第3話 変わりゆく日常Ⅲ

 学院内の敷地には大きな噴水があり、花畑や草の壁で囲まれているティータイムには打って付けの場所もある。

 校内は常に清潔、授業なんかは最新機器を使ってるだけでなく、大きな図書館もあり何より広い。

 ここは第4女学院。

 超能力者の生徒のみが集められた学校である。

この第4女学院にあるテラスに二人の女子生徒が紅茶を飲んでいた。

「そういえば、沙由莉」

 日本に八人しかいないSランク一人、雷光ライトニングの久能凛花が言う。

「なに? 凛花」

 それに答えるSランクの一人、爆弾師ボマーの東堂沙由莉。

「なんで、あの二人に肩入れしてるの?」

「あの二人?」

「はぁ……天月さんと宮下さん」

「あー……あの二人ですか……」

 そういうと沙由莉は紅茶を飲み、一息ついてから。

「私の直感が言ってるんですよね、何かある……って」

「あの二人?」

「ううん、宮下さんじゃなく、天月さん」

「ふーん、そう」

「多分、彼は何かあると私は思いました。だからお茶会に呼んだの」

「まぁ、沙由莉が男を呼んだのは初めてだからね。それほど、興味津々って事がわかれば私はいいや」

 そして凛花も紅茶を飲み、一息ついた。

 沙由莉も紅茶を飲み、空を見上げた。

『天月彰吾、あなたは何かある。そう思います』と思う沙由莉であった。




「とりあえず、退院しても大丈夫だよ」

だるそうにカルテとレントゲンを見ながら言う十月とおつき遠加たちか

 それを見ている彰吾と俊。

 彰吾と俊は電車暴走事故の後、病院に運ばれた。

 しかし、運ばれた所はこの海上都市で最大最先端の病院。

 国立能科病院、ここでは能力者、一般の患者などを請け負う病院。彰吾と俊はそこの診察室にいる。

 そして、目の前にいるのが世界でも有名な医者の十月達加。

 彼は医療の世界で神医と呼ばれている存在。

 彼のオペは完璧手術。治せない者は無いと呼ばれている位の人物。

 脳にダメージを受けてしまうとどうあがいても身体の一部が動かなくなるのは当たり前だ。

 しかし、彼は脳にダメージを受け、うまく身体が動かせなくなった人を補助機が付いてだが治した。

 日常的に補助機をつけていれば完璧に治されたと言える。

 例え補助機が無くとも、前よりはしっかりと動くと言う。

 そんな人が彰吾、俊のカルテとレントゲンを見ていた。

「あれ? 聞こえなかった? 退院してもいいよ?」

「軽いですね」

「まぁね、ただ脳を大分酷使しすぎただけだから」

 達加に言われ、彰吾は立ち上がり部屋を出ようとすると無言で俊も付いてきた。

「では、ありがとうございました」

「まぁ、気をつけてね~」

 彰吾と俊は診察室から出て感謝の言葉を残しその場を去る。

「ふ~ん、天月彰吾に、宮下俊ね~」

 カルテと脳のレントゲンを見ながら言う。

「どう考えてもこの脳の発達ぶりは……」

 フフフと笑いながら言うと。

「ランクCではないよねぇ~」




診察室を出た彰吾と俊は受付に行き病院を出る。

 彰吾は無言で何処かへ向かう、それに着いて来ている俊。

「……」

「……なあ彰吾」

「なんだ?」

「どこ向かってんだ?」

「腹が減ったから、牛丼でも」

「なるほどな、俺も腹減ってるしここら辺の近くに牛丼屋あるから案内するわ」

 俊は彰吾を先導する為に前に行く。

 彰吾の前に行くと、彰吾は自分の携帯を見ていた。

 何を見ているのか俊には分からなかったが、あまり気にする事は無かった。

「なぁ……えと……」

「なんだ?」

「えとだな……」

 そう言いながら彰吾は携帯を見ながら俊に言う。

「何でも無いわ俊」

「ん? まぁ、いいが……お! あそこあそこ」

 俊が案内してくれた牛丼屋に着いた。牛丼屋に入り食券を買い、店員に渡す。

「つゆだくで」

「俺も」

 彰吾と俊は店員に言う、店員は「かしこまりました」と言って裏のキッチンに向かう。

