第2話 変わりゆく日常Ⅱ

 朝、目を覚まし登校の為、準備を行う。

 リビングへ向かい、トースターにパンを2枚と目玉焼きを作る。

 コーヒーを淹れ、香りを楽しんでからマグカップに注ぎ、テーブルへ運ぶ。

 テレビをつけ、今日のニュースと天気予報を見ながらの朝食。

 それが彰吾の朝の一連の動作であり、日常。

 彰吾は俊と待ち合わせをしているため、待ち合わせ場所に向かう。

 向かってる最中、スクランブル交差点の赤信号を待っていると、ビルに設置されている大型テレビからニュースが流れた。

 ニュース内容は彰吾と俊が関わった強盗のニュースが流れている。

 あの事件から2週間が経っていた。

 強盗犯は刑務所に連れていかれたと書いている。

 強盗犯罪は全員で四人。

 その中で二人は一般人、二人が能力者。

 一般人は普通の刑務所に入れられるが、能力者は特殊な刑務所に入れられ、能力が使えなくなると聞く。

 赤信号から青信号に変わり、横断歩道を渡る。そして、目的地が見えてきた。

 目的地にはすでに俊が待っている。

 あぁー、ちょっと待たせたか。と思う彰吾。

「またせて、ごめん」

「いや、別に時間通りだから気にすんな」

「ありがと」

「んじゃ、行くか」

「ああ」

 彰吾と俊は学校に向かう。 登校中、ニュースの話を俊にしたり、他愛の無い話しをする。

「ああ^〜皐月(さつき)ちゃんが可愛いんじゃ^~」

 俊がいい始める。 俊の言う皐月は妹は何処へのメインヒロイン。

 この皐月と言うキャラが主人公から姿をくらます妹だ。

「そうか、良かったな」

「なんだ、冷たいな」

 流石にそのレベルまでは達してない彰吾。

 それを察したのか、妹は何処への話をやめる俊。

「とりあえず、東堂ちゃんのお誘いはまだかなー」

「東堂ちゃんってお前…」

「だって、お茶会誘うって言ったんだぜ?」

「だからと言って2週間で来るか?」

「いや、来るね! 俺の勘がそう言っている!」

 俊の勘は良く当たる。けど、流石に2週間は早すぎと思う彰吾だった。

 そんな話をしていると学校の正門に着く。そして、チャイムが鳴る。

 上履きに履き替え、階段を上がり教室に入る。

「おはよ」

「おはーよ」

 彰吾と俊は教室に入り挨拶をした。すると、それに反応した生徒達があいさつを返す。

 窓側の席が彰吾の席で、その隣が俊の席。

 彰吾は席に着き、次の授業の準備を始める。

 次の授業の準備をしていると前の席に誰かが座る。

「よっ有原」

「…………」

 俊が立ち上がり、有原の隣に行きあいさつをすると有原はそれ無視した。

 有原ありはら賢次けんじ、この学校で唯一のBランク能力者。

能力は電磁操作マグネットアプリション、磁場を操作できる能力、これにより、少しだけ宙に浮くことが出来る。

 何より、相手の磁場を操作することで、+と-を付与する事が出来る。

 有原はランクBの為、遠くにいる相手にも磁場操作が可能。

 それだけではなく、少しだけ宙に浮くことが出来る。

 移動はリニアモーターを同じ原理で動くことが可能。

「なぁ、俺なんかしたか?」

 あいさつを無視され、後ろの席にいる彰吾の隣に来て言う。

「さぁな」

 なぜ、有原が無視をしたのか彰吾も分からない。

 いつもなら「あぁ、おはよ」と軽くあいさつする。

 みんなにはあまり知られていないが、有原は真面目で優しいヤツだ。 

 しかし、有原はクラスで浮いている。

 それもそのはず、有原はランクBで他はランクCと一般人。

 いじめは無い、ただみんなが有原に声を掛けづらい存在になっているだけだ。

 そんな話をしているとチャイムが鳴る。数分後、ガラガラと音と共に担当教師が入った。

 教卓に着き、連絡簿を置く。

「おはようございます、それははじめましょう」

教師の掛け声と共にクラス委員長が「起立、礼、着席」と言う。

こうして、今日の授業が始まった。




キーンコーンカーコーンと放課後のチャイムが鳴り、生徒それぞれが部活なり帰宅を始める。

 彰吾も帰宅の準備にかかると、

「今日暇か?」

 俊が言う。彰吾は今日はバイトも買い物も無い為、断る理由もなく。

「ああ、今日は何もない」

「そうか、妹は何処ヘOVAが届いたんだが見るか?」

「まぁ、暇になったらな」

 そう言いながら、帰宅の準備を済まし教室を出る。

 教室を出て階段を降りて下駄箱で靴に履き替える。

 すると、校庭に何やら人が集まっている。

 この光景にデジャブを感じた彰吾。

 有名人でも来てるのか? と言う俊。

 有名人と言うのはあながち間違いではなかった。

「こんにちわ、天月さん、宮下さん」

 爆弾師ボマーの事、東堂沙由莉だった。

 満面の笑みで彰吾と俊にあいさつをする沙由莉。

