第5話 Fuckin' コロスケ

 仕事を3月に辞めた。今回の一連の騒ぎが問題なのではなく、主に自分にあてられた仕事が十分にできないこと、それに伴う厳しい上司からの攻撃等があり、この場では適正云々の前に自分が潰れてしまうと思ったからだ。

 逃げたといえばそれまでだが、では自分でも納得できていないような環境で、自分の可能性を自殺にも似た心境のまま行うべきだったのかと自問すると、答えはノーになる。私の精神的な構造は、普段こそ「死にたい」とかそれに類した言動をしておきながらも、いざその望みがかなえられそうな状況になると、藁にもすがりつくような勢いで生をかき集めたがる。

 このまま上司のおもちゃとして40代まで突っ走るか、環境が好転することを祈って新天地を探すか。

 そんな二択問題を天秤にかけたところ、外出自粛の世間でまともに転職活動もできないまま、安い飯・タバコ・多少の酒・ネットサーフィンで日々を浪費する生活を過ごすことになっている。

――正直、収入とか煩わしいものをすべて無視したとすれば、贅沢な希望をすることもない、かなり理想の状態だ。このまま老いて死ぬまでずっとこうしていられたらとさえ思う。

現在住んでいる場所は首都圏とはいえ、建物よりも田畑や川の方が圧倒的に面積をとっている環境だ。

 デスクワークがしたい。だがここにいると、公務員以外は力仕事・立ち仕事が大半で、若者がそのまま体力の低下に伴っても続けられるものはかなり限られてくる。というか、25歳の現状でもかなり絞り取られ、辞めるまでは毎日帰ってくれば食事を摂る気すら皆無だった。拘束時間は約14時間。入浴できる余力があるのは休日のみ。

 もう二度と、そんな環境で働きたいとは思わない。

 緊急事態宣言が5月末まで延長された。どこの国にも顔色を見るこの国である。発端となったあの馬鹿国に賠償要求でもすればいいのに、おそらくは何もなしだろう。

 準備も何もしていない。証明写真を撮影するのにスーツを用意しなければだが、そもそも卒業式以降袖を通したこともない。髭も剃っていない。髪も切っていない。

 まともな人として生きていたことが遥か遠い昔のように思える。学生の頃はもう少し未来が明るかったし、生活もだらしないわけではなく、もちろん過酷なわけでもなかった。

 これからどうやって生きていくべきか。考えても肝心な答えが返ってきたことはない。


 ひとまずは、私服で仕事ができて、帰ってきたら夕食を食べた後に好きなことができるような、そんな仕事ができたらと、思っている。

 どうか叶いますように。

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煙の日々 鹿爪 拓 @cube-apple

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