第二ー六話:第三試合(前編)
「約束通り、勝ってきたぞ」
玖蘭たちの頑張りで勝利したツイン側だが、正直あれは玖蘭のお陰でも何でもない。
「あ、うん、そうだね」
「分かってる。勝ち方が微妙だっていうのは分かってる。だから、その可哀想な子を見るような目は止めてくれ」
微妙とはいえ、勝ってきたのに、何故そんな目で見られないといけないのだ。
くどいようだが、玖蘭は対人戦が苦手なのだ。
「でも、これで両者とも一勝一敗だな」
「次は誰が行くの?」
さすがに責めすぎるのも良くないと
「私」
そう言って、立ち上がったのはルイシアだった。
そのままルイシアは、フィールドに向かっていく。
「おや、てっきり男の子が出てくると思ってたんだけどね」
ルイシアが出てきたのを見て、茶髪の男はそう言う。
茶髪の男のいう男の子というのは、多分、頼人の事だろう。
一方、ルイシアに対応するように、本部側は大量の情報を持つという
「さっくらちゃーん!」
茶髪の男は声を掛けるが、声を掛けられた
「あら、先輩がお相手をしてくださるんですか?」
「そうだね。後で出てきたのはそっちだけど」
やや偉そうに尋ねる桜に、ルイシアはそう返す。
「それにしても、随分とまあ余裕なんですね」
挑発のつもりか、そう言う桜に、ルイシアは溜め息を吐いた。
「挑発、か。悪いけど、そのパターンは飽きた」
「なっ……」
ルイシアの言葉に、桜は少なからずダメージを受けたらしい。
まだ試合開始すらしていないのに大丈夫か、とルイシアは彼女が心配になった。
(いや、私が変なのか)
ルイナと付き合っていると、自分もどんどん変になるのは分かっていた。
ルイシアはルイナたちを一瞥する。
(ルイナは気づいているのか否か)
自分の異常さに。
(さて、彼女には悪いが、さくっと勝とう)
武器は出さない。
(私は『歩く百科事典』なのだから)
知識で対抗しよう。
☆★☆
『それでは、第三試合、試合――開始!』
ルカはスタートコールをした。
「先制は私が貰います!」
桜が自信満々にルイシアへと攻撃するが、ルイシアはあっさりと避ける。
「ちょっ、避けないでくださる!?」
何故か避けられて怒る桜に、ルイシアは溜め息を吐いた。
「何で避けられると分かってるのに、自分から進んで当たりに行かないといけないのよ」
「うっ、それは……」
たじろぐ桜に、ルイシアは続ける。
「それに、本部の情報通なら、私がどんな魔法を使って、どんな戦闘方法をするのかぐらい把握しておきなさいよ」
「そ、そんなに記憶できるわけ無いでしょ!?」
ルイシアの言い分に噛みつく桜だが、それは
「それでも、貴女たちはツイン側の情報を見れたでしょうが」
再度、溜め息を吐く。
ルイシアが今言った通り、この『持ちかけバトル』の出場者のリストは、本部側から見ることは可能だが、何故かツイン側から見ることが出来ないという一方通行仕様になっていた。
そのため、ルイシアが取ったのが、ハッキングやクラッキングなどの方法による情報の取得である。
運が良いのか悪いのか、今回の『持ちかけバトル』の各対戦者の能力や使用魔法、戦闘方法までルイシアは把握していた。
そしてもちろん、目の前にいる桜も例外ではない。
(さくっと勝つとは言ったが、予定変更して少し遊んでやろう)
笑みを浮かべたルイシアに、桜は嫌な予感しかしなかった。
☆★☆
ルイナたちは、互いの情報を武器にしている二人の戦闘を見ていた。
「大丈夫だよな?」
その様子から、ルイシアを心配する頼人に目を向けたルイナは言う。
「あら、何も問題ないわよ? ルイシアの持つ情報量は彼女よりも多いんだし」
情報量がどう関わるんだ? と首を傾げる頼人に、そういえば、と玖蘭は言う。
「俺も、あいつが負けたところは見たことがないな」
私も、と美波も同意するが、それを聞いたルイナは溜め息を吐いた。
「
『負けた』と『負ける』のでは微妙に違う。
そして、ルイナが思うのは、自分はルイシアに勝てたことがあっただろうか、ということだった。
模擬戦をやっても、ほとんど引き分けだったり、制限時間付きのもので、時間切れになり、決着が付かなかったりする。
果たして、制限時間もなく、正々堂々の全力全開でルイシアと戦ったら――
(私は、ルイシアに勝てるのかな?)