 数分すると注文した牛丼を店員が持ってきた。

 店員は「お待たせしました」と言いながら牛丼を彰吾と俊のいるテーブルに置いた。

 そして店員はまたキッチンへ戻る。

 彰吾と俊の二人は牛丼が来ると、箸を出し、それぞれ好みのトッピングをする。

「とりあえず、七味にカルビソース」

「まぁ、紅しょうがに軽く七味」

 彰吾はテーブルに置いてある七味とカルビソースを掛け、俊は牛丼の肉が見えないくらいに紅しょうがが一面に広がっている。

「それ食うの……?」

「これがうまいんだよ」

「毎回驚くからそれ禁止な」

「はぁ~!? 何でだよ!お前のカルビは……カルビは……」

「フッ……なんだよ?」

 俊は何も言えなかった。カルビソースをかけるのは別に不味くはない、むしろおいしいといえるからだ。

 ただ、普通の味が良いと言う人がいるだけで基本はおいしい。

 それに比べ、紅しょうがを一面にやるのは極少数派の為、それもかなり人を選ぶ。何より、

「そんなに紅しょうがやったら店員にも迷惑だし、味が大分壊れるだろうに」

 これが最大の理由、紅しょうがの消費が多い為店員に迷惑を掛けるだけでなく、味が壊れる。

「まぁ、好みはそれぞれだ。ほどほどにな」

「気をつける……」

 そして牛丼を食べ終え、店を出る。

 店を出ると、彰吾はうーんと考え始めた。

「なぁ……俊……」

「なんだ?」

「俺ボケて来てるのかも……」

「は?」

 唐突に言う彰吾、それに驚く俊だった。

 何を言っているのかさっぱり分からない彰吾は更に俊に言う。

「いや、お前の事少し忘れてたんだよ」

「はー? 何言ってんの? さっき病院行ったじゃん? 何も無いから退院だろ? 薬の副作用で少し疲れてるんじゃないのか?」

 そう言われれば彰吾はかなり疲れていたのが自分でも分かった。

 あれ? 何でこんなに俺疲れてるんだ? と思う彰吾。

「とりあえず、夜飯買いにいくか?」

 思っていると俊が言い出す。

 彰吾は疲れてはいるが、別に気にしないレベルなので俊とスーパーへ向かう。

スーパーに向かっている最中にテレビからニュースが流れる。

『昨日の電車暴走の事故で鉄道会社は外部による不正アクセスでウイルスが流れたと言っており――』

「だとよ?」

 俊が彰吾に向かって言う。

 あまり気にしてない、むしろ彰吾は死人がいないか確認する。

『なお幸い、死人は出てないの事です――』

 安堵の息をつく彰吾だった。そして、スーパーに向かう二人。

「はぁー明日面倒くさ……」

「確かにな」

「能力測定とか面倒くさすぎ」

「仕方ない、それが法律だからな」

 超能力が発展した世界で各国全力で能力者育成の為に奮闘している。

 その中で能力者になった者は、国にその能力の測定を義務付けられている。

 能力を測定、そして観測していく為であり、研究に使われるからだ。

 この法律を無視し測定をしないでいると捕まり、特別収容所にいれられる。

 それは自国に対する裏切り行為と言う事だろう。

 彰吾と俊は明日に備え、帰宅する事にした。

 帰宅し、夜御飯の調理に掛かる。

 ある程度調理した後、お風呂に入り今日の疲れを取り、お風呂から出ると先ほどの夜御飯の調理に取り掛かり、完成させた。

 お風呂に入っている最中に御飯を炊いておき、お味噌汁も作っておいた。

 最後におかずを作り、これで夜御飯の完成。

 茶碗に御飯を盛り、お味噌汁も別の茶碗にいれ、最後に丸皿におかずを盛ってテーブルに運び、テレビをつけて夜御飯を食べる。

「いだだきます」

 お手を合わせ、感謝の言葉を言う。

 テレビを見ながら御飯を食べていると、暴走列車のニュースが流れる。

『三日前に起きた、暴走した電車の事件についてです。鉄道会社はこの事故は外部による妨害工作と言っており、警察と共に犯人確保に全力を尽くしているとの事です。なお、鉄道会社社長は『この様な形でお客様皆様にご心配を掛けた事、深くお詫びします』と謝罪の言葉は言っておりました』

