第5話 変わりゆく日常Ⅴ

 自然に目が覚めると寝起きで多少ボケるが、徐々に意識が覚醒していく。

 起きて背筋を伸ばしてから、ベッドを降りる。

 そのまま、洗面所に向かい顔を洗う。

 顔を洗い終わり、部屋にある時計を見ると、現在の時間は6時30分。

 ここは第4女学院。そして、第4女学院の生徒会長、久能くのう凛花りんかの部屋。

 凛花は生徒会長の為、早めの登校をする事になっている。

 理由として、朝のミーティングで今日の議題の内容をまとめるためと、一般生徒が登校する時間に正門で朝のあいさつを兼ねた、生徒チェック。

 何より、明日には大機械祭があるため、学院に向かわねばならない凛花。

 朝食を取るため、4女の食堂へ向かう凛花。食堂に着くと、すでに先客がいた。

「あら、珍しいね。沙由莉がこの時間に居るなんて」

 食パンを食べている沙由莉が凛花を見る。

「目が覚めてしまったの」

「そう」

 凛花は食堂のおばちゃんのところに行き、朝食セットを頼む。凛花が頼むとおばちゃんは「いつものでいいの? 凛花ちゃん?」と言った。凛花は「ええ、それで良いです」と笑顔で言う。

 数分で朝食が出来る。分厚い食パンとゆで卵とコーヒーの朝食、これが凛花のいつもの朝食。ちなみに、沙由莉の朝食は、白米に目玉焼きベーコン、野菜、ポテトサラダという、スポーツ女子が頼む様なメニュー。