 こんな人の多い所で挨拶されたら変な誤解を生むに違いないと思う彰吾。

「え、天月君と宮下君とどういう関係?」「修羅場(しゅらば)?修羅場(しゅらば)なの!?」「まさかの天月君の三股疑惑!?」

 これは変なうわさが流れてもおかしくはない、てか、待て。

 最後の三股はまさか、俊が入ってるわけじゃないよな?と思う彰吾だった。

 そもそも何故、沙由莉がここに入るのかわからない彰吾だった。

「今日は先に約束した、お茶会へお誘いに来ました」

 満面の笑みで言う。ああ、その笑顔で何人が落ちたか、と思う彰吾。

「今俺は生きていて良かったと感じている」「かわいいいいいいい」「俺の恋心は撃ち抜かれた……。いや、恋の爆弾が投下され俺の恋心が爆散した……」

 それぞれの男子が東堂沙由莉に落ちた瞬間だった。

 てか、一番最後のうまいな、爆弾師ボマーだけに恋の爆弾、爆散。俺もそんなギャグセンスが欲しい。と思う彰吾。

「それで、今日は大丈夫でしょうか? 急で申し訳ありませんが……」

 お茶会に断る理由も無い、何せ彰吾と俊は今日は何もなく彰吾は俊の家に行こうとしてたから。

「大丈夫」

「いきます! いかせてください!」

「では、こちらに車を用意させていますので、どうぞ」

 沙由莉の指す方を見ると、そこにはリムジンがあった。

 彰吾と俊はポカーンとしていた。

「いきましょう」

 沙由莉が先導する、それに驚きながら着いていく彰吾と俊。

 沙由莉に先導され、そのままリムジンに乗る。

 リムジンに乗った彰吾と俊はまた驚く。

 そこはまったく別の世界であった。

「「すげぇ……」」

 思わずハモる彰吾と俊を見た沙由莉は笑う。

 これからどんな所に連れて行かれるのか彰吾と俊の二人には分からなかった。

 すでに豪華な場所にいるのに更に豪華な場所に連れて行かれるとしか考えられなかった。

「お二方は仲がいいんですね」

「えぇ、まぁ」

 突然、沙由莉が彰吾に話を掛ける。あまりいい反応が取れずにいる彰吾だった。

「あ、こんなところで話してしまうと後で話す内容がなくなってしまうので少し黙ります」

 沙由莉の発言に彰吾と俊は沙由莉を見た。

 ここで黙るなよおおおおおおおおお!!と思った二人。

 とても気まずい空気になった。彰吾と俊はお互いに隣の窓を見て気を紛らわすのに必死になっていた。

 車を走らせ数十分。ようやく目的地に辿り着き、車を降りる。

 車を降りるとそこは、

「4女……」

 俊が言う、彰吾もそう思っていた。第4女学院(略称を4女と言う。※一話参照)に着いた三人、ゲートみたいのがあり、沙由莉が隣にある管理人に事情を話すと門が開いた。

「第4女学院へようこそ、二人を歓迎します」

 そして、沙由莉、彰吾、俊の三人はそのまま、お茶会が用意されている場所へ向かう。

 お茶会の場所に向かっている最中に女子生徒からあいさつされる沙由莉。

「東堂さん、お帰りなさい!」

「おはよう」

「お姉さま、お帰りなさいませ」

「おはよう」

 ちょっと歩くだけで女子達が集まり始める。結構人気があるんだなと思う彰吾。

 すごい可愛い女子がいっぱいと思った俊。

 沙由莉、彰吾、俊の三人はそのまま、女性生徒を通り過ぎる。

 沙由莉の後ろを付いて行っている彰吾と俊を見る女性生徒。

「何あの男?」

「分からない……でも、お姉さまが男を連れて来るんです者相当な者ですわ」

「試しみましょう」

 一人の女子が自身の能力を使おうとすると、

「やめな~、沙由莉の怒りを買うわよ?」

 一人の女子、その女子は、

「久能会長(くのうかいちょう)!」

 この4女の生徒会長であり、日本に八人しかいないSランク能力者。

「まぁでも、東堂が男を呼んでお茶会をするのは気になりますね」

 三人の後ろ姿をフフと笑いながら三人を見る工能だった。




「ここが今日お茶会をするテラスです」

 そこはガラス貼りにされた壁に円形のテラス。

 真ん中にはテーブルが置いてあり、近くにティーセットを乗せた物があった。

 彰吾と俊はテラスに入り、周りを見渡す。

 幻想的な空間、ガラス貼りにされている為、光が差し込んでまた幻想的な雰囲気を醸し出す。

 見とれる彰吾と俊の二人。それを見た沙由莉はまたフフと笑う。

「お気に入りました?」

「なんと言うか……、幻想的だな」

「た、たしかに……」

 彰吾と俊の二人は周りを見ながら答える。

「良かったです。 そう言って頂けて、ではお茶会をしましょう」

 沙由莉は言うとテーブルにカップを三つ用意し、テーセットの置いてある置物からお湯を空のカップに注ぐ。

 空のカップにお湯を注ぎ、保温する籠おとして茶菓子を用意している。

 なんとも手際の良い作業であっと言う間にほぼ全てが用意されていた。

「立っているのも何ですから、お座りください」