 ニュースキャスターが言う。彰吾は御飯を食べ終わり、片付けに入る。

 そして、自習をして課題を終わらせると23時になっていた。不意にあくびが出る。

「ふぁ~……そろそろ寝るか」

 そう言うと、彰吾は歯磨きをしに洗面所に向かい歯磨きをする。

 明日は早いため、ちょうど良く眠気に襲われた。

「さっさと寝て、明日に備えよ」

 明日は授業と言う授業が無い。

 能力測定は一時間目から4時間目まで丸々使って測定する。

 能力測定日の場合4時間目しか無い為、楽といえば楽。

 だが、能力を使うことで脳を酷使する事となり、授業どころではないと言う事で、測定日の日だけは4時間授業しかない。

 彰吾は歯磨きをして、ベッドに入り明日に備えた。

 次の日。

 彰吾と俊、そして、学校にいる能力者達はグラウンドに集められていた。

 この測定は全4個まである。

「おはよ、俊」

「おう、おはよ」

 とりあえず、俊にあいさつをしておく彰吾。

 彰吾と俊は合流すると、そのまま第1測定の身長と体重を図るため、武道場に向かった。

 身長、座高、体重を図る二人、彰吾は身長が3cm伸びて、現在は172cmで俊が171.6cm。

 身長測定が終わり、次に座高測定で測定してもらう二人。

 天月 彰吾、座高、91.4cm。

 宮下 俊、座高、92.3cm。

 座高の測定を見た彰吾は、俊に「胴長短足(どうながたんそく)」と馬鹿にされた。

 第一測定の最後の、体重測定に向かう。

 彰吾は自信があった。

 筋トレなど、健康を考え基本的に飲み物は水しか飲んでいないからだ。

 自信満々で体重計に乗る彰吾。

 

