「ねぇ。これじゃない? 機械の製造元」

 それはいとも簡単に見つかった。機械の側面についていた透明のファイルに、型番号や問合せ先の番号が書かれた紙が入っていた。「随分アナログだな」と思ったが、ネットワーク事故が問題視されることも多かったのでそういうものか、とマツリは納得した。

「……あー。ぽいな。電話かけてみっか」

「大丈夫かな」

「大丈夫だろ。俺の携帯は国光の管理化だから、マツリのを使っていいか?」

「ん」

 マツリは頷いて、ひょいと携帯端末を取り出し、メグに渡した。スタイリッシュな赤い携帯。

「……繋がんねぇな。番号自体は、存在してるんだろうけど……土曜日だからか?」

 メグが携帯に耳を押し付けても、内から響く機械音が絶え間なく鳴るばかり。

「……んー?」

 メグが工場の動かない機械群に触れながら、無意識に歩きだした。

 耳に届く連続した電子音で脳が劣化しそうだ。機械音とは、もういやというほど付き合ってきた。反吐が出るほど。――だから、嫌いだ。この唸るようなミクロの世界の音や、弾くような安い音は。

「出ねぇのかな……」

 指先が、ある機械に触れた時だった。

「?」

 違和感を覚え、携帯を耳から引き離した。

「なんだ?」

 何かが、おかしい。

「ねぇ」

 後ろからマツリが呟く。

「ねぇ、メグ。……が、する」

「…………!!」

 その言葉の意味を悟り、メグは携帯をできる限り遠く、ばっと耳から引き離した。

 確かに電子音が鳴っている。ひとつは手元から。もうひとつは……。

 ピッ!

『終話』をタップし、音を消す。同時にどこからか聞こえていた電話のベルも鳴りやんだ。

「どこだ」

「わかんない」

「着信音がどうして此処から聞こえるんだよ!」

「……でも。随分小さかったよ。地鳴りみたいに足元から、とどろくような……」

「下か!」

 メグがバッと身を屈めた。

「え?」

「多分、下に何かある!」

「下……?」

 メグは機械の間をすり抜けるように走って、何かを見つけようと必死になっていた。

「メグ……っ」

 マツリも追いかけようと走り出した。刹那。


 ――空気が裂けて、音が消えたような気がした。


 あ、と小さな声が漏れた。それを掻き消す機械音。足元が突然消え、うわっと体が浮んで、髪が浮く。

 目は閉じなかった。けれど、何も見えなかった。地も天もない。ただ白く、落ちる。そんな感覚。


「マツリ!」


 突如暗闇に消えたマツリにメグは焦った。彼女が落ちたであろう穴に駆け寄る。

 その瞬間だった。

 後ろからやってきた人影が、メグをかげらせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る