第3話 過去と変わらぬ自分を
決まって休日の前には酒を飲む。何が悪いからというわけでもないが、しこたま飲む。前後不覚になる、正気を保っていられる一寸手前が好きだ。自分の思考を捉えられず、だからといって思考できないわけでもない。こういったときに映画やその他映像娯楽に触れていると、ふとどうしようもない記憶が顔を出す。
あのときああすりゃよかった、なんであの瞬間に自分は間抜けなことをしてしまったのか。後悔の連続だ。もちろん酒を飲まないときにも、こういった突発的な後悔は襲い掛かってくる。両者の違いはこうだ。
酔っているときは「ハハハ、こいつめ。いつまでも同じ後悔に
酔っていないときは「ああ、なんであんなことをしてしまったのか。いつまでも覚えている必要だって無いのに」
酒を飲まずにはいられないわけではない。ただ、習慣的に休日の前は酒を飲むようになっている。そういったとき、特に冬は外気に触れながら吐き出す煙がなんとなく楽しい。煙と吐いた白い息の境界が曖昧になって、肺が潰れるまで白いモヤモヤが続いていく。
――どうせ明日は休みなんだ。全部忘れるまで飲みつくしてやる。月が西に沈んだって知るもんか。
間の抜けた考えは、床につくまで延々と続いて続き、目が覚めてもなお終わりがどこだったのかは知る由もない。
別に酒が好きなわけではない。と思う。実際がどうなのかは知らない。基本的に自宅で飲んでいるので、誰が何を思って酔った自分と接しているのか、まったく理解が及ばない。ただ、そんなことを考えていながらも酒は自分を解放することは無く、自分が後悔し、身もだえ、頭を抱える姿を楽しむかのようにあれやこれやの記憶を呼び起こしていく。
10年は確実に過ぎているであろう記憶を、さも昨日のことのように呼び戻してくるのだ。タチが悪いことこのうえない。
そんな性格の悪いヤツだというのに、面と向かって嫌いだということが出来ない。離れることを許さない。まるで思春期の自分のようだ。
恋しく思う相手がいる。だが決してその気持ちを伝えることなく、今までの緩やかな関係を、いつか決定的な終わりが来ることを見据えていながら、大事そうに抱えている。かなりマゾな人間なのかもしれない。
劇的な変化を望まず、もし自分を取り囲む環境に何かがあれば、喜んでその変化を受け入れる。こう考えているからだ。
終わりが来れば、全ては過去のものとなる。いくら失敗をして、後悔や反省があろうとも、あの時の気持ちが打ち砕かれたという事実は無く、自分のつくり上げたものとして記憶に残り続ける。私は未来において、汚れたものを持ちたくはない。
身分相応。
分際をわきまえる。
自分の事を好きである(と考えている)あの人は、そういう意味で好きだと受け取っているわけではない。
思い上がりも甚だしい。
そうして自分は性的に未経験であるどころか、異性と交際した経験も持たないまま、アラサー世代に片足を沈め始めている。
それでいいのかもしれない。自分はもう、形成された人格という点で、おそらく手遅れになっているのだろうから。
夜闇に響くミミズクの声を聞きながら、少し冴えてきてしまった自分にまたアルコールを流し込む。
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