異常との遭遇。

 高校の入学式、新しいクラスで俺の前に現れたのは、自分の事をダークプリンセスと名乗る女だった。


(目の前にいる異常な中二病女、その名もダークプリンセス?ふざけるな!まず自分が名乗れ!)

と思いながら質問に答える。

「俺の名前は、西村 通だ。」

それを聞くや否や、その女はこう言った。

「西村 通よ!なぜお前は我の瞑想を見ないのだ!我の瞑想はどんな者の目を奪うことが出来るはずなのに、なぜお前は我を見ない!?」

俺は、ものすごく言いたい。

「それはお前が普通じゃないからだよ!」

と、叫んでやりたいくらいだ。

だが、さっきからクラスの目線が痛いほど自分に突き刺さっているのだ。

(俺は普通に生活すると決めたんだ。こんなやつに邪魔されてたまるか!)

「あぁ、目が悪くてな、気づかなかったんだよ。あはは…」

こんな苦しい言い訳が通用しないとは思うが苦し紛れに言ってみた。

そしたら、女はこう言ったのだ。

「目が悪いのか!ならしょうがないな!見えないのなら目を奪うことはできないはずだものな!」

と言って、満足気にさっきまで自分が立っていた机の席に座った。

それが終わると、クラスのみんなは何事もなかったように過ごし始めた。

なにがともあれ、俺は出鼻を少しだけくじかれただけで済んだはず?だ。


「ねえ、とんだ災難だったね。」

ふと、左から可愛い声がした。

俺は左を向くとそこには絶世の美女が座っていた。

いつもの俺なら気づいていただろうが、あの例の女のせいで今まで気づかなかったのだ。

だが、そこらへんの男子ならこんな可愛い子に話しかけられたら、鼻の下を伸ばして、デレデレと話す所だろうが俺は違う。

こんな可愛い子と話していたら周りからなんて思われるか、わかったもんじゃない。だから、俺は素っ気なくこう答えた。

「そうだな、心配どうも。」

これで会話は成立した。

と思ったのだが、

「私の名前はひいらぎ 美咲みさきっていうの。よろしくね、通くん。」

と話を続けてきた。

しかも名前呼びだ。普段の俺なら今頃そこらへんを飛び跳ねている内容だ。

だが、周りの男子からの目が痛い。この喜びは心の中に秘めておこう。

「おう、よろしくな。」

そう言って、俺は話を終わらした。


 少し時間が経つと、担任の教師が教室に入ってきた。そして、教卓の前に立つと挨拶を始めた。

「これからこのクラスの担任をもつ、はざまだ。担当している教科は化学で、めんどくさい事とかは嫌いだ。よろしく。」

いかにも化学って感じだな。白衣着てるし。

「それじゃあ、みんな自己紹介して。」

そう言って、間先生は窓際に寄った。

あの中二病女はと言うと、席から判断するに、俺より出席番号は前のようだ。

そして、やつの番がきた。

気のせいか、クラスのみんなも息を呑んでる気がした。

俺はこの時思った。

(あいつの事だ、我はダークプリンセスだ!とか言い始めるんだろうな)

しかし、あろうことか、やつは

黒使くろつか ひめです。よろしくお願いします。」

としか言わなかったのだ。

なぜか、クラスのみんながキョトンとした顔をしていたのは言うまでもない。

この時、俺は察したのだ。

ダークプリンセスならぬ黒使 姫は実は良い子ちゃんだと!

そして、ダークプリンセスって名前もそのままだとも思った。

そしてついに、俺の番が来た。

1週間前から練習もしてきた、話す内容も暗記してきた。

(いける!)

