体育は嫌いだけど、保健は好き。
みんなに聞きたい。
みんなの嫌いな授業はなんだ?
俺が1番嫌いな授業は体育、特に最初の準備体操だ。
別に運動が嫌いというわけではない。
なぜ嫌いかって?それは、2人1組で体操するという制度があるからだ。
入学式の日の俺の予想では、2人1組くらい余裕で作れるはずだった。いや、4人1組くらいでも余裕で作れただろう。
さあ現実を見てみよう。
俺に組もうと誘ってくるものは誰もいない。
当たり前だ。クラス随一の変人、ダークプリンセスこと黒使 姫の召使いに話しかけてくるやつがいるわけがない。
今の俺は、準備体操はラジオ体操で十分だと思っている。じゃないと、このまま行くと俺の親友は体育の先生になってしまう。
今日の体育は運が良いことにバスケだ。
バスケなら勝手にチーム分けがされ、ボールが回って来たら空いてる仲間にパスするというスポーツだ。
ちなみに俺にはシュートという概念はない。
なぜかだって?シュートを外せば目立つ、入れれば目立つ。シュートをしないのが1番普通に終われるのだ。
さて、俺の1試合目が始まる。
(なるべく目立たないように普通に終わろう。)
ピーッ!と開始のホイッスルが鳴った瞬間、視界が真っ黒になった。
気がつくとそこには見知らぬ天井があった。ホイッスルが鳴った後のことが記憶にない。
「あら、起きたのね。」
そう言って俺に声をかけた女性は、
保健室の先生こと
美原先生は続けてこう言った。
「西村くん、バスケのジャンプボールで弾かれたボールが顔面に直撃して、気絶してたのよ?」
と少し笑いをこらえた感じで言われた。
(やっぱりバスケも嫌い。)
と思いながら、ベッドから起き上がった俺は教室に戻った。
教室には人の気配がない。運の良いことに、まだ授業は終わってないみたいだ。
(今のうちに着替えてしまおう)
俺が1人で着替えようと上着を脱いだ時に1人、机に伏せて寝てるやつがいる事に気がついた。他の男子かと思い近づくと、不意にその席が黒使 姫の机であることを思い出した。
いつも一緒に?昼飯を食ってる仲だし、今は教室に誰もいない。
別に話しても大丈夫だと思い、肩を叩いた。
それに反応してか、それともこの時間に自分が教室にがいる事がバレて驚いたのかわからないが、ビクッと反応した。
黒使は恐る恐るこっちを向いた。そして、俺と目が合って3秒ほど固まり、椅子から転げ落ちた。なぜか凄い勢いで下がりながら、顔を赤くして俺にこう言い放った。
「ぶ、ぶ、無礼者!教室に誰もいないからといっても、やって良いことと悪いことがあるのだぞ!?我が魅力的だといってもそういう事はダメだと思うのだが!?」
(なにを言ってるんだこいつは?寝ぼけてるのか?)
「なにをしちゃいけないんだよ?授業早くあがってくることか?それなら、お前だってしてるじゃないかよ?」
そう言って、近寄る。
だが、黒使は逃げる。
普段のダークプリンセスとは似ても似つかぬ動きだ。
教室の隅まで追い込み、近寄ると黒使は大きな声でこう言った。
「襲われるー!」
俺は慌てて、黒使の口を押さえた。
「何言ってるんだよ!?なんで俺がお前を襲うんだよ!落ち着いてよく見ろ!」
(ん?待てよ、俺さっき上着を脱いだよな?)
落ち着いて今の状況を見てみよう。
上裸の男子生徒が女子生徒を隅まで追いやって、口を塞いでいる。
黒使の反応の意味を全て理解した。
ガラッと隣の教室のドアが開く音がした。きっと、さっきの黒使の声が隣の教室まで聞こえたのだろう。
(マズイ、このままいったら俺はぼっちの高校生活どころか、高校生活自体送れなくなってしまう!)
慌てて、逃げ込める場所を探した。
そして、俺のクラスのドアが開いた。
隣の教室の先生があたりを見回す。
「誰もいるわけないよな?このクラスは体育のはずだし、空耳か。」
そう言って、戻って言った。
その時、俺らはというと、掃除箱の中だった。
(最近の掃除箱は大きくて助かったー。)
先生が出て行くと、黒使はその身体では考えられないような力で掃除箱から出て行った。
よく見たら半泣きだ。
俺の事をまるで性犯罪者を見るような目で睨んでいる。
(まあ、状況的には俺は性犯罪者にしか見えない。これは弁明しなければ。)
「これは違うんだよ。俺は今日の体育の授業で怪我をして先に帰ってきただけで、たまたまお前の存在に気がついて、声をかけようと肩を叩いただけなんだよ。」
黒使は睨みながら言った。
「で、教室に1人でいた我を襲おうとしたと?」
俺はすぐさま反論した。
「上裸なのは服を着るのを忘れてたんだよ!信じてくれよ!」
俺の必死さが通じたのか、黒使は少し悩んだ後に俺にこう言った。
「まあ言われてみれば、友達も作れないような男に我を襲う勇気はないかもな。」
(俺が友達を作れない?違う、今はただ作る機会をうかがっているだけだ!しかも、お前もぼっちだろ。)
と思いながらも、黒使の態度の急変に少しイラッときた俺はボソッとこう言った。
「なにが襲われる〜!だよ。」
きっと聞こえたのだろう。黒使が俺の事をまた睨みつけながら言った。
「まあ今回の事は許してあげる。でも、次同じような事をやったらその時は、上履きが生乾きの状態になる呪いをかけるから!性犯罪者予備軍!」
(うわー、相変わらず呪いの内容が陰湿で、現実味を帯びるなー。そして、日本っていつ徴兵制度出来たっけ?)
まあ、とりあえず誤解は解けたようで良かった。
俺は服を着替えて、黒使に質問をした。
「てか、なんでお前は教室にいるんだ?授業はどうした?サボりか?」
その質問に黒使は顔を背けてこう言った。
「くだらないわ、あんなもの!私は群れるのが嫌いなだけよ!だから、先生に気分が悪いから教室で休んでますって伝えたわ。」
(へー、群れるのが嫌いなのか。じゃあ、昼休みもぜひとも俺と群れずに1人で食べてくれよ。そして、やっぱり良い子ちゃんだな。)
俺は会話を続けた。
「じゃあ、お前さ、友達とかいらねえの?」
それを聞いて、黒使は少しうつむいて話し始めた。
「別にいらないってわけじゃないわ。なんかの本に書いてあったのよ。最初が肝心だって。だから、入学式の日に目立てばクラスの中心になれると思ったの。だけど結局、あなたを除いて誰も話しかけてきてくれなかったわ…。」
これを聞いて、俺は少しこいつと近しいものを感じた。
「別に俺はいつものお前が悪いとは思わないぞ?まあ変だけど。だけど、根は真面目っぽいし、いつかわかってもらえるんじゃないか?とりあえず、俺はうちのクラスのやつよりはわかってるつもりだ。」
そう言うと、黒使は笑いながらこう言った。
「ぼっちのあなたにわかってもらってもなにも良いことないじゃないのよ。」
(お、あなたって呼ばれたぞ。)
「まあそうだな。それはそっちの人選ミスだ。」
と俺が言うと、2人で笑い合った。
今日はバスケで気絶はするわ、性犯罪者に間違われるわ、全然普通じゃない日だったけど、なぜか悪い気はしなかった。
たまには、こんな日もありかなと感じた1日だった。
あと、その日だけなぜか昼休みの時間、黒使の距離が遠かったのは言うまでもない。
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