第31.5話 『誰かの記憶』 

【某所 某日】 



 ……。



 動けない。


 腕も、足も、胴も、首も固定されている。


 私達、二人は、冒険へ出たはず。


 ……あれ、良く、思い出せない。


 後ろから、何かに、襲われたような。



 そうだ、一緒に居たはずの__は何処?



 首は少し捻る位は出来そうだ。何とか動かして状況を確かめる。


 横に、いる。良かった。



 ここは、暗い……部屋……だろうか?


 暗い部屋に、閉じ込められている?


 重々しい、扉に閉ざされている、ようだ。



 誰かが入ってきた。白い服。顔は何か被っていて良く見えない。



「被検体二名、男と女。二人ともそこそこいい素材だ」 



 何か喋っている。聞きなれない言葉で理解ができない。




 __に何かを取り付け始めた。何だろう。拘束具の様なものを手首、足首、首に取り付ける。


 するとそれがボワッと青白く光り出す。



 しばらくすると__が震え出した。震え出すというか、悶えているような。


 「うっ……痛っアァァァ……!?……っ」


 絞り出すかのように声を発する。



 「……っ!!……!?」



 __を呼ぼうとしたが声が出ない。


 頭の理解を超えている恐怖で声が出てこなかった。



 なんだこれ、なんだこれ……!?



 すごく苦しそうに叫ぶ、ひたすら、呻く。


 耳も防ぐことも出来ずに、ただ見ていることしかできない。



「……」



 __の動きがだんだん激しくなってきてる。


 もう人の動きをしてるようには見えない。



「……っ……!……ァ…………」



 声も、聞こえなくなってきた。出せないくらい苦しいのか。


「がっ……ごっぷ……はあっ……」


 なにか……口から、いや目からも耳から溢れてきてる。


 血……。





「一旦、魔力を抜け」


 白い服の人が言った。




「悪くない、なかなかに良い」

 ニタァと笑う。あんな笑い方、見たことない。悍ましい。不気味。


 目が、イッてるというのか。人の出来る笑顔じゃない。




「よし、続けろ」




 まだ、続けるの……?



「ッ……!ギィア……!……」




 いやいやいやいやいやいやいやいやっ!!! もうやめてっ! もう聞きたくないあんな苦しそうな声、無理だ、もう無理無理無理無理無理無理無理無理無理っ! 頭がおかしくなる。耳がおかしくなる。心がおかしくなる。やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて……









 ……。




 何度、繰り返されただろう。


 分からない。


 耳に、叫び声と呻き声がこびり付いて離れない。


 静かになるとあの叫び声が聞こえてくるくらいに。



 ……。



 心が、壊れた。のかもしれない。


 何も、思わなくなった。思えなくなった。



 散々痛めつけられた、__は、さっき別室へ連れていかれた。あれ以上に何かするというのか。




 すこししてまた、白服が来た。


「次、多めに」


 多めに、何を。


 __と同じように何かを取り付けられる。



 次は、わたしなのか。



 不思議と冷静だった。もう死にたいとすら思っていたからか。この意味の分からないところから。


 青白く光り始める。



 何だか、熱が伝わってくるようだ。熱いくらいだ。


 熱が肘くらいまで広がってきた頃だろうか、身体が痛み始めた。


 それを合図に体のいたるところが軋み始めた。


「うっ……。ァ……」


 痛い、痛い痛いっ! な、にこれ!?


 だんだんと痛みは広がっていく


 「いっ……アァア……っ」



 すっと腕の力が抜けたのを境に痛みが一気に押し寄せてきた。




「いっあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 腕が、脚が、胴体が、指が、何処も彼処も千切られたかのような痛みが走る。


 自分の声かも分からない、鼓膜が破けたんじゃないか、頭に響く。頭がグワングワンする


 全身の痛みは増すばかり、訳が分からない何も考えられない、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!



 意識が、もうあるんだかないんだか。


 飛んでも、痛くて戻される。こんなの。いやだ。殺して、死にたい、辛い、痛い。死にたい死にたい。



「魔力を抜け」




 痛みが引いていく


「はっ……は……っ」 息をしてなかった。




「あれより、良いな。もう少し多くしてみるか」




 ……。



「―――――」 


 ――殺して




 そう言ったが、声は出なかった。


 だが涙は溢れてくる。




 もう……いやだよ……。なんでこんなことに……。


 死にたい……。


 殺してよ……。


 お願いだから……。





 また体が痛み出す。



「ぁ……!!!!!」



 声も発っせなくなってきた。



「っっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」



 さっきよりも酷い。血が至る所から出てくるのが分かる。



「っ!!!!!!!!!!!!!」


 体の中心が熱くなってきている。痛みで既に熱いのにさらに火傷しそうな程だ。ブチブチ何かが切れるような音も聞こえる。




 ――そこで私の意識は無くなった。






 ―――――――――――――――――――






【白服の男】



 (なかなか、いい素材だ)


 もう顔もぐしゃぐしゃで涎も鼻水も垂れ流しだ。酷い顔をしている。


 もう少し流す魔力を多くしてみる。


 研究者の魂というのか、可能性が広がっているともっともっと追求したくなる。



 私はもっと先へ行きたい。



 口、耳、鼻、目から血が止めどなく出てきてる。もう動いてない声も出ていない。



 この辺か?いや、私はこの子に賭けてみるっ!




 そのまま流し続けると、急に体がビクッとして跳ね上がる。


 眼窩から眼球が飛び出しそうだ。目も真っ赤になってる。



「―――――――――――――!」 声というか音のようなものを発して、胴体が膨れ上がる。




 ドッバ!!!!!




 と破裂した。


 胸から上と、腰から下を除き、辺りに飛び散る。



「……」


 やってしまった。過去最高の出来だったと言えただろう。それ故に調子に乗りすぎてしまった。




「やり方を変える必要がありそうだ」

 顔に付いた血痕を拭いながら言う。




 ……そうだ、戦士、狩人、魔術師をきちっと学ばせた人間を使ってみたい。



 今のより強靭な肉体と精神の状態で実験ができるはずだ。



 学ばせるのにも費用には困らない。



「クックックっ……」 笑いが止まらない。名案を思い付いたのだ、あとで打診してみよう。







 白服は血まみれの部屋を後にする。




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