 いつもの大食の沙由莉に安心する凛花。

 凛花は沙由莉の正面のテーブル席に着き、コーヒーを飲む。

 食堂のカウンターからカチャカチャと皿の音が流れるだけの静かな食堂。

 今、食堂にいるのは凛花、沙由莉の二人と食堂のおばちゃんしかいない。

 凛花はゆで卵を取り、テーブルの角にぶつけ殻にヒビを入れる。

 ゆで卵の殻をある程度向き、向いたところに口を押し当てて、フッーと勢い良く息を吹く。

「……はぁ、汚いわよ?」

「他の生徒の前では出来ませんからね」

 と言いながら凛花はゆで卵の殻を剥く。

 殻を剥き終わり、テーブルにある岩塩を取り、少し剥いたゆで卵にかける。

 岩塩をかける時に岩塩を砕くため、先端だけ回転させて砕くとザリッザリッと音を立てながらゆで卵にかけた。

 岩塩をかけ、凛花はゆで卵を取り食べる。

「ん~……おいしいねぇ~」

 沙由莉は大盛のご飯を食べようとしている。が、何故か目玉焼きベーコンが残っている。

「なんで、目玉焼きベーコン残ってるの?」

「白米に乗せて食べるためです」

「あぁ~なるほど」

 凛花が納得すると、沙由莉は食パンに目玉焼きベーコンを乗せた。沙由莉は目玉焼きベーコンを乗せた食パンを食べる。

 そして、二人は朝食を食べ終わり、食堂の返却口にトレイを返して食堂を出る。

「これからどうするの? 沙由莉」

「とりあえず、学院に向かいます」

「じゃあ、一緒に行きますか?」

「分かりました」

 こうして、4女に向かうSランクの二人であった。





 彰吾と俊。そして、珍しい事に有原賢次もいる。珍しいメンツで下校していた。

 彰吾が昨日あった事を俊、賢次に話していた。

「俺がトイレの間にそんなことがあったのか」

「ああ、殺されるかと思った」

「電車の件で狙われるとはな……、お前暴走させた奴に会ってたんじゃないのか?」

「かもな」

「ガーディアンか警察には話したか?」

「いや、まだだ」

「今日中に話した方がいい。明日は大機械祭だ。ガーディアンと警察は大機械祭と周りに目を光らせるからな」

 明日やる大機械祭。これは全国の高校、機械科、機械部と商業による発表の広場である。

 この大機械祭は世界でも有名で、機械関連の有名人など、大手の会社の人も見に来るのだ。

 ここで発表され、最優秀賞を取った所は、企業に商品化として使われるか、軍の新しい技術として組み込まれる。

 千載一遇のチャンスと言える場所だ。その為、命を賭けている位の作品が展示される。

 そして何故、警察、ガーディアンが目を光らせているかのことだが、この様に軍に転用されるかも知れない技術がある為、それを悪用する輩が少なからず出てくるためだ。

 実際に、大機械祭で作った二足歩行の機械を、大機械祭の最中に奪われ大暴れしたケースがあった。

 それ以来、ガーディアンと警察はこの大機械祭に監視と保護目的で、出動している。

「そうだな。今日辺りにいくか」

「んじゃ、そうと決まれば警――」

「ガーディアン本部だな」

「え?」

 俊が不思議な顔をしながら賢次を見る。

「何言ってんだ? 有原、そこは警察だろう?」

「分かってないのはお前だ。警察は彰吾の件を聞いてどうするかなんて想像がつく」

「なんだよ?」

「どうせ、分かりました。では、不審者が出ないように付近の警察に巡回させます。なんて言う筈だ」

 あー……と納得してしまう彰吾と俊であった。警察の見解だと喧嘩の果てに……と言う考えになり、親身になって聞いてくれる事は少ない。事件性が無ければ、警察は捜査などしっかりと動いてはくれない。

