第32話 『新たな魔族の噂』

目を覚ます。


 酷い夢でも見ていたかのようだ。


 昨日、あんな話を聞いたからだろうか。



 ……。



 頭の整理が追い付かない。何がどうなっているのだろうか。 



 村が、わたしたちの故郷であったはずのキンキ村が……。


「悪い予想はしていたけど、話を聞くと現実味を帯びるというか」


 事実を突きつけられたかのような。


「……」


 今日、またみんなと話し合おう。一人じゃもう、何もできそうにない。











 お昼、タクの部屋に集まることになった。


「昨日の話だが、疑いようがない。真実だろう」 一間空けて 「奴の言ってた人を人として扱ってないという話についてなんだが、苗字が無かっただろ? あれはそういう風に扱っていた証拠なんだ。苗字は普通の家庭ならあるはずなんだよ。もちろん俺にもあった。引っ越してきたときに気付いてたが、周りの雰囲気で察してたんだ、言っちゃダメだって」


「じゃあ、あのサカイっていうのは……」 あの時みんなで名乗った名前だ。


「あぁ、本当の名前だ。みんなと少し形式が違うのも生まれの違いだな」



「あと、村へ帰ってきた連中はみんな仕組まれてた。村長の息子とか上の立場の子供だけは実験体にはしなかったみたいだ」


「……確かに、前に帰ってきてたのは村長候補の息子だった」 


「そういうことだ、あまり言いたくはないが、あそこは無くなって当然の村だったのかもしれない。それくらいのことはしてる」



「そして、ギリアム…いやオルクスでいいか、やつの言ってたことで少し気になることがあってだな、封印は俺の計画だとかなんとか」


「まるで封印できるみたいな言い方だよね、やり方を知っている風だった」 マーくんが言う、確かに出来ないことをやるというよりそれに向けて準備をしてる。と言った風だった。




「まあ、それは知ってもどうしようもないんだけどな。ただ、何で知ってるのかと思っただけだ」


 知っちゃいけなさそうなこともまでも知ってるもんなぁ、わたし達に話して大丈夫なのかな、仮に聖騎士にでも話したらどうするつもりだったのかな? 逃げ切る自信があるのだろうか……。


 ……ホント何者なんだろう…。ただの元副団長なのだろうか……。





「一先ず、俺たちはいつも通りだ、依頼でもこなしていこう」 なんて言ってはいるが、上の空って感じだ。


 みんなそれを察してか、軽めの依頼をこなすことになった。











 それから数日、また妙な噂が流れ始める。




「なあなあ! 知ってるか? 北に続きまた妙な噂だぜ! 今度は南側だってよ! ロマ近辺の村らしいんだけど、人間が突然いなくなるんだってさ、歩いてて後ろ振り向いたら突然居なくなってるだってよ、こいつはミステリーだぜ……」 視線を上に上げ指を顎に当てる。推理でもしてるつもりなのだろうか。

「それで、消えるのは決まって雨の日なんだってさ、逆に言えば雨の日以外なら大丈夫ってことだな! 例今回はまだ討伐だのなんだのって話は来てないぜ、来たらいち早くお前らに伝えてやるぜ! なんて言ったってケルンで大活躍だったらしいし、もしかしたら今回はお声が直々にかかるかもな!」


「まあそういうことだ、南に行くときは気を付けろよな! あーばよ!」



「……」 相変わらず嵐みたいな人だ……。



「ねぇ、この話……」 レアが神妙な趣きで声を出す。恐らくみんな同じことを考えてる。



「「「「魔族……」」」」




 いろんな話を聞いた。その中で今の話だ。無視という訳にもいかない。


 手始めに、聖騎士団へ行って話をしてみよう。




 まずは、ケルンのあれが魔族と知ってるソフィと話そう。

「それの話は噂程度だけど聞いたよ、でもそれが魔族関連だって言うの?」


「うん、このタイミングで場所もそうだし、内容も不可解だから、多分って思って」


 少し考え込む 「……そうね、ちょっと団長の所へ行きましょうか」






「やあ、久しぶり、でもないか。南の例の件だってね、君達は何かと縁があるようだ」


「……?」 何の事だろうか。



「いやね、今回も調査に向かうつもりだよ、だけど最近バタバタしてたから少数精鋭で行こうと思ってる。転移を使えるようにね」

「そこで、君達にも頼もうと思ってたんだ。転移できるし信頼も出来るし」

 チラッとソフィを見ると微笑んでいた。もしかして知ってたのか。


「今回は君達とソフィ、僕、ガリアさんの計7人で行くよ」


「あの、団長も副団長も居なくなって大丈夫なんでしょうか……」


「副団長は他に三人いるからね、問題ないよ。それにみんな優秀だから」 にこやかに笑う。


「だからここに立っていられるのもいつまでかもわからないよ」 肩を竦める。


 本当に団長なのかというくらいの雰囲気だ、ガリアさんより団長感が薄い気もする。



「君たちは参加でいいかな? なんて、ここまで来たのに聞くのも変だよね」


「いえ、参加します。お願いします」



「よし決まりだ、今回は移動の時間もないし少し余裕があるよ、5日後に出発だ、お昼に受付へ来てくれ」







 5日後、他の仕事も終わらせないといけないのだろう。連日の騒ぎだったのだからしょうがない。


 でも、今回は寒いとか暑いとかなくてよかった。いつも通りで大丈夫そうだ。





 5日、その間に少し様子だけでも見に行ってみるのも悪くはないのかもしれない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る