第40話 『エンデ強襲』

 来る日、封印決行および作戦実行当日。


 わたしは出来るだけソフィと居た。夕方に行くという話だその前に何かあるかもしれない。用心するに越したことは無い。


 作戦は夕暮れ、街中で空へ火魔法を撃ち上がるのが合図でそれを見たらすぐに開けてくれ。とのこと。雑だけどこれが一番確実という。


 まあ暴発したとか間違えたとか言っておけば撃つ本人は大丈夫だろう。




 ソフィは本当に本当に、楽しそうにしてくれていた。最後なんだと、わたしと思い出を作ろうと。


 貴方は助かるなんて、言ってあげたい。だけど言ったら作戦は失敗に終わるかもしれない。黙っていると心が痛い。それに、危ない目にも合うかもしれないって……。


「セチア?」


「ごめん、何?」


 そうだ、今はそうじゃない。


 ソフィの気持ちを受け取るそれが今のわたしに出来る事だ。




 時は流れ、もう夕方になってしまった。

「私、そろそろ行くね、後でまた」


「うん、わかった」







 深呼吸して気持ちを切り替える。


 担当の門まで行って、道の端で空を見上げる。


 特に変な目も受けず、上々と言ったところだ。



 ソフィが居なくなって30分


 まだ合図が来ない。



 手に汗がにじむ。呼吸も浅くなってる。



 ――早く!


 ――早くっ!!




 コゥゥーーーーーっ


 と火の玉が空目掛けて飛んで行った。


 ――合図だ!



 なるべく平静を保って早足で門へ向かい門を開けてもらう。


「あのー、ちょっと依頼があって外へ出たいのですが……」と賞金稼ぎの証の腕輪を見せる。


「あいよー気を付けてねー」 気の抜けた声で見送られる。




 開けた。


 中規模な人の群れがこちらへ向かってくる。


 門番はまだ気づいていない。


 靴の紐を結び直してる振りをする。


 頃合いを見て気付いたふりをする。



「あ、あの!」


「ん、どうした?さっきの出て行った人だよね?」


「はい、あのそっちからたくさんの人が……」


「んー? っておわぁ!?」押しのけられてひっくり返ってしまう。



 この人たちは闇ギルドの人だ、殺しは禁止。脅しが得意な人たちだけを集めたそうだ。よくそんな狭い範囲でこれだけの人を集められたなって思う。




 バタバタと人が流れ込んでくる。とりあえず作戦成功だ。


 わたしの仕事はもう済んだ、さっさとソフィの所へ向かう。





 城へ向かってる途中。中央が盛り上がってるから他の方角がちょっと見えたが、慌ただしい。成功してるみたいだ。


 少し遅れて多くの聖騎士たちが城から出てくる。


 これで手薄になった城にギリアムが乗り込むって感じなのだろう。


 騒ぎに乗じてわたしも中へ入る。三人と合流する手筈だ。




「お姉ちゃん!」

「セチア!」


 レアとタクが来た。


「ハイマーの方少し見えたがちょっと手間取っている様子だった、だからお前らは先に行ってろ!」



「「分かった!」」



 研究所は転移所の所のはずだ、場所は分かる。道を縫うように進んでいく。


 転移所のさらに奥、普段は入れなかったはずだが、そんなのは無視だ、突っ切る。




 良く分からない機械や、変な色のした液体の入ったカプセルや文字がびっしりと書かれた書類などがたくさんあった。


 だが辺りを見回してもここまでしかない。奥は一体どこに……。



「貴様ら!奴らの一味か!」



 聖騎士に見つかってしまう。厄介な時に見つかってしまったものだ


「しょうがない! 行くよ!」 レアと目を合わせ、牽制する。


 相手の装備は片手剣と盾。狭い空間だったら私たちの独擅場だ。

 特に殺すとかそういうことではない。ただ無力化すればいいだけだ。ナイフを2本構えて突っ込む、剣を振り下ろされるが、2本のナイフで交差するように受け止める。衝撃波が結構あって腕が痺れる。


 そのまま絡め取って刀身を受け流すように弾く。聖騎士は力の流れでそのまま地面に転びそうになる。剣も地面傍にある。それを思いっきり剣の腹の部分を上から踏みつけ手から離れさせる。絶妙なタイミングでレアも盾を剥ぎ取り、取った盾を持ったままにタックルする。


 思い切り盾でタックルされて壁と板挟みになり、頭をぶつけて気絶した。


「ごめん、相手をしてる暇はないの」

 視線を軽く落として言い捨てるようになってしまうがしょうがない。



「でも、これどうしよう」


 先が無いんじゃ探しようがない。こうしてる間にもソフィは大変な目に合っているのかもしれないと思うと居てもたってもいられなくなる。壁も調べてみるが隙間らしいところも見つからない。気持ちは焦る。先はないで、テンパり始めてる時。



