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バシャ、バシャ、バシャ。
雨を跳ねて走る。美しいフォームの選手。傘も差さず、髪やウィンドブレーカーを濡らしながら。路上にできた川をざぶんと渡る。
「……どこ、マツリ」
いづみは息を切らして足を止め、携帯を開いた。かなり昔に一度マツリが携帯をどこかに置き忘れた際、位置情報取得のアプリケーションをお互いに入れていたことに昨日気づいた。詳細な位置情報までは取れないが、ざっくりとした場所は分かる。
マツリは廃ビルに居ると言った。周辺の廃ビルを片っ端から回ってやる。
いづみは睨むように顔を上げると、再び走り出した。
「絶対見つけるから!」
***
「また来たのか、メグ」
人気のないエントランスで、頭を掻きながら男が眠そうにメグを見下ろした。昨日訪れた国光施設にメグはきていた。閉じた傘から大粒の水滴が
「おっさん」
「大神だ。
「……悪い。ゾルバのことでもう少し聞きてぇことがある」
「あぁ」
大神は頷いて、メグを応接室に招いた。
「ゾルバ、薬飲んでいたよな」
「あぁ。そうだな」
「今も飲んでるのか?」
「詳しいことは知らないが、おそらく飲んでいる。あれがないとゾルバは体を保てないからな」
「その薬、切れたら何処に貰いに来るんだ?」
「……待ち伏せか?」
メグは黙った。それは、肯定。
「そこまでしてどうして会いたい」
それは、問い。
メグは嫌悪感を露わにした表情で俯くと、ぽつりと呟いた。
「俺を憎んだ奴は」
「ん?」
「どうしてかマツリまで傷つけようとするんだよ」
楓も。
ゾルバも。
どうして、俺ではなくマツリに固執する?
どうして、俺だけを狙わない?
そんなに憎いかよ。俺を肯定してくれる存在がいることが。
少しの
メグはそんな理不尽への怒りを堪えきれず、絶望に似た感情で押しつぶされそうだった。
「……此処だ」
酷い表情のメグを痛ましく見つめながら、大神はため息をついた。
「ゾルバは此処に薬を取りに来る」
「!」
「昨日も来た」
ぞっとした。あいつも今この街に居るんだと思うと恐ろしかった。
「それで! あいつ何処に!?」
「何処に行くかなんか、訊けやしないよ。奴の条件は『自由』だ」
「……っ」
メグは焦りを隠せず、立ち上がった。急いでマツリのもとへ戻らないと。
――嫌な予感がする。
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