 二人は沙由莉に言われるがまま、椅子に座る。沙由莉も座る。

「さて、お話でもしましょう。この日を楽しみにしてました」

「そ、そうか」

「俺はずっと楽しみにしてまいた!」

「ありがとうございます」

 沙由莉は笑いながら言う。本当に楽しみだったのだろうと思う彰吾。

「そうですね、お二方はどちらでお会いしたのですか?」

「俺と俊は高一の入学式のときに」

「なるほど、そのまま仲良くなったと言う事ですか」

「まぁ、そうなるな」

 彰吾と沙由莉が話す。それを横目で見ている俊。

いや、話したいなら話せよ……と思う彰吾。

「東堂さんはいつからこの学園に?」

「そうね、私は――」

「中一からよ」

 突然、テラスの入り口から女性の声が聞こえた。

 三人は入り口の方を見るとそこにいたのは。

「久能……」

「ハロ~沙由莉~」

「く、久能って……」

「雷光(ライトニング)……」

 沙由莉が心底嫌そうな顔をしているのに対し、彰吾と俊はSランク能力者の工能の存在に驚いている。

 久能凛花(くのうりんか)、能力は電気系統全般。

 通称、雷光ライトニングと呼ばれている。

 電気を扱う物は全て扱うことが可能。電気という事があって磁力操作も可能としている。

 能力自体もしっかりと彰吾と俊は把握仕切れていない。

 ちなみに見た目は黒髪のポニーテールでボンキュッボンの女性。

「突然話に入ってくるのは困るのだけど……、凛花」

「そう? でも、面白そうだから私も混ぜて?」

 などと言っている凛花。それを嫌そうな顔をしながら見る沙由莉。

「ほら、私のお茶は別に後ででもいいから。今は二人に出してあげなよ」

 テラスの入り口に肩を寄せて、テーブルに置いてあるカップに指を指す凛花。

 はぁ……とため息をつき、保温していたカバーを取り、カップに注いであったお湯を別の容器に入れて紅茶を淹れた。

 紅茶を注がれると同時にさわやかな香りがした。

「とりあえず、天月さんと宮下さん。どうぞ。今から作るから待ってて……」

 彰吾と俊に紅茶を出すと沙由莉は横目で凛花の方を見て言う。凛花は笑いながら片手で手を振る。

 沙由莉は新しいカップを用意し、先ほどと同じカップにお湯を入れた。

「話がそれてしまったのだけど、私も参加していいかしら?」

 と凛花がいう。

「もう、参加する気でしょ? もう、いいですよ」

「ありがと」

 満面の笑みで沙由莉に答える凛花。沙由莉の隣の席に座り、彰吾と俊を見る。

「話は聞いてたから、続きを話しましょうか。ね、沙由莉」

「はぁ……、あんまり話さないでね?」

 沙由莉はあきらめ、話を続けることにした。

「中学一年生からこの学園にいます。その前は、小学校に通ってたのですが」

「私と沙由莉は幼馴染なの」

「あ、そうなんですか」

「そうなの~」

 ムフフーと笑う凛花。凛花の隣で睨む沙由莉と彰吾を睨む俊。

 いや、だから話せば良いだろってのに…と思う彰吾。

「あ、宮下さんと天月さんは中学と小学校はどうでした?」

「俺は、中学の時はこれと言って楽しいことはなかったなー、小学校なんて自由気ままにやってたからな、彰吾」

「まぁな、それなりに過ごしてたよ」

「そうですか、良かったです。あ、お二方ご両親は?」

 沙由莉が両親の話を持ち出した瞬間、あたりが静まった。

 俊が苦そうな顔をしている。

「え、えーと俺は普通の親だよ?」

「そ、そうですか……、天月さんは……?」

「いないよ」

「え?」

「俺には親がいない」

 きっぱりと彰吾が言った。俊はあちゃーと顔に手を当てているのに対し、凛花はテーブルにひじを付き顔を隠している。

 俊が彰吾の肩を叩き呼ぶ、凛花は沙由莉の肘のすそを軽く引っ張り呼ぶ。

『おま! 少しはそういうのなんかかわせよ!』

『いやだって、ごまかしで答えたら後で面倒になるじゃんか』

『少し濁す形で言えば俺が何とかしてやるから! いいな』

 俊と彰吾は小言で言う、話が終わり正面を向く。

 沙由莉を後ろに向かせた凛花。

『あなたは何であの空気で聞くの!? 明らかにOUTでしょ!』

『ご、ごめん……』

『私もフォローするし彼、気にしてないと思うから他の話振りなよ?』

『はい……』

 そして、沙由莉と凛花は彰吾と俊の方へ振り返った。

「コイツ確かに親がいないんですけど、今は楽しいんで大丈夫です」

 俊が彰吾に親指を指しながら言う。

「今が楽しいと言うのはいいことですよね」

 凛花が俊に続いて言う。

「そうですよね! 天月さんは小さい頃何をしてたんですか?」

「おぼえてない」

 また、あたりが静まる。また、俊と凛花が隣にいる彰吾、沙由莉を後ろに向かせる。

『おまえさ、アホなの?』

『正直に答えただけだ』

『こういう所抜けてるのはヤバイぞ』

『す、すまん』