そう思いながら、ルイナはルイシアの試合に目を向けた。
☆★☆
いろんな魔法がフィールドを飛び交う。
「ちょっ、避けないでくださる!?」
「避けないと、ケガするじゃん」
先程から同じ事しか言っていない。
この子は理解力が無いのか? と怪訝するルイシアに、彼女の持つ情報量を実は知っていた桜は、次々と攻撃を仕掛けていく。
だが、明らかに遊んでいます、と言っているのが丸分かりの態度で、ことごとく避けられていた。
肝心のルイシアは、今のやり取りに桜の心配をしたり、ややデジャヴを感じながらも、桜の攻撃を次々と捌く。
(大抵の攻撃パターンは、ルイナとの模擬戦で経験済みだしなぁ)
しかも、先の試合――美波と玖蘭の試合で行われた戦闘方法はすでに記憶したルイシアは、その対処法もいくつか割り出していた。
その中からいろいろと思案しながら、ルイシアは桜への攻撃を命中させる。
「――っ!」
一方、ルイシアの攻撃は当たるのに、自分の攻撃は一つも当たらないことに苛立っていた桜は、ムキになり始めていた。
「でーすーかーらー、避けないでくださる!?」
「避けてない。捌いてるだけ」
ルイシアはそう返すが、どう伝わったのか、桜は苛立ったように攻撃を始めた。
「お嬢様っつーのは、みんなこんなんなのかね」
溜め息を吐きながら、ルイシアは桜の相手をする。
(いや、違うか)
皆が皆、桜のような性格ではない。
ルイシアの知る『お嬢様』の中には、桜と真逆のタイプもいたのだから。
(さて、どうしたものかね)
彼女を倒すには、精神攻撃が一番良いはずだ。桜のためにも、協会のためにも。
(いや、協会のため、は今更か)
協会に所属する職員等の中で、ツインに送られた子息令嬢も少なくない。
だが、協会はそれを上手く隠しているのか、ほとんど苦情は来たことがない。今だって、この騒動がどんな風に伝わっているのか、分からない。
そもそも、この『持ちかけバトル』も報復が目的ではない。
運が良ければ、誰かを本部へ帰すのが目的だ。
最終的な目標は、『今のような扱いをされる』ツインではなく、ツインが出来上がった『一番最初の頃の目的』のためのツインの復活だ。
だからこそ、暴力沙汰以外の者たちは、よく考える必要があるのだ。
仕事でのミスなんてどこにでもあるし、ルイナやルイシアのような特例組なんかは、特に戻っても問題が無さそうな者たちばかりだ。
別にルイシアは桜に恨みがあるわけじゃない。
でも、この勝負に勝たないと条件は受け入れてもらえない。
「……んで、何で、当たらないのよぉぉぉぉお!!」
桜が叫んだ。
余程、ルイシアに避けられっぱなしが嫌だったんだろう。
(やれやれ、負けず嫌いが早くも我が儘に変わったらしいな)
ルイシアは溜め息を吐いた。
いくら何でも一方的なのは可哀想だからと、ルイシアは桜にヒントを与えることにした。
「じゃあ、私に当てるヒントをあげる」
「ヒント、ですって!?」
怪訝する桜に、うん、と頷くルイシア。
「ヒント、私と私の周囲をよく見てごらん」
「周囲……?」
ルイシア自身だけならまだしも、周囲とはどういうことだ、と桜は訝りながらルイシアとその周囲を見る。
「……」
そんな桜に苦笑いするルイシア。
「あのさ」
「何よ!」
話し掛ければ、噛みつかれる。
余程真剣に見ていたらしい。
けれど、これは自分だから良いのであって、他人だったら彼女はどうなっていたのか分からない。
だから、ルイシアは教えることにした。
「真剣に見すぎ。隙を付かれて攻撃されても文句は言えないよ」
「わ、分かってます!」
桜が赤くなりながら反論する。
「それに、バカ正直に対戦者の言葉を信じるな。相手を見るって事は、相手に隙を与えるのと同じ」
「……っ、」
正論を言われ、顔を赤くし、顔を引きつらせるという器用なことをする桜。
「それは、つまり、私がバカだと、言いたいの!?」
「いや、さっきのは忠告であり、褒め言葉だよ」
桜の言葉にやっぱり、そう思ったんだ、と思いつつ、ルイシアは微笑みながらそう言う。
「試合次第では、バカ正直な方が有利なときもあるからね」
そう付け加える。
だが、今回の場合は不利になる。相手が情報に長けたルイシアだ。相手の能力とかを理解し、対処するのがメイン。
「ヒントはもう一つ」
でもそれは、本部側――特に銀や茶髪の男を納得させてしまうものだった。
「私は、うちのリーダーの練習相手していたからね」
これは事実。それでも、遠回しにルイナと自分は同等の実力者だと、暗に示した。
ルイナとルイシアが決着付かないのも、そのせいだったりする。
勝敗が付いた勝負を数えた方が早いんじゃないのか、と思えるほどだ。
「さて、今のをヒントに、答えを導いてみなさい。獅子堂桜」
ルイシアはニヤリと笑みを浮かべた。
