2
「そういえば、メグの消息、つかめなくなったんですって?」
施設の屋上で椎名が煙草をふかしながら呟く。
「とんだお目付け役だな。新人か?」
「どうかなぁ。君が有能すぎただけかもしれないし」
「世辞っすか」
一緒に屋上で風にあたっていた松田が笑う。
「まぁ、俺との入れ替わりを狙って逃げたってのは考えうるけども」
実際そうだし。
「逃げられないでしょう」
松田が言う。
「そうっすね」
「お金をおろしたらそれで場所はばれる。高校生がひとりで逃げ切れるほど甘くない」
「そうっすね」
適当に生返事を返す。
「それに、逃げはしないよ。彼は」
「……そうっすね」
椎名は煙草の煙に目を細め、言いようもない気持ちを飲み込んだ。
「メグか……」
「え?」
「リナも会いたがっていることだし、そろそろ国光に顔を出してくれればいいんだけどね」
松田の言葉に椎名は首をかしげる。
「すいません。俺、リナって女知らないですよ」
――誰だそれ。
「あぁ、そっか。浅葱君はメグと楓くらいしか関わってないんだったな」
「……」
――だから、浅葱って呼ぶな。
「メグがまだ施設にいた頃、日本に送られてきたブラックカルテだよ」
「番号は」
「三」
若い。
「なんすか、その子。メグの女っすか。たらしこんでんじゃねぇか、あいつも」
「んーどうかな。ただ、少なくともリナはメグに依存してたかな」
「依存?」
「メグだけが、心の頼りだったんだろうね」
「そんなに頼りある男か? あいつ」
「あの子は、人に愛されることができないからね」
「……なんすか、それ」
くそ。たくさんだ。悲しい子供たちの話は。
***
「リナ? クリスと同じ施設にいる?」
「そう」
「理由は聞かないほうがいいか?」
ゾルバははっと笑った。
「いいよ、訊いても」
「……なんでリナの情報を消したい」
「メグになっちまう前に、忘れたいんだよ」
この言葉遣い、メグっぽいな。とドリーは思った。
「メグになったら、僕のことどう思うかなとか。考えるのに疲れたんだ」
「好きなのか」
「野暮だね」
「訊いていいといっただろ」
まぁね、とゾルバは笑った。
「リナは、メグに会いたがってる」
ドリーは目を細めた。ゾルバの瞳の奥が複雑で、読めない。
「虚しいだろ」
「…………」
ドリーは何も言わなかった。言わなかったし、何も、できなかった。
「考え直したって一緒だよ」
そう言ってゾルバは去った。
一人になったドリーは、ため息をついた。
ゾルバの不可解な行動原理、その答えに近づいている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます