5
ブラックカルテという言葉に、メグは反射的に体をこわばらせた。
「国光の偉大なる研究者、『感情ノイズに反応して発生する気体、または固体』の発見者とも呼ばれている」
「……誰だよ……そいつ」
「今は国光を抜けて消息が分からなくなっている。死んだとも言われているし、どこかに身を隠しているとも言われている」
「どうでもいいじゃねぇか、そんな奴のこと!」
「よくないんだよ」
椎名が真剣な眼をした。
「そいつは国光の研究データの全てを知っていた男だ。組織を知りすぎた男の蒸発は、大きな痛手なんだよ。研究を行う組織にとってはさ。さらにそいつが隠し持っていたとされる研究データが問題でな」
「データ……?」
「俺は楓を十二番目の変異者だと言ったよな」
「あぁ」
頷く。
「楓は最も新しく発見された変異者だった」
「待てよ、違うだろ。ブラックカルテは全部で……」
「そう。十三だ」
メグの頬を汗が伝った。
「その研究者が隠し持っていたデータこそ、ブラックカルテのひとつだったんだよ」
「ブラックカルテを隠し持ってた……?」
「さっき、俺はこうも言ったよな。彼はブラックカルテの発見者だと」
「あ……あぁ。それもおかしいだろ。だって俺がヌメロウーノで……発見者は……」
「あぁ。そうだ。彼が隠し持っていたその古いレポートに書かれていた変異者が、ヌメロゼロ……未だ国光で把握できていないブラックカルテ患者だ。……ここまで話せば解るな?」
メグは頷けなかった。気持ちが邪魔をした。
「国光はその男を探してる。ブラックカルテヌメロゼロの患者を見つけ出すために。……マツリはその男の近親者の可能性がある。絶好の手がかりだろ」
「……っでも……」
遮るように椎名が人差し指を立てる。
「そしてそのヌメロゼロは、その男の周りにいた人物の可能性が高い。マツリがヌメロゼロである可能性を国光は考えている」
反論ができない。メグはぐっと拳を握った。
「マツリに聞かなければ分からないが、その男の名は
「……っ莫迦みたいにできすぎた話だな、クソッたれ……ッ!」
「真実は小説より希なり、だよ」
「くそっ!」
メグは駆け出し、勢いよくメグは保健室の扉を開けた。
その大きな音とともに。眼に飛び込む。
「……マ、マツリ……っ!」
彼女が扉の前に立っていた。いつもの、無表情な顔で。
「メグ。どこ行くの」
あまりに普通に首を傾げるので、メグはほっとした。聞こえてなかったらしい。
「俺はいづみを……―――」
「私も……っ」
「ダメだ!」
大声で遮った。マツリはぐっと唇を噛む。メグはすぐに怒鳴ってしまったことを後悔し、マツリの肩に手を置いて優しい口調で告げた。
「お前は此処にいろ。絶対、いづみを連れて帰ってくるから!」
「でも……」
メグはマツリの言葉を聞かずに走り出した。マツリはその背中を見つめながらぎゅうっと眉を寄せた。
「マツリ、早く部屋に入りな」
椎名がそう言ってマツリの肩に手を置く。
「……ごめんね」
椎名が低い声で謝るので、マツリは頷いて言うことを聞いた。
保健室に入るとソファに腰かけ、取ってきた鞄に手を突っ込んだ。そしてラッピングの開きかけたおにぎりを取り出した。
「……昼食?」
「全部、食べれなかったから」
「……」
椎名もソファに座り、向かいあって沈黙を泳ぐ。どうにも耐え切れない静けさだった。椎名はなにか言葉を探そうとしていたが、うまくいかない。そんな椎名の努力を、マツリは唇ひとつで掻き消した。
「大蕗 奔吾は……私のお父さんです」
瞬間、椎名の心臓は
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