第33話 『南の魔族 Ⅰ 囮作戦』
3日後
行ってみないかと打診してみるが一蹴される。
当たり前だよね。
それと、ちらほらとだがまたオルクスの噂が立ち始める。
まだ近辺に居るみたいだ。
もしかしたらあのアジト? に戻ったのかもしれない。一度ばれたからこそ、というやつだ。
そこはわたし達の領分ではないので結果を見守ることにする。
そして来る5日後、お昼に聖騎士団の受付へ向かう。
話はしてあるみたいで、団長室へ案内された。
もうみんな揃っている。私達が最後だったみたい。
「来てくれてありがとう。さてこの作戦だが、囮作戦を使おうと思う。セチアさん、あなたのそのカードがあれば捕まっても戻って来れるはずだと思ってね」
連れていかれても戻ればいいだけの話だ。だけど……。
「捕まった後の状態が分からない。例えば眠らせて所持品を取られでもしてたらもうアウトです。危険ではないでしょうか」 タクが言ってた。そう、必ずしも使えるとは限らないのだ。
「それは多分大丈夫な筈だよ、あの誘拐は恐らく転移させられてる」 指を組みながら言う。
「なんと」 でもどうやって知ったのだろう?
「周りに何もない状態で居なくなるんだ、しかも一瞬で。周りに隠れるような場所もない。ならその場から消えた。つまり転移だよ」
クロセルの瞬間移動のことだろうか?
「相手は魔族、だと思う。なら転移の魔法を使うはずだ。クロセルだってそうだったからね、噂にあった魔族は転移魔法を使えるというのはまず間違いないと判断した」
「だから感覚としてはそれで飛ぶのと大して変わらないから安心してくれ」
「魔族……転移……都市……」 タクが何やら考えている。 「……もしかしてこの都市を繋いでるのって……」
「ご明察、その通りだよ。魔族の技術を使っている」
……じゃあこのカード、魔族の物なのかな?
「まさかあの村、魔族の村だったりする……?」 つい口に出てしまったがあながち間違えではない気がする。
「可能性はありそうだね、ただ調べるに調べられないのが本当にね」はははと笑う。
「さて、本題に戻ろう。囮の件やってくれるかな?」
「はい、やります!」
「危険だけど、宜しくね。さあ、ロマへ行こう」
準備も終わってる。
すぐにロマへ飛ぶ。
……。
なんだかジメジメしてる。気分よくなはい。
「この辺雨が多いから湿気が多いからカビや武器のサビとかに気を付けてね」
雨が多いのに雨の日に誘拐なんて動きが大分制限されそうで大変そう。
「まずは消える噂のある村まで行こうか」
と思ったが、攫われるのはロマでもあると兵士が言ってた
「んーじゃあ、ここで少しやってみよう、見晴らしのいい場所があれば良いんだけど……」
ロマ、南の都市だ。地図を見てないからまだ何とも言えないがタイタンの様な形をしていそうな感じがする。
「あ、あそこなんかいいんじゃないかな」
と十字通りの角にある宿だろうか、確かに見晴らしは良さそう。
「それじゃ、作戦開始と行こう」
と言ったものの雨が降っていない。
相変わらずジメジメはしてる。洗濯物とか乾きにくそうだ。
宿の方を見てみる。部屋の窓際にソフィが居る。なんとなく手を振ってみる。振り返してくれた。
「さて、どうしたものか……」 こればっかりは自然現象だ、と途方に暮れていると。周りの人がそそくさと帰るよとか、やばいとか言っている。
何のことか分からないので道行く人に聞いてみた
「あの、何かあったんですか?」 60歳くらいのおばあさんだ。
「ん? お嬢さん旅の人? なら早く建物に入りなさい。雨が降って攫われちゃうよ」
雨……。まだ降っていないけど何かわかるのだろうか
「あ、はい。ご忠告ありがとうございます」
長年、雨と向き合ってきた感なのだろうか。天気を読むのは凄い、わたしにもできるかな?
少しすると、雲がかかり、雨が降り始める。
濡れると良くないからということで、さっき別れる時にカサというものを渡された。
なるほど、これは便利だ。
カサに当たる雨音が何とも心地いい。
見える範囲で少しふらついてみる。
何も起きない。
さてどうしたものか……。
軽く目をつぶって。
(何か、起きろ!)
何て願ってみる。目を開けるが何も変わっていない。
「ま、そうだよね」 と瞬きしたら。景色が変わった。
「っ!!?」
なに!? 何が起きたの? もしかして攫われた!?
少し冷静になって辺りを見回す。
薄暗い空間に松明がいくつも並んでいる。
それに人も何人もいるがみんな疲弊しているようだった。
みんな壁際にいて、手枷をされているみたいだ。
「ようこそ、我が城へ」 後ろから声をかけられる。
「貴方は15人目のお客様です。良い数字ですね。私は好きですよ15」
細い体、白い服、白いズボン、白い帽子、髪は長いが声は男性だ。目は糸目、見えてるのかな?
それに何というか貴族みたいな風貌と思った。
「歓迎します。どうぞこちらへ」 と妙に物腰が丁寧で力が抜ける。
大きい部屋に案内される、王室のように見える。真ん中の派手な装飾が施された椅子に彼は座る。
「料理には自信があるんですよ。どうぞお召し上がりになってください」
……。
直感だが、これは食べたらいけない奴だと思った。
「貴方は、最近人を攫っている魔族?」
眉を器用に片方だけ上げて感嘆の声を上げる。 「ほぉう、私を魔族と仰いますか。これはなかなかに興味深い……。何故そう思ったのかな?」
「それは、転移を」 一瞬で消える、そして後ろから耳元で喋られる。 「使って人攫いをしていた。かな?」
「っ!」
急いで離れようと後ろを振り返りながら距離を取るが居ない。
とすぐに後ろから腕を掴まれ関節を決められて地面に倒される。
「これは生きの良いお嬢さんだ、それになかなかに美しい……」 口の端を下で舐める。
髪を横へ撫でられ、首が露わになる。
「んー艶やかだ……。きれいな肌をしている」
「なに、何をするの!?」
「こうするんですよ」 カプッと首元を噛まれる。
「いっ!?」
なに!? 噛まれた!? なんで!?
……じゅる……じゅる……と啜っている。血を飲んでいる……?
次第に頭がボーッとして来る。貧血だろうか。
少しして解放されるが動く力が無い。
「んー、実に美味! 今までで最高に美味だ! これは良いですね良いですね」
口傍に付着した血を舐める。
「な、に……を」 頭がボーッとして上手く喋れない。
「血を、飲んだんですよ。好きなんです。特に綺麗な人の血は格別ですね」
血を飲む……魔族……?
「さて、貴方の血は少し楽しみたい。あれよりはいい所で住まわせて差し上げましょう。とその前に……」
と、料理の方は向いて何かしている。
今しかない。
と意識を集中させる。
カードは胸ポケットにあるから手に取らなくても大丈夫なことを祈って、頭に地図を浮かべる。
ロマ、そこ。ロマ。
ロマへ、飛んでっ!
……。
雨だ。
飛べた。何とか逃げれた。
ここは……攫われた場所……。
良かった、ここなら見つけてくれるはず……。
安心したからか、気が抜けて急に眠気が襲ってくる。
誰かが走ってくるが意識はそこで闇に落ちた。
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