「お前ら速かったな。先行くぞ」

 ギリアムだ、来てくれた。だけどすぐに引き返す。


「え? ちょ、そっちなの?」


「転移するんだよ、その先にある」


 転移した先に研究所があれば侵入者があっても見つかることは無い。



 その侵入者がカードを持ってなければの話だが。


 ギリアムも持っていたみたいでゲートを開く。開いた時の黒いもやもやというより壁が歪んでいるだけに見える。


「壁の向こう側か、安直だな」

 ぬぅっと沈んでいく。続いて私達も入る。


 行きついた先は、予想通りというか廊下がそのまま続いている感じである。後ろは勿論行き止まりになっている。


 先を急ぐ。



 少し開けた場所へ出た。真ん中に出っ張ったものがある。それに魔法陣のようなものも。


「ここだ、ここで封印をするんだ」


 魔族って雰囲気はあるけど、それよりも先にやらないといけないことがある。



「ソフィ!!」


 奥へ続いてる通路を見つけ、勝手に足が動き出す。奥へ行くと一つ部屋があった。だけど固く閉ざされている。防音だろうか?


 耳を澄ましてみる。



 何か聞こえる。話し声だ、男二人……女性一人……女性の声は怯えているように聞こえる。


 多分ソフィだ。



「これっ!! どうやって!!!」


 固い、叩いても、切ってみても、蹴飛ばしてみても、びくともしない。


 早くしないと、早くしないと……!


 そうだ、このカードで、壁を飛ぶ……! もうこれしかない!


 意識を集中する。


 エンデ。


 もっと奥。


 もっともっと奥の底。


 ……。


 頭が痛い……。鼓動がそのまま頭痛になっているかのようにズキンズキンと痛む。


 歯を食いしばる。もう少しだ、もう少し。頭の中で小さくブチブチ言っている。


 生暖かい物が口に当たる。これは鼻血だろうか……?



「っく……」 足りない、行けない……。



 もう少し! もう少し……。


 なんで届かない……!! 





 焦りと怒りで思考がおかしくなってる。



 だがその時、心に何か暖かい物が宿った、様な気がした。


 これは、ソフィ……? あのときの分けてくれた魔力が……?



 まだ、残っていた……?




 そうだ、ソフィの魔力、多いんだ、なら見えるはずだ。それにどんな魔力か良く知っている。




 さらに集中。


 ぼんやり暖かい魔力の広がりが見える。



 そこだっ!!






 目を開く。


 白衣を着た男二人と手枷をされて動けなくなってるソフィだ。ソフィは服を脱がされて白い肌が露わになっていて、表情も恐怖に染まっている。幸いまだ下着は着けているようだ。




「こっんのっ!!!」 何も考えず、考えられずに全速力最短で地面を蹴り出して、その勢いのまま力任せに蹴飛ばした。



「っがっ!?」 短い悲鳴と共に解き飛ばされる。二人並んでいたこともあって転がるように壁へ激突する。


「ソフィ!! 大丈夫!?」


「セチア……? なんで?」


 服は脱がされているけど、それだけのようだ。良かった。本当に間に合って良かった。





「いっつ……何で人がここに居やがる!?」

「クソが、邪魔しやがって……その体にたっぷりお仕置きしてやる……」


 男二人は頭を振りたくりながら悪態を付く。そしてまたソフィに見せてた汚らしい笑顔に戻る。


「……どこまで行ってもクズなんだな」




 あの時、あの村で『奴』に感じた黒いもやもやが、また心に出てきた気がした。

 殺してやる、恨み殺してやる。自分でも考えられないような言葉が出てきていた気がする。


 そして、ただ無心のまま、流れるようにナイフを抜き、クズ共の首元へ――――。





「――やめろっ!」


 ギリアムに、腕を掴まれていた。


 掴まれて、ハッとする。今、自分が何をして何を考えていたのか分からなかった。




「お前に、殺しは似合わない。殺すのは俺の仕事だ」


 掴んだ腕を離して、二人の男に向かって行き首を刎ねる。


 そのままソフィの方へ向かい手枷を切り落とす。

「……お前がソフィか、大事ないか?」


「は、はい。えっと……」



「――扉は無理やりぶっ壊した。無駄に頑丈で少し手間取った。怖い思いをさせて悪かった」 軽く息を吐いて 「あとは封印しに行くだけだ」



 一人で歩いて行ってしまう。




「……ソフィ、ごめん遅くなって大丈夫だった?」


「うん、大丈夫。だけど何でここに……」


「またあとでって言ったじゃないそれだけだよ」


「何よそれ……」


 嬉しそうな笑顔と涙。そう、その笑顔がわたしは見たかったんだ。


 わたしの着てたジャケットを着せてギリアムを追いかける。

「上だけでごめんね。下はわたしもこれだけだから」 とショートパンツに示す。これが無くなったら私も下着になってしまう。



「ううん、ありがとう……」


 胸元を両手できゅっと握りしめて表情が緩む。






 ふと前を見るとギリアムが立ち尽くしている。何かあったのだろうか。



「……団長さんのお出ましだ」 顔が引きつっている。あんな表情見たことが無い。





 目線の先には剣を構え驚愕と怒りと悲しみが混ざった様な表情をしている団長がいた。


 何とも言えない表情をしている。





 そしてやっと、その口が重々しく開く。





「どうして、ギリアムさん……。あなたが……!?」



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