第24話 『大規模作戦 Ⅰ 』
あのオーク依頼は少し前からあったらしく、討伐に向かう賞金稼ぎが何人かいたが返り討ちに合ってて、こっち側じゃどうしようもないから聖騎士に直接お願いに行こうかどうか迷っていたそうで、その手間が省けたぜ!と感謝された。
それだけじゃなく、商人や旅人からも感謝の言葉が届いていると聞いて嬉しかった。
依頼もこなせて人の為にもなって良い事しかない。
この調子でたまに危なくなりながらもなんとか討伐やら素材集めをしていく。
依頼をこなすのに慣れてきて、10日程経った日、受付から噂混じりの話を聞いた。
「あのな、なんかケルンの方でヤバい奴が度々目撃されてるらしいんだ。そいつはぱっと見人なんだけど宙に浮いてたり消えたりするんだって、それにそいつが使い魔を出したり、吹雪を起こすって専らの噂でよ…調査に向かわせた奴らからも報告もないし消息も途絶えてるんだってよ、こええこええ」肩をさすってワザとらしく体を震わせる。
「それで聖騎士団が、近々ケルンに演習へ行く予定が合ってその時に出来れば討伐したいって言っててよ、お前さん方、それに参加する気はないか?」
何でも腕の立って信用が置けそうな奴らがいたら声かけてみてくれと頼まれたそうだ。その枠にわたし達が入っているのは嬉しい限りではあるが、この人適当に声をかけてるんじゃないかなとか思ったりもする。何かと適当だし。
「ちなみにここを出発するのは2日後だぜ、あそこまで行くのに馬車で4日はかかる、いやもうちょっとかかるか。だからきちんと準備しておけよな! それと受けるならこれにサインよろしく!」
なんか結構やばそうなやつだ。
わたしらで大丈夫なのだろうかと思うけど、サインしちゃったし……。
でも騎士団かぁ……ソフィも行くのだろうか。
「あの時に、慎重に選ぶとか言ってたけどまた流れで受諾したな」 タクがにやにやしながら突っ込む。
「うぅぅ…まことにもうしわけありません…かえすことばもございません」
「にしても、ケルン……。北の都市だよね」
「うん。そうだね、ガラス細工とか有名だった気がするなぁ……」 マーくんは顎に手を当てて考えながら答える。
「北は寒いからな。暖を取ることが多いしその派生でガラス加工に発展したんだろう」 憶測で話してるのだろうけどそれらしい考えで納得する。
「そうだ、寒いなら防寒具とか買った方が良いよね? 明日でいいかな?」寒いで思い出す。わたし達割と薄着だからね。
「それに足の出てる所とか絶対寒いよ。タイツとか買わなきゃだね」 セチアちゃんは特に。と付け足す。
「ん? いやいや、今の時期、そこまで寒くはないと思うぞ?」
「でも先の話だと吹雪いているとか言ってましたよ? 防寒対策はして損はないんじゃないかなと」
そうだこんな時はこれの出番ではないか?
黒いカードを取り出して空へ掲げる。
「それじゃわたし、確認しに行ってきます!」
その手があったか!とみんなで喜ぶ。
城へ行くとガリアさんが居たので頼んでみる。
「お前らなぁ、そんな使い方してるやつ初めてだぞ……。まあ勝手に無茶されても困るし案内するけどさ……」
何だかんだ言いながら案内してくれる。
城の地下にある研究室みたいな所の一室に通される。
石造りの薄暗い部屋だ。広さは結構ある。壁にランプがいくつもぶら下がっていて、壁の四か所に魔法陣のようなものが書いてある。
これが…転移所なのか…。
早速、ケルン方面へ飛ぶ魔法陣の前へ行く。やり方は前に飛んだのと似ているがカードは手に持たないで魔法陣の真ん中に手をかざす。
ケルン…ケルン……上の方……と復唱して目を開けると前に渦のようなもやもやが出来ていた。
「これに入ればいいんですか?」
「あぁ、ちょっと気持ち悪いかもしれないが前ほどじゃないはずだから大丈夫だ!」 それは洒落になりませんと苦笑いをする。
「それじゃ行ってきます」
ぬぅと体が入っていく。体にまとわりつく感じ。だけどすぐに終わった。
同じような部屋辺りには誰もいない。それに…
「ざぶい……」 室内でこれだと外はかなり寒いぞ…誰だ寒くないって言ったのは!
多分ケルンに着いただろうけど確認のために一応外へ声をかけてみると返事があった。
「えっと、ケルンですけど……?」 と中へ白衣をまとった研究者らしき人が入ってくる。
「ありがとうございます」
良かったケルンだ。確認は終わった。帰ろう。
「それではすいません。帰りますね」
同じようにして帰る。
……戻って来て、開口一番に 「寒かったです!! すごく!!」
「じゃ、決まりだね。明日にでも買いに行きましょうか」
ということで明日を準備と休憩に充てることとなり、今日は時間も少なかったので軽めの依頼をこなして早めに休む。
次の日、どこへ買いに行こうかと話していると
「エルの所行ってみない?」 レアが冗談交じりに言う。
「今度は買い物へ行くのにアレ使うのか、結構真面目に没収されそうだな……」
「聞くだけ聞いてみる? 忙しいだろうけど、どうかな?」
「こんな使い方ばかりしてた『俺を通さなくていいから勝手に使ってくれ』とか言われそう」
「俺を通さないで使って大丈夫だぞ?」 ちょっと違った。
「そもそもそれ持ってる時点で特別なんだ。昨日は場所が分からないだろうと思って案内をしただけでな。不思議に思うやつはいるだろうけどそれだけだ。前にも言っただろう?どーんと構えてればいいんだよ。別に疚しいことはないんだからな」
「だってさ、使えるみたいだね」
「よし、さっそく行きましょ!」
タイタン……久しぶりのの様な気がするけどそこまででもないような気もする。
モナカとおっちゃんにエル、それにマルフさんもいたら挨拶しよう……あ、おばあさんの約束。すっかり忘れてしまっていた……。帰ったら聞いてみよう。
……。
目を開けるともやもやが出ている。
「ささ、みんな入っておくれ」 三人とも入ったのを確認して最後に入る。
もやもやから抜けると雰囲気が変わっていた。着いたのかな?
