第29話君の人生
俺は夢の中で、フリージアになっていた。
正確には、千の転生を繰返すフリージアの記憶をなぞっていた。見たことない世界、見たことのない建物、見たことのない食べ物、知らない人々。そのなかを俺はフリージアになって、歩き回る。歩く俺には、感動も物珍しさもなかった。たぶん、これは俺が持っていたフリージアの記憶と感情なのだろう。
千回の転生は、本当にフリージアのなかでは準備期間だったのだ。色々な場所に行っても、誰と喋っても、心は高揚しない。けれども、膨大な記憶の波は次々と押し寄せる。
こんなに膨大な記憶が俺の中にあったのに、今まで俺が意識しなかったのはきっとこんなにたくさんの記憶を思い出していたら壊れてしまうからだ。無意識でセーブしていたのだろう。それぐらい、俺が今まで思い出せなかったフリージアの記憶は膨大だった。
けれども、俺は思い出した。
千回の転生。
恵まれた人生もあれば、貧しい人生もあった。
だが、フリージアはなにも見出さなかった。人生の全ては踏み台で、彼が目指すのは千回を超えたところにあった。そのために、千回分の人生や痛みを無駄にする。けれども、彼はそれを悔やんでいなかった。
ずっと、信じていた。
「なんで、信じられるんだよ」
俺は、呟く。
かつてのフリージアの言葉と記憶が信じられない。
ただ自分を信仰するしかしない人間たちをフリージアは信じた。
俺には、それが信用できない。
人間を信じるぐらいだったら、竜を信じるほうがマシだ。
そこまで考え、俺は「あ――」と言葉を漏らした。
竜も人間と同じく金竜を信仰し、その望みでフリージアを千回の転生に貶めた。フリージアにとって、竜も人も同じなのだ。自分力を当てにする、小さなものたち。
金竜は、その小さな物たちの仲間になりたいと思っただろう。
もしも、フリージアの魔法が実行されていたらそういう世界になっているのだろうか。人と竜が手を取り合い、金竜すらもそこに入り込める世界が。
でも、フリージアは魔法を簡単には使わなかった。
それは――何故なのか。
俺の意識の中で、最後にフリージアの言葉が響いた。
「これは、君の人生だ」
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