6
一時停止された世界が、前触れもなく動き出した。それくらい自然に目が覚めた。
「あ、起きたかい?」
マツリは声を発さず、ゆっくりと頭だけを動かして左を見た。
「……あの」
見据えた先に居たのは、ひとりの男――メグじゃない。マツリはわずかに目を細めた。
「大丈夫、大丈夫。ただの
いや、そういう話じゃない。
「あの、此処」
「あー、久しぶりの新客だからちょっと驚いたよ。今日は別の客との約束だったんだがね」
「すみません」
とりあえず謝ってみた。そして身を起こす。寝かされていたのは簡易なベッドの上だった。
「この分だと、電話してきたの。君でしょ」
「え?」
「今日。電話したでしょ」
「……あ」
はっとした。そして確信した。
「此処、やっぱり。製造元……」
「そうそう。上の機械のね」
そう言って男は上を指差す。
――なるほど。
「工場は、此処を隠してたんだ……」
「ん? あー。そうだな」
彼は歯切れの悪い返事をした。
よく見ると、その男の容姿は声と比べて随分老けていた。美系ではあるのに、
マツリの警戒するような目線に気づいたのか、彼は息をついて名乗った。
「俺は
「あ、私は……」
「
「!!」
反射的にマツリは身構えた。
「身構えなくても良い。国光に誘拐されたマツリちゃん?」
「どうして……」
彼――大神はふっと笑って、黙った。
「あっ……! メグは……っ」
はっと思い出して、立ち上がった。混乱していて気付いていなかったが、メグがいない。
「ん? メグ?」
「一緒に、此処に来たんです……!」
「残念ながら、此処にゃあマツリちゃんひとりで落ちてきたよ」
「え?」
急いで天井を見上げた。しかし穴なんてない。
「……あの、私どこから……?」
ここでようやくマツリは冷静にあたりを見渡した。そこは窓ひとつない密室で、明かりは暖色の照明と、机の上の蛍光灯スタンドのみ。そしてさびれたドアひとつ。
あのドアの向こう側に出口があるのだろうか。と、マツリはドアをじっと見つめた。
「ん」
その通り、と言わんばかりに男がドアを指をさす。
「失礼します」
マツリはほっとしてベッドから降り、駆けだそうとした。しかしそれは遮られた。
「聞きたい事があったんじゃないの?」
「……っ」
マツリはドアノブに手をやって固まった。
「いいの?」
振り向くと、彼は見透かしたようににこっと笑っていた。
マツリはそんな彼の心の内を探るように、じいっと彼の眼を見つめ返した。そして無表情のまま答える。
「……あります」
「どうぞ?」
余裕を感じる笑顔で、大神は右の手のひらを軽く天へ
「……上の機械は何を作るための物ですか?」
「なにも」
「此処を隠すためのものなんですか?」
「大半はね」
「工場は、あなたが管理してるんですか?」
「まぁ、潰れないようにはしてるかな」
「…………。十年前、此処で起こった事件を知ってますか?」
「……知ってるね」
「お父さんと、どういう関係ですか?」
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