一つのものを得て、多くのものを失った昼休み。

 俺は今、なぜか教室でダークプリンセスこと、黒使 姫と2人でお昼を食べている。

そして、クラスのみんなから好奇な目で見られてる。

(もしこの世界に、普通の神様がいたなら、俺がそいつを裁判にかけてやろう。)

まあ、今の状況を説明しよう。

始まりは、そうだな、今日の朝からだ。


 俺は今日もいつも通りに1人で登校して、いつも通りに1人でクラスにいたわけだが、今日は少しだけいつも違った。

「おはよう。」

近くでそう聞こえた。

そこらへんの男なら自分かな?と勘違いをする場面であるが、俺は違う。

なぜなら俺はぼっちなのだ。

だから、そんな浅はかな間違いはしないのだ。

俺は何事もないかのようにカバンから筆箱を取り出していると、なぜか前に人影があった。

そうだ、そこに立っていたのは、例の中二病女子、黒使 姫なのだ。

そして、その女は少し不機嫌そうな顔をして、俺の机を叩いてこう言った。

「おい!西村 通!我が朝から声をかけてやってるのだぞ!反応をしろ!これ以上、無視し続ける気なら、お主に全ての教科書が濡れる呪いをかけるぞ!」

(おい、呪いの内容が陰湿な上に現実味を帯びてて嫌だからやめてくれ。)

とりあえず、自分が話しかけられてる事に気づいたから、一応返事をした。

「お、おはよう。」

(学校でおはようとか何日ぶりに言ったか?というか、もしかしたら初めてかもしれない…)

俺の返事を聞くと、黒使は満足気に自分の席に着いた。

今になって気がついたが、クラスの注目が俺と黒使に集まっていた。

俺は恥ずかしさから寝たふりをした。

(なんだったんだ?新手のイジメか?ぼっちのやつを目立たせて、恥ずかしい思いをさせるイジメなのか?いや、あいつもぼっちか。)

そんな事を思いながら、寝たふりを続けていた。


 昼休みになり、自分の席で昼食を食おうとしていた時、なぜか目の前には黒使が立っていた。

(おいおい、俺はお前になにか恨まれる事したか?それとも朝無視したことで、俺の事を本当に呪うつもりかよ。)

3秒間ほど見つめ合って、気がついたが、なかなか可愛い顔をしている。

今までは性格が痛すぎて、目が当てられなかったから気づかなかった。

黒使が口を開いた。

「お、お主はいつも1人で飯を食べいるな?昨日の礼も兼ねて、我が一緒にた、食べてやらない事もないぞ?」

みんなの注目がまた俺らに集まる。

(うん、これはやっぱりイジメだ。こういう時って児童相談所とかに電話かければいいんだっけ?)

そんな事より、こいつと一緒に昼飯を食うなんてたまったもんじゃない。

「悪いが、俺は1人で食べたいんだ。気持ちはありがたいが、ごめんな。」

1人で食べたいと言われては、これ以上踏み込めないというのが、俺の思考が出した最善策だったのだ。

そして、黒使の顔を見ると、悲しい?悔しい?恥ずかしい?色んな表情が混在したような顔をしながら、半泣きになっていた。

「待て待て!やっぱり一緒に食べよう!昨日のお礼だもんな!お礼は素直に受け取らないとな!」

と慌てながら10秒前の俺の発言を取り消したのだ。

というわけで、今の状況に至るわけだが、

(クラスの視線が痛い!全方位から視線の矢が放たれている!あーあ、ぼっちの上に変なやつといたら、とりあえず今年のぼっちは本当に確約されたな。)

と思いながら、俺は黙々と昼食を食べた。

黒使は、半泣きの時の名残か、たまに少し鼻をすすっては、俺の方をチラ見するくらいだ。

ただ黙々と食っていてもつまらないので、黒使の弁当を見てみる事にした。

そうすると、なんということだろう。普通だ。色合いもよく、バランスの良さそうな弁当がそこにあるではないか。

俺は思わずこう口走ってしまった。

「お前の弁当、普通だな。」

それを聞いた黒使は驚いた様子をして、少し考えてこう答えた。

「本当はもっと豪華でいいのだが、愚民どもの生活感に合わせようとした結果、こういう形になったのだ!」

俺は、飽きれた様子でまた質問した。

「それは自分で作っているのか?」

そうすると、黒使は少しうつむいて言った。

「そうだけど…、なにかおかしい?」

俺は、不思議そうに答えた。

「なにがおかしいんだ?普通だって言ってるじゃないか。俺は普通が1番だと思ってる。いい弁当だと思うぜ?」

そう言うとなぜか黒使は、嬉しそうに笑っていた。

ちなみに俺の弁当はというと、最近母親がキャラ弁にハマったおかげで、キャラ弁だ。

(なんだよこの動物、アリクイか?てか、弁当においてあの女に普通さで負けてないか?)

そんなこんなで、俺の異常な昼休みは終わった。と思ったのだったのだが、次の日からもなぜか黒使は昼休みになると俺の目の前に座っているのだ。

(ダークプリンセスよ、お礼に一緒に食べるって言っても、恩返ししすぎじゃね?てか、逆に仇になってきてるよ?)


 毎日のように黒使と食べているせいか、クラスのみんなの注目にも慣れてきた。

俺に視線の矢に耐えうる鎧が出来たみたいだ。

だが、一つ問題がある。こないだクラス奴が俺を見てボソッと言っていた。

「あ、ダークプリンセスの召使いだ。」

(おいおい、誰がダークプリンセスの召使いだって?俺が?今言ったやつ、教科書が濡れる呪いかけてやろうか?)

と心の中で呟きながら寝たふりをしていた。

つまり、俺はめでたくあの中二病女と一括りにされたわけだ。


 昼休みのぼっち問題を解消?できたわけだが、また俺は普通という人生が遠のいた気がしたのだ。

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