そして、俺は口を開いた。

「西山 通です!よろしくおねぎゃいしまじゅ!」

はい、噛んだ。この2フレーズのために1週間費やしたのに2回も噛んだのだ。

(きっと俺は前世から自己紹介の練習をしないとダメみたいだな)

と感じながら席に戻った。微かに笑い声が聞こえる。

寝たふりをしながら、

(俺の後のやつ全員最低3回は噛め)

と願った。

まあ、誰も噛むはずもなく自己紹介が終わった。

だが、俺は小、中学生の時の経験を生かし、まずは友達を作らずに、まわりの様子を見て友達を作ることにした。

(これだけは成功させねば!)


〜1週間後〜


 慎重に友達を作ろうとした結果。ぼっちになった。1週間は様子を見ようと思ったら、みんな3日目くらいにはグループで固まって、昼食をとっていた。

俺の入る場所?あるわけがない。

まるで俺を入れさせないかのようにみんな隙間なく固まっている。

(こいつらは、年中おしくらまんじゅうでもしてんのか。)

そうなこんなで、俺の学校生活は相変わらず1人だ。というか、これが普通なんじゃないかとも錯覚してきた。

そういえばもう1人、俺の他にぼっちなやつがいる。

まあご察しの通り。黒使 姫だ。やつは先生がいなくなると平常運転に戻る。

それに誰もついていけるわけもなく、孤立ってわけだ。

(まあ、俺にとってはどうでもいいけど)


 ともあれ、無事俺のぼっち学校生活の1日も終わり帰ろうとしてると、見覚えのある姿をした女子が何かを探しているようだった。

そう、黒使 姫だ。俺は無視しようとしたが、あいつの顔を見てみると、すごい必死そうな顔をしていた。しょうがないから声をかけた。

「黒使、こんな所でどうしたんだ?落し物か?」

一瞬、黒使がビクッとした気がした。

すぐ俺の方を向き、俺に気づくと、

「我が名はダークプリンセス!黒使などという者知らん!」

と急に元気になった。

俺はそれに

「あっそ、じゃあダークプリンセス様。こんな所でどうしたんでございますか?」

と、少し小馬鹿にしながら聞いてみた。

そうすると、

「はっは!別に何も用事などないが!?、愚民共の暮らしを覗いてただけじゃ!」

と言い始めた。

俺は、

(うわー、こいつ見栄張ってんなー。)

と思いながら

「そーですか、なら何にも手伝ってやらねー。」

そう言って、帰ろうとすると、後ろからゴニョゴニョと声が聞こえてきた。

「え?なんだって?」

と俺が聞き返す。

すると、黒使は立って、なぜか少し怒りながらこう言った。

「落し物を探すのを手伝いなさいよ!」

(え、逆ギレかよ…)

と俺は思いながら、

「しょうがないな、手伝ってやるか。」

と言って、2人黙々と辺りを探し始めた。

3分ほど経つと、ふと思った。

(俺、何探してるんだ?)

そして、黒使に聞いてみる。

「ダークプリンセス様、何をお探しなんですか?」

そうすると、黒使は恥ずかしそうに答えた。

「普通の人が中身を見ると失明してしまう呪いがかかった、悪魔の手帳よ。」

「あー、はいはい。手帳ね。」

と俺もすぐ返事をした。

15分ほど探すが、見つかる気配がない。どうしたものかと悩んでいたら、

黒使のハッ!っと言う声が聞こえた。

「どうした!?」

と俺が駆け寄る。よく見ると黒使の手には手帳があった。

「なんだ、見つかったのか。よかったな。どこにあったんだ?」

と聞く。

そうするとなぜか顔を赤らめた黒使が小声で

「カバンの中…」

と答えたのが聞こえた気がした。

だが、俺はその時、なぜかその手帳が見つかったことが嬉しかったようで、その事についてなにも触れなかった。

「手帳も見つかったみたいだし、俺は帰るわ。」

そう言って、俺はその場を立ち去ろうとした時、後ろから

「ありがとう」

と黒使の声が聞こえた、気がした。

俺は後ろを向かずにただ手を上げて帰った。


 今思えば、これが俺の本当に普通じゃない日の始まりだったのかもしれない。。

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