 沙由莉もまた、先ほどと同じように後ろに向かされている。

『なぁんで、親がいない話をした後にそういう話をするの!?』

『だ、大丈夫かと思った……』

『大丈夫なわけないでしょ、親がいないんだから小さい頃なんてOUTでしょうが』

『ご、ごめんなさい』

 そして凛花、俊は振り返ると凛花と目が合う。

「「えへへへー」」

 笑ってしまった。笑うとすぐにまた振り返る。

『どーしてくれんの!?』

『どーしてくれんですか!?』

『いや、俺に言われても……』

『いや、私に言われても……』

 ほぼ四人とも同じ反応をしていた。

『『とりあえず、何とか話をそらそう』』

 四人とも一緒に振り返る。だが、振り返っても一言も話さなかった。

 時間だけが過ぎていく、ゴーンと4女のチャイム(鐘)が鳴る。

「あ、紅茶もういいかな」

「え? 何が?」

「紅茶もうできてるから、淹れるね」

そういうと沙由莉はお湯の入っていたカップのお湯を別の容器に入れ、凛花のカップに紅茶を注いだ。

 また、いい香りがあたりを覆う。

「やっぱり、いい香りだ……。でも、何だろう…この香りは…」

「では、この香りは何でしょうか?」

フフンと言いながら沙由莉は彰吾に問題を出す。

 彰吾はこの香りをどこかで嗅いでいる。

何だろう……、何処かで嗅いでいるはず……。日常的に嗅いでいる匂いだと思うな……。

 彰吾は紅茶と日本茶が好きでよく専門店に行き、茶葉を買っている。

 その中で自分なりのブレンドをしたりして楽しんでいる。

 まずは、この花の香り的なのはラベンダーだ。

 だが、後にやってくるほんのり甘く、酸っぱい匂いは何だ……? 彰吾はラベンダーの後に来る匂いの元が分からない。

 フルーツ系だとは彰吾は分かったいた。

 果物で甘くて酸っぱいヤツ、桃、グレープフルーツ、パイナップル……。

「あ、分かったと思う」

「え!? 本当ですか!?」

「ん、まぁ……、自身無いけど。ラベンダーとパイン?」

「正解です……! 正解ですッ!!」

 テーブルに手をつけ、乗り上げながら彰吾に言う。

 それほどまでにうれしかったのかと思う彰吾。

「本当に分かる人がいてうれしいです!」

 満面の笑みで彰吾に言う、それを横目に見ている俊。

  沙由莉を見てクスクス笑う凛花。

 なんだ、この二人少し似てるなと思う彰吾。

 そしてお茶の話で盛り上がり、いつの間にか17時になっていた。

「あ、そろそろ帰らんと」

「ん、確かに」

「それなら家まで送ります」

「「いや! 近くにある駅まで歩くからいいです!!」」

 沙由莉が言うと彰吾と俊は同時に言う。もうあの雰囲気が耐えられないからだ。

 沙由莉は「そうですか……」と少しへこんでしまったが、これだけはどうしても回避したい彰吾と俊だった。

 テラスを出て彰吾、俊、沙由莉、凛花の四人で正門に向かう。

 正門に着くと、凛花が近くの駅までの地図をくれた。

「今日はごちそうさま」

「いいえ、これくらいしか出来ませんが、また今度呼びますので楽しみにしていてくださいね」

「ありがと」

「今度来るときは私も誘ってね?」

 凛花が沙由莉に言う、沙由莉はため息をつき「その時がきたらね」と言った。

 二人に見送られ、彰吾と俊は近くの駅に向かった。

「楽しかったな、彰吾」

「あぁ、まあな」

 実際確かに楽しかったのもある、紅茶の話もできたしな。と思う彰吾。

 そんな話をしながら近くの駅に向かう彰吾と俊。

 歩いて20分、駅に着き最寄の駅まで電車に乗る。

 電車に乗った二人、ちょうど混雑する時間だった。

「おぉう、かなり混んでるな」

「まぁ、この時間だしな」

 電車の中で言う彰吾と俊。そんな話をしていると、次の駅のアナウンスが入る。

『次は~野台(のだい)野台(のだい)』

「んじゃ、降りるか」

「あぁ」

 電車を降りるため、ドアの近くに行く二人。




「で? どうするんだ?」

「まず、手始めに電車の暴走。このシステムの実験台になって貰う」

「この時間だとかなりの人がいるな。まぁ、俺たちの夢の踏み台にさせてもらおう」

暗い部屋の中、二人の人物が言う。そして、一人がコンピューターのエンターキーを押した。

「さぁ、ショータイムの時間だ……うまく働いてくれよ? ンフフフ」




降りる為にドアの近くに行った二人。

 だが、電車は減速せずそのまま野台駅を通過した。

「は?」

「なんで? これ各停だよな?」

 彰吾と俊が言う。周りも二人とほぼ同じことを言っている。

そして、車内アナウンスが流れる。

『大変申し訳ございません。システムトラブルで野台駅の停止シグナルが飛んでしまい、停止が出来ませんでした。大変ご迷惑をおかけしますが、次の川(せん)ノ崎(ざき)でお乗換えください。大変ご迷惑をおかけします』

