第二話:ルイナとルイシア


「知り合い?」

「みたいだな」


 尋ねる友人たちに、玖蘭くらんも首を傾げる。


「今日、来るのは聞いていたけど、頼人のことだったんだ」

「さすがに頼人よりとはこっちに来ないと思ってたからね」


 ルイナと呼ばれた少女はそう言いながら、扉から手を離し、体を起こす。

 硬直から解けたのか、ルイシアと呼ばれた少女もそれに同意するように頷く。


「こっちは二人がいることにビックリしたぞ」

「でしょうね」


 会ってもないし、言ってもないし、とルイナは言う。


「頼人? 知り合いだったのか?」


 横から玖蘭が頼人に尋ねる。


「ああ、幼馴染だ」

「は?」


 クラスメートたちは自身の耳を疑った。

 今、幼馴染って言ったか?

 ルイナとルイシアは苦笑いしてる。


「家が近所だったからな」


 つまり、同郷者でもあるわけで。


「あのな、頼人」


 このタイミングで言うのもどうかと思った玖蘭だが、頼人も知っておくべきだと思い、話すことにした。


「案内の時の話の続きだが」

「ああ! でも……良いのか?」


 玖蘭の言葉で、思い出したようなリアクションする頼人だが、案内の時より人目があるここで話していいのか尋ねる。

 ルイナたちはルイナたちで、くっくっ、と笑いを我慢しているようだった。

 そして、指でオーケーを示す。

 それを見た玖蘭が溜め息を吐けば、今度はクラスメートたちが苦笑いした。


「いいんだよ。変えた本人たちがそこにいるから」

「は……?」


 本人たち・・? と頼人は怪訝そうな顔をする。

 そして、ようやく気付く。

 歓迎会ならクラスメートが全員この部屋にいるはずだ。

 だが、自分たちより後に来たのはルイナたちだけ。

 しかも今、玖蘭は変えた本人がそこにいると言った。


 それはつまり――


「ルイナ?」

「何?」


 頼人が声を掛ければ、ルイナは首を傾げる。

 それを見た頼人は溜め息を吐いた。


「お前かよ。俺を呼んだのも、玖蘭を案内役にしたのも」

「はい、せいかーい」


 頭を抱える頼人に、よくできました、とルイナはパチパチと手を叩く。


「でも、残念」


 隣でルイシアがそう告げる。


「そういや、二人一緒だったな」


 ルイナとルイシアは基本的に二人一組セットだ。

 たとえバラバラになったとしても、大抵は一緒にいるのがこの二人である。


「うん。それで大正解」


 ルイシアは頷いた。


「でも、頼人だから呼んだってわけじゃない」

「『一度の失敗でのツインへの追放』。これを特殊事例としないでどうするの?」


 ルイナとルイシアはそう告げる。


「私たちの時もそうだけど、頼人のは説明次第で解決できるからね」


 言われれば、その通りである。


「まあ、相手が納得すれば、だけど」


 ルイナは何とも言えない笑みを浮かべていた。


「それで? 二人が呼ばれた理由は何だったんだよ」

「あ、そうだ」


 クラスメートたちが思い出したかのように尋ねる。


「ああ、協会祭の件だよ」

「協会祭?」


 頼人は首を傾げる。


「頼人は協会祭がどんなものか、本部にいたから分かるよね」

「協会が街の人たちに感謝を込めてやる祭りイベントだろ?」


 うん、とルイシアが頷き、やや天井付近に映像を展開する。


「その協会祭、ツインも合同でやるんだけど……」

「毎年、本部の妨害で客が誰も来ないんだよな」


 ルイナと玖蘭が説明する。

 天井付近の映像にはその時の状況が映し出されていた。


「まあ、一昨年はそこの二人が上手く手を回したから、客は来たんだが――」


 それが本部の逆鱗に触れたのか否か、翌年――つまり去年の協会祭は参加すらさせてもらえなかった。

 玖蘭の言葉に、頼人は固まった。

 本部とツインでそのようなことが起こっていたのだと、頼人は初めて知った。

 そんな頼人を見て、面々は仕方ないよな、と思う。

 本部の者たちはツインと関わることを嫌う。

 たとえ嫌っていなかったとしても、関わればツインに飛ばされるのは目に見えているため、関わろうとしない。

 誰だって、我が身が可愛い。


「協会祭で呼び出しってことは、今回は参加できるのか」


 ルイナとルイシアは頷く。

 けれど、去年の件もある。

 二人だって、用心はしていた。


「でも、条件付きだけどね」

「条件?」


 面々は首を傾げる。


「条件は二つ。一つ、協会祭で行われるバトル大会への出場」


 そこでの成績次第では、本部に戻ることが出来る。


「二つ、客寄せは禁止」

「はぁっ!?」

「何それ!」


 面々は叫ぶ。


「客寄せっていうよりは宣伝ね。正しくは『出し物の宣伝は禁止』」


 ルイシアが訂正するが、怒りからか、ほとんどが聞いていなかった。


「んで、今から話すことは、ツイン内のみで留めておくように」


 怒っていた面々もルイナたちの方を見る。

 面々の様子を確認し、二人は言う。


「その協会祭の打ち合わせのため、本部へ行くことになった」


 天井付近の映像を消しながらのルイシアの言葉に、面々は固まる。


「ついでに本部の様子は見てくるけど、あんまり期待しないでよ」


 ルイナの言葉に、面々のテンションはやや下がる。

 いくら二人とはいえ、限界もある。

 全てどころか、状況が分かれば良いぐらいである。


「それに、よくない噂も飛び交ってる。下手したら、ツインに全責任を押し付けられる可能性もある」

「なっ……」

「その調査も兼ねて本部へ行くことになったから」


 ルイシアの言葉に驚愕すれば、ルイナの言葉で再び驚かされる。


「それ、いいの?」


 訝るクラスメートたちに、ルイナは頷く。

 元はといえば、ルイナたちが送られてきた理由・・・・・・・・が理不尽なのだ。

 それを知っていたから、友人たちは心配していた。


「それに、上手く行けば、誰か本部に戻せるかもしれない」

「え……」


 その言葉に、クラスメートたちは固まる。


「いやいやいや、戻らないといけない筆頭が何言ってんの?」


 クラスメートの一人の言葉に、頼人は首を傾げる。

 玖蘭から案内されている時に、戻れるチャンスがあるとは聞いた。

 話を聞く限り、戻れるチャンスだと思っていい。

 だが、クラスメートたちは、ルイナたちが戻れという。


(一体何で、この二人がツインにいるんだ……?)


 この二人のことは、自分もよく知っているが、何かミスをすることもなければ、そもそもツインと関わりそうな二人でもない。

 だが、二人が話す気配はない。


(なら、話してもらえるまで、待つしかないよな)


 頼人は、二人が話してくれるまで待つことを決めた。


「で、でも、会うかもしれないんだよ?」


 送り主に。

 面々はハッとする。

 本部に行くということは、そういうことだ。


「大丈夫、大丈夫。みんなに迷惑は掛けないから」


 安心しなさい、とルイナは言う。


 だが、そう言った張本人たちが特大の問題を持ってくることになるとは、この時の頼人や玖蘭、クラスメートたち、そして、その張本人であるルイナたちも知る由もなかった。

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