 天月 彰吾、


 体重、62.6kg。


 嘘だと言ってくれよ。バー○ィ。俺筋肉増やそうとしたんだぜ? と思う彰吾。 

 落ち込んでいる彰吾。そんな事を知らずに俊は測定が終わり、彰吾の所にやってくる。

 俊の測定をみる彰吾。


 宮下 俊、


 体重、63.7kg。


 その測定結果を見た彰吾は、無言で俊に腹パンする。

 突然、腹パンをされた俊は、「なんで!?」と言いながら、彰吾に殴られた。

 第一測定が終わった二人は、第二測定の体力テストを図るため、グラウンドに出ている。

 柔軟、100m走、握力と測定していく。

 彰吾は柔軟測定では、床まで体をつけることができる。

 対して、俊はガッチガチといった、体が硬かった。

 柔軟測定が終わり、100m走に入る二人。

 一人一人測定するため、時間がかかる。

 5分後に彰吾の番が回ってきて、彰吾はスタートラインに立ってから、クラウチングスタートの態勢を取る。

 始め! という合図と共に、彰吾は100mを走りぬけた。

 結果、天月 彰吾、12秒38。

 結果を見た測定員の人が、「陸上の大会に出たら?」と言ってきた。

 彰吾は、興味が無く、丁重にお断りした。

 その間に、俊の測定が終わり、結果を聞いている。

 宮下 俊、14秒47。

 俊も俊で、なかなか速かった。

 彰吾は、俊に自分の結果を伝えると、「何でそんなに速いんだ?」と言われる。

 正直、彰吾もわからない。

 陸上部の様に毎日走っている訳でもなく、普通に帰宅部の人間のため、自分でも結果を聞いたときは、驚いた。

 第二測定最後の握力測定を行う二人。

 彰吾は適当に力を入れ、握力測定を行った。

 天月 彰吾、握力……46キロ。

 ふぅ……と一息つく彰吾の結果を見た俊はニヤッと笑い。

 俊は測定器を握る。全力でやっているのか、体が小刻みにプルプル震えていて、顔を真っ赤にしていた。

 全力を出し切ったのか、やりきった顔で彰吾を見る。

 宮下 俊、握力……58キロ。

 ドヤ顔で彰吾を見る俊。それをみた彰吾は本気を出す。

 俊と同じような状態になっていた。

 彰吾も全力でやり結果。

 天月 彰吾、握力……68キロ。

 思わず、彰吾は片手をあげる。

 今なら、完全勝利したUシーが流れるだろう。

 そして、第2測定が終わった。

 彰吾と俊の二人は第3の測定を行おうとすると、一人の測定員が二人に近づく。

「君達が天月君と宮下君ね?」

「あ、はい」

「どうしたんですか?」

「うん、君達はそっちの測定器じゃなく、こっちの測定器」

 彰吾と俊は体育館に案内される。体育館に入ると、何やら黒くてゴツイ物が置いてあった。

「これで測定しますので」

「なんかいつもと違いますね」

「そうですね。でも、今回はこちらで」

 測定員の人が二人に言う。

 彰吾と俊の二人はそれぞれの測定器に近づき測定を行おうとすると。

「では、この物体に正面から重力をかけてくれ」

 一人の科学者が彰吾に言う。彰吾は正面においてある黒い物に重力を掛ける。

 電車の時と同じ要領で重力を掛ける。

 上にかけている重力を正面に掛け、黒い物体が彰吾に押される様に下がった。

 その黒い物体を下げると科学者達は「おぉ…」と声を上げた。

 そして、いつも通り、下方からの重力制御に上方からの重力制御を行い彰吾の測定が終了する。

 俊は彰吾と同じ様に黒い物体が俊の正面にあり、俊は科学者から「この黒い物体に衝撃波を与えてくれ」と言われ、言われた通りにする。

 とりあえず、俊は正面の黒い物体に衝撃波を放つ。

 黒い物体は俊の衝撃波を受けるとブォオオオンと重低音の音を鳴らしながら震えている。

 それを見た科学者は彰吾と同じ反応をする。

 俊も同じ様にいつも通りの衝撃波の届く距離を測定して終了する。

 最後の第4の測定を行おうと体育館を出ようとすると、

「君達はこれで終わり、後で通知が来るから学校で待っててください」

 一人の科学者に言われ、二人は体育館を出て食堂に行く。

 彰吾と俊は食堂の自販で飲み物を買い、測定通知を待っていた。

「にしても、何だったんだろうな? あれ」

「さぁな、俺達にはわからん物だよ」

「だよなぁ」

 俊と彰吾はそんな話をしていた。

 確かにいつもと違った為、彰吾も何故だろう?と思っていた。

 そんなことを思っていると食堂に有原が入ってきた。

「よう、有原」

「測定終わったのか、早いな」

 俊と彰吾は有原にあいさつもかね、話を掛ける、

 すると、有原は「はぁ…」とため息をつき、二人を見る。

「お気楽だな、お前ら」

「お気楽ではないけどな」

「そうか」

 突然有原が言い出す、彰吾はそれに答えた。

 突然なんだ?と思っていると、

「まぁ、どうにかなる」

 有原がニヤッと笑い言う。

 何がまあ、どうなるか二人には分からなかったが有原が何か知っている事は分かった。

「何を知ってる?」

「すぐに分かる」

 有原が言うと校内放送用の音楽がなる。

『二年一組天月彰吾と宮下俊は特別室に来てください。繰り返します――」

 校内アナウンスで彰吾と俊の二人が呼ばれた。有原は「いけば分かる」と言って、食堂を出た。

 とりあえず、二人は一階の特別室に向かう。特別室の扉の前に着き、ノックをして特別室に入る。

「「失礼します」」

 特別室に入ると、ソファに先ほどの測定を行ってくれた科学者が座っていた。

「座りたまえ」

「はい、失礼します」

「失礼します」

 科学者に言われ、二人は椅子に座る。

 座ると、科学者が能力測定通知を二人に渡した。

 二人は測定通知を見ると驚愕する。

「え?」

「嘘だろ」

「嘘ではないよ」

「しかし、これは……」

「良くある事さ、成長するんだ。〝能力も〟」

 彰吾と俊の二人が驚いているのは、自身の能力ランクが上がった事に驚きを隠せなかった。

 一般的には小学、中学で大きく能力が成長する。高校生になると、能力が全く成長しなくなる事が多い。

理由として、脳が大人の脳になり、これ以上発達の余地が少ない為。

 小さい頃なら、脳はまだまだ発達する為成長もする。

 だが、高校生からは脳が大人の脳になる為。成長をしなくなる。

しかし、高校生が稀に急成長する事がある。

 身体も急激に成長する、同時に脳も成長する事がある。

「君達は電車を止めたみたいだね。それも能力で」

「そうですが」

「何か関係があるんですか?」

「あるさ、能力の成長は何かのきっかけさ。美術家だってそうだ。ふと、物を見たら良い絵が描けてそれが世界的に有名になるとそういう事さ。君達は、あの電車をきっかけに成長したんだ」

