第18.5話 『今の僕にできる事』
時は遡り最終試験
試験の順番は僕が3番目だった。タクミ君は最後みたいだ。タクミ君は最後だから心配ないだろう。やってくれる。
問題は僕だ。
どうにも普通にやって勝てる気がしない。
さてどうしたものか……。
今の相手のように、熟練の戦士には変化を付けるのは大事だ。慣れた動きでやるとすぐに見抜かれてしまう。なら、あまり使って無かったこいつの出番だろう。と腰に手を当てる。
念のために買ったナイフだ。
少しは練習したけど対人では初めてだからこれは使えそうな気はする。
だけどそれをどこでどう使うかが問題なんだよねぇ……。
いっそのことセチアちゃんやレアちゃんみたいに不意打ちしてみようか。それなら行ける気がする……?
僕は魔術師だから、それを囮に使ってナイフを本命にすればいいんだ。
いつの間にか僕の番が来ていたようだ、騎士の前に立って礼をして構える。
対峙すると分かる。強いな…。
よし、一発勝負……!
杖を前に出し呪文を唱える。『フレイム』
威力を落として大きめにする。それを相手の手前に落として爆発させる。視界が悪くなる。もう一発『フレイム』今度は相手の体を狙う。撃った直後に杖を槍のようにして投げつける。
そして横から回り込んで懐へ潜り込む。『フレイム』が弾かれ、杖も弾かれた直後、剣を持っている腕を掴み、足をかけて腕を引く。重心を崩され倒れこむ騎士の首元にナイフを当てる。少しして騎士は剣を離した。
僕の勝ちだ。
戻るとタクミ君に叩かれる。
「杖投げ捨てる魔術師がどこにいるんだよ!」御尤もな事を言われてしまう。
「いやぁナイフの方が一本取りやすいかなって思ったからセチアちゃんたちに習ってみたんだけど」
「そりゃ一本取るのが目標だが、魔術師としてどうなんだよ」 頭をガシガシ掻いて呆れている。
「たくみんはどう?何とかなりそう?」勢い余って「く」が抜けてしまった。まああだ名みたいでいいか
「たくみんって誰だよ、まあなんとかならなくもなくなくないかな」むむむと唸っている。
「どっちなのそれ」 笑ってしまう。この調子なら大丈夫だろう。
それから次の人が始まる。
タクミ君は集中して観察している。こういう時のタクミ君は凄い。なんでも予測して動きを見切ってしまう。『万能だが完全じゃない』これがタクミの口癖のように言っていた。完全なんて無いのは重々承知だろう。だけと近づくことは出来る。それを目指していると言ってた。
万能といってもタクミは器用ではないが物凄い努力家だ、努力して何でもできるようになってきたのだ。ひたすら努力できるタクミ君を僕は尊敬している。憧れてもいる。
少ししてタクミ君の番が来た。
礼をして構える。いつも使っているハンマーだ。
攻める。受けるを繰り返す。イメージとの誤差を調節しているのだろう。少しすると一気に攻めに転じる。騎士は攻撃から逃れようと離れる。その動きを待っていたかのように同じ方向へ動く。さらに付いていく。リズムを崩した騎士に足払い、騎士を倒す。そのまま武器を踏みつけ相手の動きを止める。
勝利だ。
「流石だね」と拳をぶつける。
「最後じゃなかったら危なかったな」
「今度ナイフの練習しようよ、ひとつあると何かと便利だよ」
「後ろを取るのは性に合わん」
「いや、念のためだよ。それに後ろ取らないといけない訳じゃないし」
「あぁそうか、そうだよな」
軽く話をしてると全試験が終わったらしい。
男性の合格者は僕らと他に四人。計六人だ。
セチアちゃんとレアちゃんも合格したみたいだ、流石だね。
それからお昼過ぎガリア副団長に呼び出される。
「やあ、ハイマー君、合格おめでとう。早速本題に入らせてもらうが、君には聖騎士団に入ってもらいたいと思っている。君ほどの才能と能力に溢れた人材はそういない。伸びしろはまだあるだろう。それに団長クラスにもなれるだろう」 凄い褒めようだ、買いかぶりすぎだよ。
「君には期待をしている」
また、期待している……か……。
僕は、昔から器用に物事をこなせた。世渡り上手ともいわれた。才能の塊ともいわれた。周りからも疎まれた。周りからも期待された。期待されるのが嫌になってくる。嫌で嫌でしょうがなくなってくる。
大人もみんな、お前なら出来る。未来に期待、反吐が出るほど聞いた。言われた。聞き飽きた。
同じような期待をいくつもいくつも受け、周りの目も気になり、人付き合いが面倒くさくなってきた。独りが気楽とも思ったこともある。友達なんていらないとも思った、
―――あの三人を除いては―――。
セチアちゃんはいつも自由に楽しそうだ。たまに突拍子もないことを言い出す。
僕にはできないことだ。
レアちゃんははっきりと物事を言える。それに表情豊かだ。
僕にはできないことだ。
タクミ君は物凄く努力家だ、どこまでも突き詰める。
僕にはできないことだ。
僕にできないことをみんな持っている。
いつも一緒に居てくれた。才能あるからとか、期待するとか、嫉妬してるとか、そんなことは言わなかった。
例え、言われても嫌な気持ちはしなかった。裏が無いから。友達として、親友として、家族として一緒に居てくれた。
そんな三人が大切で、大好きなんだ。
「で、どうかね?」 ガリア副団長が見ている。
「申し出ありがとうございます。とても良い話ですが、僕はあの三人に付いていきます。何があろうとも」
少し間をおいてから軽くため息をする。 「まあ、そうだよな、分かってはいたが一応聞いてみたんだ。悪かったな」
「いえ」
「でも、能力は本物だ、気持ちが変わったらいつでも歓迎する」
「ありがとうございます」 この人も期待してくる。が何だか嫌な気持ちはしない。純粋に思ったことを言っただけなのだろう。
失礼しますと部屋を後にする。
みんなのやりたいこと。
これを支えるのが今の僕のできる事だ。
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