フルダイブダイブダイブダイブダイブダイブダイブダイブダイブ...VR MMO

今日本で最も流行しているゲーム、それはフルダイブVRと呼ばれる、脳とコンソールを直接続させるものだ。俺、古府こぶ 真琴まこと も今まさに大人気MMOアクションRPG、『フラクタル オンライン』にプレイヤー名『Arthurアーサー』でログインしていた。


「おいコブ!次どこの狩場行く?」

「名前で呼ぶのやめろよ、身バレすんだろ。」

俺をで呼んだのはランス装備の同級生、『M_A_S_Aマサ』だ。

「そうでした、アーサーさん!」

そう言って、にひひと笑う。

「でもさぁ、全然『アーサー』って感じじゃないしなぁ。」

そう言う女性も同級生の『Irisアイリス』、メディックだ。アイリスの失礼で差別的なコメントを無視してマサの問いに答える。

「うーん、今すぐには……特にないかなぁ。」

「正直飽きちゃった感あるよねー。」

「おいおい、なんだよお前ら。意識ひきーな。」

そう言われても飽きたものは飽きたのだ。VRだろうとフルダイブだろうと、飽きからは逃れられない。

「ま、そう言うと思ってさ。」

マサは装備袋からごそごそと3つのアイテムを取り出した。

「……ナニソレ?」

アイリスが怪訝な顔をする。

「フルダイブVRマシン。」

「「え!?」」

俺とアイリスは同時に声を上げる。

「にひひ、『なんでVRゲーム内にVRゲーム機があるんだ』って顔してるね、お二人さん。」

マサの言うことをまとめるとこうだ。現実世界では発売できないような過激なゲームを販売するため、VRゲーム内でVRゲームをエミュレートする技術があるらしい。"現実世界では発売できない"という危険なキーワードが俺とアイリスの好奇心を刺激し、二つ返事でVRゲーム機を装着した。


ヴゥン……

意識が埋没していくフルダイブ特有の感覚が走る。


『Army Massively Multiplayer Online』

と表示されたかと思うと、A.M.M.O. というロゴに変わった。どうやらガンアクションゲームのようだ。


じわりと視界がクリアになり、俺は闇に包まれたビルの屋上に立っていた。

「うわ、全然違う装備になってる。」

セクシーな衣装に身を包み、頭の上に『Iris』と表示されたキャラクターが横に立っていた。アイリスはヒップホルスターに拳銃が装着されていることに気くと、それを引き抜く。

「結構重いんだねー、どれ」

パァン!

彼女は暗闇に向けて発砲した。硝煙の匂いが鼻につく。

「気をつけなよ、撃たれた痛みとかリアルらしいから。」

背後から、『世紀魔Ⅱ』と頭上に書かれた、モヒカン+ショットガン装備の男が現れた。

「だ、誰!?」

アイリスが驚いて拳銃を向ける。

「おいおいおい!俺だよ、マサだよ!」

「遅いと思ったらなんだよその名前とキャラクター。」

「いやー、俺ゲームごとにキャラメイクする派だかんな!」

「なんだマサかー。ぷぷ、似合ってるよ。」

アイリスが茶化す。

「でも私痛いの嫌いなんだよねー。あんまし好みじゃないかな、このゲーム。」

それを聞いてマサは不満気だったが、

「実はさ、この世界にもあるんだ、VR。」

そう言ってさっきと別のVRマシンを取り出した。

「何台出てくるんだよ……。」

「でも次のゲームは私好みかも。行こ!」

三人はふたたびVRマシンを装着する。


次のゲームは『東京グラディエーター・オンライン』、現代ファンタジーものだった。しかしここにも長居はせず、俺たちは次々とVR内VRへと入って行った。ゲームそのものより、VR世界を渡り歩く感覚が存外楽しくなってきた。


→『仁義なき戦いオンライン』

→『ソードアンビバレンス・オンライン』

→『CARS AND GUNS Online』

→『サイコキラー・オンライン』

→『CLASSICAL WORLD WAR オンライン』

→『リアルヒーロー オンライン』

→『ファーミングマイスター・オンライン』

→『アイドルファイターオンライン』

→『東京グラディエーター・オンライン』


「ん、ここ前も来たな?」

「ほんとだ。一方通行じゃないみたいだね。」

「じゃあ次は別のに潜るか。」


→『SAMURAI WARS ONLINE』

→『仁義なき戦いオンライン 名古屋抗争編』

→『アフリカ オンライン』

→『息子いじり。オンライン』


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


どのくらい時間が経っただろうか。俺たちは真っ暗な無の空間を漂っていた。スペースデブリのように、がらくたが俺たちを取り囲む。まるで電子世界の墓場のようだ。

『ブラックワールド・オンライン』、それがこの世界の名前だ。


俺は……なぜここにいるんだっけ?横に浮かんでいる男と女は誰だ?女の名前表示は……『Iris』、男は……『キングオブ群馬』……誰だ?……変な名前、キャラメイク……ま……マサ!そうだこいつはマサ、俺の同級生だ。そんなことまで分からなくなっているなんて、俺はどうしてしまったんだ。ゾクゾクと恐怖が足元から這い上がって来る。このままではヤバい。

