8
いづみがマツリからのメッセージに気が付いたのは、部活後、家についてからだった。
「マツリ……」
ぎゅうっと携帯を握りしめる。手が震える。肩が震える。気が付くと、涙が出ていた。
――ココハ ナンダカ サミシイ デス。
こんな風に弱音を
いづみはあの日学校を休んでしまったこと。マツリが国光に行ってしまうと分かっていたのに、止めることすらできなかったこと。自分の無力さと弱さからこれ以上目を背けられそうになかった。
「帰ってきてよ……っ! 国光なんか……っ、もうどうでもいいよ!」
自室で、ひとり叫ぶ。
「化け物なんかじゃないよ……っ! ただの女の子なんだよ!」
いづみはしばらくの間、何処にもぶつけられない感情を押さえつけて泣きしきると、ぎゅっと拳を握りしめて顔を上げた。
「会いに行かなきゃ……」
このままでは窒息しそうなのだ。インターハイなんか、行ってられないほど。
***
月が昇って空中浮遊。夜は傾いで過ぎていく。
その日の夜は、冷たい床に段ボールを敷いて寝そべった。手を繋ぐことはなく、言葉を交わすこともなく。なんだか懐かしいコンクリートの呼吸を聞きながら、微妙な距離感でメグとマツリは眠りについた。
――その夜も、怖い夢を見た。
怖い、夢だった。
翌朝、鈍い日の光が差し込むと、マツリは風の音で目を覚ました。
「嵐だ」
呟いた。
雨がひどい。雨音が湿っぽいリズムを刻む。
「……メグ?」
バキバキする身体を起こしながら、メグの方に振り向くと、血の気が引いた。メグが居なかったのだ。
「メグ!」
思わず叫んだ。あたりを見渡す。だけど、彼はどこにも居なかった。額に汗が滲む。
「なんで」
手元に転がってる黄色い紙に鉛筆でメグの字が書かれていた。
――すぐ戻る。此処に居ろ。
ただ、それだけが書かれていた。
マツリはぎゅうっと歯を食いしばって、痛む心臓を押さえつけた。
「なんで、置いて行くの」
――嵐の日は、こんなコンクリートの床は嫌い。
思い出す。床につく足が冷えて行く感覚を。
思い出す。嫌いと叫んで泣く少女を。
思い出す。鼻につく血のにおいを。
思い出す。夕べの夢のことを。或る場景を。
母親は自分の手で自分の腹を刺した。はっきりと、自分の腕を曲げて刺した。
だけど、その母の手は何かに勢いよく押し返されたように、自分の腹へと跳ね返っていた。なにか大きな力で、無理やり腕を捻じ曲げられたような。そんな折れ方だった。そんなスピードだった。
……夢の話だ。
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