 唯一の証拠である人形は突然と彰吾の前で消えてしまったので言いようがない。それに傷をつけられた足は、

「そういえばお前、今日体育あったけど、そんな傷無かったような気がするぞ?」

 俊が言う。それを聞いた二人は少し、俊から距離を置いた。

「宮下、お前はそういう奴だったのか」

「俊、あの、俺はそういうの無理だから」

「ちげぇよ! 彰吾と話しながら着替えてたんだ! それに俺は女子が好きだ!」

 なんだ、と言わんばかりに賢次がつまらなそうな顔をする。

「なんで、テメェはそうつまらなさそうな顔してんだよ……!」

「いや、別に」

「チッ……、とりあえず、無かったよな?」

 賢次に舌打ちをして、彰吾に聞く俊。

「ああ、なんか一日で治ったんだ」

「ナイフ刺されたのにか?」

「ああ」

「火事場の馬鹿力か?」

「さぁな」

 賢次が少し驚きながら彰吾に言った。何を言おうが事実、ナイフ跡も無く、ピンピンしている。

 これには彰吾も驚いた。ゴスロリ人形に襲われた後、俊と一緒に御飯を食べて海上都市に帰り、自宅に帰宅してから治療しようした時にナイフ跡がなく、驚いた。

 急に痛みが無くなった時は、アドレナリンが働いて痛みが無くなったのかと思っていた。

 だが、家に帰るとアドレナリンとかのレベルではなく完全に傷が治っていた。

「とりあえず、ガーディアン本部行くか」

 彰吾は家に帰るついでにガーディアン本部に向かうのであった。




ガーディアン本部に着いた三人。

 彰吾と俊はガーディアンの人にお世話になった事があり、向かう最中にドーナツの詰め合わせを買っていた。

 だが、ガーディアン本部に入りづらい彰吾と俊。賢次は気にせず、入り口近くの自動ドア前まで行く。

「なんでそう、普通にいけるんだよ」

「別に気にすることはない」

「そ、そうだけど」

 俊と賢次が言う。それは彰吾も思っていた。二人を見た賢次ははぁ……、とため息をつく。

「そんなとこにいると最終的に怖気づいて帰ることになるぞ?」

「だがな、有原……」

「なんだ?」

「意外と、でかいんだな。ガーディアン本部……」

 ガーディアン本部は警視庁と同じぐらいの大きさはあった。

 しかし、警視庁よりもガーディアン本部のほうが横に広い。

「ん? てか、なんで警察とガーディアンは同じ警視庁にいないんだ?」

 俊が疑問を言う。有原はため息をつく。

「昔は一緒だったんだよ。だけど、ある事件があってな――」

 有原の話だと、警察内部に超能力課と言うのが昔は存在していた。

 だが、一つの立てこもり事件があり、人質6名に爆弾が仕掛けられていた。

 その時、協力した能力者が、未来予知の能力であった。

 未来予知をした結果、突入しても相手は爆破できずに制圧が出来る未来が見え、隊員に伝えたらしい。

 しかし、突入をした瞬間、未来が変わり、犯人は人質6名を爆破。

 突入した警官20名の内12人が死亡したが、犯人は未だ捕まっていないと。

 そして、この事件を気に、警察とガーディアンは別物とすると国が決めた。

 警察は犯罪者の逮捕、犯罪前の犯行を潰すのが仕事。

 ガーディアンは能力者に対して、特別イベント、演習のみ、警察官との協力をすると国が決めた。

 三人は、ガーディアン本部の扉の前に立っているのも迷惑だと思い、近くのベンチに座りながら有原の話を聞いていた。

 有原は突然立ち上がり、ベンチに座っている二人をみる有原。

「もういいだろ? とっとと行くぞ」

「ああ」

 そういいながら彰吾はガーディアン本部の正面入り口から入った。ちなみに、俊は黙って彰吾の後ろについていた。

 ガーディアン本部に入るとそこは大手の会社に来たかの様なデザインになっている。

 中央が開いていて、サイドに部屋なり何なりとあり、入り口のすぐ近くには受付があり、噴水まであった。

