第27話暗い決心
大昔、この地には金の竜がいた。
地を揺らすほどに大きく、民家を吹き飛ばすほどに巨大な竜はたえず孤独であった。
「友人が欲しかったんだ」
フリージアは言った。
巨大すぎる体は人間に恐れられ、強大すぎる魔力は竜から恐れられた。金竜は長くいたが、その人生の多くは孤独であった。金竜はただ信仰され、願われた。
竜は、双方の願いを叶えようとした。
それと同時に、双方を試そうとも思った。
「……歩み、よれるかどうかを」
武器がなくなった世界で、人と竜の双方が歩み寄れるかどうか。
だが、長い時間のなかで竜は滅んだ。
フリージアの目標の半分は、もうすでに失われていたのだ。
「僕は、甘いかもしれない。竜が滅んだ今となっても、人と竜は共存できたんじゃないかと思ってる。そして、僕とも仲良くしてくれたんじゃないかと」
「じゃあ、やっぱりおまえの魔法は人から武器を奪い去る魔法なんだな」
フリージアは、首を振った。
「少し違う。武器と言う概念の抹消をする魔法だ。たとえば、今この世界から剣が全て消えても剣を作っていた記憶と記録は残るから、また新たに剣は作られるだろう。僕の使おうとした魔法は、剣の記憶と記録を消去する――人間が武器なんて発明しなかった世界にしてしまうことなんだ」
俺は、フリージアの言葉に呆気に取られた。
俺とフリージアは武器の重要性を知っている。武器がなければ、人間は人間として成立しなかったかもしれない。なにせ武器とは人間同士が戦うときに使うものだけではなくて、人間と動物が戦うときにだって武器は使うだろう。なのに、フリージアは一切の武器の歴史を消すということなのだ。
「ええっと……武器の存在を抹消できる魔法なのか?」
歴史に干渉する魔法。
それは、俺が学んできたなかにはまったくない魔法だ。というか、誰も考え付かなかった魔法である。
「そんなこと可能なのか?」
俺は尋ねた。
「ああ、可能だ」
フリージアは、自分の掌を見る。
その手は、もしかしたら人間そのものを滅ぼしてしまえるかもしれない手であった。俺は、その手を取った。
「――使ってしまおう」
俺は呟いた。
人間なんて、滅ぼしてしまおう。
本気で、俺はそういっていた。
「エル、僕の半分はお前のものだ。だから、僕は君の魔力を使えるし、君は僕の魔力も使える。だから、今から君に魔法を教えよう。そして、望むならば君に魔力も与えよう。ただし、その魔法を使うのは君だ」
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