 車内アナウンスを聞くと周りの人達は「なんだよ」「うわ、めんどくさ」「まだ、仕事があるのに」などと言ってる。

 まぁ、しっかりと止まるならそれでいいかと思う彰吾。

 だが、違和感を感じた俊は気づく。

「……、なぁ彰吾」

「なんだ?」

「通常運行ってか、これドンドン加速してないか?」

「は?」

 彰吾は扉の窓を見ると、周りの景色が物凄い速度で過ぎ去る。

 おかしい、確かにおかしかった。そう思っていると、隣から現れた電車より早い。

 各停ならばそろそろ川ノ崎の為減速するはず。

 しかし、この電車は減速する様子が見えず、加速している。

「おかしいな……」

「だろ……」

 彰吾と俊が顔を合わせ確認する。

 そしてもう一度隣の電車を見た瞬間、戦慄と確信した。

「う、うそだろ……」

 俊が言う。無理もない、隣で走っているのは、

「快特……、野台から終点まで止まらない電車より速い……」

隣で走っていたのは快特だった。7駅素通りする電車より速く走っているこの電車。

 もうすぐで隣の快特を抜かそうとしている。それに気づいた車内の人。

「おい、あれ……快特じゃないか? なんで各停が快特より早く走ってんだ?」

 男性の発言に、車内にいる人達が窓を見る。 

「おかしくない? これ……」

「ちょっと車掌さん呼べよ!」

 事態を把握した人達が騒ぎ出す。騒ぎ出していると、俊が思い出す。

「やべぇぞ……、彰吾……」

「何が?」

「この先――」

「なに!?」

 周りがうるさく、俊の言葉が聞き取れない。

 俊が黙り込み、もう一度言う。

「この先、線路が一緒になる!」

 基本各停は各駅に止まる為、急行など駅を素通りする電車を優先で走らせ、レールを調整する。

 上り、下りの線路で二種類のホームが絶対にある。

 それが全部で四つあるところもある。

 しかし、次の駅川ノ崎は駅のホーム一つしかない為、急行などが先に行かねばならないのだが、この電車は加速をしっぱなしで減速していない。

 線路が一つしかない為、この先で起きることは、彰吾は容易く想像できた。

「ぶつかる……――クッ!!」

 彰吾は人ごみのなか、車掌の居るところまで行こうとする。

「すみません! 通してください!」

 彰吾は人ごみの中車掌のところに向かう。俊も一緒に車掌のところに向かっていた。

 このままじゃ、まずい。この電車の方が圧倒的に速いし車両もある。

 隣で走っている快速とぶつかってしまう。

うまく前に進めない状態で苦戦していると後ろから押された。

なんだと思い後ろを振り返ると、人が前にいる俺たちの居る車両に来ていた。

「ぶつかるぞー!!」「前にいけよ!!」「邪魔なんだよ!!」

 そういいながら人がどんどん俺たちのいる車両を埋めていく。人が増えすぎて、前に進めなくなった彰吾と俊。

 まずいと思った瞬間、その時が来てしまった。

 後ろからガシャーン!!!!と大きな音を立て、車体が揺れる。ぶつかってしまった。

 この各停は全部で10車両に対して快特は8車両だった。

 ぶつかったときに後ろの車両が倒れ、残り8車両となった。

 そして残った車両内は、衝突した衝撃で車内にいる人達が倒れていた。

 彰吾と俊は人と人の間にいたおかげでなんとか人がクッションとなった。

 だが、人がクッションとなる事は誰かが押しつぶされる事となる。

