第34話 『南の魔族 Ⅱ 古城の戦い 団長の実力』
目を覚ますとベッドに寝ていた。
体を起こすが特に支障はない、首の傷が少し気になる。
ベッドの横にある棚の上に『もしも誰もいなかったら鳴らしてね』と書かれた紙とハンドベルがあった。
とりあえず鳴らしてみんなに話そう。
「おい! 大丈夫だったのか!?」 タクがいの一番に来てくれた。
「うん、多分。ねえ首にある傷ってどうなってる?」 髪を持ち上げ見てもらう。
「っ! これは……!? なんだ、これは」 混乱しているみたいだった。 「ちょっと待ってろ、みんな呼んでくる」 と言って行ってしまった。
みんなバタバタ駆け寄ってきてくれる。
「大丈夫だよ、みんなありがとう」 ホント、いつもこんなのばっかりだ。心配かけてばっかりで駄目だねわたしは。
「ソフィ、首の傷を」 タクは神妙な趣きだ、あの傷。変な風になってるのかな……。
「これは……呪いの一種でしょうか……。かなり禍々しいものに見えます」
凄い怖いこと言っている。呪い……。
「持ってきたぞ」 とガリアさんが鏡を二つ持ってきてソフィに渡す。
「ありがとうございます、セチアこれ持って」
上手く角度を合わせて首の傷を見せてもらった。
「これ……」 噛まれた後、二つの穴とそれを中心に赤黒い円状の模様が浮かんでいる。
「そうだ、あの魔族に噛まれたんだ。血が好きだって……血を飲んでた」
「血を、飲む。魔族……」
「転移されたあと、薄暗い空間に居た。壁際に何人もの人が手枷をされて、みんな疲弊していた」
「そこで全身白い服装の細い男性……に王室みたいなところへ案内されて料理をご馳走された。直感で食べたらダメなやつだと思ったから食べなかったけど、あれ食べたらどうなってたのかな……。 そこで少し話をして転移で後ろを取られて倒されて血を吸われたの、そのあとに隙を見て飛んできた訳です」
「血を吸う魔族……。昔そんな伝承が合ったな……」 ガリアさんが言う。 「……夜、外を出歩いてると何処からともなく黒い影が現れて血を吸われる。そして朝には全身の血が無くなって干乾びた状態で見つかるとか……首には噛まれたような二つの跡があったそうな」
「ヴァンパイア……ですか、流行りましたよね。親も脅しに使ってた覚えがあります」 団長は懐かしいなと思いに耽っている。
「でも、伝承だけど特徴が似てるような気もしなくはない、血を吸う。それに暗い所にいるし雨の日しか現れないってのも、陽に弱いからとか」
「そうだ、一節だと吸われたらその人もヴァンパイアになるとかなんとか……」
みんなが私を見る。
「大丈夫、よね……?」 ソフィの顔が引きつっている。
「か、鏡に映らないって話もあるからそれは大丈夫じゃないかな」 団長の声が若干変になってる。
「吸ってもならない、その代わりにその呪いとか」 マーくんがボソッと怖いこと言う。
「ちょっ! や……」 言いかけて、あいつの言ってたこと思い出す。わたしの血が美味いとか、まだ飲みたいとか……。
「……」
無くは、無い……のでは……?
仮に逃げ出したとしても居場所が分かるようにとか、乗っ取って戻らせるとかもありそうじゃない……?
「……」
「あの、黙られると怖いから何か言って……?」
「えっと、その……多分それに近いんじゃないかと思います」 笑うしかなかった。 「呪いの解き方ってあるの?」
「ん、かけた人に解いてもらうか……。殺すか……」
そう、なるのか……。
「解いてもらったところでまた人攫うんだ、ならいっその事殺してしまった方が楽なのでは?」 ガリアさんは投げ捨てるように言う
「……セチアさん、貴方はどう考える? 接触したのはあなただけだから意見を聞きたい」
あの人は、多分話を聞くような感じではなかった。人を餌として見てる、と思う。クロセルは良くも悪くも人間に興味を持っていたんだと思う。助けたり殺したりやり方は酷かったけども……。
「多分、聞きはするけど、ただ聞くだけだと思います。だから、殺してしまうしか……ないかと」
「……なるほどありがとう。呪いがいつ発動するか分からないから早く動く方が良いだろう。セチアさん、なんとなく心当たりとかないかな? 何でもいいんだ」
「……お城……そうだ我が城へようこそって言ってた。それに王室みたいな部屋があった。近くに使われていない古城とかあれば……!」
「それだ! 古城なら確かロマを出てすぐの所にあったはずだ、場所は分かるから今すぐにでも行けるけど、セチアさんは大丈夫かい?」
「多分大丈夫です。血を吸われたとき、凄くクラクラしたんですけど、多分呪いを受けたせいです。血もそこまで出たような感じは無かったので……無理はしません。分かってます」
「……分かった。セチアさんはなるべく後ろで、緊急脱出するときだけお願いできるかな」
「はい! 分かりました!」
外は陽こそ出てはいないが、もう雨は降っていない。
今のうちに行こう。
ロマを出てすぐ右側に森が茂っている。その中にあるらしい。団長が道を示してくたので難なく古城へ着く。
見た目はボロボロだけど、芯はしっかりしてそうだ。綺麗にすれば立派なお城になりそう。
「着いたには着いたが、ここからどうするんだ? 恐らく奴は地下だろうけど入り口探すのにも結構大変そうじゃないか?」 ガリアさんが古城を見渡しながら言う。 確かに部屋の数とか、かなりありそうだ。
「問題はそこなんだ、中に入って攫われでもしたらどうしようもない。地下への入り口が外にあれば良いのだけど……」 そこで団長は何かを見つけた。
