
更衣室から出ると出展組の一人が待っていた。
「お待ちしておりました。では、こちらへどうぞ」
彰吾は出展組の一人に先ほどの強化アーマーの所に向かう途中、彰吾は気づく。
「あれ? しゅ……、もう一人いた男は?」
「あの人は、適正値がうまくかみ合わなかったので……、そこで見てもらっています」
出展組の人が「あちらです」と指す方を見ると、俊が物凄く羨ましそうにこちらを見ていた。
彰吾は強化アーマーの置いてあるステージの階段を上っている最中に、俊にすまん、とジェスチャーをする。
それを見た俊は、笑顔で中指を立ててきた。
本当に着て見たかったんだな……。と思う彰吾であった。
ステージに立ち、強化アーマーの近くに行くと、この強化アーマーの出展組のリーダーらしき人が現れる。
「やーやー話は聞いたよ? 君がこの強化アーマーを着てくれるそうだね。あ、私は草壁(くさかべ)絵里(えり)」
「え、あ、天月彰吾です。とりあえず、まぁ、はい」
「そうかそうかー、今までこれを着ようとした参加者の人は適正値が低くてねー。着ても、あまり変わらないのもあるし、体に負担がかかるかも知れないから、パスしてきたのよね」
「なるほど、ちなみにこの腕輪は何ですか?」
彰吾は最初にもらった腕輪を見せると、絵里が笑う。
「それね、適正値を測る物でねー。つけた人はここのコンピューターに数値が出てきて、その数値が適正値以上だったら着れるようになってるの」
彰吾はその説明を受け、なるほどと納得する。
「ちなみに、適正値はいくつなのですか? 一般の自分にもわかりやすく説明してくれるとありがたいです」
「いいよー。まず、この強化アーマーを着るのに必要な適正値は75。これは、成人男性なら簡単に着れる数値。もちろん、高校生でもスポーツをして、運動ができる人なら全然着れる位、簡単な数値なの」
とてもうれしそうに話している絵里。
だが、突然ため息をついてがっかりしている。
「簡単な数値なのに、今まで来た人が――」
AM 9:08 / 強化アーマー出展組受付前。
「なぜ、僕たちはダメなんですかぁ~?」
「そうだ、そうだー」
「体格の問題と適正値の問題上、ご試着することが出来ないんですよ……。すみません」
太った男二人が強化アーマーを見て、着て見たい!!と言い出し、体格の問題、適正値の問題上、着ることは不可能であった。
不可能と言ってもなお、太った男二人は「絶対にその機械が壊れてるに違いない!!」「そうだ、そうだー」と言い張り続ける。
後の人達が待っているため、何とかこの場を早く収拾しようとするが、うまくいかない。
「ま~あ、僕が着れば、この性能の100%、いや……、120%の性能を引き出すことが出来るね!!」
「そうだ、そうだー」
などと、言い出す。妄想も大概にしろよ?この野郎。と思う絵里。
太った男二人が文句ばかり言うせいで、後ろに並んでいた人達が次々にいなくなっていく。
絵里の堪忍袋が切れる瞬間、
「それ以上迷惑行為を行う場合、強制退場させていただきます」
太った男二人の後ろから誰かが話をかける。
「だれだ、僕の後ろに立つ奴は!!」
「そうだ、そうだー」
太った男二人が振り返りながら、後ろから話をかけてきた人物に言う。
そこにいたのは、
「大機械祭、自警団団長。久能凛花です」
「く、久能って……、あの、雷光(ライトニング)の……」
「そうだ、そうだ……」
太った男二人は困惑した。なぜ、こんな所にSランクの久能凛花、
「ちょっと、凛花。もう、急にいなくなるのやめてください。私、こういう人の多い場所は少し苦手なんですから」
困惑していると、次に現れたのがSランクの東堂沙由莉、
太った男二人は状況がしっかりと理解出来ていないが、とりあえず、太った男二人は凛花、沙由莉を見て。
「俺も何が起きたかわからねぇが、今起こった事をありのままを話すぜ……」
「そうだ、そうだ……」
「俺は、ここの強化アーマーを見て、このアーマーは私を呼んでいる!! と感じたのさ。だから、私は仕方なしにこやつ等が渡してきた、この腕輪をつけて、アーマーを着ようと思ったら、着れない。と言い張るのだ。これは許し難い行為――」