「おい!マサ起きろ!」

「うぅん……マサ?誰だそれ。お前、誰だ?」

「マサしっかりしろ、お前の本当の名前は正弘だ!キングオブ群馬じゃない!ログアウトして日本に帰ろう!」

「マサヒロ……?ニホン……?ああ、そんな設定のゲームもあったかなぁ……?」

「設定じゃない!現実世界が日本なんだよ!多重フルダイブで感覚が狂ってるんだ!」

揺すっても怒鳴っても反応の薄いマサに、苛立ちが高まる。そのとき、


「フルダイブゥゥウウウウウウウ!」


急にアイリスが奇声を上げた。

「いかなきゃ、いかなきゃ、いかなきゃ、潜らなきゃ潜らなきゃ潜らなきゃ。次の世界に。楽園が!ユートピアが!桃源郷が!安息の地が!私を待ってる!いかなきゃいかなきゃいかなきゃ……」

ぶつぶつと呟いたかと思うと、周囲を漂うガラクタからVRマシンのようなものを取り出し、頭に装着し始めた。

「アイリス!よせ!」

俺は必死に止めようとしたが

「いかなきゃいかなきゃいか……」

ふっ、とアイリスの姿は電子の水面の向こう側へと消えていった。


「アイ……リス……。」

俺の隣で、呆然としたマサが消えていったアイリスの方を見ながら呟いた。

「マサ!思い出したのか!?俺が分かるか!?」

「コブ……じゃない……、アーサーだったかな。」

そう言ってマサは無理やりにひひと笑った。


「だめだ、この世界にはもう使えるVRマシンがない、アイリスを追いかけるのは無理だ。」

「それじゃ……。」

俺は想像する。永久に電子世界を彷徨い、狂ったようにダイブし続けるアイリスの姿を。

「コブ、日本だ。」

「日本?」

「現実世界に帰ったら、本体側から何とか出来るかもしれない。」

「それだ。急いで全ゲームをログアウトしよう。」

「……いくぞ、コブ。視界のUIからログアウトを連続で選択するんだ。」


ログアウト

ログアウト

ログアウト


選択するたび、周囲の風景が目まぐるしく変化してゆく。コブの姿も、ゲームごとにコロコロと変わってゆくのが見えた。


ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト…


・・・


「マッテ、クレ」

ふいにチャットを受信し、俺はログアウトの手を止める。もちろん送信者はマサだった。

「マサ……どこだ?」

俺はマサの姿を探すが見当たらない。その代わり、


複数の人間をシチューにしてドロドロに溶かし、溶けきらないところで止めて冷やしたようなが転がっていた。


「コブ……オレダ……マサ……ダ。」

醜悪な肉塊が俺に語りかけてくる。

「マサ!?お前……なんでそんな……。」

俺は吐き気を我慢しながら肉塊に近づく。

「オレハ……モウダメダ。キャラクターヲ……変質ヘンシツサセスギタセイデ……自我ジガガ キエソウニナッテル……ドコカラガ オレナノカ……モウ ワカラナイ……。」


「分かった!マサ分かったからここにいろ!お前も俺が現実世界で助けてやる!」

しかし、それ以上肉塊からの返事はなく、俺は泣きながらログアウトを再開した。


ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト

ログアウト…


・・・


気がつくと俺は、病院の手術台のような所に寝かせられていた。頭にはVRマシンが装着されている。

「うぅ……ここは……?」

「先生!患者の意識が……!」

「おお、奇跡だ!」

そうか、俺は……戻って来れたのか……?医者が俺に語りかけてくる。


「よく聞きなさい、君は17年前、フルダイブVR MMO 『アース オンライン』という、の惑星『チキュウ』を舞台にしたゲームに取り込まれたんだ。意識を支配され、ログアウトできない状態になっていたから、覚醒は絶望視されていたのだが……おお……よかった!まさに奇跡だ!」


ここは……現実だろうか。それとも、そういう設定のゲームがあっただろうか。


(おわり)




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