第2話 人工衛星を見た

 ホタル族というのは、ベランダや玄関先や、その他自宅の敷地内には立っているものの、屋内では喫煙をしない人々のことを、短命な煙草の先端をホタルのように薄明るく光らせては煙を吐き出している人々の事を、そう呼称しているのである。

 例に漏れず、私もホタル族だ。

 もう軽犯罪法の時効であるからここにも書けるが、私は高校2年次に喫煙を始めた。理由としては思春期特有の閉塞感や、身の回りのものではもはや自分の可能性を見いだせなくなりつつある焦り、様々なものがあった。あったが、まあとにかく喫煙を始めたのは高校の2年次である。

 当時でも既にいわゆる非行少年やヤンキーなどという言葉は死語になっていたが、世間に反感を持つこととは理由を別にして、煙草を吸う少年少女というのは、在学している高校では100人に1人くらいの割合で存在していた。誰かと集まるのが楽しいからとか、同じ意識を共有したいなどという一括りに出来る理由では――少なくとも私のする軽犯罪を犯すマヌケ全員が――無かった。

 それぞれ理由が違った。

 ゆるやかな自殺を選ぶしか選択肢がない者。

 そうして他者と一線を引き、無理やりにでも一人の時間を作ろうとする者。

 「大人ばっかりずるい」という安易な者。

 酒だけでは飽き足らず、という貪欲な者。

 そして私は2つめに分類される「独りで考える時間が欲しい」と考える若造だった。

 このカクヨムに掲載しているものは、全て煙草を吸いながら考えて書いた物を、当時アットノベルスにて掲載していた状態からいくつか誤字を訂正して載せている。大学にも行ったは行ったが、空いた時間は文字通りの自慰行為か喫茶店でコーヒーを飲みながら数少ない友人と語り合っていたかだった。ろくでもない日々である。だが下卑た一部を切り取れば、純粋に愛すべき青年の1ページとなるだろう。

 そうして就職活動には失敗し、契約社員として採用されんがための研修アルバイトに取り組んでいる。


 まったく、やってられん。


 そう考えながら、頬を赤く染める程に酒をあおり、心底その思いに尽きながら、玄関先に出て短命なホタルと共に命を縮めていた。

 我が家は都市部とは程遠い、里山を背にした田舎にある。雲のない日に夜空を見上げれば、月が明るく出ていても夜空の星々を眺めることができる。

 そんなとき、動く星を見た。流れ星ほどは珍しくない。飛行機でもなく、流れ星でもない。一定の光の強さでゆっくりと頭上を横切り、いくつかの星を通過していった。数か月ぶりに見た、人工衛星が飛んでいる瞬間である。

 何を考えているわけでもなかったなのに、少しうれしくなり、少しだけ悲しくなった。


 おっ、久々の人工衛星だ。

 星をまたいで飛んでいるのに、自分はいつまでも同じところにベッタリ。


 来世は星にでもなろうかと考えたのだった。

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