第二ー十二話:第五試合(前編)
フィールドが炎で赤く染まる。
その中で赤と銀が舞う。
互いの相棒がぶつかり合い、精霊たちが舞い、バトルは続いていく。
☆★☆
――数分前。
「本当に、悪かった」
謝る
「ルイナが居たから良かったものの、いなかったらどうしてたつもりなの」
「本当に面目ない」
ルイシアに言われ、頼人は肩を落とす。
頼人の暴走が止まり、何とか誤魔化せたのは、ルイナが妖刀にお話し|(?)したのと、ルイナの愛機が妖刀の力を抑えている間に、彼を無理やりフィールド外に蹴り飛ばしたおかげだ。その上、
「でも、かなり痛かったぞ」
頼人が壁にぶつけた部分を
ルイナのおかげか、頼人の暴走は止まったものの、彼女が手出ししたため、第四試合は本部側の勝利となったのだ。
「痛くなかったら意味ないじゃない」
ルイナは言う。
「さ、ルイナも」
「分かってる」
罠の撤去班が下がり始め、ルイシアに促されたルイナは同じくフィールド上にいた銀と対峙する。
『それでは、始めたいと思います』
ルイナと銀を確認したルカが告げる。
そして、第五試合が開始された。
――のだが、二人は動かない。
「協会祭の打ち合わせ以来だな」
「そうですね」
ルイナは同意する。事実、それ以外では会っていないのだから。
ふわり。
ルイナの周りを何か光るモノが飛んでいる。
それに目を細める銀。
「それは何だ?」
「分かって聞いているんですか? それとも、本気で聞いているんですか?」
以前の銀ならファイアとウォーティの二人を、光状態でもすぐに分かっていたはずだ。だが、それを聞くと言うことは、あえて聞いているのか、本気で分からずに聞いているのか、という二択しかない。
(うわぁ、いきなり心理戦ですか。先輩)
そう思うルイナに対し、あくまで言う気はないらしい、と理解した銀は聞くのを止め、攻撃態勢に入る。
それを見たルイナは受け身体勢を取り、すぐに避けられる準備をする。
(先輩の初手、避けきれたこと無いからなぁ)
試合が進み、対戦していくうちには避けられるのだが、初手だけは何故か避けられなかった。
「先輩と対戦するのって、いつ以来でしたっけ?」
「そんなことは忘れた」
互いに動く気配はない。
誘導しようにも、銀は必要最低限にしか口を開かないため、今のように返されて、会話終了なんてことは
そんな二人を観客席から見ていた茶髪の男は、内心で嘘つけ、と呟いていた。
彼女の兄であるルカ以上に心配し、ツインに送った後も何だかんだでストーカーみたいなことをしながら、彼女を見ていたのを茶髪の男は知っていた。
(伝えればいいのに)
何度も同じ事を思ったのだが、それでも言わないのは、本人が一番分かっているから。
そんなことを露知らず、睨み合いを続ける二人。
「さっさと攻撃するならしてください」
ルイナの言葉に、攻撃態勢を解く銀。
それに訝るルイナに、銀は溜め息を吐く。
「この俺が、お前程度の相手に、本気を出すと思っているのか?」
「まさか。私も先輩も、本気出すなら魔術師バトルで出すに決まってるじゃないですか」
笑みを浮かべて言うルイナに、左手で相棒を持ち、銀に向け、右手には白い光。
「でも、私もツインに行ってから、かなり経ちますからね。今まで通りだとは思わないでくださいよ」
様子を見るためなのか、白い光がゆっくりと銀へ飛んでいく。見ていた面々はそのことを疑問に思うも、銀は警戒心を解かずにそれを見ていたのだが、次の瞬間、白い光は銀の目の前で弾ける。
「っ、」
次々と似たような
「何なんですかね、あれ?」
本部側では、
「ルイシアは何か知らないのか?」
ツイン側では頼人がルイシアに尋ねるが、視線を返されただけで、答えは返ってこなかった。
ルイナが行ったことで、少し変わったことといえば、彼女が相棒の先を地面に向けているだけであり、それ以外は白い光が銀へ向かっては消えを繰り返している。
「こんなことをして、何が狙いだ?」
様子を見ていたらしいが、体にも特に異常はないため、痺れを切らせて銀はルイナに尋ねる。
「狙いですか? さあ、何でしょうね」
「答えるつもりは無さそうだな」
ルイナの様子から、聞くのを早々に止めた銀は、その手に赤い光を出すと、ルイナが放ち続ける動きの遅い白い光にぶつける。
その次の瞬間、爆発が起き、フィールドには火が噴き、爆風も吹き荒れる。
「ルイナ!」
「銀!」
ツインと本部の面々が腕で顔を覆いながらも、二人の名前を呼ぶ。
「っ、」
爆発の衝撃を受けてフィールドの端にまで飛ばされたルカは何とか起き上がり、二人に近い部分へと戻ってくる。
「あー……やっぱり無事でしたか」
「そういうお前も無傷だろ」
互いに防壁で衝撃を防いでいたらしい。
「まあ、そうなんですが」