 初めてガーディアン本部に入った彰吾と俊は驚き、口が開いていた。

 それを見た賢治は、フッ……と鼻で笑う。

「あれ? 天月君に宮下君。それに……、有原君まで。どうしたの?」

 そんなことをしていると、新垣涼子が三人に話を掛けた。

「こんにちわ、新垣さん」

「こんにちわ、天月君。どうしたの? わざわざここまで来て、その格好から見るに学校帰りでしょ?」

「あ、はい。そうなんですが……、あ! とりあえず、これどうぞ」

 彰吾は手にぶら下げたドーナツの詰め合わせを涼子に渡した。

「ありがとう! 私はドーナツが好きでね。それにみんな喜ぶよ。ありがとう」

「いえいえ、お礼も兼ねてです」

「礼儀が正しいのね。さてと、どうしたの? ここまで来てドーナツだけじゃなさそうだし」

「ええ、まぁ……」

「……、とりあえず。こっちに、宮下君と有原君も一緒に」

 そして、三人は涼子に連れられ、ガーディアン内にある涼子達の仕事場に連れられた。

「あれ、涼子さん。どうしたんですか?って、天月君に宮下君、有原君だよね?」

「はい、有原であってますよ。千道さん」

 よかった。と笑いながら言う真弓。

「で、どうしたんですか? 涼子さん」

「ああ、実は天月君が何か事情があるみたいなんだ。真弓、今居る隊員達を呼んでくれないか?」

「分かりました」

 涼子が言うと、真弓はすぐに他の隊員達を呼ぶために内線を使った。

 数分すると、真弓に呼ばれた隊員達が集まった。

 一応、周りの人に聞こえないように、扉を閉める。

「さて、これで外部に漏れることは無いから、安心して話してもどうぞ」 

 彰吾と俊、有原は横に広いソファーに座らされていた。

「実は……」

 彰吾は昨日あった事を涼子たちに話した。

「なるほど……、分かりました。多分、その人形使いを私達は知っています」

「本当ですか」

「ええ、でも、これは口外には出来ませんので、すみません……」

「いえ、相手が分かるだけでも良かったです」

「そういって頂けるだけでありがたいです。天月君、そして宮下君。君達二人は狙われる可能性があります」

「え、なんで俺ですか?」

「電車の件で天月君が狙われたという事は、当然一緒に止めた宮下君も標的の可能性があるからです」

 涼子の発言に俊は「マジかよ……」と呟く。実際彰吾もマジか……と思っていた。

「そこで、あなた達二人に護衛をつける事にします。こちらの方で護衛を選びますので、待っていて下さい」

「はい、ありがとうございます」

「ちなみに、天月君に宮下君は、明日の大機械祭には来ます?」

「一応、行こうかと思ってました」

「思ってたんですか?」

「ええ、でも、この状況なら行かないほうが……」

「ご安心を、それなら素晴らしい方を護衛としてつけますので、明日は大機械祭に来て下さい」

 彰吾の心配を跳ね除けるように涼子は言った。

 その後、ガーディアンの隊員と雑談をして時間を潰した。

 そして、護衛のお話が終わり、彰吾と俊、賢次の三人はガーディアン本部を出た。

 ガーディアン本部を出ると、時刻は17時を回っていた。

「やば、俺帰るわ。飯作らないといけないし」

「あいよ、明日大機械祭だし何時にいくよ?」

「始まりが9時からだった筈。8時半でいいか?」

「あいよ」

「有原も行くか?」

「いや、俺はいい」

 彰吾は俊と待ち合わせの時間を決め、一応賢治に聞いた。

 賢次の返答に彰吾は「そうか、仕方ないな」と答える。

「んじゃ、またな」

 そして彰吾は帰宅するのであった。

 ガーディアン本部と彰吾の家は一時間ぐらい掛かる距離であった。彰吾は仕方ないと思い、電車を使うことにした。

