第09話 『都市での長い一日(後編)』
服屋を出て急いで、市場へ向かう。
お昼半ばくらいに市場へ着くと先ほどより人通りが増えている。
「あ、遅かったじゃないか。来ないかとと思ったよ」にこやかに笑うマルフさんの横に女性が立っている。30歳前後だろうか。艶のある長い黒髪が綺麗な人だ。
「彼女はユカタの着付けしてくれる人、綺麗に着せてくれるんだよ。僕の売り場のほぼ真後ろにある服屋でで働いているんだ。」 よろしゅうと綺麗なお辞儀をする。
「ささ、早く着替えてきて、結構時間かかるからね。あとは彼女に任せますので」 それだけ言ったら、忙しそうにあれやこれやと動き回り始める。他の売り場もバタバタしている。
…みんな忙しそうだ、さっさと着替えに行こう。
裏の服屋は浴衣専門店のようだった。浴衣だけならエルのお店より種類が多い。
中に入ると店員も浴衣を着ていた。きちんと整えられていて、寝巻に着たあれとは比べ物にならないくらい綺麗だ。
「では、こちらへ」 と着付け室へ案内される。
色々触られたり、後ろ向いてとか、腕上げてとか言われる。自分で服を着ないというのは不思議な感覚がする。お姫様にでもなった気分だ。
それから着替え終わり着付け室を出る。
わたしの浴衣は薄水色地で鮮やかな牡丹という花で彩られている。帯は薄紫、頭には小さな簪を、木で作られた下駄という履物。髪型は時間の関係でサイドからポニー変わっただけだ。
お化粧も少しされたようだ。普段は殆どしないから何だかむず痒い。
もう一度、姿見を見てみる。
……何だか私じゃないみたいだ。
首をひねって背中を見たり、くるっと一回転してみたり、袖をフリフリしてみたり。
自然と顔がにやけてしまう。
カランカランと下駄の音が響く。
「お姉ちゃん! どう? どう?」 いつもよりはしゃいでるレア
レアの浴衣は白地に紫、濃いピンク、桜色の花が散りばめられている。帯が浅葱色だ。頭には同じく小さな簪、あとは下駄。髪型は片方にお下げでまとめてる。
「いつも可愛いけどいつもより可愛い! その色も良い! 可愛い!」
「可愛い可愛い連呼しないでよっ、恥ずかしいじゃない」 顔が真っ赤だ、でも嬉しそう。
「おっとと、そろそろ時間だよ、早く行こう!」
店員にお礼を言って、店を早々と出る。早足で市場へ向かい、細い路地から抜ける。がやがやと賑やかな声が聞こえ始め、一気に視界が開ける。
賑やかというか、なんか、ちょっとざわついてる…?それに変に視線も感じる……。
「ンがッ」「わぉ」 とタクとマーくんが変な声と感嘆の声を上げた。
タクは荷物を地面に落としてから固まって、口を開けたまま目が点になってる。あまり見ない珍しい表情だ。マーくんも驚いているが、よく見る笑顔のままだ。心なしかいつもより口が緩んでるように見える。
「おお、似合ってるじゃないか! 思った通り、いやそれ以上に可愛いぞ!」
マルフさんにストレートに言われて顔が熱くなる。レアも同じみたいだ、二人してゆでだこになる。
「よしよし、いいぞいいぞ……」 悪い顔になった、いままで一番悪い。
話が進みそうになかったのでこちらから切り出す。
「あの、それで私たちはどうすれば……」
「あぁ、そうだね、ごめんごめん。売り場の横に少しスペースがあるから、そこでおにぎりを作って配布してもらいたいんだ。試食というやつだね」 人差し指を立てて円を描くようにぐるぐるしてる。
「それでいいんですか?」
「うん、それでいいんだ! それじゃそろそろ始まるよ!」
開催されて、30分過ぎただろうか。
マルフさんの売り場は大盛況だった。
「はいはい! こちら美味しいお米だよ! どうぞうどうぞ!」 マルフさんは楽しそうだ。
