7
「ゾルバのことなんか知らねぇよ。あの日以来、会ってないからな」
――本当は二、三度会った。見るたびに歪んでいく彼に。
メグはポツリと嘘を吐き、男から顔を背けた。男は「そうか」と言って息をついた。きっと嘘だとバレたのだ。
「あいつは今、化け物を作るとかいうプロジェクトに参加してるらしいな」
「あぁ。適任だ、といって」
「……本当に人為的にブラックカルテを作るつもりなのか?」
「らしい」
ため息。
「その間。ゾルバは自由に町に出れるのか?」
「あぁ。それが条件だったらしい」
メグは顔をしかめて、深いため息をついた。そんなメグを男は凝視した。
「もしかして、ゾルバに会ったのか?」
ほら、嘘がばれる。
「……すれ違っただけだ」
「ゾルバは年々、
「……知ってるよ」
「会っても、何もされなかったんだな」
メグは小さな声で「ああ」と答えた。自分は何もされていない。代わりにひどい目にあったマツリを思い出し、怒りがこみ上げそうになった。
男はメグが隠した何かに気づかぬふりをすると、壁にかかった時計を見て立ち上がった。
「おっと。そろそろ帰るべきだ。此処は完全に安全ってわけじゃない。仲間じゃない国光の連中も時折出入りしてるからな」
メグも頷いて立ち上がった。
「そういや、あんたの名前は」
「大神だ」
***
夕日が赤く廃ビル内を照らし始め、眼を閉じていたマツリの顔に光があったった。一瞬眠りそうになっていたマツリははっと眼を開く。
気づけばかなり時間が経っていたらしい。マツリはあたりを見渡し誰もいないことに、安堵と寂しさを覚えて俯いた。
「マツリ」
「!」
しかしすぐにメグが帰ってきて、マツリは立ちあがった。
「おかえり」
「誰か来たか?」
「来ない」
メグはほっとして「ならいい」と言い、あたりを見渡した。そして提案をする。
「……今日、此処に泊まらないか?」
「なんで?」
マツリは首を傾げた。帰らない理由があるのか、と。
「ゾルバが自由に動いてる。どこで嗅ぎつけたか廃工場まで来た奴だ。あの辺はまた現れるかもしれねぇ」
マツリはぞくっとした。家の周りに、彼がいると思うと。
「しばらく、転々としたほうが……――」
「ホテルじゃなくていいの?」
「ハァ!?!?」
メグが突然叫んだのでマツリは眼を丸くした。
「だってカプセルホテルとか、この辺ならきっとあるよ」
「カ……ッ」
メグは少しだけ赤面し、動揺したまま言葉を数秒失うと、ふっと息をついた。
「バカヤロ……、高校生がそんなところ行くと目立つ。目立つことして、足がついたら元も子もないだろ」
「そっか」
「嫌なら嫌って言えよ」
「ううん。嫌じゃない」
メグが居る。それなら何処だって、安心だ。
「ありがとう」
「なにがだよ」
――そばに居てくれて、だよ。
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