 彰吾は人が倒れていて、静かな状況の今が車掌のところに向かうのは今しかない。

 人の上を通る、申し訳ない気持ちでいっぱいの中、彰吾は車掌のいる車両に着いた。

 車掌のいるところに着き、窓を叩き車掌を呼ぶ。

 返事がなく、窓から中を見ると車掌が倒れていた。

 彰吾は窓を割り、扉の鍵を開けて車掌のところに行く。

「起きてください!! 車掌さん!」

「うッ……」

 頭から血を流していて腕がおかしい方向に曲がっている。

 折れている、だが、彰吾は安堵の息をついた。

 車掌が生きているなら、レクチャーを受けながらこの電車を止めることが出来る。死んでいたらそれが出来なかった。

 ちょっと後に俊がやってきた。

「彰吾、どうする……?」

「とめるしかないだろう」

「マジかよ、運転できんのか?」

「いや……、車掌にレクチャーしてもらいながらやる。俊、衝撃波(バースト)の準備をしてくれ」

「……、頼むぞ」

「ああ」

 俊は隣でいつでも能力を使える様に構えている、彰吾は車掌を起こす。

 時間が無い、この間にも二つの駅を通り過ぎている。

 残り、4駅でこの電車を止めなければいけなかった。

「電車を止めないといけないんです! 起きてください!!」

「ウッ……、あ、ここは?」

 目を覚ました車掌に大まかな現状を話す。

「自動運転がおかしくなっている……、システムでブレーキを掛ける事は出来ない……」

「どうすれば……!」

「マニュアル操作でブレーキを掛けるしかない……。マニュアルの仕方を今教える」

 車掌にマニュアルの切り替えを教えて貰い、オートからマニュアルに変更した。

 マニュアルに変更している間に一駅通過する。

 残り三駅。

「彰吾急げ!」

「分かってる!!」

 彰吾は車掌にマニュアルにした後、アクセルギアを下げる。

「嘘だろ……!」

「何が!?」

「減速しない……、むしろ下げても上がりっぱなしだ……」

 システム的に、もはやアクセルが壊れて加速しかしていない状態。

 彰吾は車掌にブレーキのやり方を教わり、ブレーキを掛ける。

 キキッー!!と車輪が大きな音を立てる。その音で目を覚ました人達はまた騒ぎ出す。

 そして、激怒した一部の人達が車掌室に来た。

「おい、どういう事なんだ? ああ!」

「ちゃんと説明してもらおうか?」

 などと、言いながら突然車掌室に入り車掌に言う。

「なんで、子供が運転してんだ? 触ってんじゃねぇよ!!」

「お前がこの事故の犯人か!!」

「捕まえろ!!」

 大人たちは俊と彰吾を捕まえる。

「はなせよ! この!!」

「ふざけ――俺は今この電車を止めようとしてんだよ!! 触んな!」

「馬鹿な事言ってるんじゃない! 君なんかにこれが止められる物か!」

「警察とガーディアンを来るのを待ちましょう! そしてコイツらを警察に突き出す」

 大人たちが彰吾に理不尽なことを言っていると、

「いい加減にしろ!! 今あんた達の命はその二人に掛かってるんだ! 邪魔をするな!!」

 車掌が大人たちに言う。

「元はといえばお前のせいだろうが!!」

「ふざけんな! このクソ野朗!!」

「後、三駅でこの電車は終点の総都区(そうとく)に衝突する! それまでに、警察、ガーディアン? これるわけが無いだろう!! 今時速180kmだ!! 乗り込む事は不可能だ!」

