第十章 春宵に響く鐘 -4-
「不遜な発言でおすなあ。御座に座るんは唯一の御方。異教の神など邪なる魔に過ぎひんのに、よう言やはりましたなあ」
肘から
「ふん、右を見ても、左を見てもエルの信者ばかりよ。宗派の名前は変えても中身は同じ。
ハーフェズが、更に
そうか、あれは槍の力を制御しようとしているんだ。
増幅させてなお、ハーフェズは暴れまわる槍の力に苦慮しているらしい。
「ほほほ! そん槍もあんじょう使えへんようやおへんか。それであてに立ち向こうなんて、そないに死にとうおますか」
距離も関係なく、攻防自在か。
確かにあの
ハーフェズは、槍で
並みの
そして、守勢に回りながらも、隙を見て
「食らえ、
三つ首の竜から放たれた竜炎が、
ハーフェズの得意技でもあるが、紅蓮の奔流が三方向から雪崩れ込んでくるのを見るのは、本当に心臓に悪い。
「おいたをしてはあきまへんえ」
閃光が走ると同時に、
斬り裂かれた炎は、コンスタンツェさんを避けて真っ二つに割れ、後方へと流れていく。
「火遊びであてを倒そ思われてもかなんおすえ」
開幕から一歩も動いていないのだ。
ハーフェズの大火力をもってしても、微動だにさせられないのか。
これが、
報復は苛烈なものになる。
が、受け止めきれずに次第に傷が増えていく。
「そんなもんおすか、イスタフルの神の力は」
「ほ……ざけ! 準備は整ったわ!」
防いでいる間に、ハーフェズは五個の
コンスタンツェさんの周囲に、包囲するように展開している。
ハーフェズは、これを狙っていたのか。
「
五個の
炎と違い、雷撃の速度に防御は間に合わない。
コンスタンツェさんは、微動だにせずその稲妻を受け止めた。
激しい雷撃がその全身を撃つ。
直撃。
これは流石に堪えたか?
「お遊びも大概におしやす。本気で来いひんなら、終わらしとうてよろしおすな」
閃光の中から、静かな声が聞こえる。
ぞっとするほど冷静で、優しい声だった。
次の瞬間、
「は、はははは! ──化け物め、わたしがこの言葉を使うとはな」
ハーフェズが、いきなり哄笑し出した。
コンスタンツェさんが平然と
「通用しないと予想して、
ハーフェズは、右手の槍を後ろに下げ、左手を開いて前に突き出した。
「本番は此処からだ。その胡散臭い笑顔、ひっぺがしてやろう」
ハーフェズの表情が、珍しく真剣で決意を秘めたものになる。
いつも怠けて緩んでいたさぼり魔は、そこにはいない。
何かを背負って戦う男の姿があった。
「遠距離での魔法戦では、ハーフェズ様の勝つ可能性はゼロでございました」
画面を見ながら、ダンバーさんが初めて口許を綻ばせる。
「これで、初めて勝つ確率が生まれました。一割にも満たない確率ですが」
「一割ありませんか……」
ハーフェズの
それを完全に圧倒した
勝率が低いのはわかっていたが、改めて突き付けられると言葉を失う。
「行くぞ、コンスタンツェ・オルシーニ!」
大地を蹴って、ハーフェズが突進する。
この試合、今まではずっと遠距離でお互い戦ってきた。
無論、ハーフェズもその方が得意だ。
それを、あえて近距離に踏み込んでいく。
「ええ加減にしよし。あてもいつまでも付き合うてられんさかいに」
容赦のない
それを見たハーフェズの左掌に、三重の
限界まで
だが、
三重に強化してなお、ハーフェズの体は斬り刻まれた。
それでも、急所は外して何とか間合いまで到達する。
「捉えたぞ、コンスタンツェ!」
ハーフェズの両足に、
前進の速度が急激に上がる。
それが、ハーフェズの切り札か。
目を慣らしたところでの加速。
「あほらし」
だが、その一撃を簡単にコンスタンツェさんは切り落とした。
「
「抜かせ!」
下に落とされた穂先を、ハーフェズは瞬時に立て直そうとする。
だが、大きい槍より、
滑るような動きで一歩踏み込んだ
「──残念ですが、やはり、武芸の鍛練が足りなかったようでございますね」
そう言いながらも、ダンバーさんはさほど残念そうではなかった。
結果はどうあれ、ハーフェズが踏み込んだことを評価しているのだろう。
これで、あいつがもう一段強くなると思っているんだろうな。
観衆の声援に応えて手を振る
ハーフェズは、地面に大の字になったまま、その姿を見つめていた。
それは、はっとするほど
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