第41話 『 元聖騎士副団長 対 現聖騎士団長 』
「ギリアムさん……なんで……」
「……」
二人は顔見知りのようだ、いや、元聖騎士副団長なのだから知っててもおかしくはないか。
ただ、雰囲気はただの知り合いという訳ではなさそうだ。
「ギリアムさん……死んだはずなんじゃ……」
「なんだ、そんな扱いになってるのか、残念だが俺は生きてる」
「貴方が副団長だった時、憧れだった。目標にしていた。なのに死んでしまったと聞かされて、今、闇ギルドのリーダーとなってここに居る……何が何だか、信じられないですよ……」
「最初から、このクソみたいなやり方をやっている聖騎士団の研究者を殺すために情報を集めていただけだ。ついでに鍛えていた、ただそれだけだ」
「やはり、貴方がみんなを……!」
「あぁ、一通りの研究者は殺した。これで先には進めなくなったな」
あの時、ギリアムが遅れてやってきたのはそういう理由だったのか。
「お前は、ここの奴らのやり方を知っているのか。人を人とも思わない。ゴミの吹き溜まりだ」
「……」
「そこを見てみろ」 後ろ指でわたし達を示す。
「……ソフィ!?」
「そうだ、あのままだと身も心も穢されていただろうな。だがそこの女が無茶かまして助けに入った」
「そん、な……」
「……知らなかったのか、他にも卑劣な事をしているのは確かだ」
「それと、お前は魔力が足りなくて封印の代わりを断られたって言ってたな、あれは嘘だ。お前でも出来る。元々、ソフィ狙いだったということだ」
「……」
「お前は知らなすぎる。もっともっといろんなことを勉強して、人をもっと守れるようになれ、お前ならなれる筈だ」
剣を構える。
「ほら、お前も構えろ。あれからどれだけ強くなったか見てやる」
「……」 無言のまま、静かに構える
「元聖騎士副団長、ギリアム・ハンドール」 「現聖騎士団長、クレス・オリシオン」
「「 いざ、参る!! 」」
踏み出す一歩がけた違いだ。走るので風が起きたのかというくらい。
剣戟を交わしている。二人とも凄まじい集中力と技術だ。あの一手一手にどれだけの攻防が繰り広げられているのか見当もつかない。一回が鋭い。あんなのまともに受け止めでもしたらしばらく腕が使い物にならなくなりそうだ。
だが、団長のキレがあまりよくない。
「おい、どうした! そんなものか! そんなものでみんなを守れるってのか!」
「ぐっ……!」
とうとう団長が防戦に入ってしまった。かなり苦しそうだ。
「お前負けたら、後ろの二人殺すからな」
「っ!?」
「「 !?? 」」
剣を受け流して、チラッとこちらに体を向けたときに目配せ、された気がした。
「……分かった。了解した。わたしの命、団長に預ける」
「ちょっと! セチア!!」
「いいの、大丈夫。団長を信じてるから」 そしてギリアムさんも。
「くっそ!!」
初めて声を荒げた。
団長が力で押し返す。攻めに転じた。キレも前見たのと同じくらい良くなっている。
やっぱり人を守る。それが団長の原動力なのかな。
それからは攻防の入れ替わりで切り傷が増えてきた。ボロボロで気も結構出ている。息も切れてきて、肩で呼吸し始めてる。
だけど。
なんで、あんなに楽しそうにしてるんだろう。
「くくくっ……はぁ……やるじゃねぇか……!」
「ふふふふ、そちらこそ……聖騎士抜けて、からまた強くなった、んじゃないですか?」
満身創痍、汗もすごい、疲れも見える。
それなのに満面の笑みを浮かべている。
「くくっ……楽しくなってきやがった」
「そうですね……ふふふ」
笑いあいながら切り結ぶ異様な光景が広がっている。仮にも命のやり取りでもあるのに、なんでそんな顔ができるんだろう。
男の人って良く分かんない。
けど、すごく楽しそうで、お互い実力以上に戦えている。全力でぶつかり合っている。
なんか、こういの、良いなぁ
場違いなのは分かっている。けどこの場の雰囲気、戦場の空気じゃない。
暫く切り合って、ようやく決着が付きそうだ。
団長が優勢で、ギリアムは防戦一方だ。
そして。
キィンッ!
と甲高い音が鳴り響く。 ギリアムの剣を弾いて飛ばした音だ。
飛ばされた剣は地面を数m滑り、壁際で動きを止める。
「強く、なったじゃないか」 満足気な笑みをこぼす。
「……ギリアムさん貴方は……何が目的なんです?」
「……詳しくはそこの狩人の嬢ちゃんにでも聞きな。俺にはやることがある」
そうだ、魔族の封印をするんだ。
「なあ、お前」
わたしだ、首だけ此方に向けて話しかけられる。
「最初に会ったとき覚えてるか?」
「……うん」
唐突に何の話をするのかと思ったけど、忘れるわけがない。わたし達の始まりだ。死ぬ思いをして何とか生き延びて今ここでその相手と話をしている。
「あの時、お前を見て俺が表情を変えたのを覚えているか?」
「……うん」
みんな居なくなって私だけになっちゃってもう相打ち覚悟で特攻しようとしたときだ、正面から出て行ったら驚いた顔をしていた。
「お前の眼、俺の母によく似ていたんだ。俺がまだ小さいころ病で死んだけどな。いつも楽しそうに、笑って、無茶して、自分を捨ててでも周りを守ろうとするんだ」
「……」 なんだか、似ている気がする。
「無意識にお前と母を重ねていたのかもしれない。だから殺せもしなかった。お前の周りの奴らも家族に見えて、若くして死んだ母の代わりにもっと生きてくれって思ってたのかもしれない」
肩の力を抜いて初めて力無く笑う。
「だから、お前の願いは聞いてやりたかった。死んだ人間の代わりなんて、殺人鬼と恐れられてる俺が何言ってんだかな」
「だから、お前は……お前も、幸せになってくれよな」
ズトッといつの間にか太ももと肩に30cm程の針が刺さっていた。
「っ!!」
なんだ? 誰が?
……あれ、身体の力が……抜ける。
「即効性の麻酔だ、少しの間そこで見てろ。もう一人も眠ってもらってる」
レア、そういえば見当たらない。
「大丈夫、寝ているだけだ。怪我もない安心しろ」
「お前は母に似ている。だから俺のやることに反対して体を張って止めようとするだろう。だからすまんな」
「な、にを……」
「封印を開始する。ただの封印ではない、魔族との境界を完全に断ち切る」
つまり、もう魔族の被害は今後なくなる。ということ……?
「犠牲はない。そういったな、あれは嘘だ。俺は死ぬ、いや居なくなるだな」
「まっ……」 麻酔で上手く喋れない。
意図的に無視をして、魔法陣の中心に立って、呪文を唱えている。
「 دنیا کی جادو طاقت پر واپس جائیں 」
何を言っているの……?なんの言葉なの……?
「お別れだ。じゃあな」
両手をパンと合掌。
「 フ ァ ン タ ジ ッ ク ・ エ ン デ ! ! ! 」
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