第37話 『封印の犠牲』


「ソフィが、居なくなる……?」



「……まだ確定じゃないけどね。近いうちにまた教えるよ」


「……ふわぁ……」 ワザとらしく欠伸をする。


「しまった、お客さんがいる中で眠ってしまった。いかんいかん……」



「……」

 ソフィが居なくなるなんて絶対に嫌だ、わたしの友達、大切な人……。


 失うなんて、真っ平ごめんだ。


「何か手伝います。僅かな手がかりでも見つけます。考えるのは少し苦手だけど、見つけないといけないんです。だから……」



「……そうだね、うん。ありがとう。僕が許可を出すから書物庫、使ってくれ」







 案内された書物庫は広く、白を基調とした。綺麗な作りであった。1階と2階に別れていて本の量が膨大にある。背表紙を見るだけでもかなりの時間が掛かりそうだ。


「ここは過去の文献とかあるはずなんだ。勿論封印のことも書いてあると思う。でもどこにあるかあまり把握してないのは申し訳ない」


「仕事の合間に見て回ってるけどまだ1階の半分も見れてないんだ、君たちに手伝ってもらえるとすごく助かる」


「分かりました。任せてください!」



 とは言ってもこの量は骨が要りそうだ……。2階はまだ何も見れてないというので2階から見ることになった。


 ボロボロの本や、色の褪せた本、読めない文字の本もある。


 読めない本は数が少ない、これは別に集めて後でみんなに確認した方が良さそう。


 探す。


 ひたすら探す。


 それっぽいのを見つけては一言一句見逃さないように読み漁る。





 探し始めたのは昼前だったが、いつの間にか夕暮れになっていて、お昼も食べなるのを忘れていたようだ。




 軽く夕御飯を食べながらみんなと情報を交換するが目ぼしいものがない。


「あの数だと中身まで確認してると時間が足りる気がしないね……」

 サンドイッチを摘まみながらぼやく。

 元々、本とかは読まない方なので慣れてないから予想以上に疲労してる。


「やり方が変わってくれればそれでいいんだけどねぇ……このままだと多分ソフィさんになっちゃうよね」



「……」

 例えソフィじゃなくても誰かが犠牲になってしまうのは確かだ。


 ……ということは昔から封印をし直してたってことは、その度に誰かが犠牲になっていた、と言うことになるのか……。


 団長もまだ若いだろうし、知識としてはあっても目の当たりにするのは初めてなんだろう。そして団長のあの性格だ、今回で変えてやるという気持ちが強いのかもしれない。




 夜も探そうと思ったけど初日だったので明日また探すことになった。


 寝る時も頭に不安が過ってなかなか寝付けなくて結局朝方まで起きてしまった。それでも少しは寝る事が出来たので頭はすっきりした。





 今日も頑張ろう。


 探す。


 ひたすら探し続ける。


 お昼は食べてる時間がもったいないのでそのまま探し続ける。





 レアに声をかけられて、もう夕暮れになってることに気付く。


 また情報交換。


 当然のように目ぼしい物はない。




 今日は夜も探そう。


 一応確認を取ってみたが、夜も使っても良いそうだ、だけど明かりがないから自分で用意してくれと言われた。


 前にもらった光る石がある。ここで使わせてもらおう。








 夜も更けてきた。だけど見つからない。



 探す。



 探す。



 探す。



 探す。



















 あれから何日経っただろうか、夕ご飯も度々抜くようになる。どうせ何も進展はないのだから。集まって話すだけ時間の無駄だ。


 そして、何も進展がないまま2階を全部見てしまう。




「……」



 まだ、まだ、1階がある。




 一階の団長が見たという区画を除いて、いざ読み始めるというときに団長に呼び出された。






 嫌な予感しかしなかった。

 聞きたくない。

 行きたくない。




「三人で行って、わたしは探してる」




