第20話 『良いことあるかもしれないカード』
城に戻り受付へ向かう
「あー、んん。副団長のガリア君へ取り次いでもらえないかね?」カードを見せ、声色を変えて話す。
受付の人にうわぁ、みたいな顔された気がする。
気のせいだ気のせい。
「えっと、ガリア副団長なら外の闘技場に居るかと思います」 外出て右ですと軽く説明される。
「凄くアホに見えたぞ」「うん」 容赦なく入る突込み。
「いや、ドーンと構えていれば良いって言われたんだもん!」
「多分、言ったのと捉えてるのと違うんじゃないかな……」はははとマーくんが笑う。
外にあった闘技場は結構大きい。城の敷地自体がかなり大きいのだからこんなものだろうか?
中に入ると何かの戦闘訓練の様な事をしていた。
あれはなんだろう……?
白くのっぺりとした細い人型の何か。手足の先が鋭い。あれで立ってるのは凄いバランス力だ。
「あれは、もしかして人形兵……?」
はて、人形兵とは一体…と思っていると後ろに人の気配を感じる。
「そう、人形兵よ、良く分かったわね。流石、聖騎士試験合格者というべきかしら」
何だか偉そうに喋ってるけど、この綺麗な声は…。
「ソフィ?」
「あ、ばれちゃった? ふふっ、見慣れた後ろ姿があったから来てみたの」 キリッとした雰囲気から急に柔らかくなる。凄いな…。
「ねぇソフィ、人形兵って?」
「えっとね、数十年前から聖騎士団で使っている凄い兵器よ、魔力で動いていて、一体で団長クラスの実力が出せるの、それに自立してて魔力の持ち主の感情が反映されるし、一度流し込めば数時間は動くのよ」
「へぇ凄いですね……でも自立してるのなら私達にも危害を加えたりとかは大丈夫なの?」 レアが疑問をぶつける。
「そこら辺はうちの技術班が上手く調節してるから大丈夫なんだって」 詳しくは分からないのと肩を竦めてみせる。
実際、人形兵はかなり早い、動きについていける気がしない。
少しすると終わって、近くで見せてもらえることになった。
人形兵は大人しく座っている。こう見ると少し可愛いかもしれない。
顔を見てみる。目と口が無く、鼻が少し尖ってるくらいだった。じっと見てると不安になってくるので目をそらした。
その直後、人形兵に見られたような、気がした。
なんだ……?
ぬめっとしたようなどろりとしたような……?
そう、まるで血の様な……。
「? セチアどうしたの?」
「いえ、動きとかすごく早かったのに座ってると可愛いかもって思ってさ」事実半分嘘半分。
「それはちょっとわかるかも、でもこの人形兵が戦ってる所を見ると恐ろしさすら感じるときもあるから、そんな考え吹っ飛んじゃうよ、この前だってやけに巨大化した猪が暴れたときに一人で倒しちゃって、その時に人形兵に付いた返り血がホント恐ろしくて恐ろしくて……」
―――極悪の殺人鬼のように見えてしまった。
という。
返り血。それのせいだろうか…?
三人とソフィが話していると急にソフィがこちらを向いて話す。
「そうだ、なんでまだここに?さっき城を出たと思ったのだけど……」
「あっ」
忘れてた。
「えっと、ガリアさんに用事があってここに来たの」 レアのフォロー、ありがとう。
「副団長ならさっき休憩室へ行くって言ってたよ、そこまで送るね」
休憩室へ向かおうとして出入り口へ行くとばったりガリアさんと会う。
「何だお前ら? 聖騎士団に入りたくなったのか?」
「いいえ、実は……」 黒いカードを取り出しながら経緯を教える。
「ふむ、なるほど、なら一度飛んでみると良い」 ですよねー。
「あと、これ貰った時に我々のとは違うって言ってたじゃないですか? あれってどういうことなんですか?」 聞きたかったもう一つの疑問。
「ん? それは、知らん」
「えぇ……」
「調べ通したが分からなかったのだ、だから頭を悩ませた結果、持ち主に返したのだよ」
「そ、そうだったんですか…」
とりあえずは普通に許可書として扱えば問題は無いということだろう。
「……ねぇちょっと見せてもらっていい?」 ソフィが言うので渡す。
「……」 薄ぼんやりカードが光る。
「……これ、不思議な魔力の流れを感じる…ゲートに近い……?こんなの…いや前に何処かで……?」
「……」 光が弱くなっていく。
「貸してくれてありがとう。私ね、魔力の流れが人よりちょっと見えやすいのよ」 1/4人魚だからかしらねと小声でつぶやく。
「それでだけどこれ、試しにひとついいかしら?」
なにかを思いついたようだ。
「いいけど、何をすれば?」
「えっとセチアはこれ持ってて、持ち主にしか使えないから。あとの人はセチアの一部に触れ…ゴメン、男の子は腕掴んでて」
ソフィが右肩。レアが右手。タクが左肩。マーくんが肘の辺り。ガリアさんが左手に触る。
……何故かガリアさんも一緒だ。
「それじゃ言う通りにして。頭の中にカーランド大陸を浮かべるの…そして南、ずっと南。大陸の端をイメージしてその近くに魔力が多そうなところが見えるんじゃないかしら」
「……うん。何かぼんやり光ってるような気がする……端っこだよ」
「そう、そこへ行きたいと強く願って」
―――南の端っこ、あそこは何処だろう。行ってみたい。行きたいっ!―――。
何だか熱い気がする。それに気怠い。疲れてる…。
なんでだ……?
ゆっくりと目を開けてみる。
そこには驚くべき光景が広がっていた。
どこまで果てしなく続く青い水。白波が一定間隔に起っている。塩のような香りがする。
ここは……もしかして……。
海……?
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