「……井戸だ、そうだ、もしかしたら!」 とそこらへんに転がってる小石を掴み、井戸へ向かう。その井戸へ小石を投げ入れそこを確認している。
――――――――――――――カッ―――ッ――。
音からすると乾いているようだ。それに音の広がりが変だ。どこかにつながっている感じがする。
「よし、思った通りだ、多分ここから繋がっている!」
どこからともなく縄を取り出し、近くの木へ固定する。
「先に行ってるよ、無事に着いたら縄を引っ張るからね」
するすると滑らかに降りていく、慣れてるなぁ。
次々と降りていくわたしが最後だ。
井戸は特に浅くもなく深くもなく、少し降りて地に足が付いた。
暗い……けど7人もいる窮屈さはないやはり奥へ続いている。
「これ、渡しておくね、足元気を付けて」 と光る石を渡される。松明替わりだろうか。
にしてもこんなものもあるんだね、便利なのもだ。
奥へ進む。
何となく雰囲気がさっきの空間に近い気がする。
歩くと分かれ道があった。けど一番大きい道を進む。あの時もこれくらいだったはずだ。
更に進む。
「おっ」 声を出してしまった。 「ここ、話した王室だと思います」
そうだと思うが、何だか荒れてる。料理はまき散らされて、カーテンや絨毯はボロ切れみたいになっている。
「……」 なんだかいやな予感がしてきた。
「……ふ……。……」 何か聞こえた。みんなも警戒態勢に入る。
ゆっくり近付く。だんだんはっきり聞こえ始める。
そして進むにつれて血生臭いというか、鼻を突くような異臭がするようになってきた。
「んーーーっ!!! んんんんん!!!」 女性の呻き声、というより声が出せないような感じ……?
「ふふふ、あの女……私を騙しやがって……必ず捕まえてやる。お仕置きが必要だな……ふふふふ……」
独り言を呟きながら手枷をされた女性に何かしている。
目を凝らす。
あいつの手が血まみれだ、それに女性の指があらぬ方向へ折れ曲がっている。
「クソクソクソクソ……イライラしてくる。クソがァ!」 叫びながら女性の顔を殴りつける。
「何で! 逃げられるんだよ! つかどうやって! 逃げたんだよ! 少し背中を! 見せてただけだろうが! クソ! クソクソォ!! クソクソクソクソクソッ!!!!!」
女性はすでに声も出せていない。ピクリとも動いていない。
それに顔も……。
「……あ、またやっちまった。全員殺しちゃったじゃねぇか……。あの女、絶対に絶対に絶対にっ! たっぷりと可愛がってやる……」 ニタァと悪魔のような表情を浮かべる。 最初にあったときの紳士のような様子はもうどこにもない。
周りも血だらけで誰も居ない……? もしかして食べた……とか……?
逃げてからずっと、いたぶり続けていたのか……。
「ん? 誰かいるのか?」
っ! 気付かれた!?
「……あぁ、お前を殺しに来た」 団長が剣を構え、前に出る。
「ギャッハハハハハハハ、俺を? 殺せるのか!? やって見」
物凄い速さで一閃が入る。何も見えなかった。
口角が切られて、舌も落ちる。
「黙れ」
「っ!!? キキキッ!! ……面白れぇ! 殺せるものなら殺してみろよ!」 傷は見る見るうちに治っていく。不死身なのか……?
爪を長く鋭く生やし、団長へ向かって行くが。
左腕、左脚、右手の指、耳を巧みな剣裁きで切り落とされる。
「グャァアアアアアアアアア!!!!! 何だてめぇ!!! 何もんだてめぇ!!!!!」 転げまわるようにして叫ぶ。再生はするが痛みが無い訳じゃないらしい。
「クズに名乗る名はない」
肩から斜めに切る。真っ二つだ。
「ア”ア”ア”ア”アアッッ!!!」
断末魔を上げ倒れて動かなくなる。
やったのか……?
「……」 あいつは動かない。
いや、ぴくっと動いたような気がした。直後、鋭い爪が伸びて団長へ向かって伸びていく。
「団っ……」 間に合わない……!
ガギィィィ!
耳を刺すような音が響き渡る。
団長が剣の腹で爪を受け止めていた。
「こんなものか、大したことない。出直して来い」 と爪を切り落とす。
「クソガァァァァァァァァ!!!!!!!」 いつの間にか全身が治っていて、走って奥へ逃げ出す。
「逃げたか……。ちょっと頭に血が上りすぎてた。落ち着く時間が欲しかった」 ふうと床へ腰かける。
「……」
凄すぎて何も言えない。クロセルの時もそうだったが今回は特に凄かった。
「なあ、その嬲られてるの見ると頭に血が上る癖どうにかしろよ、いつか身を亡ぼすぜ? いや、冷静に見てる方もアレだけどお前さんはキレ過ぎだ」
「分かってはいるけど、性分なんだよ……」
……ちょっと気になったのでソフィに小声で聞いてみた。
「あの二人って師弟関係とかなの?」
「そうだよ、副団長が師匠で、弟子が団長」
「ん??」 何か変?
わたしの顔を見て察したのか、面白い顔だったのか、ふふっ笑ってから 「普通は逆、だよね。だけど団長は見ての通り剣術のセンスがずば抜けてたの、だからすぐに追い越しちゃったんだって、でも今もすごく仲良い師弟コンビだよ」
なるほど、嫉妬とかしそうなものだけど、ガリアさんは良い人そうだし素直に喜んだんだろう。俺の教え方が上手かったんだ、なんて言ってそうだなぁ。
「みんなすまなかった。奴を追う。僕も気を付けるから、みんなも気を付けてね」
はいとみんな返事する。
凄い人だったんだ……。
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