凛花、沙由莉は太った男の話を無視して、絵里に事情を聴く。
「結局何があったんですか?」
「実は、あの二人が先ほどから強化アーマーを着れないと聞いた瞬間から、ずっと文句ばかりで」
「なるほど」
沙由莉は絵里から事情を聴いた。
「たとえ、私がデブだとしてもだ。それでも、着れるようにするのがそちらの問題ではないかということだ――」
太った男はまだ話し続ける。
太った男よりも、数倍強化アーマーに興味を示した凛花。
「これ、着て見たいですね……」
「本当ですか!? うれしいです!! けど……」
でも、というとどこか悔しそうな表情を浮かべる絵里。
「けど、これは適正値以上過ぎる数値ですと、かえって危険なので、すみません」
「なるほど、そういうことね。なら、仕方ないです」
凛花は少し着れなくて悲しかったが、理由があるなら仕方ないと思った。
「そもそも、なぜ色々な人が来るこのイベントの時にいろいろなサイズを持って来いないのだ。しかしながら――」
まだ話続ける太った男。
「ああいう人、たまにいますよね」
「困ってしまいますね。私たちは店員ではないので」
「そうですね。コンビニなら近くにあるのでそちらに行けば良いと思うんですよね」
「ですよね」
「ねー」
「いい加減聞けよ!! こっちは着てやろうと言っているんだぞ!! これだから頭のかた――ウグッ!!」
凛花と絵里で話していると、無視されていたのに気づいてたいた太った男が切れた。
だが、太った男は凛花に一瞬で足払いを受けて倒れる。
「そ、そうやって、力のない奴を見下すのかよ。能力し――――」
「うるさい、だまれ、口を開くな、息をするな、ブタ野郎」
「なッ!? だ、だれがブタ野郎だと!!」
「そうだ、そうだー!!」
今まで黙っていた「そうだ、そうだー」の太った男も、ブタ野郎と言われ、怒っている。
凛花は足払いで倒れている太った男を、ゴミを見るような目で見下していた。
そして、文句を言う二人に凛花は内ポケットから短い紐を取り出す。
「な、なにをするんだ……!」
太った男が言った瞬間、凛花は短い紐を太った男に打ち付ける。
「ブヒイイイイイイイイイイイ!!!! し、しびれた! 痛くはないけど、しびれた!!」
凛花は大勢の前で、太った男の背中を踏みつけながら、電気を纏わせた紐で叩く。
「ブヒイイイイイイイイイイイ!!!! やめるなり! やめるなりぃ!! このままでは目覚めてしまうなり!!」
「あら、やっぱり聞き間違いではなく、ブタはしっかりとブタらしく鳴くのですね。よかったです」
「よ、よくないなり! このままでは本当にめざめ――ブヒイイイイイイイイイイイ!!!!」
「ブタはブタらしく鳴けばいいのです。ブタの分際で日本語を話さないでくれる?」
「ブヒッ! ブ、ブヒッ!! た、助けてくれ、マイフレ~ンドゥッ」
太った男は、もう一人の太った男に助けを求めた。
だが、もう一人の太った男は凛花のゴミを見るような目でビビり、その場から動けないでいた。
「オォーーン、ノオオオ――ブヒイイイイイイ!!」
そして、太った男二人は厳重注意で済まされ、大機械祭で迷惑をかけないと約束させた。
太った男二人は最終的に、ゴミを見るような目で見られるのに快感を覚え、電気紐で適度な電流を流されるのが癖になり。
ドMになった。
AM 9:33 / 強化アーマー出展組受付前
「ということがあったのさ」
「アハハハ……」
なぜ、この人気が出展品の周りに人がいないと思えば、そんな理由であった。
思わず、彰吾はため息が出る。
何をやっているんだ、久能さんは……。と思う彰吾。
昨日は小悪魔系かと思った彰吾だったが、今日で確信する。
久能凛花はドSで小悪魔系というやっかいな部類だと。
「まぁ、それでも感謝はしてるの。では、お待たせしました。強化アーマーのご試着どうぞ!!」
彰吾はそのまま強化アーマーが展示されているステージに立ち、強化アーマーの前に立つ。
すると、強化アーマーの胸、足、腕の部分が開き、いつでも着れる状態だ。
