7
「さて、どうしてここに連れてこられたか、分からないだろうね」
男はいづみの警戒心マックスな顔色を見て問いかけた。
「……はい」
頷く。当たり前だ。
「君は、お父さんが何をやっていた人間か、知っているか?」
「は……、い、いえ」
――マツリのお父さん?
いづみは首を振る。
「では、
「……知りません」
まったく分からない。だって、マツリの家族のことなど全然知らないのだ。
「そうか。まいったね」
「え?」
――というか、なんだこの質問は。それだけのためにこんなに
いづみはぎゅうっと眉根を寄せる。
「では君が最後に彼を見たのは?」
「……分かりません」
「まったく……?」
「……はい」
そろそろ嘘も厳しくなってきた。
「……そうか。では大蕗 祀さん。ブラックカルテのことは聞いているか?」
「……ブラックカルテ?」
「そうだ。メグと親しいらしいじゃないか」
――はぁ、まあね。
「あいつの呪われた左手のようなものを、ブラックカルテと呼ぶんだ」
「……呪われた……――」
そんな言葉を、国光の大人が大真面目に言っていることに驚いた。財閥国光がそんなオカルトじみたこと言うのだからいっそ滑稽だ。
「白い光の……『化け物』のこと、ですか?」
「そうだ。知ってるじゃないか」
「……っ」
認めた。椎名が言っていたことはたとえ話なんかじゃなかった。あの日。あの屋上で光っていた白い何か、それがメグの呪われた手の正体なのだ。見間違いではなかった。いづみはそう確信すると同時に、心底ぞっとした。
――此処はどこだ。現世ですか。話がおかしなほうに向かってる。頭の整理が間に合わない。
「そのおぞましい化け物が、君の中にも巣食っている可能性がある」
「……へ?」
――待って。何を言い出すんだこの男は。
「よって、君の身体を検査させいただきたい。人類のためにも」
「ちょ……ちょっと待ってください!」
何を言ってるんだこの男は。
「私はそんなものに
「メグのを見たことがあるんだろう……?」
「……ひ、光しか」
「そうか。だがそれは君の体を調べてみれば、自分の身を持って知ることになるだろう」
「……っ!」
全身がしびれるような恐怖に鳥肌が立った。するとノックと共に、バタンと戸が開く。
「な……!」
先ほどの男達と白衣を着た数名がいづみを取り囲んで腕を掴む。
「ちょ……っ!」
「こちらへ」
優男がそう言って歩き出した。少々乱暴に手を引かれ、いづみの足がもつれる。
「なにすんのよ……! ちょっ! 待って!」
いづみは叫んだが、男たちは無言で彼女を引きずった。部屋を出る瞬間、さっきまで話していた男を
「離して! 離してよ!」
男たちは暴れるいづみの両腕を粗野に掴み、放り投げるようにして小さな部屋へと押し込んだ。
「いった……!」
「そこにある服に着替えて暫らくお待ちください」
「え!?」
何とか身を起こし振り返った瞬間、戸は閉められ、錠が落ちる。
「な、なんなの!?」
見渡すとそこは更衣室のようだった。消毒液臭い白い服が置いてある。どうやらこれに着替えろということらしい。
意味不明な展開の連続に、いづみは息を呑み涙を堪えた。
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