罰と定期テストと睡眠不足。

 俺は今、一生懸命自分の机に向かっている。

そう、来週は一学期の中間テストだ。

自分で言うのもなんだが、俺はそこまで頭が悪くない。

中学の時は、クラスの上から5〜10番目あたりにいた。

だが、皆は知っているだろうか?

上から5〜10番目あたりが、1番テストで生きにくいということを。

説明しよう。

上から1〜5番目あたりは頭が良いとみんなに賞賛される。

「今度、勉強を教えてくれよ」

などと、声をかけてもらえるかも知れない。

下から1〜5番目は頭が悪いとみんなに笑われるが、それはそれで美味しい立ち位置だ。

問題はその中間だ。

その中間の中でも、真ん中なら別に支障はない。上にも下にも同じ人数いるからな。

下寄りも下寄りで、大抵のやつは、自分より下ならと、悪い気持ちはしない。

そして、上の方についてしまったやつはと言うと、自分の点数を言えば、上位のやつ以外は自分より下なわけであって、相手は聞いときながら大抵、良い顔をするやつはいない。

しかも、微妙に上なせいで、

「今度、勉強教えてくれよ。」

とも、声をかけてもらえない最悪なポジションなのだ。

高校最初の定期考査、俺は何としてもそのポジションだけは避けて通りたい。なんなら、いっそのこと最下位を取ってやってもいい。そんな勇気があればの話だが。

時計を見ると、深夜1時を回っていることに気がついた俺は、ベッドに入った。


 次の日の昼休み、いつもと変わらず俺と黒使は一緒に飯を食べていた。

クラスの話題の中にも、ちらほらとテストの話が出てくる。

「なあ、黒使ってテスト勉強してるのか?」

と黒使に向かって言うと、黒使は箸を止めて

「なにを言ってるの?テストのための勉強なんてするわけないでしょ?まず、テストは日頃の勉強のテストのわけだからな?ペラペラ…。」

と、テストについて語り始めてしまった。

(こいつ良い子ちゃんだったな。これは勉強出来るタイプだな。しかし、どれだけ勉強について熱弁するんだ。)

「言いたいことはわかった。じゃあ、黒使はテスト勉強しないんだな!?ここに誓うか?」

と、少し強めに言ってみると、

「い、いや少しはするかも…。

てか、なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!

こうなったら勝負しましょ!?

よくあるじゃない。合計点数で負けた方が、勝った方の言うことを1つなんでも聞く。どう?」

と、手を組んだ黒使が俺に提案した。

(なんだこの学校でよく見かける、点数の比べ合いっこをして負けた方が言うことを聞く。

これこそ俺が求めていた、学校生活みたいじゃないか!まあ、相手は普通じゃないとして。)

俺はニヤけそうな顔をこらえながら、

「そこまで言われたらしょうがない。受けてやろうじゃねえか!」

と答えた。

そして、俺と黒使のバトルの火蓋が切って落とされたのだ。


 俺は、今まで以上に勉強した。起きては勉強し、寝る前も勉強した。もちろん、昼休みの時間も勉強していた。

だから、ここ1週間、黒使とは話していない。あっちも昼休み勉強していたので別に問題はなかった。

そして、定期テスト前日の夜。俺はふと、勝った時に黒使に頼むお願いを考え始めた。

(お願いって何をすればいいんだ?

いつもあんなデカイ態度とられてるし、俺に1週間敬語とかにするか。

ん?そういえば、なんでも1つ言うことを聞くって言ってたよな?なんでも?え…なんでも!?なんでもってヤバくないか!?あんな事やこんな事でもいいのか?

俺の人生初のモザイク入っちゃうよ!?)

"なんでも"と言う言葉の偉大さを知った16歳の春。

そんなことを考えていたら、眠れなくなった俺は、結局一睡もせずにテストを迎えることになった。

(ヤバイ、眠くて倒れそうだ。いらないこと考えなければよかった。)

フラフラと歩きながら、教室に入る。

教室に入るとすぐに

「ふっふっふ、西村 通よ!今日は勝負よ!」

と、黒使が俺に話しかけてきた。

(なんでこいつはこんな元気なんだよ。)

と思いながら、黒使の顔を見ると、そこには大きなくまのできた黒使がいた。

「もしかして、お前もお願いを考えてて寝れなかったのか?」

と聞くと、ギクッとしたような顔をした黒使は

「ち、違うわよっ!ハンデあげようと思って、今日はオールしたのよ!」

と言った。

(まあ、なんでもいい。俺と黒使の状態は五分と五分。ここからは気力の戦いというわけだ。)