出展組の人が強化アーマーを持って彰吾に装着していく。
胸、足、手の順番に装着し、最後に頭のフルフェイスを被せ、完成。
着て見て分かる驚きの軽さ、強化アーマーだと聞いていたため、どこかで重いイメージがあったのだろう。
それを覆す結果に彰吾は驚く。
「視界はどう?」
感動していると、絵里が彰吾に聞く。
「良好ですよ。普通にいつも見ている景色で、何かに覆われて見えないっていうことはないです」
「そかそかー、それはよかったよかった。それじゃ、試着体験をさせる代わりにデータを取るっていうのが条件なの。いいかな?」
「いいですよ。俺なんかで良ければ」
「ありがとー、んじゃ一旦そのアーマーの説明に入るね」
「了解」
「おっ! いいねぇ~、カッコいいよー」
などと、絵里が茶化す。彰吾はそれを笑って流すと、絵里が彰吾の前に立つ。
「そのアーマーは防弾性、耐斬、耐ショック、耐火、耐爆の耐性が付いているの。しかも、身体強化アシストを少しばかりついているの」
「なるほど……」
「だから、物凄いジャンプが出来たり、初速からハイスピード状態とか、馬鹿力がね。それを着ている間にできるの」
絵里が説明をしてくれて、このアーマーはアサルトライフル位の弾位は防ぐことができ、爆破にも耐えれるらしい。
その他の機能として、頭についている角の部分はアンテナらしく、遠距離通信ができ、遠距離を見るズーム機能もある。
何とも素晴らしい作品だと思う彰吾。
「すごいですね。これ優勝するんじゃないですか?」
「そのつもりだけど、敵は多いからね~。どうなるかは分からないよ。さて、短いけどこの辺でいいかな? 無理をすると体が壊れてしまう可能性があるからね」
「了解」
そして彰吾は強化スーツのあった場所に行き、着脱していく。
頭のから取る彰吾、頭の外し方はいたって簡単で、頭をつかみ、上に持ち上げると解除されて外れるシステム。
フルフェイスを外して次は体、手、足と外していった。すべて外し終えると、出展組の一人に飲み物を渡される。
飲み物を受け取り、強化アーマーを再度見る。
「良い体験をしました」
「そう言ってもらえるだけで、こちらは救われるよ。んじゃ、貴重なデータありがとうございました! 本日の大機械祭を楽しんでいってください!」
彰吾は更衣室に戻り、上着を着て、ロッカーに閉まってあった貴重品を取り出して俊のいるところに向かう。
「わりわり、またせたな」
「……、俺も着たかった……」
「な、なんか奢るから元気出せよ」
彰吾と俊はそのまま、強化アーマーの出展場所を離れ、そとで飲食販売をしている広場に向かった。
その彰吾と俊の二人を見送った絵里。すると、一人が絵里に近づく。
「リーダー、なぜあの子の方にしなかったんですか?」
「ん? あの子って?」
「アーマーを着れなかった子です」
「あぁ……、それね。実は適正値は75以上と言ったんだけど、実はこのアーマー75以上、90未満の人しか着れないように設定してあるのよね」
「え? じゃあ、雷光(ライトニング)さんや、あの子は……」
「そう、90以上だったから着れなかったの。力が強い分、強化アーマーもそれに反応して強化させてしまうからね。それに90以上がほとんどいないから、75以上の設定ってのもあるの」
絵里は彰吾と俊を見ながら言う。
「それに、何か嫌な予感がするの。よくはわからないけどね」
AM 9:36 / 大機械祭 飲食販売広場
彰吾と俊は朝ごはんを食べてないで、大機械祭に着ていた。
朝ごはんを食べなくても、この大機械祭内でやっている飲食販売店で買う事が出来るからだ。
とりあえず、彰吾と俊はホットドックと飲み物を買い、丸テーブルで食べている。
この飲食販売広場は様々な飲食が並んでいる。
ホッドドック、ハンバーガー、ケバブ、ツイスターなど、様々なものが取り揃えてあるのだ。
彰吾は先ほど、強化アーマーを着れなかった俊の為に、ホットドックを奢っていた。
「それにしても、何で俺は着れなかったんだ?」
「さぁな、適正値が合わなかったんだろ?」
「はぁ……そうか、で? どうだった?」
「なんだろうな、特撮ヒーローの気持ちがわかったかな」
