第二ー四話:第二試合(前編)


「……ごめん」


 美波みなみは謝りながら、四人の元に来る。

 第一試合は美波の負けで終了した。


「いいよ。無事だったんだし」

「ああ。その分、俺が勝てばいい」


 頷くルイナに、玖蘭くらんはフィールドに立つ。


(正直、戦う気は更々無いが――)


「やるからには勝つ」


 そう決めた玖蘭の前には――


「よぉ、久しぶりだな」


 美波と同じように自身をツインに送った人物、新崎にいざき鞍馬くらまだった。


「おいおい、返事も無しかよ」

「…………どうも」


 そんな鞍馬くらまの言葉に、玖蘭は間を空けて返す。


『それでは、第二試合を開始します。両者、準備はいいか?』


 拡声魔法を使い、ルカは二人に尋ねる。


「構わない」

「ああ」


 それぞれ頷き、返事をする。


『それでは、第二試合。試合開始!』


 ルカにより、スタートコールがされる。


「先手必勝!」


 そう言いながら、先に攻撃したのは鞍馬。

 それを余裕を持って、玖蘭はかわす。


「へぇ、避けるんだ」

「当たり前じゃないですか」


 鞍馬の言葉に、玖蘭は淡々と返す。


(そもそも、俺のは対人戦には向かないんだよ)


 そう思いながら、次々と躱していく。


「あ、そういや、お前の能力は対人戦に不向きだったよな」


 鞍馬の言葉に、玖蘭は舌打ちしたくなった。

 分かっていて、何故それを今言うのか。


「ほらほら、掛かって来いよ」


 玖蘭は歯を食いしばった。

 自分の能力が戦闘向きでないため、嫌々ながら試合をしていた玖蘭に、鞍馬は玖蘭を本気にさせるために、挑発をする。


「対戦相手に挑発とは、随分変わりましたね。先輩」


 だが、それを分かっていた玖蘭は、挑発それには乗らなかった。

 それが気に入らなかったのか否か、鞍馬は不機嫌そうな顔をする。


「おい、それは誉め言葉のつもりか? それとも――」

「挑発に決まってるじゃないですか」


 鞍馬の言葉を遮り、玖蘭は告げる。

 ツイン側としては、一勝でもしておきたい。

 それに、今自分が負ければ、後半に控えるルイシアや頼人、ルイナの勝利が絶対条件となる。


(なら、俺は勝たんとマズいよな)


 少しでも、三人の負担を減らすためだ。


「……」


 一方で、考える仕草をし、玖蘭を見ていた鞍馬は、徐々に攻撃の手を変えようとしていた。


   ☆★☆   


「なあ、玖蘭の能力って、何なんだ?」

「あ、私も知りたい」


 頼人よりとが尋ねる。

 そんな彼の質問に、美波も私も、と話に加わってくる。

 普通なら、頼人のように、ツインに来たばかりの者は、他のツインに所属する者たちの能力は知らないことが多い。

 だが、美波のように、所属していても、たとえ同級になったとしても、知らない場合がある。

 それに対し、ああ、とルイナとルイシアは頷く。


「玖蘭の能力はね、『幽霊妖怪退治屋ゴーストハンター』なの」

「『幽霊妖怪退治屋』?」


 頼人と美波が、二人して首を傾げる。

 それに頷き、ルイナが言う。


「基本的には、悪霊退治などが目的らしくてね。対人戦向きじゃないらしいの」

「つまり、陰陽師みたいなものか?」


 説明を聞けば、そう思っても仕方ない。

 事実、玖蘭の戦闘服もそれらしい格好なのだから。


「それなんだけど、本人は否定しているのよねぇ」


 以前、ルイナたちも今の頼人のように言った際、否定された。


 それは違う、と。


「だから、多分違うんじゃないのかな」


 どこがどう違うのか分からないが、玖蘭が違うと言うのなら、違うのだろう。

 そして、四人はフィールドを見る。

 未だに鬼ごっこが続いていた。

 鞍馬が魔法を放ち、玖蘭が逃げる。


「逃げ回るねぇ」

「そもそもが対人戦向きの能力じゃないからね。玖蘭にしてみれば、対人戦は貴重なんだよ」


 玖蘭の戦闘の様子を見たルイナたち四人だが、それでも戦おうとしない玖蘭を見つつ、ルイシアはそう言いながら、今までのデータから玖蘭が勝利できる方法がないか探っていた。

 そして、その方法を、ルイシアは見つけた。

 そっとフィールドに目を向ける。


(多分、玖蘭のことだから、分かってるんだろうけど……)


