なんか重要アイテムの接触が悪い

「愚かな人間どもめ!己が身を滅ぼすとも知らず奇跡石レイズストーンを求めるかッ!」

魔術師メイジ攻撃魔法イグニッションで傷を負った塔の主、ハイデランは怒り狂った。風船を膨らませるように肩・背中が隆起したかと思うと、肌は鱗に、目は神眼に、髪は朽木のような角へと変質し、巨大な黒龍ドラゴンへと姿を変えた。

「メイジ!盾兵タンク!来るぞ!」

剣士ソードマンが叫ぶと同時に、黒龍が闇の灼熱ブレスを吐き出した。狙われたメイジはその熾烈な熱気に思わず顔を背ける。

「俺に任せろ!うぐぉ!」

タンクがソードマンとメイジの前に飛び出してブレスを受け止めた。巨大な戦盾から漏れる炎で肌をチリチリと焼かれながらも、タンクが耐える。

彼が作ってくれたチャンスを無駄にすまいと、ソードマンが聖剣を構え

「メイジ!サポート!」

「当たんないでよ!」

Æ Ђ æ ¤ ୍ ψ ψ ф Ђ水氷の哮り ! 』

メイジの詠唱により、氷の刃が精製され、黒龍の神眼を切り裂く。金属を引っ掻くような声を上げ、黒龍が怯んだ。ソードマンはこの隙を逃さない。戦場で幾千、幾万も経験した、勝機という名の昂まり。全体重と駆け抜けるエネルギーをを左手にかけ、聖剣の切っ先を黒龍の心臓へと抉り刺した。


「グアアアアアアオオオオオォォォ・・・・・・.........」


巨大な咆哮の後、黒龍はゆっくりとその身を沈めた。


・・・


「最後のアイテム、暗黒の奇跡石レイズストーンも手に入れたわ。」

メイジが黒龍の体から黒く輝く拳大ほどの宝石を探し出した。

タンクは思い出したように巨大な鞄を引っ掻き回して残りの奇跡石を取り出す。

「大地、海洋、と栄光。プリストの言った通り4つ揃えた・・・!」

ソードマンが二人から石を受け取り、玉座の裏に隠してあった祭壇へと歩いた。

「よし・・・、大丈夫そうだ。この4つの石と、苦労してメイジが習得してくれた、大魔法ウェルゲートを使えば魔界ヘルガルドへの道が開く・・・!」

「遂にこの時が来たのね・・・。」

「最終決戦だ、腕がなるぜ!」


ソードマンは4つの奇跡石を、4つの台座にセットしていく。

「この炎の絵が描かれた台座は大地、水に濡れた台座は海洋・・・黄金が栄光・・・で、最後が暗黒・・・と。よし、準備できたぞメイジ!」


「・・・詠唱するわ。二人とも準備いい?」

「おう!」

「当然。」


ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート… 』


ファァァアアアアアアアアンンンン………!


メイジが詠唱を始めると同時に4つの希望石が鈍く光りはじめ、強烈な光が三人の立つ祭壇を包んだ!

「行くぞ魔王!最終決戦だ・・・!」


シュゥゥゥン…


が、メイジが詠唱を終える前に眩い光は消えてしまった。

「あ・・・あれ?」

「おいおい、消えちまったぞ。何か間違ったんじゃないのメイジ。」

「失礼ね。A級魔術師がこの大事な局面でミスるわけないでしょ。」

「あのさ。」

ソードマンは見ていた。詠唱中光っていた希望石だが、その中の1個にだけに異変があったのを。

「この青い・・・海洋の希望石、これだけ点滅してたぞ。」

「「点滅!?」」

「なんかこう・・・チカッ・・・チカッて、弱々しかった。」

メイジが怪訝な顔をする。

「エネルギー切れ・・・なわけないわよね。置き方が悪いんじゃない?」

「うーん、そうかもれない。ちょっと角度を変えてみよう。」

ソードマンは海洋の希望石をできるだけ台座の中央に置いた。

「おいソードマン、ちょっと右寄ってないか?」

「え、あぁ、形が歪だから見る角度によって・・・よく分からないな。」

タンクとソードマンがあれこれ言い合った後、再び詠唱することになった。


「今度こそいくわよ。」

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート… 』

ファァァアアアアアアアアンンンン………!

奇跡石が光だす。今度は青い石もいい感じに光っている!

「よし、いいぞ!もうちょっとで終わ」

プツッ、と青い奇跡石だけが発光をやめた。

シュゥゥゥン…

「あー惜しい!」

「もう!何なのよ!」


「なんでこの石だけこんなにシビアなんだ・・・角度が。」

「形が悪いぜ。それに詠唱中微妙に振動してるんだよ。それでずれたんだ。」

「はぁ・・・じゃあ私が詠唱してる間にタンク、押さえといてよ。」

「任せろ!」

ßֆيяψ¤ф乙ウェル・・・… 』

ファァァアアアアアアアアンンンン………!