「はぁ~……、いずれ俺も着てやる」
ハハハと笑いながら彰吾は、ホットドックを頬張る。
ホットドックを食べていると彰吾は思い出す。
「あ、そういえば久能さん大機械祭に着てるんだよ。行かないと」
「はぁ!? なんで、それを早く言わねぇんだよ!!」
そういうと俊はホットドックを飲み込んだ。
「ホットドックは飲み物じゃねぇから」
「うぃ……」
俊はメロンソーダを飲み、口の中にあるホットドックを胃に流し込む。
彰吾も食べ終わり、ゴミを片付けて凛花の所が出展している場所へ向かった。
AM 9:42 / 第4女学院機械部出展場
4女が出展している場所に来た二人。すると、突然。
「誰でしょ~か?」
「誰でしょう?」
彰吾と俊の目を誰かが後ろから手で隠し、二人の視界を奪う。だが、この二つの声に聞き覚えのある二人。
「久能さんでしょ?」
彰吾が答えると、凛花だと思われる人物が手をどけて、視界が元に戻る。
「ほら、やっぱり」
「わぁお。声だけでわかっちゃうなんて、彰吾さんったら」
振り返るとそこには、久能凛花が不敵な笑みを浮かべながら上目使いで彰吾を見ている。
今でも嬉しそうでムフフーと笑っている。
「って……ことは!? これの手は、あれだな! あれ何だな!?」
俊は今視界を隠している手の存在が誰だか分かり、興奮状態だ。
息を整えて、手を叩く。叩かれると、手が俊の顔から離れていく。
離れた時に目を瞑ったまま振り返り、急いで手を握る俊。
「この手は、東堂さんですね!!」
勢いよく目を開けて言う俊。そこにいたのは、
「ど、どうもぉ~」
知らない太った男だった。
「誰だテメェエエエエエエエエエエエエエエ!?!?」
太った男の手を握りしめたまま叫ぶ俊。
その一部始終を見た人達、彰吾達は大笑いした。
もしも、この大機械祭にお笑いMVP賞があるなら、間違い無しで俊がMVPだろうと思う彰吾。
俊は太った男の手を振り払い、太った男を睨む。
そして、すぐ近くにいた沙由莉に近づく俊。
「東堂さん、冗談がキツイですって……」
「フフフ、ごめんなさい。気が乗らなかったのですけど、凛花が面白いからって言うから」
沙由莉が言うと、凛花はペロッと舌を出して、ごめんねーとジェスチャーしている。
本当に小悪魔系だよなぁ……と思う彰吾。
「小悪魔じゃなく、イタズラ好きなだけですよ? 彰吾さん」
「いや、ほんっとに何で分かるの?」
「何ででしょう?」
「俺に聞かれてもなぁ……」
凛花と彰吾の二人で話していると、沙由莉と俊がこちらを睨んでいる。
それに気づく、凛花と彰吾。なぜか、沙由莉が凛花に近づく。
「いつから、そんな仲良くなったの? 凛花?」
「え、それは、まぁ……」
沙由莉が少し怒っている中で凛花はうーんと顎に人差し指を付けて悩むと。
「相性が良いから?」
「天月さんはあなたの様に、ドSな人じゃないです、やめてください。汚れます」
「え!? それはそれで酷い!!」
沙由莉の発言に驚く凛花。さすがに、その反応は予想してなかったらしい。
沙由莉と凛花が話していると、
「そんな、久能お姉さまも痺れるッ!!」
「そうだ、そうだー」
俊の手を握っていたドMの太った男達が言う。
「なんで、あなた達が話すの? 息吸うの? 私に言うの? 死んでください」
言った瞬間、凛花が男たちに容赦のない、言葉を発する。
「「ありがとうございますッ!!」」
ドSな凛花の話を聞いていた彰吾に対し、俊は何も聞かされておらず。
その場でポカーンとしていた。
「本当に嫌いになってしまう前に、この場から去ってくれます?」
「「了解です!! お姉さま!!」」
そのまま、どこかへ走っていく男二人だった。
男が去ると、ふぅ……と一息つく凛花。だが、ハッと何かを思い出すように、彰吾と俊を見る。
「い、いえ、今のは違いますよ? 気のせいです」
アハハハーと乾いた笑みを浮かべる凛花。なぜか俊がいつも以上に真剣な顔つきで凛花に近づく。
その気迫に押されたのか、凛花は半歩後ろに下がる。
そんなの関係無しに凛花の前に立った俊。
そして、