 近くの駅まで走り、改札口を抜ける。改札口を抜けると、駅のホームからぞろぞろと人が降りてくる。

 電車が着ている証拠だ。彰吾は昇り専用の通路を走り、ホームを目指す。

 プルルルーと電車の出発の合図が聞こえる。ホームに着き、電車に乗ろうとすると扉が閉まった。

『あー、くそ。間に合わなかった』

 と思うと、何故か扉が開く。扉が開いたので彰吾は急いで電車に乗った。

 なぜ、扉が開いたのだろう?と思っていると、

『扉にお客様のお荷物か何かが挟まり、扉をあけさせて頂きました』

 車内アナウンスが流れる。なるほど、だから扉が開いたのか。

『なお、扉が閉まろうとしているのに無理やり入ろうとすると、お客様のお怪我に繋がりますので、おやめください。なお、扉が開いたからといって入ろうともしないで下さい』

 車内アナウンスが流れた。彰吾は、ごめんなさい、以後気をつけます。と思ったのだった。

 アナウンスが流れ終わると、電車が出発する。彰吾は今いる駅から二つ目で降りる予定。

 それまでこの社会人のおじ様の汗の臭いと奮闘しなければならなかった。

 彰吾はこの時間に電車に乗るのは本心では無かった。なぜなら、この時間は会社が終わり、定時あがりのおじ様が多いからだ。

 しかし、彰吾は急いで帰らねばならない。

 商店街のスーパでタイムセールをやるからだ。

 今回は、豚肉100g50円という破格で売る為だ。

 ちなみに、タイムセールの時間は18時からスタート、現在の時刻は17時30分。

 ガーディアン本部で長居しすぎたかな?と思う彰吾。

 思った瞬間電車がカーブに差し掛かるとグラッとゆれる。

 揺れた際に、バランスを崩したのか、女性生徒が彰吾にぶつかる。

「キャッ……」

「おっと」

 彰吾はつり革を掴んでいた為、女性生徒がぶつかっても倒れずに済んだ。

「大丈夫ですか?」

「あ、は、はい。ありが――ひッ!」

 彰吾にぶつかった女性生徒は突然変な声を上げ、口元を押さえている。何かおかしいと思った彰吾は女性を見る。

 すると、何かを我慢しているような表情を浮かべていた。

 彰吾はトイレか?と思ったが、何故女性がこんなにも我慢している表情を浮かべているのか分かった。

『安心してください。次の駅で降りましょう? 顔は見ましたか?』

 彰吾は女性生徒にゆっくり近づき、周りには聞こえないように小さな声で女性の耳元で言う。

 女性生徒は軽く縦に首を振る。そして、彰吾は女性生徒の下部を見る。

 女性生徒の下部に誰かの手が、女性生徒のスカートの下に手を入れていた。

 痴漢だ。

 その手はスカートのしたで女性生徒の下部の部分をなでている様に見える彰吾。

『触られてます?』

 彰吾が女性生徒に確認する。女性生徒は先ほどと同じ様に軽く首を縦に振る。

 そして、駅にもうすぐ着きそうになった瞬間に彰吾は女性生徒の下部を触っている手を掴んだ。

 手を掴まれ、必死に逃れようと抵抗するが、彰吾はがっちりとその手を掴んでいた。

 駅に着き、電車内に居た人が降りるのと同時に掴んでいる手ごとひっぱり、駅に下ろす。

「はな、離したまえ!!」

 男性の声が彰吾の背後から聞こえたが、彰吾は無視し女性生徒と共に駅に降りた。

 強制的に男を下ろした彰吾。男は彰吾の手をやっとの思いで振り払う。

「何なのかね! 君は!」

「何なのかねって……、自分でした事分かってるくせに……」

 手を振り払われ、男に言われた彰吾は振り返り言った。

「何!? 私が何をしたというのかね!」

 あきれてため息が出る彰吾。

「見苦しい、やめなよおじさん。痴漢してたでしょ?」

 駅に居た人達が集まり始め、彰吾の発言に周りがざわつき、中には駅員も呼ぶ人もいる。

「私はやっていない! 何かの見間違いだ!」

「そう? 俺はしっかりと見ていたけど?」

