第30話魔法の会得

 目覚めたとき、俺の目の前にはフリージアがいた。


 俺は城の医務室に運ばれていて、フリージアは古代魔法で姿を変えているようだった。そうでなければ、こんなところにこれるわけもない。


「どうして魔法を使わなかったのかが分かった」


 俺は、フリージアの腕を掴む。

 フリージアは遠慮している。


 この世界を生きる全ての人生に遠慮している。


 フリージアが魔法を使って歴史を変えれば、今いる人間たちは生まれてさえも来ないかもしれない。だからこそ、フリージアは魔法を使うのを躊躇したのだ。


「でも、フリージア。これはお前の人生でもあるんだ」


 俺の言葉に、フリージアは驚きもしなかった。


「普通の人間の精神は、千回の転生には耐えられない。だから、君は無意識に僕から奪った記憶に蓋をした」


 僕でさえ時より忘れることがある、とフリージアは語る。


「忘れることは珍しいことじゃない。君だって、一昨日の朝食を覚えてはいないだろう」


「でも――思い出した」


 かつて、フリージアが使えていた魔法も思い出した。

 これはフリージアが体験した記憶であり、俺の体験ではない。それでも、俺は思い出したのだ。


「君が持っていった、僕の大半の記憶はきっと生涯思い出さないだろうと思っていた。だって、必要がないから」


 今まで、フリージアは俺が奪った記憶のことを話題に出さなかった。


 きっと、俺には必要なものではないと割り切っていたのだろう。たしかに、千回の人生など、俺には不要だ。金田純一とエルの分だけでも、もてあましている。それでも、俺はソレが必要なのだと俺自身に望んだ。


「この記憶のおかげで、俺はお前の魔法が使えるようになった」


 行こう、フリージア。

 俺は、彼に手を伸ばす。


 どこにとは、フリージアは尋ねなかった。

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