第08話 『都市での長い一日(中編)』

 紹介された鍛冶屋にてわたしのナイフを見てもらったところ、売ってくれと言われてしまった。


「えっと、一応理由を聞いても良いですか?」良い物だとは聞いていたけど、一体……?


「このナイフかなり上質なもんだ、かなりってもんじゃないかもしれない。人間が作れる最高のランクに近いぞ……相当な腕がいい鍛冶屋だ。見本で見たことあるくらいで手にしたのは初めてだ」



 ………はて、なにがなんだか。

 わたしの思ってる以上に良い物だったということ?



 ……あれ、じゃあみんなの武器も…?






 予想通りみんなのもわたしのナイフと同じくらいに良い物らしい。


「うおおおおおお、なんだこれ!! こいつはすげぇ、すげぇぞ!!」

 鼻息も荒く、異様なテンションになってる。ちょっと面白い。


「いやぁ良い物見せてもらった。これは何処で?」

 面白い位目が輝いてる。


「わたしたちの村で使ってたものです。前から使っててそのまま受け継いだ感じです」

 わたしはこれを使えと言われて使ってただけだし、良く分からない。


「その村に鍛冶屋はいたのか?」


「いえ、居なかったはずです」 手入れや研ぐのとかは師匠がやってるって言っていたけど。


「うむ、やはりか。これ。手入れもほとんどされてない。見かけだけはちゃんとしてるようだが」 訝しい顔つきをしながら続ける。 「これ程の代物を持っていながら鍛冶屋もいないとは……全く信じられんな。訳が分からん」

「まあ、他の村の事はどうでもいい、それよりそのナイフ売ってくれるか?」




 ――――。




 わたしには今、やりたいことがある。




「わたしは、冒険を続けます。良い武器なら壊れる心配もないし、買い替える必要もない。なので、すいませんがお断りします」


「そういうことですので、すいません」 レアが。


「……心変わりしたらまた持ってくることにします」 タクが。


「ありがたいお話ですけど、申し訳ないです」 マーくんが。




 少し考えてから残念そうな顔をして、肩を落とした。

「そうか、分かった。それじゃ代わりに手入れをさせてくれ。勿論代金は取らん。どうだ?」



「ええ。勿論、お願いします」



「よし、それじゃまた明日にでも来てくれ」 腕を腰に当てて胸を張る。「ほら、お前も防具選んでやれ! さっさと一人前になれよな!」グハハ笑いでバシバシと赤髪女性の背中を叩く。


「痛い、痛いっすよ~」背中をさすりながら歩いてくる。



「さて、まだ見習いのアタシだけど、しっかりと選んで上げますよ!」

 ドンと胸を叩いて自信満々だ。





 それから彼女、モナカが防具をそれぞれ選んでくれた。


 わたしは狩人なので、軽くて薄い鉄の胸当て、膝と肘当て、グローブと鉄小手、あと投擲武器の鉄串、全体的に軽装備だ。俊敏性が命ですので。


 レアも狩人なので同じような装備だ。違いは鉄串が無いのと矢の筒があるくらいかな。


 タクは戦士だ。それでも重装備になるのを嫌ってる。動くときにガシャガシャ言うのが嫌なんだそうだ。カーボンメインの軽くて頑丈で、覆われてる所が多くない尚且つスマートな鎧のような装備だ、音が鳴らないか色々動いてみて確認をしている。


 マーくんは魔術師で黒手のローブを買っていた。あと念のためとナイフを一本。



 少なくない装備を選んだが、たくさん負けてくれた。武器を手入れさせてくれたお礼だそうだ。


 助かるけど、こんなにいいのかな……。




 時間を確認すると結構長居していたようだ、そろそろ服屋へ行かねばと思ったが、浴衣を着るのだし普段着は明日買いに行くのが良いのかもしれない。タクに確認してみたら服屋はすぐそこにあるらしいので、鍛冶屋を出て、そちらへ行くことにした。

 モナカとおっちゃんに別れを告げ、服屋へ向かう。


 鍛冶屋を出てから南に歩いて3分もしないうちに店に着いた。

 予想より大きなお店だ、白を基調としたシンプルな外見でおしゃれと言うより綺麗という感じ。ショーケースには普段着に使える服から浴衣、お偉いさんが来そうなドレスまで様々ある。

 中へ入ってみると目が回りそうなほどの服が並んでいた。


「ふわぁ、凄い……」


 ショーケースの何倍、何十倍もの服が並んでいる。まるで宝箱のようだ。リアが目を爛々と輝かせている。


 「よし、それじゃ……」


 ―――見て回ろうかと口にしようとしたら、下から突然何かが出てきた、いや現れた……?




「はぁい? お元気? アタシのブティックへようこそ」




 「「「「 ………… 」」」」


 変な人が出てきた。見た目も変だ。妙に身長が高く、それに細身、髪が紫、化粧が濃い、特にアイシャドウが目を引く、それに恐らく、男性だ。喋り方も変。


頭が混乱でぐるんぐるんしてきた。




「あら、それはマルフの字じゃない? あなたたち、紹介されたのかしら?」


「は、はひ、そうですっ」 妙に畏まってしまう。



「ふぅん? あ、そこのあなたはそうね、それとこれ」「そこの彼女はこれとこれ」「そこのメガネ君はこれとこれね」「そこの、あらやだイイ男じゃない、何でも似合いそうね。これとこれ」



 されるがままになってそのまま受け取ってしまう。


「ほらほら、早く着替えてごらんなさい」

 ぐいぐい押されて試着室へ押し込まれてしまう。



 そのまま着替え始めるがふと我に返り考える。



 ―――あれ、着る機会がないのでは…?それに買っても荷物になるだけじゃ…?



 他にも色々着まわした。着まわされたというべきか。けどすごく楽しかった。色々悩んだ末にオシャレして出歩くことは恐らく少ない、その上に荷物になる。と判断して簡易なTシャツやズボンを着替えとして買う。レアがものすごく残念そうにしていたが、泣く泣く了承してくれた。活動拠点のようなものがあればあいいのだけど、出来るまでは我慢するしかない。


「あら、あまり買わないのね、まあいいわまた今度買いに着なさいな。いくらでも選んで上げるわよ」 うふふと楽しそうに笑みを浮かべる。

「そういえば自己紹介がまだだったわね、アタシはエルよ」


「わたしはセチアです」「私はリアです」「俺はタクミだ」「僕はハイマーと言います」


「それでは、また来ます。ありがとうございました!」


 エルはまたねと手を振る。





 服屋を出て時間を確認すると既にお昼が過ぎていた。急いで市場へ戻る。


 戻る最中に思い出したことを三人に問う。

「そうだ、鍛冶屋でのことなんだけども。やりたいことがあると言ったとき、何も知らなかったのに乗ってくれたでしょ?」


「うん、セチアちゃんのことだし、何かあるのかと思ったから」レアはちょっと自慢気に笑ってる。


「俺はレアが乗らなかったら分からんかったけどな」なぜか自慢げだ。


「そうだね、僕も同じだよ。でも後で話聞かせてくださいね」と横目で見てくる。



 何も言わなくても分かってくれる仲間の信頼がとても嬉しかった。



「うん、ありがとう。ちゃんと話すよ」




 いつ振りだろうか、心の底から嬉しいと思えた気がする。




   ―――――私は幸せ者だ。


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