「それ以上言ってみろ! 名誉毀損で訴えてやる!」

「女性のお尻を触って置いて、何が名誉毀損だ。痴漢行為が先だ」

「それなら私が触ったと言う事実はどこにある!? 言ってみろ!」

 男は彰吾に事実を見せろといったのに対し、彰吾は女性生徒を男の前に出す。

「こ、この人です……。この人がずっと私のスカートの中に手を入れて触られました」

 女性生徒が男に指を指しながら言う。男は焦り始める。

「ちが! 私ではない!!」

「もういいだろ。やめろ」

 彰吾が言うと、駅員が階段から上がってきた。

 それをみた男はすぐ近くにいた子供を捕まえ、ナイフを取り出した。

「うごくなぁ!! この女の子が、どうなってもいいのか!!」

 と男が言いながら、女の子の顔にナイフを突きつける。

「さがれ! さがれ!! 全員、俺の後ろに立つな!! 向こうへいけ!!」

 男は少しづつ後ろに下がりながら、駅のホームにいる人達を自分の後ろに立たせないように誘導させた。

 子供を人質に取られた母親は泣きながら、我が子を見ている。

「お願いします!! その子にだけは……! その子にだけは、何もしないで!!」

「う、うるせぇ!! こっちは会社クビになって、むしゃくしゃしてたんだ!!」

 男に捕まっている女の子は大泣きしながら「助けてママァー!!」と叫んでいる。

「おい、そこのお前!!」

「俺の事か?」

「おめぇだ! ここに来い! へ、へんな真似してみろ? この子がどうなってもいいのか!!」

 男は彰吾に言う、人質に取られている母親は彰吾にすがるように腕を掴む。

「お願いします! 言う事を……言う事を聞いてあげてください! お願いします……!」

 彰吾もはなからそうするつもりだったため、

「安心してください。行きますので」

 彰吾は優しく微笑みながら言う。彰吾は言われた通り、男に近づく。

「止まれ! そこで止まれ! そして、両手を頭につけて背中を向け!!」

 男と彰吾の距離は2m前で男は彰吾に言う。彰吾は言われた通りに後ろを向き、頭に手をつける。

「これでいいか?」

「ああ、それで……いい!!」

 男は女の子を放りだし、両手でナイフを持って彰吾を刺そうとした。

 彰吾は振り返ると同時に、ナイフをかわしてから腕を引いて、足を出してつまづかせた。

 男は走った勢いのまま足を躓いた為、豪快に転ぶ。転んだ瞬間、ホームにいた人と駅員が男を取り押さえた。

 これで一件落着と思った彰吾。

 だが、

「おい! 女の子が線路に落ちてるぞ!」

 ホームにいた人が言う。男が放りだした時に女の子は線路に落ちてしまった。

 彰吾はすぐにホームから線路に降りて、女の子を助けに行く。

「電車が、電車がきたぞ!!!!」

 誰かが言った。彰吾は急いで女の子を抱え、ホームに上がろうとするが高低差があって上手く昇れなかった。

 駅員がすぐに緊急停止シグナルを送る。が、電車はもう目視できる距離で、今からブレーキを掛けても間に合わずにいた。

 彰吾はしゃがんでホームしたにある、人が落ちて助けが間に合わない時のために、作られてある凹みに女の子を投げる。

 投げた瞬間重力を使い、壁に当たらないようにした。

 そして女の子を助け、彰吾は目の前を見ると電車が待っていた。

 キキキーと電車のブレーキ音がホーム内を響かせる。

 電車はブレーキが間に合わず、彰吾のいたところを通り過ぎた。

 ホームにいた人は声を上げることが出来ずにいる、目の前で人が電車に轢かれればそうなって当然。

 駅員が線路に降り、女の子を確認してから彰吾のいた場所を見る。

 だが、そこには彰吾がいなかった。駅員は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいの中、女の子を救助した時、