石が発光を始める。

「あっっつ!!!!!!!!!!!!」

シュゥゥゥン…

タンクが石から手を離すと同時に、また光は消えてしまった。

「もうタンク!押さえといてって言ったじゃない!」

「いやこれ光ったとき超熱い!押さえとくなんて無理無理!」

「メイジ、悪いんだけど、しばらく詠唱し続けてくれないか。」

「ええ!?これ一応大魔法なのよ!?そんな隠し芸くらいの扱いされちゃ困るわぁ・・・。」

「いや分かる。すごく分かるんだけど、接触っていうの?なんかカチッとはまる角度見つけないと無理だわこれ。」

「・・・しかたないわね・・・。」

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲート

・・・

メイジが詠唱し続ける間、ソードマンとタンクが希望石の角度を調整する。

「こうか・・・?」

「いやさっきはこっちの・・・あっつ!」

ファァアアアンン………

シュゥゥゥン…

「だめだ、安定しない。」

「じゃあ逆にこれで・・・。」

ファァァアアアアアアアアンンンン………!

4つの希望石が安定して光り始める。

「おお、やったぞ!いけそうだ!」

ファァァアアアアアアアアンンンン………!

眩い光が3人を包む・・・・・・!

「あ、ヤッベ、アイテム鞄持って行かないと!」

タンクが何気なく動いたその時。


「あっ」

ドコッ!

シュゥゥゥン…


躓いたタンクが台座にぶつかり、またも光は消えてしまった。

「ちょタンクゥゥウウウ!!!なにしてくれてんのオオオオオオ!!!」

メイジが叱責する。

「うぅ・・・ごめ・・・ごめん・・・マジごめん・・・謝ってどうこうって感じても無いけどさ俺・・・あーマジ・・・・・・」

ガチ凹みであった。魔の大鷲プレデターに大空から落とされてもケロッとしていた、あのタンクがガチ凹みしていた。

「お・・俺昔からこういうところあんだよな・・・大事なところでやらかすっていうか・・・あー自己嫌悪・・・ほんっと・・・はぁ・・・」

王妃に手を出して知らん顔している人妻好きの、あのタンクがガチ凹みしていた。


「もうMP0の脳筋どもには任せておけないわ。」

メイジがそう言って台座の方に歩いて来る。

「ソードマン、"アレ"。」

「アレ?」

「アレっつったらその腰にぶら下がってる剣に決まってんだろ!」

「えぇ・・・この聖剣エターナルフォースソードですか?」

「そうだよ!貸せ!」

「メイジさん、何を・・・?」

「こうして・・・こう下に敷けば青いの安定すんだろうがッ!」

「えええええ!?ちょっと、聖剣だよ!?」

「しょうがねえんだよ!他にちょうどいい下敷きないだろ!」

「下敷きて!え、これ大丈夫?聖剣大丈夫?」

ßֆيяψ¤ф乙жֆփßψيйĄウェルゲートォ!

ファァァアアアアア バキッ!

発光とともに嫌な音を立て、聖剣エターナルフォースソードは砕け散った。


聖剣エターナルフォースソードおおおおおおおお!」

「あー耐えきれなかったか。残念。」

聖剣エターナルフォースソードぉぉぉ・・・・・・」

「まぁいいんじゃない?剣とかまた買えば。」

「ちがうのおおおおおお!これ非売品なのおおおおお!!!!!」

ソードマンが砕けた剣を抱えながら聖剣との思い出に浸り始めたのを見て、メイジのイライラは最高潮に達した。

「チッ・・・どいつもこいつもMPマジックポイントMPメンタルポイントもゼロかよ・・・。」

そう言うと、スラリと短剣を取り出して。

「ふんっ!」

バキッバキッバキッ!

「お、おいメイジ何やってんだ!?」

失意のタンクとソードマンが気づく。

「何って!石の!形を!整えてんだよ!割って!」

「「ええええええええええええ!?」」

「よしできた。」

海洋の希望石は1/3くらいの大きさになった代わりに、安定性を手に入れていた。

「いやもうこれ無理だろ・・・。」

「ああ、終わったな、俺たち。」

2人が完全に諦めムードなのに対し、

ヤケクソスキルを得たメイジに怖いものはない。

「やってみないとわかんねぇだろ!」

う え る げ え とウェルゲート!

「なんか詠唱まで適当になってない!?」


その刹那。4つの石が強く光だし、眩い光が三人を包む。真っ白な視界の中に、ぷつりと黒い亀裂が生じた。亀裂はみるみる大きくなり、ついには3メートルほどの大きさまで伸びる。間違いない、これはヘルガルドへの入り口だ。


「「「ひ・・・開いた・・・!」」」

三人が抱き合って喜ぼうとした瞬間。


「 何 を や っ て い る の だ お 前 た ち は !!!!」


怒りに満ちた声が亀裂の向こうから響く。

「え・・・誰?」

「我輩は・・・魔王だ!」

「魔王!?」

「お前らが魔界への扉開こうとする度にこっちはスタンバイしてたんだよ!開いたり閉じたり魔王をおちょくってんのかお前ら!!!!」

「いや断じてそういうつもりでは・・・。」

「許せぬ・・・もう許せぬ。もうこっちでスタンバイするのも疲れたからそっちに行って貴様らを血祭りにあげてくれるわ!」

魔王が亀裂を通って、こちらの世界にやってくる。

ズシン...

その振動で、今度は大地の奇跡石がコロリと台座から落ちた。

シュゥゥゥン…

ふっ、と亀裂は消え、後には真っ二つになった魔王が残されていた。


こうして世界に平和が訪れた。

(おわり)

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