「じゃあ! どうすんだよ!!」

「だからその子達に託しているんだ!! 邪魔をするな! むしろ、妨害行為をしているのはお前たちだ!!」

 ハァハァと荒く息を吐きながら言った車掌。

 車掌の発言に何も言い返せない大人たちだった。

「彰吾! 駅を通過する!!」

 大人につかまりながら俊が彰吾に言う。

 そして、また一駅が過ぎる。

 残り、二駅。

「早く下ろせ!! 死にたいのか!!」

 車掌が大人たちに言い、大人たちは彰吾と俊の拘束を解いた。

 彰吾はすぐに、操縦席に戻りブレーキを掛ける。

「まずい、この先カーブだ! 脱線する!!」

 彰吾はブレーキを掛け続ける。ここで頼みの綱が俊だ。

「俊!! 合図をしたら正面と横に衝撃波(バースト)頼むぞ!!」

「分かった!!」

 カーブに差し掛かる瞬間、彰吾は全車両のブレーキを掛ける。

「いまだ!!」

 俊は正面の車掌室の壁に手を当て、衝撃波を発動させ前から衝撃波を起こさせ、車体を後ろに下げた。

 俊はすぐに横の壁を触り衝撃波を放ち、車体を安定させる。

 彰吾は全車両ブレーキを切る。

 全車両ブレーキを掛けすぎると熱でブレーキがイカれてダメになってしまう為、後ろ車両と彰吾達のいる車両にブレーキを掛けた。

「車掌さん、後は真っ直ぐだけですよね?」

「あ、あぁ……そうだ」

「あとのブレーキよろしくお願いします。多分、俺もやらないとこれ止まるかわかりませんから」

「わかった……」




電車のシステムをおかしくした人物たちは盛大に笑っていた。

「アハハハハハ! すばらしいね! 電車に使うなんて」

「電車にに入るなんて、一旦本部に進入のそこから車両データに進入の後にやっと、電車に入れる間に何個の壁にあたるかな」

「全部で10個の最大級のブロックデータ、もはやファイヤーウォール以上だよ。だけど、少し修正しないとな」

「なぜ?」

「連結部分が切り離された。切り離しが無かったらもっといってた」

「へぇ、そうなんだ。でも」

 一人が列車の映像を見ながら口元を緩め笑う。

「これでもうあの電車は終わりね」

「あぁ、そうさ。これでこのシステムデータは売れる。ちなみにこの映像はお偉いさん方も見てるからさ……」

 アハハハハハと笑う人達。

「さっさと事故っちゃってよ。ンフフフ……アッハッハッハッハ!!」




彰吾は車掌さんにブレーキを任せ、俊と一緒に電車の止めに入った。

「彰吾、何か策はあるのか?」

「あるっちゃある、だが」

「だが?」

「出来るかわからない」

「なら、平気だ」

「は?」

「お前はそういう時ミスはしない、俺が保障する」

「フッ……、あーそうかよ。なら、やるさ……」

 彰吾の策は自身の能力、重力グラヴィトンの事だ。

 彰吾は能力で相手に負荷を掛ける事は出来るがそれ以外が全く出来ない。

 本来なら重力グラヴィトンは重力制御が可能としている能力。

『俺の能力ならその重力のベクトルを上じゃなく、正面にする事が出来るはずなんだ』

 電車の前に重力をかければ重力により、電車は減速していくだろう。

 そこに俊の衝撃波バーストを加えれば完全に電車はとまる。

 そう思っている彰吾だった。

 彰吾は上からの重力を掛けるのではなく、正面に重力をかけようとしていた。

『くそ! 上からじゃない! 前だ! ゆっくりだ! ゆっくりと前にもってこい!!』

 思うようにいかない彰吾、能力を使っていく内に頭に頭痛が走る。

「クッ……!」

 頭痛が激しくなっていく、しかし彰吾は何とか重力を前に持っていこうしている。

『くッ……そ! イメージは床式のエスカレータだ! そうだ、良いぞ…、そのまま下がれ』

 そして、重力が少しづつ正面に向きつつある中。

「彰吾!! 最後の駅を通過したぞ!! 5分で終点だ!!」

 まさかの事態、まだ下がりきっていない状態でこれはまずいと思う彰吾。

 彰吾は焦りで、重力制御がうまく行かなくなってきた。

『クソクソクソ!! 下がれよ! 下がれよ!!』

 そう思っていると、突然過去の事を思い出した。

 小さい頃、人を吹き飛ばしたことを思い出す。

「は?」

「どうした!!」

「いや、何でもない……」

「急げよ!」

 俊に「ああ」と答え、また集中する。

 だが、意味が分からなかった。

 何故、俺は今更になって小さい時の記憶を思い出した? 小さい頃の記憶なんて一切覚えて無いのに。

 訳が分からないが、彰吾は思い出した記憶と共に感覚を思い出し、正面に重力を掛けることに成功する。