「踏んづけて、罵倒してください!! お姉様!!」
土下座しながら叫ぶ俊だった。
突然の出来事すぎて戸惑う凛花。今でも「え? え? え?」と言っている。
それでも、土下座し続ける俊に彰吾は呆れる。
「良い才能だと思います!! Sの才能良いと思います!!」
「え、あ、こ……、困ります! やめてください、宮下さん!」
今の状況に焦る凛花に、土下座する俊。
それを横目に見ていると、沙由莉が彰吾に近づく。
「凛花から聞いてました。今日、ここに来ることを」
「あ、そうだったんですか」
「はい、それで実はもう一つ用が天月さんにあるのです」
「なんでしょう?」
「ガーディアンからあなたを護衛するよう依頼を受けたので、敵の脅威が去るまで護衛させていただきます。よろしくお願いしますね。天月さん」
丁寧にお辞儀をして満面の笑みで言う沙由莉に、驚いて何も言えない彰吾。
まさかのSランクのお方が護衛だとは思わない。
確かに涼子は、素晴らしい護衛をつけますので、と言った。
だが、ここまでだとは思わなかった。
「それで、この後は上位10組の発表と披露があるのですが、どうしますか? 天月さん達は」
「ん? まぁ、俺たちは投票したし、見ていくよ」
「では、私達のところにも投票を?」
「一応ね」
「ありがとうございます! この投票で、上位10組の枠を取れるか取れないか決まりますから!」
この大機械祭では投票システムがあり、一人三票と決まっており、同じ所に複数票入れる事は不可となっている。
複数票入れられないが、三票入れるではなく、三票までと決めている為、一つだけ入れるというのも可能。
大機械祭に参加している一般人のみが票をもらっていて、出展組は票をもらうことが出来ない。
しかし、これはあくまで絶対に投票しなければならないという事はない。
「はぁ……、投票は絶対という規則出てくれるとうれしいんですけど」
「それは、ある意味辛いのもありますからね。お祭りもかねているので、そういう強制は無しにしてると思うんですよ」
「まぁ、仕方ないですね」
「そうですね」
沙由莉と彰吾の二人で会話をしていると、横から視線を感じ、そちらを見ると。
「「………」」
凛花と俊がこちらを見ていた。あらーと言わんばかりにニヤニヤと凛花は笑っているが、俊は睨んでいた。
今の俊なら、眼力だけで人を殺せそうな位、彰吾を睨んでいる。
しかし、俊に説得力の欠片も見えない。
なぜなら、俊が四つん這いで凛花が俊の頭を踏んでいる状態で、こちらを睨んでいるから。
「なんというか、すごいシュールな絵面だな」
睨んではいるがどこか、嬉しそうにしている俊だった。
彰吾が言うと、沙由莉の腕輪からピロリンと音が鳴る。
「やりました! やりましたよ!!」
と、沙由莉が喜びだす。何が起きたのかわからない彰吾は沙由莉に近づいた。
「えっと、どうしたんですか?」
「あ! 実は、発表することになったのです!! この大機械祭の上位10組に!!」
「おめでとうございます!!」
「では、お昼を挟んでから発表するので、13時ぐらいに発表会場に来てくださいね。天月さん」
「わかりました」
そして、彰吾と俊の二人はその場を去り、時間を潰すのであった。
AM 10:36 / 大機械祭会場内
『ペイルライ――じゃなかった。貴(き)ヶ谷(や)中尉、聞こえてます~?』
耳につけているインカムから女性の声が聞こえる。
「聞こえている。なんだ?」
『周辺におかしな動きなしでぇ~す』
「そうか、監視を続けろ。何かあれば連絡しろ」
『りょうかぁ~い』
通信が切れ、インカムからは何も聞こえなくなるが、周りの人の声と、アナウンスが代わりに聞こえてくる。
周りを見渡しながら、不審者がいないか確認する貴ヶ谷。
すると、
『中尉。隊長、木林(きばやし)少佐からの連絡です。このままの回線でお願いします』
聞きなれた男性の声がインカムから流れる。
「了解」
貴ヶ谷は応答すると、一瞬ノイズ音が入ったがすぐに収まる。
回線が変わった証拠だ。
『貴ヶ谷中尉、木林だ。ゴーストについてなんだが、分かった事が三つある』
「何でしょうか?」
