第38話 『封印決行の時』

 泥のように眠っていたみたいで、何時に寝たかは覚えていないが、起きるとお昼は過ぎていた。



 ビックリするくらい調子が良い。


 自分では気づかなかったが、かなり無理がたたっててようだ。






 今日も書物庫へ行く。





「セチア……?」 後ろから声をかけられる。



 この声……。顔を見るのが怖い、振り返りたくない。



 けど……。レアに言われたんだ。笑顔でって。


 意を決して振り向く。



「ソフィ……」


 やはり笑顔でいる。笑顔が似合う。


 だけど……。



「話聞いちゃったんだけど、えっと……」 言葉が上手く出てこない。頭の中がごちゃごちゃしてきた。


「うん、世界のためだもの私頑張るよ」



「……」



 表面上はいつものソフィに見えるが。


 そんな……そんな悲しそうな笑顔、わたしは見たくない。



「こんなこと聞くのずるいってわかってるけど、本当にそれでよかったの?」



「……」 表情が陰る。

「……お別れになるのは、悲しい。けどしょうがないよ」



 ――そうじゃない、そういうことを聞きたいんじゃない。



「もっと、お話ししたい、遊びたい、仲良くしたい、もっともっと。やりたいことがたくさんあったけど、もう……」 弱弱しく笑って見せる。



 ――なんでそこで笑うの。



「私も、ね。他の方法を探し回った、ずっと探していた。だけど……」

「だけど、見つからなかった、それに、私以外だと魔力の関係で複数人生贄になるって言われたの。そんな話聞いたら……断れる訳……ないじゃない……」


 大粒の涙が零れ出す。初めて転移したときとは違う。もどかしさ、悔しさ、何処にも当たれない怒り、そして後悔の涙だ。



「……」  何も言ってやれない。何も出来ない。見ていることしかできない。ただ拳を握りしめる事しか……。



「日にちは、もう決まってるの……?」



「5日後の夜って言っていた……もう、5日しか……」



 5日しかないのか……。まだ、書物はある。まだ、諦めてたまるものか。絶対に……。



「分かった。わたしは諦めない。まだ、手はあるから探し続ける、だからごめん、また今度。絶対に助けてみせる、絶対に」




 気付かないうちにわたしは書物庫へ向かって走り出していた。




 頭をフル回転させるんだ。早く探せ、早く読め、見つけろ、僅かな事でいいんだ。



 レア達だ。手短に事を伝える。みんな急いで探してくれる。




 どこに、ある。


 どこだ。


 早く。


 急げ。


 早く。




 四人してご飯も食べず眠りもせずに探し続ける。レアとの約束早速破ってしまったが、レアも同じだ。




 そして、4日後の夜、ついに全部読み終わる。





「なんで、手掛かりがないの……」


 そう、何もなかったのだ。


 何も。封印に関してはあったが、犠牲を伴うことしか書いてない。それじゃない。犠牲なんか出しちゃだめだ。


「……」


 手詰まりだ、どうすればいいのか頭が回らない。


「……」 涙だ、勝手に涙が出てきた。



 もう、ダメなのか……。終わりなのか……。


 なにも頭に入ってこない、話しかけられてるけど返しているのかすら分からない。









 ……いつの間にか部屋に居た。隅で一人。



 どうすれば、良かったのかな。



 大人しくソフィと最後の時を過ごすべきだったのかな。


 悔いのない様に最後に笑ってお別れを言うべきだったのかな。


 ……。


 泣いてたって始まらない。だけど悔しくて悔しくて、涙が止まらない。




 空を仰ぐ。


 月が綺麗だなんて思うがすぐ現実に引き戻される。





 ……出会わなければ、よかったのかもしれない。


 こんな思いをするくらいなら忘れて、今まで通り何も知らないで、過ごしたい、旅でもしていたかった。



 聖騎士に関わらなければよかった。


 賞金稼ぎなんて目指さなければよかった。




 賞金稼ぎ……。




 頭の歯車が動き出した気がした。



 賞金稼ぎ、オルクス。



 あいつは、あのとき、魔族の封印が計画と言っていた。




「……!」



 涙をを乱暴に拭ってカードに意識する。あの辺に飛ぶんだ、あのアジトの所へ!!






 ――まだ、終わってない。





 飛んですぐ走り出す。場所と向かう方向は分かる。前に通った道だ。


全力で闇夜の道を駆け出す。無我夢中で走る。足の動きと気持ちがチグハグになって転びそうになるが、無理やり足を動かす。


 いそげ、早く、早く、早く。




 前の場所の近くに人影が見えた。


 近づいて声をかける。


「ギリアム!!!!」




「っ! お前……なんで……」





 良かったギリアムだ。





 涙や鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ、そんなのは気に留めてる場合じゃない。




「お願い!! ソフィを、大切な友達を助けて!!」




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