「俊いつでもいけるぞ!!」

「ああ!!」

「私が全車両のブレーキを掛けますので、合図と共にお願いします!」

「分かった!」

「いきます!!」

 そして、車掌が全車両のブレーキを掛けた。

「今です!!!!」

 車掌の合図と共にフルパワーで衝撃波を放った俊。

 彰吾も重力を掛ける。

 俊の衝撃波が終わり、後は全車両のブレーキだけだが。

「くそ! 止まらない!!」

 車掌が言う、もう駅は目視可能の距離だった。

 彰吾は正面だけでは無理だと感じ、全車両自体に重力を掛けた。

「お、俺が……! 止めて……や……るよ!!!」

 全車両に重力を掛けた彰吾。頭に激痛が走り、鼻血がでる。

 だが、重力を掛けるのをやめない彰吾。

「と、止まれえええ!」

「無茶だ!!」

 俊が彰吾に言う。無茶すぎている。

 彰吾が電車を止める場合、20km以下で止められるラインだが、これをゆうに超えている。

 俊と全車両ブレーキ、彰吾の重力でやっと180kmから100kmまで落ちた。

 彰吾は今100km+車体の重さ+車内にいる人の重量を合わせて重力で止めようとしている。限界を超えている状態だった。

 もし、このまま続ければ彰吾は脳細胞が破壊され廃人となってしまう。

 そして、終点の総都区のホームが見えた。

 俊が覚悟を決める。

「最後だ! 彰吾!! 俺も最後の衝撃波(バースト)をやる!! それも今出来る最大でな!!」

 俊がそう言うと右手を握り、集中する。

 彰吾は無言で頷き、理解する。

 電車はホームに入りながら減速している。

 俊も大分無理をしている。車体自体の物量が俊の能力では止めるのに、もはや限界を超えている。

 そんな状況で全力で能力を使いっている俊だった。

 俊が力を貯めていると、そのときが来た。

「いまだ!!」

 車掌が言うと、俊が衝撃波を放ち、彰吾も正面の重力を最大にした。

 重力と衝撃波、全車両ブレーキで一気に減速する車両。

 終点のストッパーに正面の車体がぶつかり、スプリングがギギギと音を立てる。

「「止まれえええええええええええええええ!!!!」」

 彰吾と俊が最後の力を振り出し、能力を使って車体を更に減速させた。

 



 そして、




 電車は止まった。




 電車が止まるとすぐに警察、ガーディアンが車内にいる人達を外へ誘導させ、けが人はすぐに手当された。

 彰吾と俊は先頭車両で座っていた。

 もはや、動くことが出来ない状態だった。

「使いすぎたな」

「あぁ、確かにな」

 彰吾は目が充血しながら鼻血を出し、俊は右手がボロボロになっていた。




電車の暴走に失敗した人物たち。

「うそだ!! 止まるはずがなかったのに!!」

「どうすんだよ!!」

「うるせぇ! あぁ! もう!!」

 そういいながら近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばした。

「だまれ、まだ、あれがあるだろう? あれを出せば、問題ないはずだ」

 暗闇から人の人物が言う。そいつに言われ、他の連中はすぐに用意に掛かった。

「電車を止めたヤツを調べておけ、後で始末する」

「Shi……!」

そして、その人物は暗闇に消えた。



動けない彰吾と俊をタンカーに乗せ、救急車に乗せようとしていた。

「今回も助かりました、ありがとうね。天月君、宮下君」

 ガーディアンの新垣涼子にお礼を言われた彰吾と俊。

「いや、まぁ……」

「そうだな……」

「本当にありがとう、心から感謝します。おかげで被害が最小限に抑えることが出来ました」

「そう、ですか……」

「へへ……、それは……、いい事だ」

 涼子の感謝の気持ちを受けた瞬間、彰吾と俊は気絶した。

 その後、病院に運ばれる彰吾と俊だった。

「涼子さん!」

 この事件の英雄二人を救急車に搬送するのを見届けた後、真弓に呼ばれた涼子。

「どうしたの?」

「実は、電車に何かウイルスが入っているのを確認しました……」

「それはどいう形式で?」

「外部からです。それもこのウイルスは見たことがありません」

「対策会議を開いて、これはかなりの大物かもしれないから」

「了解!」

 涼子はかなりやばい匂いがすると感じていた。

 そして、彰吾と俊はまさかこんなことになるとは思っても居なかった。




 つづく

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