「おい! 誰かが電車の先端にいるぞ!!」

 ホームにいた男性が叫ぶ、駅員とホームにいる人達はすぐに電車の先端に行く。

 電車の先端にいたのは、

「死ぬかと思った……」

 彰吾だった。

 彰吾は電車とぶつかる瞬間、手の正面に重力を掛ける。

 電車の先端部が手に当たり、正面に掛けた重力のおかげで電車の勢いを相殺して安全に電車の先端部を掴む。

 掴むと後ろに倒れ、その時に背中と足と地面の間に無重力作り、浮くことで何とか衝突を回避した。

 彰吾はすぐに救助され、ホームにいる人達に盛大な拍手を貰う。

 人質に取られた女の子は無傷で、母親が泣きながら「ありがとうございます。ありがとうございます!」と彰吾に言った。

 男はそのまま、職員室の部屋に連れられ、彰吾は駅のホームのベンチに座っていた。

「あの、先ほどはありがとうございました……」

 痴漢をされた女子生徒が彰吾にお礼を言いに来た。

「いや、いいですよ。あーいうの大嫌いなので」

「そ、そうなんですか……あ、私は伊波(いなみ)楓(かえで)と言います。こんど、お礼をさせてください……!」

「いや、別にだい――」

 彰吾が言おうとするが、楓は彰吾に小さなメモ用紙を渡して階段を下っていった。

「あー、まぁ……いいか」

 彰吾はベンチから立ち上がり、次の電車の時間を確認する。

「……、ん?」

 彰吾は自分の目を疑う。もう一度目を凝らし、次の電車の時間を確認すると。

「18時45分……だと……!?」

 ちょっと待て!と言わんばかりにポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。

「18時30分……タイムセールが始まってる……」

 どうあがいても間に合わない、彰吾は絶望した。

 例え、タイムセール時間に間に合ったとしても、そこに豚肉はないだろう。

 彰吾はため息をつき、電車がくるのを待つのであった。

 俺は今日、一人の女性生徒を助けたんだ、それだけでも十分だ。うん、十分……。と思う彰吾。

 そして、彰吾は電車が来たので電車に乗った。




 例のスーパーの近くの駅に降りた彰吾、そのスーパーはタイムセール以外のお目当ての商品があるため近くの駅に降りた。

 しかし、そのスーパーに向かう最中に少しだけ、彰吾的には問題がある。

「4女……」

 4女の正門前を通らねば、そのスーパーには行けないのだ。彰吾は何も起きませんようにと思いながら、4女の正門前を通る。

「あら? 天月さん?」

 突然、4女の正門の方から声を掛けられる。彰吾はゆっくりと声のする方へ顔を向ける。

「どうも、天月さん」

 微笑みながら、4女の生徒会長、久能凛花が手を振りながら立っていた。

 彰吾は一息つき、凛花のいる正門に近づく。

「こんな時間まで、どうしたんですか? 久能さん」

「明日にやる大機械祭あるじゃない? あれ、うちのところも参加することになっててね。それの出展用の作品を見ていたの」

「なるほど、それで今終わったところですか?」

「一応はね。で、なんで天月さんはこちらの方に? 真逆だと思うんですが……」

「ここら辺の近くのスーパーに用事が……」

「なるほど、何をお買い求めに?」

 凛花の発言に彰吾は「え、それは……」と言う。

 4女はお嬢様学校でもあるため、スーパーなどのタイムセールと言っても、知っているぐらいで、タイムセールには行かないだうと思う彰吾だった。

「あー、まぁ、お肉を買いに……」

「あ、もしかして、タイムセールのお肉ですか? 安いですよねー」

 衝撃の発言に彰吾は驚きを隠せない。

 なぜ、お嬢様学校に通う女の子、しかもこの学院の生徒会長様が近場のスーパーのタイムセールの事を知っている!?と思う彰吾。

「あ、あの~もしかして、タイムセールとか行ってます?」

「行ってますよ! だって、安いし近いし、お弁当作るときには結局、材料を手に入れなくちゃならないんですもん」

 と、熱弁までするほどの人に彰吾はどこか親近感がわく。

「でも、今日はこれがあるので大丈夫です」

 そう言いながら、凛花は片手に持っていた袋を持ち上げ、彰吾に見せる。

 何だろう?彰吾はと思っていると、

「これ、今日お料理研究部の人と、食堂のおばさん達に貰った材料なので。天月さんさえ良ければ、少しお譲りしましょうか?」

「いいのですか……!?」

「はい、どうぞ。と言いたいのですが、このままでは渡せないので少し待って頂いてよろしいですか?」

「はい、もちろんです。自分はここで待っています」

「分かりました、5分ぐらいで戻ってきますので」

 そういって凛花は学院内に入っていった。凛花が戻ってくる間、彰吾は正門前の壁に背中を預けていた。

 凛花が学院内に戻って5分以上が立っていた。彰吾は携帯で時間を確認し、忙しいんだなと思っていた。

「す、すみません! 天月さん! お、遅れました……!」

 凛花はハァ……ハァ……と息を荒くしながら、走ってきたのだ。

「走ってきたんですか!?」

「え、ええ……、お待たせしてるので……、急いで、来ました……」

「そんなに急がなくても、自分はどこにも行きませんよ!?」

「え?」

 突然、凛花がきょとんと驚いた表情を浮かべながら彰吾を見ている。

「どうしたんですか?」

 心配になり、彰吾は凛花に話を掛けた。

「い、いえ! 大丈夫です! あ、今出ますので少々お待ちを」

 凛花は慌てて誤魔化す、何が起きたのか彰吾には分からなかったが、本人を見て大丈夫と判断した彰吾だった。

 凛花は正門の隣にある、小さい門を開けて出てくる。

凛花が出ると、近くにある小屋の警備員の人に「おつかれさまでした」と言ってから彰吾に近づいた。

「では、彰吾さんの分です。どうぞ」

「ありがとうございますって、こんなに貰ってもいいのですか?」

 凛花は彰吾に野菜、お肉などの材料の多い袋を彰吾に渡した。

「大丈夫ですよ、私はこれくらいで。たまにお弁当を作るくらいですし、あそこまで多く貰ってしまうと、時間かかってその内にダメになって捨ててしまうより全然良いですから」

