第35話 『南の魔族 Ⅲ 古城の戦い 終結 』

古城 地下の奥


 小部屋で声がする。




「クソっ!!!! クソ!!!!!」 壁を殴り続けている。拳の皮膚が裂けている。


「何なんだあいつ!!」


「剣見えねぇし、いつの間にか切られまくってるし、攻撃効かねぇし。あいつ人間か!?」



 まだきちんと腕や足を動かせないでいる。完全に治っていないようだ。



「殺す……ぜってぇ殺す……あのクソ野郎……目ん玉くり抜いて口なんかに放り込んでやる……」










「何か、聞こえる……」 何かがぶつかる音だろうか? あと僅かに声も


「イライラして壁でも殴ってるんじゃない?」 


 レアは冗談半分で言っているようだけどさっきの様子だと十分にあり得る。


「自分の居場所を知らせるなんて間抜けだなぁ、まあ抵抗できない人をいじめてるって感じだったし、戦うのは慣れてないんじゃないかな、攻撃とかも愚直すぎたし」


 普通ならあの再生能力とか不意打ちで驚いて調子崩しそうなものだけど、流石は団長と言ったところなのだろうか。


「次は、仕留める。転移だけには気を付けて、特に後ろはね」











 少し歩くと音のする部屋へたどり着く。

「恐らくまだ僕しか見られてないから一人で行くよ。でも一応気を付けてね」 と部屋お扉を開け放つ。


「ここに居たか、始末しに来たぞ」


「キヒヒヒ……。来やがったな、待ってたぜ……」



 声だけが聞こえる。大人しく耳を澄ます。



「お前じゃ勝てない。大人しく首を差し出せ。苦しむ間もなくあの世へ送ってやる」


「キヒヒ……クャッハハハハ!!! お前に勝つ必要はないのさ」 


「っ!?」


 短い声が聞こえた。何かあったのだろうか



「ぐぁあ……」 ガリアさんの声が響き渡る。



「!!? ガリアさん!!?」

 すぐ横に居たガリアさんが左肩を押さえて蹲る。


 腕が、切り落とされている。



「あれぇ、狙いが外れちまった。腕取れただけか。殺すつもりだったののなぁ」


「……」 腕が切り落とされた場合は治すことは出来ない。だが傷口は塞がないといけない。


 『ハイヒール』 マーくんがやってくれる。


 だけど、血が止まらない。早く止まって、止まって……。




「お? お? 死ぬか? 死ぬかぁ!? ギャッハハハハ」



「……」 団長が無言であいつに立ち寄る。 やばい雰囲気が漂っている。なんだ……。


 何か顔目掛けて投げた。光る石だ。


 あいつの前で小さく爆発して欠片が飛んでいく。「


「あぁぁぁぁぁ!!! 目がぁっ!!  目がぁぁぁぁ!!」


 欠片が散布して全身に突き刺さる。


 そのまま腰に備えてあった短剣2本をあいつの腕に刺して地面に磔にした。



「……」 剣を一振り。



 あいつの首が飛んだ。


「ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!! チクショウ……! チクショウぁぁぁ!!!」


 声を荒げながら体は地面へ解けるようにして消えてゆく。




「……ガリアさん!!」 団長が駆け寄る。


「血は一応止まりました。だけど顔色が良くない早くちゃんと手当てをしないと……」 マーくんが看病してくれていたみたいだが、ここじゃこれ以上手の施しようがないようだ。


「早く! 飛ぶよ!」 意識を集中させる。 「ロマ? エンデ?」


「ロマでいい!!」


 ……。


 ロマ、へ飛んで早く!!










 ……。


 明るい。飛べた……。


「早く医者、いや警備兵の所でいい! お願いだ手伝ってくれ!!」 









 かくして何とか運び込めて一命も取り留めたが。


「腕が…」


 切り落とされてしまった。



 幸いにも利き手ではないそうだが、かなりの大怪我だ。





「……僕が、さっさと仕留めなかったからだ……。僕のせいだ……」 団長が、団長じゃないみたいだ……。




「……あんな様子の団長は見たこともない」 ソフィが小声で言う。




 ……一度目の対面で仕留めそこなったのは事実だけど、あれは……。


 声もかけられない。 どうすればいいんだ……。



「今は、そっとしておきましょ、報告は私がするね」


 と言って行ってしまう。




「……今回、俺達何もできなかったな……。ガリアさんも腕無くしてしまったし、団長もあんなになってしまったし……」 タクが珍しく意気消沈している。 実際何もできなかったのは事実。みんな黙り込む。


「でも、生きててよかった。あいつは殺すつもりって言ってた。だけどガリアさんは生きている」 レアの目に意思が灯る。 「命がある。それが何より大事なんだって思うの」 


 ……死んでしまっては、どうしようもない。今は生きてる事実に喜ぼう。なんてすぐには気持ちは変えられないんだけど……。


 首の呪いも無くなっていて、化膿しないようにだけは気を付けてくれと言われた。





 南の魔族、いやほかにもっと出てくるのだろうか。もっと危ない奴が……。



 封印を早くしないと、取り返しのつかないことになりそう。



 ……今回の件にしろ、魔族の件にしろ、どうにかしたいけど、何もできない自分が嫌でしょうがない。




 わたしは……。

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