 確かに彰吾と俊は自分の能力では出来ないことをやってのけた。

 彰吾の能力、重力グラヴィトンで重力制御を行い、今までは真上と真下にしか重力を掛ける事は出来なかったが、今は横に重力制御を行う事が可能としている。

 俊は衝撃波バーストの威力、回数が増えた。

 前までは、回数も2回が限度で衝撃波もさほど威力がなかったのだから。

「まぁ、これで君達はランクCではなく、ランクBだ」

 彰吾と俊の二人はランクCからランクBに上がった。

 その後、二人は食堂に行き、昼御飯を食べ彰吾はバイトに向かい、俊もバイトに行った。

 彰吾はケーキ屋の裏方のバイトをしている。

 そこで彰吾は今日あった事をお互い休憩中のバイトの先輩、伊月作間いづきさくまに話した。

「ハッハッハ。そうか、天月はランクBか」

「信じられないんですよ」

「そうか? 俺は無能力者(ノンスキル)の一般人だから分からないが、すごいんだろ?」

 無能力者をノンスキルと言う。

 この海上都市に住む場合、能力カリキュラムを受けさせられる。

 そこで、一般人とされた人を無能力者(ノンスキル)と言う。

 別に無能力者だからと言って、能力者からの差別は無い。

「すごいんですけど、その自分にそこまで力があると思えないんですよね」

「……、たばこいいか?」

「あ、はい。どうぞ」

「すまん」

 そう言うと作間はたばこを吸い、一息すると、

「信じられないって言うけど、天月。お前はランクBであり、人を救ったんだ。力が無かったらあの大勢の人達を助ける事は出来なかったと俺は思う」

「……」

「きっかけに過ぎないと言ってたな。そうだと俺も思う。その電車の件でお前が急成長して人を救ったんだ。この事実は変わらない、お前とお前の友達でその場にいた人達全員を救ったんだ」

「そう、ですね」

「だろ? それにあそこには俺の彼女が乗っててな。お前に助けられたもんだ。天月、今更だが、ありがとう。本当に感謝してる」

 作間が天月に頭を下げる。

「あ、あたまを上げてくださいよ! 大丈夫ですから!」

「そうか、でも、ありがとう」

「いえ、こちらも先輩の話で自信になりました。ありがとうございます」

 そう言って彰吾は作間に感謝の言葉言い、バイトに戻った。

 バイトが終わり、彰吾は帰ろうとすると、俊からメールが届く。

「ん? 早めに終わったから、一緒に帰ろうぜ。か…、まあいいか」

 彰吾は俊に「いいよ」と送り、待ち合わせ場所を決めてその場所に向かう。

 待ち合わせ場所に向かうと俊が既に待っていた。

 お互い「おつかれ」といい、帰宅する。

 やはり、今日あった事を先輩など同僚に話したらしい。中には「死ね」と返ったきたらしい。

「は~疲れたな。どーするよ、彰吾」

「俺も今日は疲れた、どっか寄るか」

「賛成、家で飯作るとかもう死んでまうわ」

 そして、二人は近くのファミレスを探す。




とあるビルの屋上に一人の男性が双眼鏡をのぞいていた。

「いました、例の電車の件を止めた奴ら二人を、どうしますか?」

 なぞの男性がトランシーバーを片手に通信をすると、

『始末しろ』

「Shi……」

 そう言うと男性はナイトスコープをつけ、狙撃用ライフルを取り出して狙いをつける。

 目標は――――

「天月彰吾、宮下俊……、ヒーロー面するとどうなるか教えてやる。あの世でな」

 そして、トリガーを引く瞬間。

「――! 誰だ!!」

二人を狙撃しようとしたスナイパーの男性が後ろから気配を感じ振り返るとそこは、全身を黒い何かの戦闘スーツを着ていて、頭も何かで覆われて顔が見えない人物が立っていた。