 投げ捨てるように言ってしまった。酷い奴だ、わたしは……。人に当たってるだけじゃないか。



「……」

 余計なことは考えるな、探せ、探すんだ。見つけ出すんだ。




 三人は数十分で戻ってきた。やっぱりみんな暗い表情をしている。


「セチア、その……」



「聞きたくない……」



「……」 みんな目を伏せて辛そうな顔をしている。




「……なんで……。こうなるの……」

「……なんでソフィなの? なんで……なんで……」



 クロセルの時も、そうだった。分からないことが多すぎる。頭良くないんだから分かりやすく誰か説明してよ。


 なんでわたしじゃないの? なんでわたし以外の人がこんな思いをしないといけないの?


 私が関わったから? いつも余計に、中途半端に、無駄に関わって、苦しめて、辛い思いをさせている。いつもいつもいつもいつも。


 わたしには何も被害は蒙らない。いつも相手にばかりだ。


 ソフィだって……。



 ……そうだ。





「いっその事、ソフィ以外の人だったらこんな……」

「お姉ちゃん!!」

 両手で顔を挟むようにして固定される。


「それだけは、言っちゃ駄目だよ。誰かの代わり誰かをなんて絶対に、駄目」


 真っ直ぐ赤い瞳で見られる。綺麗で強い意思の灯った瞳だ。



 そういえばちゃんと、話したのも久しぶりだ。


 でも今はそれをしてる場合じゃない。完全になくなった。




「……ごめん」 とだけ言って。


「まだ1階があるから探す」 とまた本を探しに行く。





「……」 みんな黙ってこちらを見ていた。今、酷い顔してるんだろうな。




 ソフィに決まってしまった。ならもう一刻の猶予もない。全力で探さないといけない。


 探す。


 探す探す。




 字が霞んで見える時も顔を叩いて気を入れなおし、文字を見たくなくなっても無理やり読み進める。


 頭痛もしてきた。


 最近はロクに寝てない。でも寝てる時間なんてない。




 数日お風呂にも入ってなかったみたいだ、気付かなかった。レアに強制的に連れられてお風呂へ入る。




「お姉ちゃん、大丈夫……? 酷い顔してるよ?」


 すぐそこに鏡があったので見てみる。隈は凄いし窶れてる。髪もぼさぼさで、目つきも何だか変だ。



 自分の顔、こんなだったけなぁ。







「ねえ、ちゃんと寝て、一度でいいから。体おかしくしちゃう」


「おかしくなっても生きてるよ、命が無くなる人がいるんだからそれどころじゃないよ」


「そういうことじゃない、お姉ちゃんを心配してるの自分を大切にして!」


「……」


「いつもそうだよね、自分をあまり大切にしてない」

「ソフィだって、そんな顔のお姉ちゃん見たくないと思うよ、いつも楽しそうにしてる方が良いに決まってる」

「例え、本当に例えばだけど、ソフィが居なくなってお姉ちゃんがそんなだったらソフィはどう思う? 悲しむと思うよ。最後の別れの時だって笑って送り出してあげた方が喜ぶんじゃなの? ソフィには笑顔が似合うに決まってるでしょ? それはお姉ちゃんが一番良く知ってるはずだよ」


「悲しくたって、笑って送り出して、心配させないって、悲しいから悲しいお別れなんて、お姉ちゃんは一番嫌いでしょ?」



「……お別れとか言っちゃったけどまだ時間も手段もある。私も諦めないよ。だけど、無理はしないで」   

 ぎゅっと抱きしめられる。妹にこんな顔させて、こんなことまで言わせてしまうなんてお姉ちゃん失格だ。




「……分かった。ごめん。今日はちゃんと寝るよ。ご飯もみんなで食べる」


「うん、それでいいの」

 レアが笑顔に戻る。




 夕ご飯の時、久しぶりにみんなと話す。


 心が落ち着いたような気がした。


 一人の不安もすこしは和らいだ気がする。





  布団へ入ると瞬く間に眠りに落ちた。

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