「まあ、約束は約束だからな。負けた方はなんでも!1つ言うことを聞くんだからな?」

と念押しすると、黒使は息を飲んだ顔で頷いた。

「それじゃあ、1時間目のテスト始めるぞ。よーい、始め!」

と間先生の合図と同時にテストを解き始める。

そして、5つのテストのうち4つが終わった。

(あとは、昼休みを挟んだ後の社会だけだ。)

昼休みに入り、昼飯を食べていると、黒使が昼飯を食べていないことに気がついた。

「おい、昼食わないのかよ?」

と俺が聞くと、

「あ、あぁ、ちょっと食欲がなくてな。良ければ食べるか?」

と弁当を差し出してきた。

「なら、遠慮なくもらうな。いただきます。」

そう言って、俺が全部食べ終わると、黒使の口元がニヤリとした気がした。

そして、5つ目の教科のテストが始まる。

テストが始まると、俺は満腹感と昨日から一睡もしてないせいで、強烈な眠気に襲われた。

(ま、まさかあいつこれを狙って。あの一瞬の口元のほころびはこういうことだったのか。まんまとハメられ…。)

チャイムの音と共に目が覚める。

俺は黒使の思惑通り、テスト中に寝てしまったのだ。

負けを悟った俺は、明日の罰ゲームに備えて家で母への手紙を書いていた。

(お母さんへ、今まで僕のことを育ててくれてありがとう。

きっとこれを読んでる時には、僕はもう、相当な辱めを受けているはずです。

こんな息子ですが、どうか帰ったら抱きしめてやってください。)

と言った内容の手紙を書き、そして寝た。


 次の日の朝になった。

昨日書き上げた手紙は机の上に置いてきた。きっと母が気づいてくれるだろう。

俺は覚悟を決めて、教室に入った。

「それじゃあ、昨日のテスト返すぞ〜。」

と間先生がテストを返し始めた。

全てのテストが返し終わり、俺と黒使は2人で睨み合っている。

「それじゃあ、せーのっで見せるぞ?」

と俺が言うと、黒使は頷いた。

「せーのっ!」

2人のテストが机の上に並んだ。

俺の点数は、

国語79点、数学77点、英語97点、理科85点、社会10点だった。

そう、テストの5つ目の教科とは社会だったのだ。

黒使の点数は、

国語92点、数学83点、英語75点、理科90点、社会15点だ。

(ってお前も社会のテスト寝てたんかいっ!)

何はともあれ、合計点数を発表しよう。

西村、合計点数350点

黒使、合計点数355点

僅差で俺が負けた。

俺が落ち込んでいると、黒使が俺のことを見下した顔で

「さて、なんでもお願いを1つ聞いてもらおうかしら。」

と言う。

俺は、

「ごめんなさい社会的に死ぬのだけは勘弁してください!一生のお願い!」

(きっと、ここが俺の一生のお願いの使い道に違いない。)

それを聞いた黒使は、少し鼻で笑って言った。

「しょうがないわね。じゃあ、今週の日曜日に、私の買い物に付き合いなさい?」

予想外な回答に俺の思考は停止した。

「なに?無理だって言うの?せっかく簡単な内容にしてあげたじゃない!」

黒使が少し不機嫌になる。

それを聞いた俺は

「全然それでいいです!てか、それがいいです!お願いします!」

と言った。

それを聞くと、

「じゃあ、こないだと同じ時間に学校の前集合ね。遅刻したら許さないから。じゃあね。」

と言って黒使は帰ってしまった。

気のせいか、黒使がスキップしてるように見えた。

俺は正直言って、拍子抜けしてしまった。もっとハードな内容がくると思っていたのだ。例えば、パンツ一丁で校庭10周とか。

(あいつはなにを考えているんだ?全くもって予想が出来ない。)

そんな風に思いながら、俺も帰った。

ちなみに俺のクラス順位は、9位だった。

俺が1番つきたくない順位についてしまった。

(あーあ、点数聞かれた時困るなぁ。)

そして俺はある事に気がついた。

(あ、俺ってまず、点数聞いてくる友達もいないんだった。通のうっかり屋さんっ☆てへぺろ☆)

と心の中で、自分の頭をポコっという効果音とともに殴っていた。


 家に帰ると、母親が俺に抱きついてきた。

「お母さんはあんたがどんなイジメにあってても、見放したりしないよ!だから、早まるんじゃないよ?お父さんとお母さんで助けてあげるから!」

俺は、朝、家に置いてきた手紙の事について思い出した。

その日、俺は家族会議で両親の誤解を解くのに約2時間ほどかかった。


 そして、また俺は今までとは日曜日を迎えようとしていた。

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