6
車から降ろされたいづみは息を呑んだ。
国光の企業ビルかなにかに連れて行かれると思っていたのだが、そこは病院のように見えた。
だけど「此処はどこですか」なんて間抜けな質問、周りを取り囲んで歩く四人の男たちに尋ねられるような空気ではなかった
――なんなの、一体。国光がマツリになんの用なのよ。これ以上マツリを引っ掻き回さないでよ。
いづみは心で呟いた。と同時に不安感で吐きそうになった。
メグが国光の何かであることが関係しているのだろう。それにしてもこれは手荒だ。空気が重すぎる。
回復したばかりのマツリをとっさに
時々こういった考えなしの行動をとってしまうのだ。いづみ自身が我ながら馬鹿だとは思っている。
――どうなるんだろう。これから。
「帰して下さい」と言って、「はいどうぞ」とは帰してくれないだろう。選択肢などない。いづみはもう黙って付いていくしかなかった。
白い建物に入って、病院くさい廊下を歩く。いづみはあたりを見渡しながら、変な施設だと思った。病院のようなのに、ナースの姿も、患者の影も見えない。あるのは白い壁と白い扉。時々カーテンの閉められた窓ガラス。そして白衣の大人たちだけだった。
―――ラボ……?
としか言いようがなかった。病院のようなこの施設は、おそらく研究施設だ。
気が滅入るくらいの静けさだった。その沈黙の中、奥へ奥へと進みエレベーターに乗り込む。いづみはちらりとエレベーターの
エレベーターを出て白い廊下を歩く途中で、気づいてしまった。明らかに、血が拭き取られたような跡が白い壁や床を染めていた。
――なんなの……。一体。
喉の奥から恐ろしさが込み上げてきた。いづみはそれらのシミを見ないようにぐっと奥歯を噛みしめ、前を歩く優男のズボンの裾だけを見つめた。
その血痕の正体は、少し前に楓が脱走した時に殺した人間の血だったのだが、もちろんいづみは知る
「入れ」
はっと顔を上げた。気が付けば目の前にあった扉の向こうから、声がしたからだ。
優男がドアを開けて部屋に入り、ぺこりとお辞儀をした。その隙に後ろから背中を押され、いづみはこけかけながら部屋の中に入った。
その部屋はやたらと明るかった。窓が馬鹿でかくて、木々と空、遠くに首都中心地が見えていた。此処は結構な郊外のようだ。
「はじめまして。大蕗 祀さん」
立派な机に座っていた男が口を開いた。
その瞬間、バタンと音がして戸が閉められ、気づけばあの優男もいなくなっていた。
「……は……じめ、まして」
いづみが喉から声を絞り出す。その男の向こうに見える景色を見つめながら。此処はどこなんだろうと、ただそれだけを思って。
「手荒な真似をしてすまなかったね」
「……いえ」
「かけなさい」
「は、はい」
いづみは極度に緊張したまま、指示された椅子に大人しく座った。
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