ふと周りを見てみるとみんながしかめっ面をしている。
「ちょっと気持ち悪い……かも」「なん、だこれは」「気分良くはないねぇ」
「そんなに酷かっただろうか?」 うーん、何かまとわりつくような感じはあったけどそこまでじゃ無かった気がするけどなぁ…。
「恐らく他人の魔力に干渉したからだろう。この穴はお前の魔力を元に作ってるだろうし」 なるほど。
「まあいい、買いに行くぞ」
エルの店へ向かおうとしたが、出入り口の関係でモナカの店の方が近いことに気付きまずそちらへ行く。
「お久しぶりです。モナカー? おっちゃんー? いますか?」
店の中は静かだ。また寝ているのだろう。カウンターを覗く。やっぱりいた。
「……すぅ……ん……」
前と同じように起してみよう。
「こ ん に ち は!」
「はひっ! 起きてましたよ!!」 飛び起きてからこちらを見て固まる。
「久しぶりかな? また来たよ」
「……ゼヂアだぁぁぁそれにみんなもぁぁ」 だばーと涙を流して抱き付きてくる。別れたときもこんな感じに泣いていたなぁ。
「苦しい苦しいって落ち着いて」 嬉しいのは分かるけど首が締まって死にそうになる。
「はっすいません、つい……」 すいませんと小さくなる。
「大丈夫だよ、おっちゃんいる?」
「居ます! 少々お待ちください!」
「よう久しぶりだな、良い面構えになってきたじゃねぇか」 グハハと笑う、久しぶりに聞いた。
「実は……」
名前の件を話した。改めて自己紹介もした。
「大変苦労をしてきてたのですね……!すいません私もちゃんと名乗ってなくて。モナカ・サイナです」
「そうだったな俺も名前すら口にしてなかったわ、グハハハ。俺はゴル・ダーマンだ。よろしくな」
「よろしくです。あとこれ一応武器を見てもらえますか?問題なさそうなら申し訳ないのですが、すぐに行きたいので……」
「いや、待って1時間だけでいい見せろ! 見せて! 手入れもしてやる! な! な!」
「は、はい」 押しが強い。圧がすごい。承諾してしまう。まあ、1時間なら防寒具をみて買ってればすぐに来るだろう。
「すいませんがお願いします」 武器を預けてエルの店へ向かう。
エルの店は相変わらずだが内容が少し変わっている。その時に合わせて変えているのだろう。大変そうだ。
「こんにちはー。エルさんお久しぶりです」
「あら、あなたたち来てたのね。お久しぶり」
普通に店に居た。
「ちょっとあなた、今変なこと思わなかった?」
「いえ、何でもないです思ってないです」 鋭すぎではないだろうか……。
「あの……」
名前の件を伝える。
「そうだったのね、アタシはそれで問題なかったのだけど」 まあ訳ありだろうし……。
「いえ、此方の気が済まなかっただけなのでお気になさらず!」
「そう、分かったわ。ありがとうね。それで今回は何の用かしら?」
「えっと、防寒具が欲しくて、雪も降ってるかもしれません。良い感じの有ったりします?」
ふふんと得意げな顔になる。「アタシを誰だと思ってるのよ、ちょっと待ってなさい」
少しして戻ってくる。
「あなたたちは狩人でしょう。それに雪があるだろうし白ベースの細身のコートにしたわ。女性らしさを忘れずにね。それとこれタイツ。白だとちょっとアレだから黒にしておいたわ目立っちゃうかもしれないわね。でもそこは根性よ根性」
「メガネ君は紺色ベースのシンプルなコート、身体に合って動きやすいはずよ?」
「そこの色男は栗色のトレンチコートね。これも動きやすいから大丈夫よ」
大きさも合ってるし問題ないしで購入することにした。
「暖かいしこれで大丈夫だけどゴツゴツした防具とか着にくくなるから気を付けるのよ」
それじゃ気を付けてね。と買い物は終わってしまった。
思ったより早く終わってしまったため、鍛冶屋に戻る。
お茶をご馳走になりつつ談笑してると「何サボってるんだ、仕事しろ」 とモナカは叱られてしまう。
それから小1時間。武器の手入れは終わった。
おっちゃんにマルフさんのことを聞いてみたが、いつも何処かへ転々としているからどこにいるかは分からないとのことだ。
それから二人にお別れをしてエンデへ戻る。やはりモナカは大泣きしていたがまた来ると言ったら少し泣き止んでくれた。
それから各自、明日に備えて休むなり何なりしてくれと、そこで解散となった。
わたしはそのまま城に残り、おばあさんの孫について聞いてみることにしたがすぐに所在はつかめた。
二人とも居ないそうだ。正確にはハイレンさんは、1年ほど前に遠征へ行った時、一人のところを盗賊に襲われて亡くなってしまったそうだ。エルドラさんはそのあとからこの聖騎士団を去ったそうだ。ショックだったのだろう。今はどうなっているか分からないという。
うーん。あのおばあさんに何と伝えればいいのか……。
とりあえず生きてるであろうエルドラさんに会うのが先決かなと、まあ今日明日できる事では無いので後回しにする。
悩んでても仕方ないので明日のために休むことにしよう。
初めての大規模討伐作戦だ。頑張ろう。
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