 玖蘭のことだから、きっとその手は自分から使わない。

 ルイシアはそう感じていた。


 一方、審判をしていたルカは、視線で二人の姿を追っていた。


(勝つ方法があるのに使わない、か)


 そう思いながら、二人の試合を見ていた。


   ☆★☆   


「いつまで逃げ回るつもりだ?」


 鞍馬に尋ねられ、玖蘭の足が止まる。


「……」


 だが、玖蘭は無言だった。


「それとも、何かの作戦か?」


 ニヤリと笑みを浮かべる鞍馬に、玖蘭は言う。


「かもしれませんし、違うかもしれません」


 鞍馬は怪訝な顔をする。

 玖蘭は鞍馬に目を向ける。


「貴方が俺をツインに送った理由と同じでね」


 鞍馬だけでなく、ルイナたちや本部側、観客席の者たちは目を見開いた。


「本部を出て行く際に言われた言葉は、今でも覚えてますよ」


 玖蘭はそっと息を吐いた。


「『お前の能力は無意味だ』ってね」


 玖蘭は淡々と告げた。






「やっぱり、本部の奴ら……!」

古月ふるつきさん!」


 美波が立とうとすれば、ルイナが止める。


「でも……!」

「今私たちが出て行けば、玖蘭の負けは決定よ」


 それでも何か言おうとする美波だが、ルイシアの言葉で腰を下ろす。


「っ、なら、どうするつもりだ?」


 頼人は尋ねれば、ルイナは返す。


「大丈夫。玖蘭に任せれば」


 と――






「無意味は言い過ぎじゃないですか?」


 肩を竦めて言う玖蘭に、鞍馬は言う。


「俺、そんなこと言ったっけ?」

「ああ、覚えてるわけないですよね」


 首を傾げる鞍馬に、玖蘭は言い放つ。


「だって、貴方。悪霊に記憶を奪われた・・・・・・・・・・んですから」

「…………は?」


 鞍馬は変な声を出した。

 だが、玖蘭の説明は続く。


「記憶を奪われたっていうより、体丸々乗っ取られていたから、覚えてるはずもないんですがね」

「でたらめなことを言うな! あの時、悪霊などいなかったぞ!」


 鞍馬は叫んだ。


「見えなくて当たり前ですよ。先輩、霊感無いんだから」


 が、あっさりと玖蘭が種明かしをした。


「霊感、だと……?」

「何と説明すればいいんですかね」


 本当に困ったように、玖蘭は唸る。

 そして、納得したのか、一人頷いた。


「そうだなぁ……例えば、精霊が目視できる、とか」


 玖蘭はそう言った。


「精霊……?」


 怪訝そうな鞍馬に、玖蘭は内心で付け加える。


(うちのリーダーのような契約者とか、ね)


 魔力はそうだが、この世界には、霊力がないわけではない。

 実際、玖蘭のように霊力を持ち、悪霊や妖怪を倒す職業の者たちがいたのだから。






「あ、思い出した」

「何を?」


 唐突に思い出したと告げたルイナに、ルイシアが尋ねる。


「いやさ、本部で悪霊云々って聞いて引っかかっていたんだけど……玖蘭がツインに行くときだったんだね」


 納得した、と言いたそうに、ルイナは言う。


「そういや、お前んとこ、精霊契約者がいたな」

「ああ……それは、母さんだけどね」


 頼人の思い出したような言い方に、やや視線を逸らしつつ、ルイナは肯定した。


「それで?」

「ん?」

「悪霊云々の話」


 ルイシアに尋ねられ、ああ、と頷いた。


『あの時、びっくりしたよ』

『そうそう。私たちはルイナ様を守るのに必死だったし』


 あの時は疲れたよ、とファイアとウォーティが言う。

 それに苦笑いしつつ、ルイナは説明する。


「まあ、最初は真っ黒いモノとしか認識できなかったんだけどね」


 それでも覚えている。

 玖蘭の放った式神に助けられたということを――





「せっかく助けたのに、貴方は俺をツインに送った」


 この場で実力を示せば、送られずに済む。

 あの時はそう思った。

 けれど、今はそれを後悔していない。

 玖蘭は目を閉じる。


「正直、感謝してますよ。本部ここより居心地は良かったですから」


 そして、そっと目を開き、玖蘭は鞍馬を見る。


「――っ、」


 そんな彼に見られた鞍馬は、目を見開いた。

 鞍馬は――いや、この場にいた者たちは、自分の目を疑った。


 玖蘭の背後には、式神がいた。

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