「うんうん? なんだ君は、おさわりは厳禁だぞ? ほら帰った帰った」 タクはわたしたちの近くをうろついて、しっしっと手でお客さんを追い払っている。なぜか黒っぽいTシャツにズボン、それに黒いスモークメガネをしている。
あれは一体何なの……。
「はーいこちらですよー、おにぎり一つ銅貨5枚だよ~。ハイ毎度~ありがとうございまーす!」 マーくんに至っては勝手に商売始めてるし……。しかも結構売れてる。
それからさらに1時間程。お米はすべて売り切った。普段は早くても1日かかるらしい。それにいつもより3割増しで売れたとも言っていた。『君たちのおかげだよーあっはは』なんて言ってたけど、なんなんだろう…。
何はともあれ無事に終わり、アルバイト代として一人銀貨7枚貰った。時間換算すると結構な額だ。銅貨でいうと700枚分。ちなみに銀貨100枚で金貨1枚分。
片付けはこちらでやっておくから市場を見て回るといいよとマルフさんに言われた、タクとマーくんは別行動をしたいとのことでレアと二人で回ることにした。
外からも多くの商人が来ていて、見て回るのだけでも時間が掛かりそうだ。串にお肉や野菜が刺さったもの、リンゴに砂糖でコーティングをしたもの、変な形の置物、古文書のようなもの、綺麗なアクセサリーと。
そのアクセサリーの中に目を引くものがあった。三日月に朱色の綺麗な石が嵌め込まれているネックレス、一目ぼれだ。すぐに買ってしまう。店員のお姉さんが少し負けてくれて銀貨3枚で買えた。わたしが付けたのをみるとレアも気に入ったようで『お揃いにする!』と濃い赤の石の色違いを購入した。
十分に堪能をしたわたしたちは、名残惜しいが裏の服屋へ行って浴衣を返す。今度は自分のお金で買おうとレアと約束もした。
その後、タクとまーくんと合流して宿へ向かう。夕ご飯を済ませ、お風呂に入り部屋の机を四人で囲む。
「一息ついたので、お話しましょう」
お茶をすする。
「昨日温泉へ入った時におばあさんと知りあって、その方から賞金稼ぎと言うのを聞いたの、悪い人を捕まえたらお金がもらえるんだって、それで……」
「あいつ……か」 タクが唸りつつ、考え込む。
「「……」」 二人は黙って聞いている。
「賞金稼ぎになる、確かにそれが一番の近道かもな」
「追いかけるのなら、情報も大事になってくるはずだし、それに、多分わたしたちに向いてる。四人でなら何とかなるかなって」やははと笑った。
「……そうだな、賞金稼ぎになるのが一番早いだろう、そういう話が集まりやすいだろうしな」
「活動資金の心配もあるから、賛成だよ」 綺麗な瞳でわたしを見る。
「僕も、賛成。色んな所へ行くのも楽しいし」 うんうんと頷いてる。
「みんな、ありがとう。それでなんだけど、賞金稼ぎになるにはどうすればいいの?」
調べてないのかいとタクに突っ込まれる。
「あ、それなら僕から言うよ。まず賞金稼ぎになる条件としては、中央都市で許可を貰う必要があるみたいだね。試験みたいなのがあるって、あと許可さえもらえれば副都市でも受諾は出来るらしいよ。ちなみに受諾は役所で出来るってさ」
「詳しいね、いつのまに」 レアは訝しそうにマーくんを見据える。
「やー、さっき市場でふらふらしてるときに聞いたんだよ」 わたしたちが売り子してる時にときでもに聞いてたのだろうか……。そういえば昔から妙に鋭い時があったなと思いだす。今回も見透かされてたのかな。
「よし、それじゃ次の目的地は中央都市エンデだな」
次の方針が決まった。
中央都市エンデ
―――――そして賞金稼ぎになること。
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