ルイナは苦笑する。今のを防がないと、自分で挑発紛いのことをしておいて、場外に吹き飛ばされるところだった上に、火炎系に近い爆発だったことで、対火炎系の防壁を張るために、ファイアにも協力してもらったおかげで、本来受けるはずのダメージをほとんど相殺することが出来た。
「でも――」
ルイナは笑みを浮かべる。
「油断大敵」
「っ、」
ヒュン、とまるで首を狙ったかのように、剣の姿をしたルイナの相棒が銀の視界の角に映る。
それを間一髪で避けたから良かったものの、一瞬で近付いてきたことにすら気づかなかった。
そして、いつの間に間を取ったのか、ニコニコと笑みを浮かべるルイナ。
「どうでした? ひやりとしました?」
「……ああ」
ルイナの問いに、銀は素直に頷いた。
ルイナが早いのは銀も知っていたが、今のはそれ以上だった。
「ツインでの時間を無駄にしてなかったらしいな」
「そうですね」
銀の言葉に、ルイナは笑みを浮かべるのを止める。
「でも、一度見たからには通じないぞ」
「分かってますよ、そんなの」
自分の世話係のような人だったからよく分かる。
だからこそ、勝つためには、こういうときにあまり使いたくない手も使う必要がある。
ルイナの髪がふわりと揺れ、銀は目を一瞬だけ見開くが、すぐにいつも通りの目に戻った。
(赤い気が、見えた)
ルイナを覆う炎のような赤い気。彼女の目も一瞬だけ、真紅に見えた。
(これは、油断できないな)
本部に不在の数年間、彼女が得た実力は予想以上らしい。
(もし、予想が当たっているのなら……)
少しばかり、本気になる必要があるのかもしれない。
そして、銀は思う。
その
「だが、そっちが得た実力を少しでも見せたからには、こっちも見せないとフェアじゃないよな?」
銀の言葉に、ルイナの相棒を持つ手に力が入る。
「何言ってるんですか。貴方に本気出されたら、私に勝ち目は無いじゃないですか」
「その言葉、そのままお前に返してやる」
「あはは、まあ先輩が本気出すなら、覚悟ぐらいはしておきますよ」
苦笑いしながら言われた台詞に、銀は魔法を発動するために魔法陣を展開する。その魔法陣から現れた
「火属性の魔法!?」
ルイシアがそう言いながら、驚いたように立ち上がる。
「本っ当、会わなかった時間が長い分、互いに得た能力が把握しきれない上に、どこまで扱えるのか分かったもんじゃないですね」
ルイナとしては、ファイアに力を貸してもらうつもりだったのだが、銀が火属性の魔法を扱えるとなると、ファイアが司る火属性はほとんど無意味になる。しかも、ルイナ自身が言った通り、銀がどのくらいまで攻撃したり防げたり出来るのかが分からない以上、迂闊に手出しができない。
よく見れば、青白い炎がいくつかある。
(青白い炎……しかも、これだけの数って……)
ルイナも出せないことはないが、それでも出せるようになるまでに時間が掛かったはずだ。
「ファイア」
小声でその名を呼べば、小さな赤い光がルイナへと寄っていく。
「防ぐよ」
それを聞き、光は小さく頷く。
(青白い炎だけでも防ぐ)
たとえ全て防ぎきれなかったのだとしても、青白い炎だけは何とか防ぐことを決めるルイナ。
一方で、ルイナが何かを決めたのだと理解した銀は、彼女に向かって青白い炎を含めた火属性の魔法で攻撃を開始する。
「行け」
そう言って、銀から放たれた青白い炎を含んだ火の魔法は、ルイナにそのまま向かっていく。
「“炎熱遮断”」
出現させた赤い障壁で、銀の攻撃を防ぐルイナ。
「だが、全て防ぎきれるか?」
ぴき、と障壁からヒビが入るような音がする。
「……やっぱり、耐えきれないか」
予想通りというべきか否か。思った以上に銀が放った魔法の攻撃力は高いらしい。次の瞬間にはパリンと音がし、障壁の一部だった破片がルイナの足元に落ちる。
それを見て、避けられないことを理解すると、小さく溜め息を吐く。
「ファイア、ウォーティ」
『はい』
『任せて』
ルイナの言葉に、頷く精霊たち。
そして、障壁は壊れ、魔法がルイナに降り注ぐ。だが、誰も気づかない。障壁が完全に壊れ、魔法が降り注ぐ瞬間、ルイナが小さく笑みを浮かべていたことを。
「ルイナ!」
そんな彼女に気づかず、目に見えて焦る頼人がその名を叫ぶ。
直撃だと見ていた誰もが判断した上に、未だに煙に覆われて見えない彼女の身を案じたが、本部の者たちはこれで自分たちの勝利を確信した。
「大丈夫」
「え?」
ルイシアの言葉に、三人が彼女を見る。
ルイシアにしてみれば、自身と同等のルイナがそう簡単にやられるはずがないと理解しているのだが、さすがに今のは
「っつ……」
次の瞬間、ルイナとその場を覆っていた煙が吹き飛び、赤と青の障壁の中で、彼女は
この世界には魔法がある。
魔法があれば、属性もある。
真紅の髪と眼、黒い花びらの様な髪留めで髪を纏め、赤い装束に身を包んだ彼女は、その身に傷一つ負うことなく、その場に立っていた。
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