☆★☆
「随分と余裕だな。向こうの三番手」
ルイシアと桜の試合を見ていたリヴァリーが言う。
彼は第一試合で美波と対戦したため、余裕を持って残りの試合を見ていた。
そんなリヴァリーは
「何だ?」
「いや、銀さんがツインに送ったって言ってたから、どんな子かと思ったけど、普通そうだからさ」
そういうことか、と銀は理解する。
元々ツインに送るのは、ルイナだけのつもりだったが、何故かルイシアと一緒にルイナは送られた。
ルイナと一緒に送られたのが、兄であるルカならまだしも、何故ルイシアなのかが腑に落ちなかった。
表向きではルイナとルイシアを送ったのは銀と茶髪の男となっているが、事実は違う。銀がルイナを送ったのは事実だが、ルイシアを送ったのは銀でも茶髪の男ではない。
二人がセットだから、という理由でも送った理由にはならない。
では、誰がルイシアをツインに送ったのか。
(これは、ちゃんと調べる必要がありそうだな)
ルイシアのことだから、自分の裏情報は抹消しているだろうが、それでも桜に協力させれば、何らかの
そんな銀を見て、フッ、と笑みを浮かべたリヴァリーはフィールドを見る。
情報をメインに扱う二人だ。さすがに二戦連続で負けるのは避けたいが、桜が先輩であるルイシアに勝てるとは思えない。
(いや、これは
本人が聞いたら、確実に噛みついてくるだろう。
「ん? あれ、そういえば、
ふと思い、リヴァリーは尋ねる。
「ああ、それなら鞍馬を説教するために席を外す、って言ってたぞ」
本部側観客席の最前列にいた茶髪の男の言葉に、リヴァリーは顔を引きつらせる。
『絶対王者』の異名を持つアルカリートは、頼人をツインに送った張本人で、仕事における失敗を許さない人物である。
ツイン側で超人扱いされているルイナやルイシアと同じかと聞かれれば、答えは否であり、もし同じ人物を指導すれば、明らかに好かれるのはルイナたちだ。
そんな彼がツインに送られない理由は、それなりの実力者だからだ。
以前、ルイナたちが本部の者たち(といっても銀たちだが)に言ったように、戦力的にはツインに傾きつつある。
いくら気に入らないとはいえ、これ以上、実力のある者たちをツインに送り、反乱を起こされれば、本部は為す統べなく制圧されるだろう。
それを恐れて、本部は実力者をツインに送るのを控えているのだが、たとえ控えたとしても、今現在ツインにいる実力者たちは本部を上回っている上に、ツインと関わり合いになりたくない本部の者たちが知る由もない。
とは言えだ、リヴァリーとしては、鞍馬にご愁傷様、というしかない。
リヴァリーとしても、怒られるならアルカリートより銀の方がマシである。
この試合で、もし桜が負けるようなことがあれば、彼女もアルカリートの被害者となるのだが、さすがにツインに送られるのだけは免れるだろう。
ルイシアに次いでの情報通である桜をツインに送れば、情報の取得が難しくなるからだ。
「さて、どうなることやら」
リヴァリーはもう少し、様子を見ることにした。
☆★☆
「ぐぬぬぬ……」
「こらこら、お嬢さんがそんな声を出しちゃダメでしょうが」
フィールドでは相も変わらず、ルイシアにより、ヒント(と呼べるかどうかはともかく)を与えられた桜が、唸るようにルイシアを見ていた。
とはいえ、ルイシア自身もじっとしているだけでは、時間も体力も
「“
雷属性の初級魔法をルイシアは放つ。
「っ、ちょっと!」
ルイシアの雷が桜の頬を掠り、それに気づいた桜が噛みつく。
「……」
だが、ルイシアは頭を抱えた。
「油断大敵。情報や探知するなら、全方向にアンテナを張る。そうしないと、今みたいに不意打ちされても文句は言えない」
それを聞いた桜は黙る。
(何で……何で、ここまで……)
今この場でルイシアがやったのは試合ではなく、先輩が後輩に教えるという行為だ。
何故そうしたのかは分からないが、桜としてはやるならわざわざこの場でする必要がない、と思ったのだ。
だが、自分たちは本部とツインに所属だ。ルカや銀のように、ツインに所属しているルイナたちと関わる者たちも居るが、その大半はツインと関わろうとしない。
「アンテナは――」
そこで桜はハッとした。
「全方向に張れって、言ったでしょ?」
バチィッ!!
桜に向かって雷が降るが、桜は慌てて避ける。
「“
振ってきた魔法の名前を呟く桜。
そこから慌てて周囲を見渡す。
(目の前にいる先輩には魔法を放った形跡はない。だから、きっと……)
フィールドのどこかにいるはず。下は無理だから――
「上!」
「正解」
自身を見上げた桜に対し、ルイシアは満面の笑みで正解と告げた。
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