貴ヶ谷は大機械祭会場内のすれ違う人たちを避けながら、話を聞く。
『ゴーストは大機械祭で、無人兵器ドローンを使うそうだ』
「まさかのドローンですか?」
ドローンは無人機兵器のことである。
しかし、そこら辺の無人機とは違い、ドローンだけは違法とされていて、各国のテロ組織、紛争地帯、裏での取引なでもよく扱われている兵器。
なぜ、ドローンは違法とされているのか。
それは、人の脳を使っているからである。人の脳は指令を出せばその通りに動く。
何より、機械とは違い、バグ、ハッキングの心配がないのが最大のメリットでもあった。
人権に反する兵器とされていて、出所も未だ不明のまま。
そんな兵器がこの大機械祭で使うと言う。
『中尉、それだけではない。最近起きた、電車の事件を覚えているか? あれの詳しい情報がわかった』
「何でしょう?」
『ゴーストの奴らはハッキングAIデータを使い、電車を暴走させたらしい』
「なるほど、そのハッキングAIはどのような物ですか?」
『対象に受信アンテナを付ける事で、100%ハッキングするというAIだ』
「アンテナさえ、つかなければ問題は無いのでは?」
『それが、空気中に撒くタイプの奴でな。花粉の様な物なのだ。人から機械へ感染』
「人への直接的な被害は?」
『ゼロだ。それに検査にかけても引っかからない』
「それはどう対処すれば宜しいのでしょうか?」
『火に弱いそうだ。そして、最後の報告だ』
「はい、何でしょう」
『ゴーストは君、ペイルライダーと、天月彰吾、宮下俊が標的に入れられている。くれぐれも注意したえ』
「了解しました。では、天月彰吾、宮下俊を見つけ次第、私はその場を離れて、敵を惹きつけます」
『頼む、こちらで応援部隊を送り、二人の護衛につける。では、健闘を祈る』
そして、通信が終わると、貴ヶ谷はすぐに天月彰吾、宮下俊の二人を捜索を始めた。
PM 13:27 / 発表会場
彰吾と俊の二人は、お昼ご飯を済ましてから、発表会場に着ていた。
会場内は二階もあり、段々と段差のある作りになっていて、イスが設置してあった。
発表会場に入る途中で、強化アーマーの製作者、草壁絵里と会っている。
自分でも信じられないよ。と絵里は自分自身でも驚いていた。彰吾はあの強化アーマーがこの様に評価されているのがとてもうれしい。
実際に着て見たからこそ、応援したくなる。むしろ、優秀賞になってほしいと思う彰吾。
すると、発表会場内でピーンと音が反響する。
『えー、では、これから大機械祭、上位10組の発表としますが、その前にゲストをお呼びしております。どうぞ』
司会の男性がある程度説明してから、ゲスト紹介を行うと、垂れ幕から1校の制服を着た男性が現れた。
髪は黒で顔立ちがよく、ルックスも整っているイケメンが発表台を歩いている。よく見ると、1校の制服を着た男性はマイクを片手に持ち、発表台中央に立つ。
『初めまして、皆様。私、第1東都高等学校から審査員としてやってきました。一宮(いちみや)真(まこと)です』
発表する舞台に立つ真、真の名を聞いた会場内はざわつく。
「え、あの完璧要塞(パーフェクト・フォートレス)の?」
「Sランクの、一宮 真……」
「マジかよ……」
能力に関して詳しは彰吾は知らない。
どんな攻撃をしても、相手に通らないとしか、彰吾は知らなかった。
まさかのサプライズゲストに驚く彰吾と俊。むしろ、サプライズだったのかすら聞きたい。
どこかに書いてあるのか?と思い、遠からず、近からずの沙由莉の表情を見る彰吾。
沙由莉も驚いていたのを見て、サプライズか……と思う彰吾だった。
ざわつき始めると、審査員が発表台真ん中に立つ。
『では、上位10組に審査を行います』
審査員が言うと、会場内が静かになる。彰吾と俊は一階の真ん中辺りに座っている。
『では、まず、第4女学院の所から発表お願いします』
はい、と答えると、4女の出展組の人達と凛花が準備に取り掛かり、発表を行う準備にかかる。
凛花がインカムマイクを付けて、音が聞こえるか確認の合図を出す。
『第4女学院の生徒会長であり、機械部部長の久能凛花です。今回、私たちが作ったこの機械について説明したいと思います』
