第36話 『団長の弱さと未来の事』
片腕を無くし、意識が無い副団長が心配ではあるが命に別状はないためエンデへ帰ることになった。
「みんな、お疲れ様。また何かあったらよろしく頼むよ」
そのまま解散となる。
何とも重々しい空気だ。しょうがないけど……。
「色々と心配だね」 レアが小さく呟く。
「こればっかりは俺たちの出る幕じゃないし、どうしようもない」
「最近こんなのばっかりだね、自分たちじゃどうしようもないことばかり……」 やりたいことがたくさんあるのに、出来ないことが多すぎる。実力が追い付いていない。
「僕らは僕らなんだ、何でも出来る訳じゃない。慌ててもしょうがないよ」
「……うん」
分かってはいるけど、いるのだけど。もどかしい。
それから個々に過ごすことになった。
2日後、ガリアさんが容体も落ち着いて意識も戻ったということで、お見舞いへ行くことになった。
「よう、心配かけたな。俺は割と元気だ」
「あの……腕は……」 服の上からでも腕が無いというのが分かってしまう。
「……隻腕の聖騎士ってこったな、治らないって。ただ体の重心がずれて歩きにくいのが難点だな」
「……ガリアさん……僕は……」 歯を食いしばっている。
「団長らしく在れ。あの時もそういっただろう? お前は今、団長らしいか?」
「……」
「あれは、俺のミスだ。油断していたんだ。だから当然の事だ、敵がいるのに気を抜いてるんだ。腕の一本やそこらは普通だ、むしろ腕だけで済んでよかったとも言える。実際あいつは命を狙ってたみたいだしな」
「でも……。最初の対面で仕留めそこなったのがそもそもの原因なんだだから……」
「だぁーーもう、ウジウジすんな! 今そこに居るお前の師匠は誰だ、お前を支えている副団長はだれだ、俺だろう? だったら俺を信じろ! いつまでも拗ねてたって腕は戻らん。それを反省しているのならそれを糧に前を向け! 俺みたいな人を増やさないって! それが今のお前のやることだろう!」
「……っ」
「お前は、もっと強くなれる。俺なんかに構って立ち止まってる場合じゃないだろう。前に進め、腕が無くても俺は後ろから支えてやるから。安心して突き進め、人を守りたいって騎士団に入ったんだろ? 魔族が暴れ出してる今がその時だ、お前の仕事だ」
「……すいません。また世話掛けさせました。前を向きます」
「それが俺の役目だ、気にするな、ほれさっさと行け」 しっしと追い立てる。
そして団長は深くお辞儀をして部屋を後にする。
「そうだお前さんたちにも」 とわたし達五人は引き止められる。
「これからも、あいつを支えてやってくれないか? 聖騎士団じゃないお前らにも言うのも変な話だが、信用における奴らだからってことだな、あいつはまだまだ若い、道に迷うことがあるだろう。そういう時に声をかけてやるなりしてくれ、聖騎士じゃないお前らだって遊びに来る感覚で来てもらって構わない。喜ぶはずだ、多分な。ああ見えて結構お前らの事気にかけてるんだ、良い友になれると思う。だから……」
「よろしく頼む」
「……」 なんて言われてしまった。
信用されているのはとても嬉しい。
だからそれに答えれるくらいの人間になろう。
そう、心に新たに刻み付けた。
帰り道、気まずそうに団長に話しかけられる。
「見っとも無い所見せてしまったね、申し訳ない」 視線を宙へ泳がし、頬を掻いてる。
「何でかな、君たちと居ると何となく気が緩むというか何というか……」
「……」
五人で顔を見合わせる。
「ガリアさんの言う通りな感じ」
「自分じゃ気付いてない感じなのね」
「ガリアさんが凄いのか団長が分かりやすいのか……」
「多分、前者だろう」
「いやぁ、どっちもじゃないかな……」
「ちょっと? 何ひそひそ話してるの? さっきガリアさんに何か言われた?」
「いやいや、何でもないですよ、それよりたまに騎士団へ遊びに行っても大丈夫です?」
「まあそれは構わないけど、ソフィもいるし。でも仕事の邪魔はしないでくれよ?」
了承を得てしまった。
「はい、ありがとうございます!」
団長を見て、自分のできる事、それをわたしもしっかりやっていこうと思った。
出来ないことをウジウジしてないで前を向け!
なんて自分にも言われた気がする。
ふふふ、こういうのちょっと良いかも。
それからはたまに遊びへ行く、基、情報収集や小話を持って行ってお茶なりを飲みながら話すことが多くなった。
流石に忙しそうな時は遠慮したけど、前より笑うようになった気がする。
人との触れ合いは大切なんだなって改めて思う。
ただ、何だか日に日に団長の顔が窶れて行くように見えて、流石に心配になり、休んだ方が良いよ? と言っては見たが、大丈夫の一点張り。
どう見ても大丈夫ではない。
仕事が忙しいのだろうと思って少しそっとしておいたが悪化してるように感じた。
「団長、本当に大丈夫ですか?」
「……うん。ダイジョブ」
「……」
大丈夫ではない。
「何かあったのなら相談に乗りますよ? あ、でも仕事の関係だと僕らは聞けないか……」
「……そうだなぁ」 団長が椅子にもたれ掛って目を本で覆って隠している。
「僕は寝ています。寝言を言っちゃうかもしれないから聞かなかったことにしてね」
「……魔族の封印、50年前倒しにやることになった。だけど準備が間に合わない。次の準備に最低でも20年は欲しい。だから20年は持たせるように今、調整してるんだ。」
それは、大仕事だ。かなり大変なんだろう。
「それで、封印するのに魔力が多い人が必要で、研究者たちの中で誰にするか話になって、候補にソフィが上がったんだ。これまだ決まってないから本人に言ってないよ」
ソフィは人魚の血が1/4混ざってるせいか魔力の流れが見えるという。それと一緒に持ってる魔力もかなり多いのだろう。
「封印すると、人が生贄になる、つまり死ぬってことだ」
「っ!?」
「だから僕は他の方法を探している。誰も死んで欲しくないんだ、何か方法があるはずなんだ」
「20年の為にソフィを生贄になんで出来ない。代わりに僕がって言ったけど魔力が規定以下で出来なかったんだ。人を生贄にするくらいなら死んだほうがマシだと思うけど、このままだと魔族で溢れかえってしまう。かといって誰かを犠牲にする訳にもいかない。僕は、どうすればいいんだ……」
「「「「 …… 」」」」
まさか、こんなことになっているとは……。
しかもこのままだとソフィが死んでしまう? 断れば……いや世界の為なら断れない。ソフィならやるだろう。
まだ決まったわけじゃない。
……もしも、決まってしまったら、わたしは、どうすればいいのか分からない……。
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