「だれだ、お前は」

「……」

 スナイパーは謎の人物に話を掛けるが、返事が無い。

 スナイパーは腰に装備してあるマシンピストルを取ろうとすると、謎の人物がスナイパーに向かって走り出す。

「くッ!」

 スナイパーはマシンピストルを素早く取り出し、謎の人物に向かって連射する。

 謎の人物は体勢を低くしてジグザグに走ったり、障害物を使い、銃弾を避ける。

「くそ! 化けもんかよ!」

 マシンピストルが弾切れになり、リロードしようとすると、謎の人物が一気にスナイパーに迫る。

 目の前まで近づくと、スナイパーはニヤッと笑った。

 謎の人物は何かを感じ、瞬間的に後ろに下がった。

 下がった瞬間、スナイパーの目の前が突然爆発する。

 謎の人物は爆風を受けたが、うまく空中で体勢を整え、着地する。

「くそ、後もう少しで丸コゲだったのによ」

「……、炎使いか」

「お、やっと話したか。フッ……まぁな、狙撃も出来るが……、こうやって能力も使えるんだよ!!」

 スナイパーは炎の玉を謎の人物目掛けて飛ばさせる。

 謎の人物はモモの辺りに着けている変わった銃を取り出し、炎目掛けて撃つ。

 撃つと、炎が一瞬で消えた。

「な、何をした!」

「知らなくていい、お前はここで消える」

「くそったれが!!」

 分が悪いと感じたスナイパーはビルの屋上から飛び降り、隣のビルに移動しようとしていたが、

「な! 何だ! なんで止まってるんだよ!!」

 スナイパーはまさかと思い後ろを振り返ると、そこには謎の人物が片手の手のひらをスナイパーに向け、銃をスナイパーに向けていた。

「てめぇ、わ、分かってんだろうな? お、俺を今ここで殺せば下にいる奴らに気づかれるぜ? それにただですまねぇぞ」

「安心しろ、お前が死ぬのは誰も気づかない。それにお前ら全員捕まえるか、消す予定だ。そっちから来てくれるなら好都合だ」

 そして、謎の人物が片手を挙げるとスナイパーもそれに反応して上空にあがる。

 上空に上がったところに、謎の人物はもう片方で持っている銃をスナイパーに向け、撃つ。

「ぐ、ぐあああああああああああ!!!! あ、あ、あ、ああああああああああああああ!!!!」

 断末魔を叫びながら、スナイパーは一瞬で消えた。




「定期連絡がない、失敗したか?」

「確認中です」

暗い部屋で幹部らしき人物達がスナイパーの定期連絡が着ない理由を探っている。

『こちら、ゴースト。目標地点に人影無し、辺りを捜索する』

 捜索に向かった応援部隊が到着し、スナイパーが最後にいた場所を調べると。

『戦闘の形跡あり、スナイパーは捕まったか、殺されたと考えられます』

「了解、では、帰還してくれ」

『Shi――なんだ、貴様! な、何をする! うッ……』

「どうした! どうしたんだ!」

 突然の断末魔に幹部は驚きを隠せないでいた。

 すると、トランシーバーから何か声が聞こえた。

「――お前らが、ゴーストか?」

 まったく聞き覚えの無い声がトランシーバーから聞こえた。

「貴様か……スナイパーそして、部隊を殺ったのは」

『安心しろ、スナイパーは殺ったが、他は気絶だ。お前らは全員俺らが処分する』

そういうとトランシーバーからブツン!と音がなり、ノイズ音に変わった。

「すぐに調べろ。そして、電車の件の奴らも始末しておけ」

「Shi」

 冷静な判断で部下に命令をした。



「ふぅ……」

 謎の人物が一息つき、双眼鏡で天月彰吾、宮下俊を見る。

 彰吾と俊はファミレスに入り、注文の品を食べている最中だった。

 それに対して、謎の人物の周りはゴーストと言う組織の応援部隊の奴らが倒れていた。

 もう一度、二人を見て謎の人物は、

「お前らは狙われていたのに、こうも知らなければ呑気でいられる。あきれるよ」

 そういって、謎の人物は双眼鏡と狙撃用ライフルを消した。


 つづく

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