凛花が言うと同時に、会場に凛花達が作った作品が運ばれる。
しかし、大きくはない、70cm位の円形の様な物だ。
『今回私たちが作ったのは、永久機関プラズマエンジンです。このプラズマエンジンはプラズマから生まれるエネルギーをそのまま燃料として使う事です。まず、気体を構成する分子が部分的に電離させて陽イオンと電子の二種類作り、循環させる事でクーロンが働く事で荷電粒子間に働く反発し、または引き合って電気エネルギーを生む事が可能としました。そのエネルギーを貯蔵する構造になっています』
凛花の話に、真面目に聞く会場内。
それにしても、凄いな久能さん。あんな物まで作ってしまうなんて。と思う彰吾。
『そして、このエネルギーは無くなる事はありません。何故なら、このプラズマを発生させ、そこで生まれたエネルギーが、電力に変換され、プラズマを発生させる分子を出し続ける事が可能だからです。しかし、これではただエネルギーをこの媒体の中でしか生み出していませんが、ここで私たちはイオンエンジンを応用した物をここに取り付けました』
すると、機械部の女の子が背中の羽辺りにジェットの付いた物を背負っている。
『これはイオンエンジン応用したフライトユニットで、背中丁度真ん中のあたりが空いているのが見えますか? ここに、このプラズマエンジンを装着する事によって活用することが可能なのです。イオンエンジンとは、陽イオン源で推進剤を陽イオン化して電界の中に放出すると、正の電荷をもつ陽イオンは負電極にむかって加速運動を始める事が出来る装置の事です。では、実際に見て貰いましょう』
背中につけたフライトユニットの真ん中にプラズマエンジンを装着して、安全を確認し、そして――――
――――飛んだ。少しだけだが、機械部の女の子が宙に浮いている。5cmぐらい浮いていた。
その光景を見た会場は「おぉ……!!」同時に声を上げた。
数秒宙に浮くと、凛花が首を縦に振り、機械部の女の子に降りて良いよ。と合図を出す。
指示通りに女の子は、着地をする。着地を確認すると、再び、資料に目を通す凛花。
『いかがでしたか? 他にもこのプラズマエンジンを使えば、様々な用途で活用する事が出来ます。何より、この装置は燃料が必要ないのが最大のメリットです。一番最初に電力を供給さえすれば、こちらから装置を切らない限り、永久に稼働する事が可能なのです』
そして、凛花は資料を持っている手をおろし、会場内を見渡してから。
『これが、第4女学院で作った永久機関プラズマエンジンです』
言い終わると、会場内から盛大な拍手が送られる。さすがの彰吾も圧巻され、周りにつられて立ち上がり拍手をしていた。
凛花は一礼してから、機械部の人達と一緒に垂れ幕に向かう。
向かっている最中に、凛花はウインクをしてから、ピースを彰吾にした。
多分、あのウインクとピースは俺なんだろうなぁ……、もしかしたら違う人かも知れないから無視しよう。と思う彰吾。
それに気づいたのか、少し頬を膨らませて不機嫌そうにしている凛花。
『やっぱり、俺だったのか……』
彰吾は思い、仕方なく軽く手を振ると、嬉しそうに垂れ幕に入る凛花だった。
凛花達が垂れ幕内に行くと、少しずつ静かになり、完全に静かになったところで、審査員が立ち上がる。
『第4女学院の皆様、ありがとうございました。とても、勉強になりました。では、次の組の方どうぞ』
次の組の準備に取り掛かるため、少し時間が空く。
「いやぁー、凄いな久能ちゃん」
隣にいた俊が話し出す。
「確かにな、でも、強化アーマーも負けてな――――」
ドーン!!と激しい爆破音と衝撃で会場内が揺れる。
「なんだ!?」
突然の爆発音と会場が揺れるのに彰吾は驚く。
PM 13:42 / 発表会場内。
PM 13:42 / 大機械祭会場
そして、
ゴーストが動きだし、
「さぁ、ショータイムだ……」
不敵に笑うイリアスが呟いた。
つづく
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