第26話 『大規模作戦 Ⅲ 北方都市ケルン 』
「後ろから奴が! クロセルが来てる!! 急いで走らせて!!! 早く!!!」
この言葉で隊列が一気に緊張感に包まれる。移動速度も跳ね上がる。
後ろから来てるあいつ、クロセルというのか。さっきまで馬車と同じ速さで向かってきてたが此方が移動速度を上げたのに合わせて、速度を上げてる。それでも同じ速度だ。
何をしているのだろう…?
「このままケルンまで連れていく訳にはいかない、私が引き付けるっ!」 ソフィが前の方に叫ぶ。
「待って、ソフィ。わたしも行くよ、考えがある」
少し考えてから頷く。「分かった。私から離れないでね」
周りにいる三人に軽く伝える。
「そういう訳だから先に行ってて、わたしにはこのカードがある。引き付けたらこれでケルンへ行くから」
「そういうことだろうと思ったよ、言ったってどうせ聞かないし、気を付けろよ」
「ケルンで待ってるから」
「ソフィさんも気を付けてください!」
「分かった、なるべく早く行くよ」
二人で馬車から飛び降りる。なるべく雪の多い所だ。クッションになるだろう。
受け身を取って急いで体勢を立て直す。
クロセルは勢いを緩め、数十m離れた辺りで止まってこちらを見ている。
黒いローブのようなものを着てる。それにゆらゆらと動いている。あれは浮いてるのだろうか?顔がなんとなくわかる。長めの前髪で目は見えないが女性の様な顔立ちをしていて口角がつり上がっている。肌も病的に真っ白だ。それに妙な気配を漂わせてる。
「どうするの……」
「情報は集めてたけど少ないから何とも言えないけど、すぐに殺されるということは無いと思う。今もほら何かを見定めている風でしょ?」
確かにそうだ、馬車の時も追いつこうと思えば追いつけたのに、一定距離で保ってた。まるで遊んでいるかのように…。
「ここからケルンは近いんだよね?」
「すぐ着くと思うわ、5分もしたら離脱して大丈夫だと思う。」
5分……この得体のしれない奴と……大丈夫だろうか……。
「倒すんじゃなくて、逃げて。まだ寒さに慣れてない上に移動の疲れもある。それに二人しかいないからどちらかが怪我でもしたらそれでアウトと思って」
何時になく真剣な眼差しだ、すぐさま頷く。
クロセルと向き合う。幸いにも雪が降ってないので視界は良好。
さてどうしようかと考えて、瞬きをした瞬間に姿が消えた。
「っ!?」
ビックリしたが、こういう時は後ろに居ることが多い。姿勢を低くして横へ飛ぶ。ソフィも同じく横へ回避行動を取る。するとさっきまで立っていた場所に氷の槍が数本刺さった。刺さった勢いで下の雪が舞う。追撃を警戒するが、あの妙な気配は既に無くなっていた。
「居なく……なった……?」 何が目的なのだろう…。
あれ、ソフィの姿が見えない。辺りを見回すと剣が雪に埋もれていた。
「っ!」 慌てて駆け出す。剣の辺りを掘り返すと手が出てきた。雪を退かす。
ソフィだ、気を失ってるだけみたい。良かった。と一安心。でも少し体が冷たい。急いで暖めなければ……。
馬車はもう着いたかとも思ったけど、ソフィが心配なので早々にケルンへ飛ぶことにした。
飛んだ先は南門の近くだ。先に着いていればそこらに居るだろうと思ったからだ。
目を開けると街並みのなかに立っていた。多分着いた。周りには聖騎士みたいな人はいない。まだ来てないのか先に行ったのか。
周りの人に怪訝な視線を向けられるがそんなの気にしてる場合ではない。一番近い宿の位置を聞き、そこへ駆け込む。部屋に入り、ソフィをベッドに寝かせ暖を取る。一先ずは大丈夫だろう。
でも心配だったので、温まるまで一緒の毛布へ包まる。
やっぱり体が冷たい、あたく暖めなければとぎゅっと抱き付く。
5分くらいだろうか、ソフィの体も温まり始めたので毛布から出る。
こっちはもう大丈夫だろう。あとは先に行ったみんなが心配だ。
部屋を出て南門へ向かう。辺りを見る限りまだ来てないのかな…?
門番へ話を聞いてみる。
「ん? いや来てないぞ? 少し前からかなり吹雪初めてて、立往生してるんじゃないかな?」
門の外を見る窓枠を覗いてみたが白くて何も見えない。こんな中動いたら遭難するに違いない。予想より酷い、助けにも行けないどうしたものか…。
わたしにどうこうできる問題ではないのでとりあえずケルンについて知っておこうと思う、近くに見取り図があるはずなので見に行く。
なんとなく戦いに適した形だなと思った。北側は殆ど海だし、攻め込まれるとしても正面からだろう。
街というより全体が一つの要塞になっているというか、そんな印象がある。
建物はエンデに近い雰囲気がある気がする。モダンテイストというのだろうか?
人は少ない、流石に寒いから家にいるのだろう。
普段、これくらいの時期だと悪くても肌寒いくらいだという、変なやつが現れてからすごく寒くなって、体調も崩してる人が続出してるみたい、幸いまだ街中では死人はいないという話。
クロセルの目的が分からない。話が通じれば話してみるのはありだと思うんだけど…。
指輪に反応があった。『あ、セチア! 今どこ!?』
眠り姫のお目覚めだ、宿へ向かおう。
寝ている間にあったことを話す。
「あの時、氷の槍を躱した後に、後ろから蹴飛ばされて気を失ってたみたい。ちょっと背中も痛い」
「今は、あっちのが心配よね」 部屋の窓から南の空へ目線を向ける。
「わたしなら……」 そうだ、このカードがある。
「わたしなら、他の人に比べて遭難することは無いから探しに行けるけど……どうかな」
「……危ないけど、何もしないよりはいいかな?危なくなったら戻って来れる訳だし、でも体は大丈夫? まだ使えそうなの?」
「大した距離じゃないからまだ数回は使えると思う」
「ん、分かった。けど予想より外が酷い状態みたいだから防寒装備も整えましょ」
街へ出て装備を整える。厚手のグローブとマフラーにブーツ、耳当てを新調。食べると体が温まるという生姜玉といくつか買って門へ向かう。その途中クロセルについてソフィに話を聞いた。
クロセル
氷の悪魔という意味でつけられたらしい。なんでも悪魔みたいに人を殺すとか。人を氷漬けにして集めてるとか、氷の槍で串刺しにとか、高笑いしながら残虐を楽しんでるとか。それに気まぐれで、ばったり会っても何もされないで生きて帰ってきた者も居ればいまだに消息が掴めない者もいる。
…何か聞いた話よりだいぶ酷い。あの受付、やっぱり適当な事言ってたのではないだろうか……。
エンデに帰ったら文句の一つでも言ってやろう。
門へ着いて開けてくれというと門番に止められたが、無理言って開けてもらった。
「すいません、ありがとうございます」
「俺は止めたからな! 姉ちゃんたちよ、死んでも知らんからな! 無事に帰って来いよ!!」
外へ踏み出す。何も見えない……。
これ、普通なら生きて戻る方が難しいのでは……。
この状況で離れ離れになるのが一番良くない、手を繋いで先へ進むことになった。
もご、もご、と足跡を付けながら先の見えない道を行く。
この吹雪の中、みんなは無事なのだろうか…。
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