「そうですか、では、ありがたく頂きます」

「はい」

 大量に材料を貰った彰吾、それを微笑みながら答える凛花であった。

 彰吾は何かお礼をしなければと思っていると、

「お礼は大丈夫ですから」

 と、先につぶされてしまう。

「いえ、申し訳ないので、寮の近くまでお荷物をお持ちしますよ」

「いいですよ、いつもの事ですから」

「今回は、と言う事で、お願いします。お礼をさせてください」

 彰吾はこのままではいけないと思い、食い下がり、凛花に頭を下げている。

「分かりました。では、寮の近くまででお願いします。私の鞄は自分で持ちますので」

 彰吾は「わかりました」と言って、凛花の持っている袋を持つ。そして、彰吾と凛花は一緒に下校を始める。

 下校中、彰吾と凛花は少し話をする。ちなみに、寮は4女からすぐそばにあるらしい、歩いて10分圏内という近さという。

 本当に便利だなぁ、と思う彰吾。そう思っていると、凛花は「本当に便利だなぁって思いましたね?」と笑いながら言ってくる。

 なんだ?Sランク能力者は相手の心でも読めるのか?と思う彰吾だった。

「天月さんの考えは何故か、分かるんですよ」

「そんなに顔に出てる?」

「いえ、ポーカーフェイスだと思います。ただ」

 ただ、と凛花が言った瞬間、どこか少し悲しげな表情を浮かべたあとに微笑む。

「ただ、分かるんですよ。理由は分かりませんが」

「そうですか、まぁ……、嘘はつけないって事ですね」

 彰吾が言うと凛花が笑い始める。何が面白かったのか彰吾には分からなかった。

「フフフ、天月さんって面白いですね。天月さん」

 彰吾より数歩前にでて、彰吾の前に立つ凛花。

「私と話すときは、敬語なしでいいですよ? もう、私達友達ですから」

「いきなりですね、友達ですか。Sランクのあなたとですか」

「はい、私とお友達になってくれませんか?」

 夕焼けが凛花の美しい顔と髪を更に際立たせながら、微笑んでいる。

 凛花は片手を出し、握手を求めていた。

「俺でよければ、お願いします」

「はい、宜しくね。彰吾さん」

「いきなり下の名前か」

「あら~? 彰吾さんも私の事、凛花と呼んでも良いのですよ?」

 笑いながら言う凛花に彰吾は、これが小悪魔系か……と思うのであった。

「では、寮はもうすぐそこなので、ありがとうございました」

「いや、いいさ。これのお礼もあるしな」

 そういいながら彰吾は片手にぶら下げている袋を持ち上げる。それを見た凛花はフフフと笑う。

「彰吾さん、明日の大機械祭は来ますか?」

「ああ、行く予定だけど?」

「では、私達の出展するところにも来てください。明日は私もいるので」

「ああ、分かった。行くよ」

「分かりました、では、この辺で」

 凛花は「さようなら」と言って寮に向かう。凛花を見送り、彰吾も帰宅する。

 電車に乗り、目的の駅に着き、そこから徒歩で自宅に戻る彰吾。

 自宅に戻り、彰吾は夕飯を作ってから、お風呂に入って、夜御飯を食べる。

 ある程度勉強と宿題を終わらせ、携帯のアラームを設定してからベッドに行き、就寝の準備をする。

 本当に今日は色々あったなぁ……、ガーディアン本部行って、女の子二人助けて、久能さんとお友達になってと、色々あったな、と歯磨きをしながら思う彰吾。

 口をゆすいだ後にリビングに行き、冷蔵庫から飲み水を取り出して、コップにいれ飲む。

「本当に最近色々あった。変わってきてるな、俺の日常が」

 飲み終わり、コップを水洗いしてから水をふき取り、テーブルに置いておく。

 日常が変わるのが嫌ではない。それが、あらぬ方向へ変わらないのであれば良いと思う彰吾。

 そして、ベットの近くにある携帯の充電器を携帯に刺してベッドに入る。

 明日は学校は休みだが、大機械祭がある為、彰吾は寝ることにした。現在の時刻は、23時47分であった。

 彰吾はベッドに入ると、良い具合に睡魔に襲われ、そのまま身をゆだね寝ることにした。




 大機械祭の為に早めにおき、支度をしてから俊と待ち合わせの場所に向かい、大機械祭に行く為に横浜に向かった。

 横浜に着き、大機械祭の開催場所、東京湾の近くに向かうと、あふれかえるような人だかりが出来ていた。

 彰吾と俊は、中に入る為に、入場の列に並ぶ。そして、会場内に入って始まりを待つ二人。

 程なくして、場内にピンポンパンポーンとアナウンスの音が響き渡る。

『大変、お待たせいたしました。これより、大機械祭の始まりです』




 そして、




 大機械祭が始まった。




 つづく。

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