第28話暗い意思

俺は、フリージアから魔法を習った。

 テサレシスのやったことやリッツのやったこと、許されざる事柄に俺の心は擦り切れていたのだ。だから、この世全ての人間が悪く思えてなからなかった。


 もう、誰の顔も見たくはないほどに。


「人間は、すぐに他人を傷つける。大事な人だって、自分の手に入れるためには傷つけることができる。竜だったら、こんなことはしないだろ。竜だったら、おまえにこんな酷いことは……」


 俺が学んだ魔法で、人間は武器を握った歴史を忘れる。

 それで、人間が滅んでも俺にはどうでもいいことだった。


「君……魔法の才能があんまりないな」


 俺に魔法を教えはじめたフリージアは、ため息をついた。俺はみっちり一年間も勉強したのだが、なかなか魔法を使えなかった。


「仕方ないだろ」


 フリージアが使えるのは、古典魔法のみ。

 当然、俺が使えるのもそれだけ。だから、今まで魔法の練習はしたことなかったのだ。しかも、現代に伝わっている古典魔法は現代魔法と違って、ちゃんと系統立った学問ではない。親方について技術を学ぶような、そんな職人気質の魔法だった。


「フリージア、よくお前はこんな魔法が使えるな」


「そりゃあ、僕には金竜の記憶があるからな」


 フリージアは、胸を張る。

 金竜は魔法に優れていたようであり、フリージアもその記憶を引き継いでいるのだ。どうりで、今まで易々と古代魔法を使っていたはずである。そして、その記憶が俺の方にこなかった不平等差を恨んだ。


 一年で、俺はようやく古典魔法の基礎を会得した。

 だが、基礎だけではフリージアが使おうとしている魔法には届かない。


「最近、フリージアと親しいようだね」


 そんなある日、俺は王と話す機会を得た。仕事の都合上で俺が王の警護をしていて、そのときに王は俺に語りかけたのだ。


「仕事上は話す機会が多いので……」


「親しいよね」


 王は、微笑む。


「もしも、俺が親しいとして――その親しい人間があんな目にあったら、どう行動すると思いますか?」


 俺は、王に尋ねて見た。


「フリージアは欲がない。けれども、フリージアの次の世代はそうとは限らない」


「だから……なのか」


 決して、次の世代が生まれないように。

 フリージアは傷つけられた。


 俺の心に再び、怒りが芽生えた。


「たった、それだけのことで」


「それだけではない」


 テサレシスはそう言った。


「国と教会の力が一つになり、再び二分化されれば――この国に大きな損失を与える。私はそれを阻止したんだよ」


「それで、まだ生まれてもいない王子が、きっと将来の王と聖王の双方の位を継ぐのでしょうね」


 それは、この国の安然なのだろう。

 けれども、俺はそれを許せなかった。


 ――ぷっつん。


 なにかが俺のなかで切れた。


「うわぁぁぁぁ!!」


 俺は叫んだ。

 王の護衛中だというのに、俺は倒れてしまっていた。

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